【日本選手権混成】レポート&コメント:丸山自己新記録で圧巻の連覇達成/熱田は初の日本タイトル獲得!
【フォート・キシモト】
梅雨前線の影響で、すっきりとした青空を見ることは叶わず、初日は曇り、2日目は雨という生憎の天候下となりましたが、その悪コンディションをものともせず、各種目で熱戦が展開。男子十種競技は丸山優真選手(住友電工)が7870点で2連覇を、女子七種競技は熱田心選手(岡山陸協)が5750点で初優勝を果たしています。
【男子十種競技】
【フォート・キシモト】
今季、パリオリンピックへの出場を目指していた丸山選手は、ワールドランキングでの順位アップを目指して、4月に、イタリアの競技会に出場していましたが、棒高跳で左膝を負傷して棄権。今大会は、その回復状況が心配されるなかでの出場でした。実は、そのケガは、外側側副靱帯損傷、半月板損傷、亀裂骨折、骨挫傷と診断された重症で、完治に時間がかかると見込まれていたなか、「パリ(オリンピック)に出たいという気持ちで取り組んできた今までを思うと、最後までやりきりたかった」(丸山選手)と治療とリハビリに臨み、驚異的な回復力で出場にこぎ着けていました。
左膝にテーピングを施して競技に臨んだ丸山選手は、万全ではないなか、走幅跳で種目別トップとなる7m18をマークするなどして着実に加点を重ね、1日目は3903点を獲得。首位に立った森口諒也選手(オリコ)を100点差との3位で前半を折り返しました。2日目に入って、最初の110mハードルで2位に浮上すると、第7種目の円盤投で逆転して、トップに浮上。ケガをして初めての試合となった棒高跳で、混成競技のなかでは自己新記録となる4m80の自己タイ記録を成功させ、続くやり投でも64m65の自己新記録をスロー。ここで後続を大きく突き放しました。最終種目の1500mは4分40秒31でフィニッシュ。ブダペスト世界選手権で記録した7844点の自己記録を上回る7870点で優勝。自身が保持していた日本歴代6位記録を更新し、同5位の7871点に1点差まで迫りました(丸山選手のコメントは、別記ご参照ください)。
【フォート・キシモト】
【フォート・キシモト】
【フォート・キシモト】
【女子七種競技】
【フォート・キシモト】
1日目でリードを奪ったのは熱田選手。「いつも1日目に100点以上の差をつけられていた」と本人も認めるように、実は2日目を得意としている選手です。しかし、今回の熱田選手は、強い向かい風のなかで行われた100mハードルを13秒90(-1.4)で滑りだすと、続く走高跳(1m69)と砲丸投(11m74)の2種目で自己記録を更新。1日目最終種目の200mでも向かい風(1.6m)をものともせず、種目別1位タイとなる25秒30をマーク。初日の自己最高となる3338点を獲得し、前半を得意とする大玉選手に40点の差をつける好スタートを見せます。
2日目では、日本選手権室内では優勝も果たしている得意の走幅跳が5m87(-0.4)にとどまる大誤算もあり、「45mくらい」を目標にしていたやり投で44m73をマークしたものの、走幅跳を終えた段階で2位に浮上してきたヘンプヒル選手とは132点の差で、最終種目の800mを迎えることに。この点差を800mのタイムで換算すると9秒で逆転が生じる状況です。
800mの自己ベストが2分25秒78と熱田選手にとっては不得手の種目。今季4月の東京選手権でも800mで逆転負けを喫し、悔しい思いをしたばかりでもあった熱田選手は、ここで「行くしかない!」腹をくくり、ヘンプヒル選手が「2分10秒を切ってくることはないだろう」とみて、自己記録を5秒以上速い2分20秒台をマークできるペースを設定。その目論見通り、果敢に攻める走りを展開し、その目標を上回る2分18秒52でフィニッシュしました。ヘンプヒル選手は、2分16秒63で先着していましたが、このタイム差では逆転はならず。5750点を獲得した熱田選手の初優勝が決定しました。
この結果、自己記録では大玉選手を抜いて日本歴代5位に浮上。また2015年以降、ヘンプヒル選手と山﨑選手が占めてきた日本選手権歴代優勝者に、新しい名前を刻むこととなりました(熱田選手のコメントは、別記ご参照ください)。
【フォート・キシモト】
【フォート・キシモト】
【フォート・キシモト】
【U20日本選手権】髙橋と下元がV
【フォート・キシモト/アフロスポーツ】
U20男子十種競技には、5月の関東インカレ十種競技(一般規格)で7235点のU20日本最高記録を樹立して、注目を集めていた髙橋諒選手(慶應義塾大)が出場。髙橋選手は,初日から大きくリードを奪うと、その後も圧倒的な力を見せ、7445点で圧勝しました。これは、丸山優真選手選手が日本大の所属だった2017年に樹立したU20日本記録7790点に次いで、U20日本歴代2位となるもの。U20今季アジア最高で、U20今季世界リストでは11位に相当する好記録です。(髙橋選手のコメントは、別記ご参照ください)。
U20女子七種競技は、選手(東京学芸大)が5225点で、初の全国優勝を果たしました。個々の種目でのベスト更新はならなかったものの、すべての種目で自己記録に近いパフォーマンスを発揮したことによって、総合得点での自己記録更新を達成。ベースの部分の底上げができてきている様子が窺える結果となりました。秋以降の躍進が楽しみです(下元選手のコメントは、別記ご参照ください)。
【優勝者コメント】
優勝 丸山優真(住友電工) 7870点
【アフロスポーツ】
全体を振り返ってみると、初日は、同じ大阪の出身で同級生の森口(諒也)がトップ。「このまま森口と勝負できるかな」と久々にワクワクする気持ちになった。また、2日目で2位に上がってきた奥田(啓祐)くんも、(疲労骨折による戦線離脱からの本格的な)復帰戦。日本選手権の参加標準記録を切って、やっとここへ出てきた状態だった。個人的にも仲がよく、いつも応援しているので、今回、一緒に戦えてよかったし、一方で「絶対に負けない」とも思っていたので、結果としてちゃんと(負けないことを)証明できてよかった。
棒高跳の4m80は、自己タイ記録。単独種目では跳んでいるが、十種のなかでは久々の自己ベストとなる。棒高跳でケガをすると、ネガティブなイメージがつき、(恐怖心から)思いきって踏みきれなってしまうこともあるのだが、僕はケガしたからこそ逃げたくない、もっと正面から棒高跳に向かっていこうというアグレッシブな気持ちで臨んでいた。実際に踏みきるときも怖くなかったし、こうやって自己タイが跳べたことで、完全に恐怖心はないと確信することができた。
投てき種目は今シーズン、自信があったので、やり投も65mくらいは飛ばせるかなと思っていた。実際に結果として出た(64m65)のはとても嬉しかった。
最後の1500mは、4分35秒を切ると7900点台に乗せることができる状況だったが、この2カ月練習ができなかったので、「攻めても潰れるだけだな」と考え、総合得点の自己ベスト更新を目指し、ペースを守って、しっかり走りきるプランを選択した。それが達成できたのでよかったと思う。
優勝しての喜び自体は、前回のほうが大きかったような気がしている。今回は、競技をしていくなかで、どうしてもパリオリンピックに出られなかったことを思うと、うわーっと(感情に)くるものがあって、その思いにとらわれながら戦っていく形。最後の1500mでは、「パリに懸けていた自分の思いを最後まで諦めずに来たのだから、しっかりと自己ベストを出すために頑張ろう」と自分に言い聞かせて臨んだ。
このあとは、8月末と9月の2試合にエントリーを考えていて、今季は、その2試合で来年の東京世界陸上につながるような結果を残せればいいなと思っている。今回、この状態でもここまでできるというのがわかったので、まずはしっかりと治して、もっといいパフォーマンスができる状態にしていきたい。
日本選手権女子七種競技
優勝 熱田 心(岡山陸協) 5750点
【アフロスポーツ】
前日練習もこれまでにないくらい調子が良かったし、自信を持って臨めていた。また、(第1日の)走高跳や砲丸投でベストも出て、いつもだと100点以上の差をつけられていた1日目をトップで折り返すことができ、「ここまで来たら優勝したい」という気持ちになった。
(2日目は)得意の走幅跳でうまく(力を)出しきれなかったので、そこにちょっと悔しさが残る。やり投は44m73 ではあったけれど、(課題が)少しずつ克服できているので良かったと思う一方で、そこで(他選手との)差を広げることができず、自己ベストが2分25秒(78)の800mで、9秒先着されると逆転される状況となってしまった。「ああ、また、東京選手権みたいになるかも(※4月中旬の東京選手権で、最終種目の800mで逆転され優勝を逃した)」と思ったが、ここまで来たら、できることをやって負けたら仕方ないと考え、800mを(自己記録を大きく上回る2分)20(秒)で走ると決め、「もう行くしかない」という気持ちで走った。(力を)出しきれてよかった。
5750点の自己ベストを出すことはできたが、周りの選手は、本当はもっと強い人たち。まだ追いつけていないし、追い越せていないという気持ちはある。しかし、そのなかで、今日勝ちきれたことは、私にとっての一歩かなと思っている。
ほかの選手は5900点とか5800点とかを出してくる人たち。今日は勝ったけれど、これからも3選手の背中を追い続けたい。(優勝したことで)いろいろなプレッシャーも増えてくるとは思うが、挑戦する気持ちを忘れずに、楽しいと思いながら陸上に取り組んでいくことを大切にしながら、6000点を目指していきたい。
U20男子十種競技
優勝 高橋 諒(慶應義塾大) 7445点
【フォート・キシモト】
1日目は、(前回の試合となった)関東インカレからこの大会にかけての期間で、スプリントをやってきたはいたのだが、やはり走高跳のあとの400mというのがつらくて、そこがなかなか難しいなと思った。
2日目は、最初の110mハードルから、(U20規格のため、ハードルの高さは)低いが自己ベスト。その流れに続いて、円盤投、棒高跳、やり投の3種目でベスト。2日目は、この天気を考えたら、めちゃくちゃよかったのかなと思う。(取り組み始めたばかりで経験の少ない)棒高跳は、今使っているポールの長さは14フィート。まだ15フィート(のもの)は持っていないのだが、着実に基礎からというところで(力を)積めているのかなと思う。
課題に感じたのは、「やっぱり100mのスピードが、もっと速くならない…」ということ。100mが速くならないと、400mとか(で記録を更新していくの)も厳しいと思う。去年、(八種競技で6264点の)高校記録を出したときは10秒71。そのときは風がよかった(+1.9m)ので、まあ、10秒80くらいまで持っていけたらなと思う。
(代表選考会がかかっていた)U20世界選手権については、まだ代表には決まっていないが、決まるということを前提に、ここから練習を積んでいきたい。
U20女子七種競技
優勝 下元香凜(東京学芸大) 5225点
【アフロスポーツ】
種目別では1つもベストが出ていないのだが、でも、全部がベストからちょっとマイナスくらいの記録だったので、それが全体の自己ベストにつながったのかなと思う。そのなかで、もうちょっとだったなと思うのは走高跳。ベストは(1m)69で、今回は自己新となる(1m)72に挑戦したかったのだが、(1m)69を跳べなかったので、それが悔しい。あと、やり投も、雨というのもあり、自分の投げができなかったことはちょっと悔しく思う。しかし、雨というイレギュラーのなかで、走幅跳はそこそこ最低ラインくらい跳べた(5m71)し、800mも1人の(単独走になる)レースだったが、自己ベストにあとちょっとというところだったので、そこはよかったかなと思う。
今回勝てば、初めての全国優勝となるので、そこには強い思い入れがあった。去年のインターハイはケガをしてしまってダメだったし、(5月の)関東インカレはうまく噛み合わなかったというのがあったので、「今回こそは絶対に」と思っていた。優勝できて嬉しい。
次の試合は、日本インカレとなる。そこでは3位以内で表彰台に乗ることと、(これまでの目標から)ぶれずに5300点を超えていくことを目指したい。
※丸山優真選手、熱田心選手のコメントは、1日目および2日目両方の競技終了後におけるコメントを編集する形でまとめています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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