【記録と数字で楽しむ第108回日本選手権・混成】男子十種競技:至近2年間は、奥田と丸山が初優勝、今回は??

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【フォート・キシモト、アフロスポーツ】

ここでは、6月22日~23日に岐阜市(岐阜メモリアルセンター長良川競技場)で行われる「第108回日本選手権・混成」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。なお、「日本選手権・混成」とともに20歳未満の日本一を決める「U20日本選手権・混成」も同時開催される。また、8月に行われる「パリオリンピック」と「U20世界選手権(ペルー・リマ)」の代表選手選考競技会でもある。

走跳投のオールラウンドのトータルポイントで競う十種競技のチャンピオンは「キング・オブ・アスリート」、七種競技は「クイーン・オブ・アスリート」として称えられる。
今回の日本選手権では果たして誰がその称号を手に入れるのか?

残念ながらテレビの生中継はないが、日本陸連HPで2日間とも競技開始から終了までライブでのネット中継がされる。

※リンク先は外部サイトの場合があります


なお、以前に紹介したデータや同じ文章の箇所もあるが、可能な限り最新の情報に修正した。

・文中敬称略
・記事中の記録および情報は24年6月12日判明分のもの
・パリ五輪に向けた「WAランキング」は6月11日発表のもの

【男子十種競技】

・日本記録&大会記録 8308点 右代啓祐(スズキ浜松AC)2014.5.31~6.01 長野
・五輪参加標準記録  8460点 / ターゲットナンバー=24

至近2年間は、奥田と丸山が初優勝、今回は??

2010年からの14年間は右代啓祐(スズキ浜松AC→国士舘クラブ)が8回(10~15年、18・19年)、中村明彦(スズキ浜松AC)が4回(16・17・20・21年)、そして22年は奥田啓祐(第一学院高教)、23年は丸山優真(住友電工)が初めて「キング・オブ・アスリート」の称号を手にした。

右代の8回は十種競技での最多優勝回数。10年からの6連覇は、90年から7連勝した金子宗弘さん(順大→ミズノ)に続き歴代2位。

過去の優勝者をみていくと、1928年アムステルダム五輪の三段跳で陸上競技のみならず、すべての競技を含めて日本人初の五輪金メダリストとなった織田幹雄さん(早大)が1925・27年に十種競技を制している。また尾縣貢(みつぎ)現日本陸連会長も筑波大学時代の81・82年に連覇。タレントとして活躍している「百獣の王」こと武井壮さんも中央学院大学の学生だった97年に優勝している。

エントリー記録では、丸山が断トツ

今回の日本選手権申込資格記録は「7050点」。その有効期間は2023年1月1日~24年6月2日で、ターゲットナンバー(出場枠)は「24人」だったがエントリーしたのは、18人。
資格記録のトップ10(6月2日現在)は、以下の通り。
・所属は、現在のもの。一番後ろの < >内は、自己ベストと日本歴代順位を示す。

【JAAF】

日本歴代2位・8180点の中村が23年で現役を退き、自己ベストでは、日本記録保持者の右代啓祐(8308点)と22年に日本チャンピオンとなった奥田が抜きんでている。しかし、エントリー記録では奥田が7位、右代啓祐が10位。

23年は丸山が初の日本タイトルを獲得し、そのあとの7月に行われたアジア選手権も優勝。地域選手権優勝者の資格でブダペスト世界選手権にも出場し、自己新記録と世界選手権での日本人歴代最高記録をマークした。22年の日本選手権は故障のため無念の欠場だったが、その口惜しさを23年に晴らしてみせた。エントリー記録からして、丸山が優勝候補筆頭である。ただし気になることがある。4月27・28日にイタリア・ブレシアでの世界陸連混成ツアー・ゴールドのマルチスターズに参戦したが、棒高跳で4m55を1回でクリア、4m65の1回目を失敗したところで棄権した。棒高の段階で自己ベストの時を69点上回る7900点台のペースだった。棄権の理由についての情報は入っていないが、その後、6月12日までに何の競技会にも出場していないのが心配である。

エントリー記録トップ10の選手たちの生まれ年は、丸山98年、田上97年、森口98年、右代啓欣94年、北川00年、前川99年、奥田96年、片山95年、山下00年、右代啓祐86年。上位の3人は、今年の誕生日で26~27歳になる。右代啓祐(86年生まれ)が日本記録8308点を出した時が27歳、中村(90年生まれ)が自己ベスト8180点を出した時が25歳。上記の3人は、右代と中村がベストをマークした時とほぼ同年齢になって、デカスリートして脂が乗り切って来る時期だ。

エントリー記録のトップ6がその記録をマークした時の種目別記録と得点は以下の通り。カッコ内は累計得点と「=*」は6人の中での通算順位を示す。

【参加資格記録トップ6の参加資格記録マーク時の種目別内訳】

【JAAF】

【JAAF】

以上のように、参加資格記録による「仮想対決」では、最初の100mで森口がトップに立つが、走幅跳で田上が逆転し砲丸投でも首位を守る。走高跳で丸山がトップに。初日最後の400mで田上が逆転。2日目最初の110mHも順位はそのまま。7種目目の円盤投で丸山が逆転、そこから田上以下との差を次第に広げて170点差でトップで終了。

22年の日本選手権は、エントリー記録で上位5人が69点差、23年と今回はトップと5~6番目では500点以上もの差がある。
今回の本番でも上記の資格記録のように、丸山が終盤から抜け出して「2連覇」を果たすのか、はたまた田上、森口らが追いすがって初優勝するのか。

種目別自己ベストの合計得点で丸山が急上昇。歴代1・2位の右代と中村に続く

以下は日本歴代1~3位と今回のエントリー記録の上位3人の記録を比較したものだ。
十種競技中だけではなく単独種目での試合を含めた各種目の公認ベストとその合計得点を調べた。
さらには十種のベストとの「達成率」も示した。これにより、それぞれの「潜在能力」の指標となる。

【日本歴代上位3人と今回の参加資格記録トップ3の種目別公認ベストと十種ベストとの達成率】
・掲載順は、十種競技の自己ベストの順

【JAAF】

【JAAF】

日本歴代1~3位の右代・中村・奥田と、歴代6・9・32位の丸山・田上・森口の種目別の公認ベストの合計点を比較したのだから、最終的には右代と中村が8500点超えで圧倒する。しかし、種目別公認ベストのトータルでは、丸山が奥田を153点も上回る。十種のベストでは奥田と244点差の田上も奥田とは51点差しかない。

種目別自己ベストの合計点に対する実際の十種競技の得点の達成率では、奥田が最も高い96.9%で中村と右代も96%台。十種目トータルでうまく自身の力を発揮できているということである。それに対して、丸山の達成率は93.2%。田上も94.6%だ。歴代1~3位の3人のように96%台の達成率を丸山が実現できれば、8076~8152点に達する。また田上も7880~7954点に到達できる潜在能力があるということになる。

ちなみに6人の種目別ベストで最もいい記録の得点を合計すると「9233点」。十種の世界記録はケビン・マイヤー(フランス)の「9126点(2018.09.15~16)」。日本歴代1・2・3・6位の選手の各種目のベストのトータルでようやくマイヤーの世界記録を107点上回れる計算だ。そんな記録を出したマイヤーは、やはり人類最高の「キング・オブ・アスリート」といえよう。
参考までにマイヤーの各種目の自己ベストの合計と十種の記録の達成率は、「9455点・96.5%」。室内の記録も含めると「9513点・95.9%」である。

十種競技中の種目別日本最高記録

トータル得点6000点以上の十種競技中の各種目の日本最高は、以下の通りだ。

【十種競技中の種目別と前半・後半の日本最高】
・トータル6000点以上の記録に限る
・追風参考は4.0m以内の記録

【JAAF】

奥田も22年8月7日に十種競技中の100mを10秒53(+1.7)で走っているが、110mHで途中棄権、棒高跳が記録なし、1500mも途中棄権でトータル4953点のため「6000点以上」の条件を満たしていないため上の表には未収録である。
各種目の日本最高記録(追風2.0m以内)の合計得点は「9372点」。上述の世界記録保持者マイヤーの種目別自己ベストの合計9455点には及ばない。

10年間破られていない日本記録8308点は遙か彼方だが、種目別の日本最高を知っていれば、各種目を観戦する際の楽しみもアップすることだろう。

パリ五輪への道

パリ五輪参加標準記録は、日本記録を152点も上回る「8460点」のハイレベル。有効期間の22年12月31日以降24年6月11日現在でこれをクリアしているのは世界で17人。ターゲットナンバーは「24人」だ。有効期限は6月30日なのであと数人が標準突破の可能性はあるが、残りは「WAランキング」での出場を目指すことになりそうだ。
「WAランキング」は、「順位ポイント+記録ポイント=ランキングポイント」の有効期間内の室内七種競技を含む上位2試合の平均ポイントで順位付けされる。
「順位ポイント」は、大会の規模によっていくつかのグレードに区分されている。日本選手権のカテゴリーは「B」で、各順位のポイントは以下の通りだ。
1位 60pt
2位 50pt
3位 45pt
4位 40pt
5位 35pt
6位 30pt
7位 25pt
8位 20pt

「記録ポイント」は、その試合での十種競技の記録(得点)を全種目を網羅した世界陸連採点表によってポイント化する。
そして、「順位ポイント」と「記録ポイント」の合計ポイントの上位2試合の平均が「WAランキング」でのポイントなる。
21年東京五輪の時には2試合平均が「1221pt」、22年オレゴン世界選手権は「1214pt」、23年ブダペストは「1223pt」がボーダーラインだった。パリ五輪に向けての6月11日時点の24番目は「1219pt」。有効期限は6月30日なのでもう少しアップしそうだ。

2022年に改訂された最新版の記録ポイント(十種競技は2017年版と変更なし)は、以下の通り。

記録pt 十種の記録
1200pt 8473点
1190pt 8408点
1180pt 8344点
1170pt 8280点
1160pt 8215点
1150pt 8151点
1140pt 8086点
1130pt 8022点
1120pt 7957点
1110pt 7893点
1100pt 7828点
1090pt 7763点
1080pt 7698点
1070pt 7633点
1060pt 7568点
1050pt 7503点
1040pt 7438点
1030pt 7373点
1020pt 7308点
1010pt 7243点
1000pt 7178点

例えば8022点で2023年の日本チャンピオンとなった選手は、順位ポイント「60pt」に記録ポイント「1130pt」の計「1190pt」が、日本選手権でのポイントとなる。

1国3人まででカウントしたパリ五輪に向けた6月11日時点の「WAランキング」での日本人最上位は、32位の丸山で2試合平均1185pt(23年アジア選手権1197ptと23年アジア室内選手権・七種競技1173ptの平均)、日本人2位の田上は1093pt(23年木南記念の1121ptと23年アジア選手権1066ptの平均)で68位の選手と同じポイントだが、ランキングに名前はない。恐らく69位なのだろう。

パリ五輪に出場できる「24名」に入るためのボーダーラインがブダペスト世界選手権の「1223pt」とするならば、それに到達するには、丸山は日本選手権で優勝して順位ポイント「60pt」を加算したとして記録ポイントで「1189pt」を獲得する必要がある。「1189pt」の十種の得点は「8402点」で、日本記録を100点近くも更新しなければならない。

なにはともあれ、今回の日本選手権では、日本人4人目の「8000点オーバー」を見せてもらいたいものだ。

日本選手権での順位別最高記録

【JAAF】

【JAAF】

・以上20位まで

上記の通り2014年が唯一の複数8000点オーバー。
それ以下では15年のレベルが高く、14人が7000点オーバー。
7000点以上の人数では、13人の16年と18年がこれに続く。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

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【ライブ配信】1日目:6月22日(土)

【ライブ配信】2日目:6月23日(日)

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