【Inside Story】コベルコ神戸スティーラーズ 企画管理グループ 中居 敏紀

チーム・協会

2015年11月から契約関係の業務に携わり、来シーズンで10年目に。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

チームが活動を行う上で土台となっているのが企画管理グループであり、予算管理や経理、人事に関する役割を担っている。企画管理グループに所属し、2015年11月から選手の契約、寮や社宅の手続きなどの業務に携わるのが、中居 敏紀氏だ。自身も高校、大学時代に楕円球を追いかけたラガーマン。社会人になってからラグビーにかかわるとは思っていなかったと笑うが、競技経験がこの場所へ導いた。9年間の間にはコロナ禍での対応に迫られるなど困難もあったというが、これからも選手がプレーに専念できるよう、チームを裏側から支え続ける。(取材日:2024年4月12日)

高校時代、ヤンブーとスクラムを組んだことも!

社員選手、プロ選手が混在しているコベルコ神戸スティーラーズ。主に選手の契約についての業務を担当しているのが、企画管理グループに所属する中居氏だ。

自身は大阪府立茨木高校でラグビーに出会い、進んだ神戸大学でも体育会系ラグビー部に所属した。大学時代は神戸製鋼コベルコスティーラーズへの出稽古があり、選手とスクラムを組むことも。加えて、チームは神戸製鋼ラグビー部のV7戦士である出向井 豊氏や飛弾 誠氏がコーチを務めていたこともあり、中居氏はいつしか『神戸製鋼所』という会社に興味を持つようになったという。

そして2008年4月、神戸製鋼所へ入社。同期入社には、先日、リーグ戦歴代最多出場記録を更新したヤンブーこと、山下 裕史選手がいる。実は中居氏は山下(裕)選手と高校時代に練習試合で顔を合わせ、スクラムを組んだことがあるそうだ。それを山下(裕)選手も覚えており、新人研修の際は、その話題で盛り上がったという。

研修後、山下(裕)選手は神戸製鉄所(現・神戸線条工場)へ、中居氏は加古川製鉄所に配属され、「現場で働く方々の人事関係の仕事がしたい」という希望が叶い、生産を担う社員の人事業務を任された。2013年からは神戸本社の人事労政部へ。

競技経験を買われて、ラグビー部支援室へ

人事畑を歩む中、2015年11月、ラグビーセンターの前身であるラグビー部支援室へ異動。

「ラグビー経験者だったことが部署異動の理由なのかなと。ラグビーが縁でラグビーにかかわる仕事ができてありがたいと思います」

同期入社の山下(裕)選手とはラグビー部支援室へ異動後、クラブハウスで顔を合わせ、旧交を温めたそうだ。

ラグビー部支援室で任された業務は、主に社員選手、日本人、外国籍の選手を含めたプロ選手の契約関係や選手が生活する寮や社宅の手続き、予算作成など。

「これまで培ってきたスキルは使えますが、それ以上に初めてのことやイレギュラーな業務もあり、慣れるのに時間がかかりました」

特に外国籍の選手やスタッフが入団するまでの一連の業務は、これまでの部署では経験したことがないことばかり。契約書の作成および締結からはじまり、在留資格の申請、フライトや住居の手配、在籍期間中に使用する自家用車の手配、市役所での住民登録、銀行口座開設など、前任者から教わりながら、1つ1つの業務を覚えていったという。

「契約について講習を受けましたし、在留資格についても勉強して。在留資格については申請を本人に代わって取り次ぐことができる資格も取得しました」

期日までに選手が来日し活動できるように

外国籍の選手獲得やそれぞれの契約年数等は、故・平尾 誠二元GM、現在は福本 正幸チームディレクターが担う。それをもとに選手契約書を作成する。その上で、選手や選手の家族が日本でラグビーに専念できるよう環境を整えていくのが仕事。在留資格に関しては申請してから許可の交付が降りるまで最低でも3週間はかかるため、外国籍の選手が期日までにきちんと来日し、全員そろってチームが始動できることにやり甲斐を感じると話す。

ただ、中居氏がラグビー部支援室に異動した2015-16シーズンと今シーズンを比べると、外国籍の選手やスタッフはほぼ倍に。また、日本人もプロとして契約する選手が増えている。さらに、プロ選手の雇用形態が変わり、それに対応した選手契約書を作成しなければいけなかったそうだ。選手が利用しているエージェント(代理人)に書類作成や申請等に関しては任せることも多いというが、シーズン終了から新しいシーズンにかけて契約関係の業務は多く、慌ただしく毎日が過ぎていく。

カンバーランドヘッドFWコーチの急逝に対応

これまでチームを支えてきて、もっとも大変だったことを伺うと、中居氏はコロナ禍でリーグ戦が中止になった2020-21シーズンと2021-22シーズンだったという。

新型コロナウイルスの影響により「トップリーグ2020」が中止になると、水上 孝一部長(当時)と福本チームディレクターは帰国を望む選手は家族を含めて全員母国に帰すことに決めた。中居氏はその手配に追われたそうだ。翌シーズンは始動に合わせて、選手たちを来日させなくてはいけない。入国制限がある中で、日本ラグビーフットボール協会がスポーツ庁と調整した受入スキームに対応して、態勢を整えていった。

また、このシーズンは、2008-09シーズンからの6シーズンと2018-19シーズンに再びチームに復帰しスクラムを指導していたニュージーランド出身のスティーブ・カンバーランドヘッドFWコーチが急逝した。大切な仲間を失った悲しみに選手、スタッフ全員が深い悲しみに暮れている中、エージェントを通じてニュージーランドにいる奥様と連絡を取り、1日も早く彼を家族のもとへ帰そうと尽力した。

「カンビー(スティーブ・カンバーランド)が亡くなられたときは大きなショックを受けましたが、彼をニュージーランドで待つ奥様のもとに返すことが私の任務となりました。このようなイレギュラーな業務は初めてのことであり、またコロナ禍ということで平時より必要な書類も多く、戸惑うことばかりでしたが、とにかくカンビーを奥様と早く会わせてあげたいという一心で手続きを進めました」

神戸を去る日、カンバーランドヘッドFWコーチを乗せた寝台車が、選手たちが待つ灘浜グラウンドへ立ち寄った。皆がカンバーランドヘッドFWコーチに別れを告げた後、車は空港へ。ドライバーや車の手配なども中居氏が執り行ったそうだ。

「契約関係など決められた仕事に加えて、イレギュラーな業務も多いです。コロナ禍での対応、カンビーの急逝…。予期せぬ事態に対して、冷静かつ素早く対応できるように努めています」

裏方として淡々と業務を行うのが信条

イレギュラーな事態には、悲しいことばかりではない。2018-19シーズン、15年ぶりにトップリーグ優勝を達成した際には祝勝会の準備に追われた。

「優勝した瞬間から祝勝会の準備がはじまりました。当日は受付をしたり、トロフィーを飾ったり、会が終わった後は、片付け、撤収と、優勝の喜びに浸る時間がなくて(笑)。祝勝会が終わってから優勝の実感が湧いてきました。優勝は初めての経験でしたし、嬉しかったですね」

中居氏が契約関係の業務に携わるようになって、チームにはダン・カーター現アドバイザーをはじめ、ブロディ・レタリック選手やアーディ・サベア選手といったラグビー界のスター選手が続々とやってきた。

中居氏は「ラグビーをやってはいましたが、選手にはそれほど興味がなくて(笑)。どんなビッグネームが加入したとしても、淡々とやるべきことをやって、選手が日本で活動できるように手続きして、何事もなく神戸での選手生活を終えて、母国に帰ってもらえるように業務に取り組んでいます」と裏方に徹する。

人間性の高い選手がそろうチームになってほしい

業務を通じて選手の人となりに触れる機会が多い中居氏は、チームに期待することをこう話してくれた。

「人として当たり前のことが当たり前にできるなど、人間性の面でもコベルコ神戸スティーラーズの選手は素晴らしいと言ってもらえたり、憧れられたりするような質の高いチームになってほしいですし、そういうチームが強くなると思います」

Better people make better Kobe Steelers.

良い人間は良い神戸スティーラーズをつくる。ウェイン・スミスラグビーコーチメンター/チームアンバサダーの「Better people make better All Blacks」の精神が大事だという。
ラグビー部支援室(当時)に異動してから、来シーズンで10年目に突入する。最後にひと言こう締めくくってくれた。
「会社員なので、いつ辞令が出るかわからないですが、3年前にリーグワンが発足し、変化していく日本ラグビー界とコベルコ神戸スティーラーズにもう少しかかわっていきたいですね」

取材・文/山本 暁子(チームライター)

普段は神戸本社で業務を行う。ホストゲームでは、コロナ禍の2021-22シーズンと2022−23シーズンは、選手がスタジアム入りする際の体調チェックなどを行うCOVID担当として奮闘した。今シーズンは会場内外の見回りなどを担当。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

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著者プロフィール

兵庫県と神戸市をホストエリアとして、日本最高峰リーグ「NTTジャパンラグビー リーグワン」に参戦しているラグビーチーム「コベルコ神戸スティーラーズ」。チームビジョンは『SMILE TOGETHER 笑顔あふれる未来をともに』、チームミッションは『クリエイティブラグビーで、心に炎を。』。 ホストエリア・神戸市とは2021年より事業連携協定を締結。地元に根差した活動で、神戸から日本そして世界へ、笑顔の輪を広げていくべく、スポーツ教室、学校訪問事業、医療従事者への支援など、地域活性化へ向けた様々な取り組みを実施。また、ピッチの上では、どんな逆境にも不屈の精神で挑み続け、強くしなやかで自由なクリエイティブラグビーでファンを魅了することを志し、スタジアムから神戸市全体へ波及する、大きな感動を創りだす。 1928年創部。全国社会人大会 優勝9回、日本選手権 優勝10回、トップリーグ 優勝2回を誇る日本ラグビー界を代表するチーム。

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