【記録と数字で楽しむ第108回日本選手権】男子110mハードル:村竹・野本・高山らを中心に残り2枚のパリ行き切符を目指しての熾烈な争い

日本陸上競技連盟
チーム・協会

【フォート・キシモト、アフロスポーツ】

6月27日~30日に新潟市(デンカビッグスワンスタジアム)で行われる「第108回日本選手権」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。

各種目の「2024年日本一」を決める試合であるとともに、8月1日~11日に行われる「パリオリンピック」の日本代表選手選考競技会でもある。また、「U20日本選手権」も同じ4日間で開催される。こちらは、8月27日~31日にペルー・リマで行われる「U20世界選手権」の代表選考会を兼ねている。

本来であれば全種目についてふれたいところだが、原稿の締め切りまでの時間的な制約などのため、6種目をピックアップしての紹介になったことをご容赦いただきたい。なお、エントリー締め切りが6月6日で、エントリーリストの暫定版公表が14日(確定版の公表が21日)。この原稿はそれ以前に執筆したため、記事中に名前の挙がった選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれないことをお断りしておく。

過去に紹介したことがあるデータや文章もかなり含まれるが、可能な限り最新のものに更新した。
スタンドでの現地観戦やテレビ観戦の「お供」にして頂ければ幸いである。

なお、「10000m」の日本選手権は5月3日に袋井市(小笠山総合運動公園静岡スタジアム/通称・エコパ)で実施された。「混成競技」は6月22日・23日に岐阜市(岐阜メモリアルセンター長良川競技場)で、「リレー種目」は10月5日・6日に国立競技場で行われる。また、「競歩」は「20km」が2025年2月16日に神戸で、「35km」は2024年10月27日に山形県の高畠町で行われる。「マラソン」は、2023年4月から2025年3月に行われる「ジャパンマラソンチャンピオンシップ(JMC)シリーズ」の総合成績(ポイントランキング)の結果が「第108回日本選手権」という扱いになる。

「パリオリンピック」の代表選考要項は、
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202309/21_112524.pdf

6月7日時点での「代表内定選手」は、
https://www.jaaf.or.jp/news/article/18659/

選考に関わる世界陸連の「WAランキング(Road to Paris 24)」は、
https://worldathletics.org/stats-zone/road-to/7153115

をご覧頂きたい。

こちらが一番わかりやすいかも?
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202406/road_to_paris.pdf

・記録は、日本選手権申込資格記録の有効期限の6月5日現在。
・記事中の「WAランキング」は6月11日時点のもの(世界陸連のあるモナコ時間の水曜日、日本時間の毎週木曜日に発表されるので、できる限り最新のものを盛り込みたいところだが、原稿の締め切りの都合で6月11日時点のものとした)。
・記事は、6月12日時点での情報による。上述の通り、タイムテーブルと暫定エントリーが公表された6月14日以前に書いた原稿のため、記事に登場する選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれない。また、確定版エントリーリストは6月21日に公表される。
・現役選手については敬称略をご容赦いただきたい。

なお、日本選手権の期間中、ここで取り上げることができなかった種目以外の情報(データ)も日本陸連のSNS(X=旧Twitter or Facebook)で「記録や数字に関する情報」として、その都度発信する予定なので、どうぞご覧くださいませ。

【男子110mハードル】村竹・野本・高山らを中心に残り2枚のパリ行き切符を目指しての熾烈な争い

・予 選/6月29日(土) 13:55 4組3着+4
・準決勝/6月29日(土) 17:35 2組3着+2
・決 勝/6月30日(日) 18:10


トラック個人種目で「世界のメダル」に最も近い種目

2023年ブダペスト世界選手権で5位入賞の泉谷駿介(住友電工)が、五輪参加標準記録(13秒27)を上回る13秒17(-0.3)を24年4月20日にマークし、日本陸連が定めた五輪代表選考基準によって代表に内定。パリでの「メダル獲得」に向けて、21年から3連勝中だった日本選手権には出場しない決断をした。泉谷には「メダル」の期待がかかるが、「パリ行き切符」の残り2枚を手に入れるための新潟での争いは熾烈を極めそうだ。

パリ五輪の参加標準記録は「13秒27」。21年東京五輪と22年オレゴン世界選手権は「13秒32」。23年ブダペスト世界選手権は「13秒28」だったので3年前からは0秒05アップした。有効期間は23年7月1日から24年6月30日。「ターゲットナンバー(出場枠)」は「40名」。6月11日現在、世界で標準記録をクリアしているのは23名だ。

1国3人以内でカウントしたパリ五輪に向けた6月11日現在の「WAランキング」は下記の通り。
・「*位相当」は、各国3人でカウントした時の相当順位。「実質*位」は、各国4番目以下もカウントした順位。

【JAAF】

なお「WAランキング」は、5レースの平均ポイントで算出されるため4レース以下にしか出場していない選手は掲載されていない。
これに該当する選手のトップは、豊田兼(慶大/4年)だ。23年8月の中国・成都でのワールドユニバーシティゲームズを13秒40(-0.2)で制し、予選では五輪参加標準記録に0秒02と迫る13秒29(+1.1)をマークしている。日本選手権で5レースとなり、ランキングに加わってくるはずだ。豊田の4レースでの記録ポイントのみでの平均は「1170pt」だ。

村竹・野本の他に新たな突破者が日本選手権の決勝が行われる6月30日までに現れず、標準突破済みの2人が日本選手権で「2位以内」ならば「代表内定」となる。

日本陸連の代表選考基準では、標準突破の有無に関わらず、「WAランキング」で40位以内であれば、日本選手権での順位が優先される。よって、ランキングで40位以内で五輪参加資格のある選手は、日本選手権で「パリ五輪出場資格のある選手の中で2番目以内に入ること」が必須条件となる。

エントリー記録上位者と22・23年ファイナリストの日本選手権での成績

有力選手のこれまでの日本選手権での成績を調べた。

<エントリー記録13秒50以内と22・23年ファイナリストの日本選手権での成績>
・掲載順は、エントリー記録の順。
「途」は決勝で途中棄権
「失」は決勝で失格
「準」は準決勝落選
「予」は予選落選
「-」は不出場

【JAAF】

2015年からの9年間で優勝3回、2位2回、3位1回、5位1回の高山の安定ぶり目立つ。
石川は、21年の決勝での不正スタート失格を含め17年から7年連続決勝進出。
横地は、4年連続入賞を継続中。
泉谷とともに日本記録(13秒04)を保持する村竹は、21年が不正スタートで失格。22年は2位になってオレゴン世界選手権に出場したものの予選でハードルを引っかけて無念の落選。23年の日本選手権は故障で欠場したが、ブダペスト世界選手権参加標準記録(13秒28)有効期間内の7月29日に13秒18(+0.9)で走ったものの日本選手権不出場のため選考の俎上に載ることができなかった。「今年こそ」の思いが強いことだろう。
野本も村竹と似たような経験をしている。23年の日本選手権決勝でハードルを引っかけて途中棄権。村竹と同じ7月29日の福井でのレースでブダペストの標準突破の13秒20をマークしたが、日本選手権での成績によって世界選手権行きの切符を手にすることができなかった。

いずれにしても、日本選手権での順位が優先されるので、パリを目指す選手にとっては2位以内」に入ることが大きな条件になる。

世界記録と日本記録の差

23年のこのコーナーでも紹介したが、60年前の東京五輪が行われた1964年当時、この種目の世界記録は13秒2(手動計時)、日本記録は14秒2(手動)で、その差は1秒0だった。77年から「電動計時」の世界記録と日本記録が公認されるようになった時の初代世界記録は13秒21、初代日本記録は14秒43でその差は1秒22。ただし、その時点での「実質的な電動計時日本記録」は、64年東京五輪の準決勝2組で7着だった安田寛一さん(八幡製鉄)がマークした14秒30だった。こちらのタイムで計算すると77年の世界記録との差は1秒09だった。しかし、日本陸連は過去に遡って電動計時での記録を公認しなかった。そんなことで、安田さんの記録よりも遅い14秒43が初代の日本記録となったのだった。

<110mHの世界記録と日本記録の差>
電動計時の記録のみが世界記録や日本記録として公認されるようになってからの差は以下の通り。
「○」は、その差がその時点で歴代最小値になったことを示す。

「世界記録と日本記録の差の変遷」

【JAAF】

【JAAF】

64年の東京五輪の年に生まれた人が「還暦」になるほどの長い年月を経て、60年前に1秒以上あった世界との差が、現在は「世界記録12秒80」に対し「日本記録13秒04」で、その差は「0秒24」にまで縮まった。何かと注目されることが多い男子の100mは「世界記録9秒58」に対し「日本記録9秒95」で、その差「0秒37」。110mHの方が差は小さいのだ。

この数字からもわかるように、注目度の高い男子100mよりも世界記録に対する日本記録のレベルが高いのがこの110mHなのだ。といっても、世界記録と日本記録で比較すると100mはボルトのように突出した選手との比較になってしまうので、不利になるかもしれない。

そんなことで、それを和らげるために「世界歴代10位」と「日本記録」を比較した。
100mの世界歴代10位は、9秒78で日本記録(9秒95)との差は「0秒17」。
110mHの同歴代10位は、12秒92で日本記録(13秒04)との差は「0秒12」。
世界記録との比較よりは差が小さくなるが、やはり110mHの方がその差は小さい。

話を110mHの日本記録に戻す。
2018年6月24日、山口での日本選手権で金井大旺さん(福井県スポーツ協会)が、13秒36で走って14年ぶりに日本記録を0秒03更新した。それが起爆剤となって、19年には次々と日本タイ記録や日本新記録がマークされた。20年はコロナ禍に見舞われ更新されることはなかったが、21年と23年には上述の通り、世界で戦えるレベルの13秒16→13秒06→13秒04にまでタイムが引き上げられた。


<2000年以降の日本記録の変遷>

【JAAF】

まずは、2018年6月24日から19年6月30日の1年と6日間というか、19年7月27日までの1年1カ月と3日間に注目していただきたい。
「100分の1秒」まで計時されているのに、19年7月27日に高山が13秒30をマークするまでの19年6月30日から7月27日の1カ月あまりの期間は、3人が「13秒36」の「日本記録保持者」として並んでいた(しかも計4回)。電動計時での記録に限ると、「3人が日本記録を保持」というのは、他に例がない日本陸上競技史上初で唯一の珍しい出来事だった。

あるいは、「日本選手権の優勝記録(大会記録)」ということでみると、18年が13秒36。19年も13秒36。20年も13秒36。何と3年連続の「13秒36」だった。しかも19年は2着も13秒36の同タイム。そんなことで、21年の日本選手権のプログラムには「大会記録」として、金井大旺(福井県スポーツ協会)=18年&20年、高山峻野(ゼンリン)=19年、泉谷駿介(順大)=19年2位、の3人の名前が記載されることになった。これまた100分の1秒単位で計時がなされるようになってからは、史上初めてで、現在でも「唯一」の出来事だ。

110mHと100mの年別世界100傑入傑人数と国別順位

17年以降至近7年間の世界100位以内の日本人の入傑者数を100mと比較した。

<110mHと100mの年別世界100傑入傑日本人の人数と国別順位>

【JAAF】

・2024年は、6月12日判明分。

いずれの年も100mの人数と国別順位を110mHが上回っている(21年の順位はともに3位)。20年はコロナ蔓延の影響でアメリカなど世界的に競技会が中止となってあまり行われなかった。そんな事情もあって日本の人数が大幅に増え「世界1位」となった。通常はアメリカがトップで、110mHでの入傑数は年によって多少の変動があるが25~35人あたりだ。

至近4世界大会代表の泉谷・高山・村竹・石川・横地の決勝での直接対決の対戦成績

19年ドーハ世界選手権と21年東京五輪の代表は、高山・泉谷と21年末に引退した金井さん。
22年オレゴン世界選手権は、泉谷・石川・村竹。
23年ブダペスト世界選手権は、泉谷・高山・横地。
代表に内定している泉谷、今回の日本選手権に出場する高山・村竹・石川・横地の19年以降の世界大会代表の決勝レースで直接対決した対戦成績をまとめた。
もしも調査漏れや誤りなどお気づきの点は、陸連事務局までご連絡くださいませ。

<泉谷駿介と高山峻野の決勝での対戦成績>

【JAAF】

20年までは、高山が圧倒していたが、21年以降は立場が逆転した。

<泉谷駿介と村竹ラシッドの決勝での対戦成績>

【JAAF】

泉谷が大学の先輩の貫禄で、負け知らず。

<泉谷駿介と石川周平の決勝での対戦成績>

【JAAF】

【JAAF】

19年までは泉谷の5勝3敗だったが、20年の秋以降は泉谷が負け知らず。

<泉谷駿介と横地大雅の決勝での対戦成績>

【JAAF】

泉谷が負け知らず。最小でも0秒18差がついている。

<高山峻野と石川周平の決勝での対戦成績>

【JAAF】

【JAAF】

【JAAF】

高山が圧倒してきている。

<高山峻野と村竹ラシッドの決勝での対戦成績>

【JAAF】

21年は高山が連勝し、22年前半は村竹が連勝、後半は高山が連勝。24年は村竹が連勝。

<高山峻野と横地大雅の決勝での対戦成績>

【JAAF】

【JAAF】

高山が圧倒してきている。

<石川周平と村竹ラシッドの決勝での対戦成績>

【JAAF】

21年まではほぼ互角だったが、22年以降は村竹が7連勝中。

<石川周平と横地大雅の決勝での対戦成績>

【JAAF】

【JAAF】



<村竹ラシッドと横地大雅の決勝での対戦成績>

【JAAF】

村竹の不正スタートでの失格を除くと横地が勝ったのは1回のみ。

以上をまとめると、

泉谷は、
vs高山とは、6勝5敗
vs石川とは、13勝4敗
vs村竹とは、7勝0敗
vs横地とは、12勝0敗

高山は、
vs泉谷とは、5勝6敗
vs石川とは、27勝4敗
vs村竹とは、5勝6敗
vs横地とは、15勝2敗

石川は、
vs泉谷とは、4勝13敗
vs高山とは、4勝27敗
vs村竹とは、3勝7敗
vs横地とは、12勝9敗

村竹は、
vs泉谷とは、0勝7敗
vs高山とは、6勝5敗
vs石川とは、7勝3敗
vs横地とは、14勝2敗

横地は、
vs泉谷とは、0勝12敗
vs高山とは、2勝15敗
vs石川とは、9勝12敗
vs村竹とは、2勝14敗

トータルの対戦成績から序列をつけると、

【JAAF】

の順になりそうだ。

なお、五輪参加標準記録突破済みの野本周成と世界大会代表経験者5人との対戦成績は以下の通り。
野本は、
vs泉谷とは、0勝3敗
vs高山とは、4勝11敗
vs石川とは、7勝9敗
vs村竹とは、1勝6敗
vs横地とは、7勝3敗

また、13秒29のタイムを持ち400mHとの「二刀流」で挑む豊田兼は以下の通り。
豊田は、
vs泉谷とは、0勝2敗
vs高山とは、0勝6敗
vs石川とは、3勝3敗
vs村竹とは、0勝6敗
vs横地とは、2勝4敗
vs野本とは、2勝2敗

さて、19年以降の4回の世界大会代表で今回出場する4人に野本・豊田らがどんな勝負を挑むか??

日本選手権・決勝での「着順別最高記録」

【JAAF】

追風1.2mに恵まれた21年の記録が多くを占める。22年は向風1.2m、23年は向風0.9mだった。

「いい追風」に恵まれれば、「日本新」のみならず、たくさんの「着順別新記録」が生まれそうだ。
ハードル1台のちょっとしたミスで大きく順位が変動する種目だけに、1台毎の展開に一瞬も目が離せない13秒間になる。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

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既にパリ五輪への切符を掴んでいる
北口榛花 (JAL)・田中希実 (New Balance)
三浦龍司 (SUBARU)・サニブラウンアブデルハキーム (東レ)

日本選手権優勝でパリへの切符を掴む
佐藤拳太郎 (富士通)・村竹ラシッド (JAL)
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パリオリンピック 代表選考について

【JAAF】

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