【ドラゴンズ】盗塁阻止率をどう捉えるか

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チーム・協会
【これはnoteに投稿されたroad2vさんによる記事です。】
シーズンが開幕して早くも2ヶ月が経ちました。ここまでの中日ドラゴンズは一時は最大6の貯金で単独首位に立ち、今季の優勝争いに名乗りを上げたかと思えば、一時は単独最下位に転落するなど、混戦模様のセ・リーグの荒波に翻弄されるような推移を見せています。

選手に目を移すと好不調や怪我の影響などもあり、開幕当初とは一軍の顔ぶれも変わってきました。今季は特に新加入選手を多数迎えた野手の競争がより活発になってきた印象がありますが、木下拓哉を筆頭とする捕手陣も例外ではありません。

振り返ると春季キャンプでは小田幸平捕手コーチがこのような発言をしていました。
「今は木下がいるけどそこを脅かす、抜かせるような捕手が出てきてほしい。木下もあぐらをかいているわけではない。みんなで上を目指したいです」
 「とにかくボールを受けろ」中日・小田コーチが捕手陣にハッパ 脱“木下1強”で「みんなで上を目指す」:中日スポーツ・東京中日スポーツ(https://www.chunichi.co.jp/article/844556)

ドラゴンズでは過去3年にわたって木下が開幕スタメンを務め、一時的な離脱もありながら正捕手の座を築いてきました。しかし、今季はオープン戦の不振も影響したのか、木下が4年連続で開幕マスクをかぶったものの、加藤匠馬、宇佐見真吾、石橋康太、山浅龍之介を含めた中から3捕手併用という形で前半戦に臨んでいます。正捕手不在の中での競争は小田コーチが期待していたものではないかもしれませんが、いずれにしてもそれぞれの個性をもって競り合う環境が実現しました。

一方、守備で司令塔の役割を担う捕手は他のポジションに比べて求められる能力が多く、よほど総合力を備えた選手でない限りはあちらを立てればこちらが立たずという課題は常について回ることになります。この部分に関しては投手との相性や相手チームの特徴を踏まえて起用法を探っていることと思われますが、ドラゴンズ捕手陣の課題として何度か取り上げられているのが盗塁阻止率です。

盗塁阻止率をどう捉えるか

ここまで58試合を終えたドラゴンズ捕手陣の盗塁阻止率は、加藤匠馬が.333、宇佐見真吾が.286、木下拓哉と石橋康太が.000。チーム全体では.128という苦境に直面しています(6月8日時点)。ドラゴンズ応援番組「サンデードラゴンズ」(CBCテレビ)の5月放送分で元監督の谷繁元信氏が捕手陣の成績を評価した際には、盗塁阻止率3割以上を課題としていました。現状は唯一加藤がこの数字に届いており、宇佐見も例年の水準まで上げてきていますが、チームとしてはまだ程遠い目標です。

ただし、言うまでもなく盗塁阻止はバッテリーと野手の連携プレーであるため、これは捕手だけの課題ではありません。時に捕手の強肩が脚光を浴びますが、いかに送球が正確でポップタイムが良好であったとしても、投手のクイックモーションやベースカバーに入る野手のタッチなど他の内容次第ではアウトにできないこともあるでしょう(当然にその逆もありえます)。また状況によっては打者との勝負を優先することもありますから、盗塁阻止率が必ずしも純粋な捕手の能力を表した指標であるとは限りません。

その点について、今季も攻守での活躍が光る横浜DeNAベイスターズの山本祐大を例にして少し見てみましょう。山本の盗塁阻止率はリーグ1位の.423(6月8日時点)と好成績をマークしていますが、3月・4月の.600に対して、5月は.182と急落しています。仮に純粋な捕手の能力を表す指標として盗塁阻止率を見た場合、山本の評価はどうなるでしょうか。成績が良い分には称賛されるため特段の問題はありませんが、そうでない場合は誤った評価による批判に繋がる懸念があります。

さらに、盗塁阻止が連携プレーである具体例を挙げると、6月4日の福岡ソフトバンクホークス戦でその好例となるプレーが飛び出しました。

8回表のホークスの攻撃で、1塁ランナーの代走としてパ・リーグの盗塁ランキング首位を独走する周東佑京が登場。対するドラゴンズは松山晋也と加藤のバッテリー。クイックを課題とする松山は今季8度の盗塁企図を全て許してきましたが、この打席で投じた2球目は143km/hと出力を抑えながらも捕手までの到達は普段より0.1〜0.2秒弱速く、加藤のやや難しい体勢からの鋭い送球、ベース手前のショートバウンドを上手くタッチへと運んだ村松開人のカバーが合わさって盗塁阻止に成功しました。守備側のいずれか1つでも動きが良くなければ少なくとも判定は際どいものになっていたでしょう。
盗塁阻止率の捉え方を踏まえた上で、次にドラゴンズ捕手陣の盗塁阻止に関する記録を見ていきます。

ドラゴンズ捕手陣の盗塁阻止

まずは盗塁阻止に関する大まかな記録です。これまで公式戦に出場した捕手の主な記録は以下の通りです。

2024年6月8日時点 【road2v】

各選手の盗塁阻止率については先ほど触れた通りです。盗塁企図の内訳は二盗45、三盗2で、全体の約96%を二盗が占めています。三盗に関しては木下と石橋がともに企図1、阻止0という内容でした。

続いて二盗の場面に関して、ランナー1塁とランナー1・3塁に分けた記録を下表に示しています。

2024年6月8日時点 【road2v】

2024年6月8日時点 【road2v】

この表から分かる通り、ここまでドラゴンズが盗塁を阻止できたのはランナー1塁の場面に限られます。ランナー1・3塁の場面はエラーによる失点リスクがあるだけでなく、ホームスチールの警戒も攻撃側に有利に働いているのでしょう。加藤の盗塁阻止率が一時2割ほどに落ち込んでいたのも、盗塁企図が少ない中で5月に企図された3/4が1・3塁の場面だったことが一因です。

また、木下と石橋が一度も阻止できていない点については両選手のスローイングが課題として挙げられています。確かに捕手側の課題解決によって阻止率や抑止力の向上が期待できますが、あくまでも盗塁阻止は連携プレーです。ランナーは主に投手の動きを見てスタートを判断しますから、クイックの改善も捕手の課題と同等、もしくはそれ以上に重要かもしれません。特に少ないイニングで9度の盗塁を許している石橋に関しては、7/9がクイックを課題としている梅津晃大や松山と組んだ時の記録であるため、バッテリーと試合展開が相まって短期間に膨れ上がった可能性も考慮しておきたいところです。

ちなみにベイズターズの山本はランナー1塁の二盗阻止率が45.5%(企図22、阻止10)と企図数が増えても高い阻止率を維持しており、ランナー1・3塁の場面でも阻止が記録されています(企図4、阻止1)。ただし、この1・3塁の阻止はディレードスチールを仕掛けた1塁ランナーに誘い出されたもので、その間に3塁ランナーの本塁突入による失点を招いていることに注意が必要です(同様の形で2度失点)。盗塁阻止は本来失点のリスクを抑えることが目的ですから、1塁ランナーを刺しても3塁ランナーに生還されては本末転倒に他なりません。

このようなケースからも盗塁阻止率という単純化した結果だけで捕手を評価することの難しさや危うさを感じます。現在セパ両リーグの盗塁阻止率部門では3割未満の選手が6名いますが、その理由まではランキング上の数字から計り知ることはできません。

捕手起用は期待の選択

繰り返しになりますが捕手には様々な能力が求められており、盗塁阻止はそのうちの一つです。どのポジションにも言えることですが、総合力に長けた選手がいない限りは何かしら物足りない部分は出てくるものです。現在のドラゴンズ捕手陣においては詰まる所、得点を増やすことを期待するか失点を減らすことを期待するかの選択です。

その点について捕手の起用や入れ替えを見ていくと、盗塁によって失点が拡大するリスクを首脳陣が重く捉えていることは想像に難くありません。これまで盗塁を許したランナーが得点したケースは10件あり、実に半分が勝敗に絡む失点となっていることも影響しているでしょう。盗塁を防げば失点に繋がらなかったということではありませんが、得点力不足に悩むチームがこのリスクを軽視することはできないはずです。

そんな中、6月6日の立浪和義監督の談話で宇佐見がスタメン出場した際の勝ちパターンとして加藤の起用構想が明かされました。これも得点が少ないチームの現状を踏まえた折衷案で、打撃と一定の盗塁阻止が期待できる宇佐見にスタメンを任せ、盗塁を企図されやすいリリーフ陣は盗塁の阻止が最も期待できる加藤に任せるという理にかなった采配に感じられます。果たしてこの捕手リレーを今月は何度見ることができるのでしょうか。

2024年6月8日時点 【road2v】

交流戦が折り返しに入り、チームとしてはまだ苦しい試合が続いていますが、捕手陣の競争もより一層熱くなっていくことが期待できます。今月はまだ数試合ですが、打撃が持ち味の宇佐見と並んで加藤も長打を含む打率4割台と好調です。ファームで調整中の石橋は8日の阪神タイガース戦で盗塁を2度阻止しており、おそらく別メニュー調整が続いている木下の動向次第ではありますが、早ければリーグ戦再開に合わせて一軍に戻ってくるかもしれません。それぞれの長所を活かして上位へと躍進していく光景が待ち遠しいです。

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