2024 J1 第16節 FC東京 × ガンバ大阪 レビュー

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チーム・協会
【これはnoteに投稿されたちくわさんによる記事です。】

レビュー

 試合前には、「最多得点のFC東京と最小得点のガンバ大阪の"ほこたて"対決」と銘打たれていたこのゲーム。東京が攻めてガンバが守る、のようなイメージに結びつきそうなヘッドラインだったが、蓋を開けてみればガンバがボールを握る時間の長い前半だった(ボール保持率59%:41%)。

 そのスタッツに結びついたのは恐らく攻撃の志向性の違いによるものだろう。FC東京は縦に早い攻撃。サイドバックが内側に絞るギミックはあるが、パスコースを作って保持を安定させるというよりは、そこからのスプリントを駆使して相手のDFラインのアクションを引き出し、それによって作った「縦のズレ」を活用して作ったスペースに選手を送り込む、「幅」と「深さ」でいえば「深さ」にフォーカスした攻撃のようだった。この試合最初の決定機は、「深さ」を活用してディエゴ・オリヴェイラが飛び出し、並走する福岡を弾き飛ばしてニアゾーンからクロスを供給したシーン。中谷の機を見た詰めと一森のシュートブロックによって何とか事なきを得たが、FC東京の「槍」の強力さを印象付けるシーンだった。

 一方のガンバは、横パス・戻しのパスを多用しながら相手を動かしてできる「横のズレ」を活用して作ったスペースを使う攻撃。やり直しを多用しながら機を伺うガンバの攻撃と、一度攻めればやり直しはきかない、ただその代わりに成功すれば得られるリターンが大きいFC東京の攻撃とを比較すればガンバの保持時間が長いのは当然だろう。

 FC東京のブロック守備はディエゴ・オリヴェイラと荒木が2トップで並ぶ4-4-2の形。ミドルゾーンではアンカーの位置に入る鈴木徳真を受け渡して消しながらプレスをかけにいく。ハイプレスに出る際はボランチに入った高・小泉が列を上げてガンバのボランチを捕まえ、サイドに追いやる守備を志向していた。守備の振る舞いとしては、同じ東京のヴェルディに近しい印象(https://note.com/twikkun/n/nd902e05334b3)を持った。ヴェルディ戦では、相手がハイプレスに出てきて以降はなかなかボール保持を安定させることができなかったが、今節はその反省を生かしたアクションを取れていたように思う。

 ポイントは2点。ひとつは左右にやり直しながらの機をみた縦パスによる前進。ヴェルディの守備と比較すると、FC東京の2トップは「深さ」の脅威を高めるためか前残りの意識が高く、プレスバックへの貢献は限定的だった。よってサイドバックからアンカーに折り返す横のコース、バックパスのコースが見えている状態が多く、やり直しがきくのでサイドでノッキングを起こしてしまうシーンは少なかった。また今節は両ウイングをウェルトンと山下が務めていたが、保持攻撃の開始時においては両者とも大外にポジショニングしており、サイドハーフ(ウイング)とボランチの間の「ゲート」は「空けてある状態」だった。ヴェルディ戦では縦パスのコースが限定されており、このスペースに入る食野がサイドバックのプレッシャーを受けて潰されるシーンが多くなってしまったが、今節はやり直しによってセンターバックが選択肢を持てているシーンが多く、またFC東京のサイドバックをガンバのウイングがピン止めし、宇佐美や坂本がFC東京センターバック(木本・エンリケ)のプレッシャーが間に合わないタイミングで「ゲート」に顔を出せていたため、そこを起点にした落としのパスで前向きの選手を作って相手のプレスラインを突破できていた。

保持基本構造 【ちくわ】

 もう一つはGKからの「疑似カウンター」。FC東京がボランチの列を上げてハイプレスにくるのであれば、引き込んで広げたボランチの背中のスペースを使ってプレスを外してゴールに迫る。前述の通り、ガンバのウイングは幅を取ってサイドバックをピン止めしているので、ボランチの裏を潰すのはFC東京センターバックの役目だった。このセンターバックを引き出して空けたスペースをサイドバックと1対1になったウイングに使わせる形は狙いの一つだったようだ。15:10からの一森からのゴールキックを黒川へ繋ぎ、そこから2トップがセンターバックを引き出して作ったスペースをウェルトンに使わせて決定機まで繋がった形、また成就はしなかったが19:10~のシーンは宇佐美がセンターバックを引き連れてサイドに流れ、それとクロスしてウェルトンが中央に走る形など、東京DFラインの振る舞いを踏まえて攻略するスペースを共有できていたシーンがいくつか見られた。

疑似カウンター 【ちくわ】

 相変わらず前進した後のペナルティエリアの崩しには苦労している様子だったが、ウェルトンから逆サイドのハーフスペースに飛び込む半田へのクロスや黒川の縦突破など、シュートに繋がらないながらもポケットへのアクションを起点に「一歩手前」まではいけている印象だった。

 また、セカンドボールの回収についてもガンバが優勢だった。FC東京は自陣ディフェンシブサードのローブロック守備においては、前残りしていた荒木が降りてきて4-5-1のようなブロックを形成していたが、こうなるとカウンターに備えられるのはディエゴ・オリヴェイラ1人となるため、半端なクリアであればガンバが回収できる。

 つまるところ、FC東京の攻め手はガンバが刺す縦パスのズレやミスなどによって起こったトランジション局面が中心だった。それでも荒木や俵積田などの個人突破は強力でアタッキングサードまでボールを運ばれてしまうシーンもあったが、攻めを遅らせることができれば宇佐美や坂本が積極的にプレスバックに関与してくれるため、単騎での攻撃に追い込むことができ、大きなチャンスには繋がらなかった。


 コーナーキックのクリアから山下の爆速ひとりカウンターが発動したシーンなど、前半を通して決定機の数ではガンバが上回っていたが、ゴールには繋がらず前半は終わる。








 前半の展開を考えれば修正の必要があったのはFC東京側だろう。ポイントは荒木のポジショニングの修正だったと思われる。前半も見られないわけではなかったが、後半はよりサイドのサポート、具体的には左サイドバックと左ウイングの間に立ってボールを引き出すシーンが目立った。荒木がここに降りてくることで半田をつり出し、その裏にウイングが飛び出すことで一気に加速する形が何度かみられた。俵積田の突破からのクロスに安斎颯馬が飛び込んだシーン、俵積田のカットインからの巻きシュートなど、同じ形で複数回危ういシーンを作られる。

 一方、ボールを持っていない時の課題はあまり解決できていなさそうな雰囲気だった。後半開始直後こそプレッシングの勢いを強めてガンバにボールを捨てさせることに成功していたが、時間が進むにつれ前半と同様にガンバがボールを持てる展開に。63分には荒木と俵積田が下がり、仲川と遠藤が投入される。選手交代によってプレッシングの圧力を回復させようとしていたようだ。ただ、プレスのスイッチを入れた選手に周りが連動していないシーンが散見し、11人全員がその絵を描いているようにはあまり見えなかった……というのが正直なところだ。79分の仲川のプレスを受けて福岡が逆サイドへのロングボールを選んだときは、温厚な人柄で知られるポヤトスも怒りをあらわにしていた。落ち着いて出口を探ればボールを持てる、と確信していたからこそ檄を飛ばしたのかもしれない。

 押し込める展開の中で前半と比較してシュートの数も増えたガンバ。左サイドのパス交換から宇佐美が山下にサイドチェンジのパスを送り、その山下からのクロスにディフェンダーの背中から動き直して飛び込んだ宇佐美が合わせたシーンなど、決定機の質も上がってきている印象だったがゴールには繋がらず。72分にはダワンを下げてネタラヴィを投入。鈴木徳真も疲れている印象だったが、監督の信頼が伺える交代カードの切り方。

 FC東京は77分、山下の突破に手を焼き2枚目の警告もあわやとなったカシーフと運動量が落ちてきたであろうディエゴ・オリヴェイラを下げ、松木とジャジャ・シルバを投入。松木はトップ下に入り、仲川がディエゴのいなくなったトップに。ジャジャ・シルバは左ウイングに入り、左ウイングの遠藤が右ウイングに移動。カシーフのいなくなった左サイドバックにはそれまで右ウイングを務めていた安斎が回る。

 84分、ガンバも選手交代。坂本を下げて山田康太、山下を下げて倉田を投入。倉田が左サイドに回り、ウェルトンが右に移る。

 この交代直後のプレーがゴールに繋がった。厳密には形は違えど、ロジックとしては浦和戦の決勝弾と同じ(https://note.com/twikkun/n/n0118a97e44b1)だ。左のトランジションから右のウェルトンのアイソレーションを作る。右のウェルトンは縦突破をちらつかせながら対面の安斎を止めて時間を作り、バイタルの状況が整うのを待ってマイナスのクロス。ワントラップから放たれた山田康太のシュートはこの日再三の好セーブを見せていた野澤大志ブランドンが伸ばした手を絶妙なバウンドでくぐりぬけ、移籍後初ゴールとなる先制点をもたらした。
 しかしウェルトンは本当に見ていて楽しい選手。類まれなフィジカルの強さと速さを持ち、左右どちらに置いても腐らず、かつそれぞれのサイドでまるで別の選手かのようなキャラクターの違いも見せてくれる。払った移籍金(どうやら280万€だそうだが)に見合った「戦略兵器」としての活躍を存分に見せてくれている印象だ。



 その後は追いつきたいFC東京の猛攻を受けるガンバ。ただFC東京は後半当初に可能性を感じさせたサイドの打開がうまくいかない。というのも、右ウイングに回った遠藤が、恐らく右のアイソレーションが得意な選手ではないからか内側のレーンに回ることが多く、FC東京の幅を取る主体がサイドバックとなっていたことで、大外のケアをガンバのサイドハーフ(ウイング)がこなせばいい状況となり、ガンバのセンターバックとサイドバックの間のスペース(いわゆる"カホン")をなかなか開けない状況が生まれていた。更にガンバはアディショナルタイムで宇佐美とウェルトンを下げ、久々の復帰となった松田陸と唐山を投入。山田康太をワントップに回し、右サイドハーフを唐山が、右ウイングバックを松田が務める5-4-1に移行し、プレッシングの強度を担保しつつより盤石な体制でスペースを埋めにかかる。

 それを受けたFC東京はジャジャ・シルバを右に回して大外を担当させる工夫をみせたが、何かを起こすには時間が短すぎたように感じる。セットプレーから元・ガンバ大阪のヤン君が意地のシュートを見せたがゴールには繋がらず。ラストワンプレーでコーナーキックの流れからエンリケ・トレヴィザンが一度はゴールネットを揺らすもオフサイドの判定。過去20年のリーグ戦でわずかに1勝しかしていなかった"魔境"味の素スタジアムを攻略する1-0での勝利となった。

まとめ

 スコアこそ1-0で終わったが、ポヤトス監督が試合後インタビューで「完璧な試合」と評した(https://www.gamba-osaka.net/report/index/no/923/)通り、始終ゲームをコントロールしながら進められた90分だった。それを支えたのは11人と控え含めたチーム全員のゲームプランへのコミットであり献身。松田浩フットボール本部長の「ハードワークをシェアする」という言葉が脳裏によぎるような会心の勝利だった。この姿勢を保ち続けているかぎり、まだまだ上に行けるはず。









ちくわ(@ckwisb(https://x.com/ckwisb))

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