【ONE TAP SPORTS活用法 第3弾(前編)】 野球の調子が悪くなったらどう改善するか?不調を脱するための「思考サイクル」
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そう掲げる湘南平塚北リトルシニアは2015年に誕生した中学硬式クラブだ。
東海大学体育学部の学生たちが「野球チームをつくりたい」と声を挙げて立ち上がり、現在も独特なチーム運営がなされている。
根幹に置くのは、アスリートとしての素養を身につけるための「アスリート教育」だ。2023年から率いる伊藤翔大監督が立教大学野球部時代に抱いた疑問が背景にある。
「うまい子たちが、こんなに練習しなくなるんだ……」
同期55人のなかには強豪私学出身者も少なくなかったが、決して順調に伸びたわけではなかった。もともと好きで始めた野球なのに、年を重ねて努力しなくなるのはなぜか。卒業後、広告代理店に勤務しながら湘南平塚北リトルシニアのコーチに就任した伊藤は結論に至った。
「練習しなくなるのは、自分自身を律せられないからだと思います。アスリートにとって大事な要素は、自分を磨くこと。僕らは中学生たちと3年間野球を一緒にできるけれど、彼らの野球人生はその後まだまだ長い。僕らの手から離れたとき、どれだけ自身を律することができるか。そこにフィットするのでワンタップスポーツを導入しました」
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毎月体重500gアップが目標
「トレーナーたちが手作業でやっていたことは、ワンタップでは全部プラットフォームで管理できます。作業時間が結構かかり、子どもたちを話す時間が十分にとれていませんでしたが、それでは本末転倒です。ワンタップを導入してからトレーナーと子どもたちが話す時間がすごく増え、彼らのポテンシャルもフルに発揮されています」
湘南平塚北リトルシニアには50人超の選手が在籍し、「体重を毎月500g増やそう」と取り組んでいる。毎月ペットボトル1本分増やせば、中学3年間ではかなりの量だ。単純計算では「12カ月×3年×500g=18kg」になる。
当初、保護者から「中学生でそこまでやる必要があるのか」「体質で増えない子はどうするのか」と疑問も上がった一方、「体重が増えたことで打球が飛ぶようになった」という選手たちの声も多く聞かれた。
体重アップにはそうした効果に加え、先を見据えての意味合いもある。伊藤監督が説明する。
「中学1年生の頃から体組成を意識すると、大学野球に進んで寮生活になっても体重を気にすると思います。中学3年間で、当たり前のこととして自分の体重を気にする習慣ができるようにしてあげたい」
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自分の体と向き合うことを習慣に
だが、日本では野球の練習が何より重視されるあまり、「打てなかったら、もっと振り込め」という指導も少なくない。伊藤監督は学生時代、そうした野球の考え方に疑問を覚えた。
「野球の調子が悪くなると、野球の技術で改善しようとする人が多いですよね。でも、そもそも体重が落ちていたり、体の可動域が狭まっていたりするかもしれません。可動域が狭まっていれば、打ち方や投げ方が変わってしまいます。だから調子が悪くなったら、まずは体重計に乗る。体重が落ちていなかったら、可動域をチェックする。可動域が落ちていたら、そこを改善すれば調子は戻るはずです。そういう思考のサイクルを回せるように、うちのトレーナーチームはそうした教育をすごくしてくれます」
自身の体に意識的になって高校野球に臨めるように、湘南平塚北リトルシニアでは入部前の体験会に来た小学生に必ず伝える話がある。「パフォーマンスピラミッド」だ。伊藤監督が続ける。
「パフォーマンスピラミッドでは技術が一番上にありますが、うちでは睡眠や栄養、可動域などが本当に大事だと考えています。目の前の勝利を優先するなら野球を1日中やっていたほうがいいかもしれないけど、うちはアスリート教育として中長期的な視点で育成する3年間にする。そうした話を伝えています」
(※パフォーマンスピラミッドはアスリートの競技力を支える身体的機能を3層に分け、ピラミッドを安定させるようにトレーニングして身体的パフォーマンスを向上させること。前述の3層は上から「スキル(技術)」「ファンクショナルパフォーマンス(筋力、スピード、パワー、敏捷性など)」「ファンクショナルムーブメント(安定性、可動生、柔軟性など)」)
湘南平塚北リトルシニアでは毎月末、中学生たちが自分の体の変化に敏感になれるように身長、座高、体重を測定する。各自が自身のスマートフォンでワンタップスポーツのアプリに入力するから、指導者にかかる手間はほとんどない。
さらに毎朝、各自が睡眠時間や疲労感、肩/肘/腰の張りを入力する。そうして自分自身と向き合い続ける習慣をつけることが、「高校生になって生きてくる」と伊藤監督は期待する。
1日の練習中に4回の軽食でエネルギー補給
もっとも、「食べるのは大変」と漏らす選手もいる。伊藤監督は「食事を嫌いになってほしくない」と考え、「この栄養をこれだけ摂りなさい」というのではなく、まずは好きなものを食べてほしいというスタンスだ。
朝から夕方まで練習する土日は昼ごはんの弁当に加え、軽食が4回あるのも湘南平塚北リトルシニアの特徴だ。
朝食をとらずに来る選手も多いため、グラウンドに集合したら、まずはみんなで朝ご飯を食べる。さらに午前中に1回、昼食をはさんで午後に1回、そして練習後に帰宅前にもう1回食べて解散だ。おにぎりを持ってくる子もいれば、みたらし団子やカステラ、バナナ、魚肉ソーセージなど手軽に準備できるものを食べる選手が多いという。
「体重アップや軽食に取り組むようになり、試合中に熱中症がほぼ出なくなりました。他のチームでは足をつる選手が多くても、うちの選手たちはケロッとしています。『熱中症にならないよう水を飲め』と言うのではなく、『汗で水分が出ていった分、体重が減らないように水分をとれ』と普段から伝えています」(伊藤監督)
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選手個々のデータをチーム全体で共有
「大人になったらそれの繰り返しです。そうできることが自立だと思う。うまくいかなったときは原因を分析して改善する。口では簡単に言えるけど、意外とやっていない人もいます。アスリートが自分をうまくしていくには不可欠なので、そういう習慣を身につけさせたい」
一人でも多く成長に導くため、チーム全体を押し上げる仕組みもある。ワンタップスポーツに入力した項目について、グーグルのダッシュボードで保護者も含めて共有しているのだ。現在の身長や体重、体脂肪、前月の比較に加え、スイング数やシャドーピッチングの数も入力して公開する。
「誰がいつ、どれくらい練習しているのか。数字で可視化することが大事だと思うので、ランキングにするなど工夫しています。数字で追いかけられると、一番わかりやすいですからね」
どうすれば、選手たちの継続的な成長につながっていくか。湘南平塚北リトルシニアは中学生たちの未来を少しでも明るくするべく、アスリート教育を実践している。
文・中島大輔
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