【ヴィクトリアマイル】「家族とパーティーです(笑)」21年目で初GI津村騎手は涙から笑顔、14番人気テンハッピーローズが波乱の春女王に
春のマイル女王決定戦・ヴィクトリアマイルは14番人気のテンハッピーローズが優勝、津村騎手はデビュー21年目にして嬉しい初GI制覇を飾った 【photo by Kazuhiro Kuramoto】
テンハッピーローズは今回の勝利でJRA通算24戦6勝、重賞は初勝利。騎乗した津村騎手はデビュー21年目、JRA・GI挑戦48戦目にして嬉しい初勝利となり、同馬を管理する高柳大輔調教師はヴィクトリアマイル初勝利となった。
なお、1馬身1/4差の2着にはクリストフ・ルメール騎手騎乗の4番人気フィアスプライド(牝6=美浦・国枝厩舎)、さらにクビ差の3着にはジョアン・モレイラ騎手騎乗の1番人気マスクトディーヴァ(牝4=栗東・辻野厩舎)が入線。人気の一角を占めていた武豊騎手騎乗の2番人気ナミュール(牝5=栗東・高野厩舎)は直線不発に終わり8着に敗れた。
「自分の苦労が足りなかっただけ」
右手を掲げる津村騎手、ファンも大歓声で悲願の勝利を祝福した 【photo by Kazuhiro Kuramoto】
「無我夢中でした。直線がすごく長く感じて、必死に追っていました」
開口一番、あふれ出る涙をこらえながら津村騎手がGI初制覇の喜びを語った。同期のリーディングジョッキー川田将雅騎手をはじめ藤岡佑介騎手、吉田隼人騎手がビッグレースを制していく中、自身もコンスタントに勝ち鞍を挙げて重賞も2010年からは毎年のように制するなど活躍をしてきたが、GIにはどうしても手が届かなかった。いや、届きかけたレースもあった。
「一番悔しかったのはジャパンカップでしたね」
津村騎手がそう振り返ったのは2019年、カレンブーケドールとのコンビで3/4馬身差の2着に惜敗したレース。このJCをはじめカレンブーケドールとはオークス、秋華賞と合わせて3度、GI・2着の涙を飲んだ。
「ここまでが本当に長くて、自分でももう(GIは)勝てないのかもという思いもありましたけど、それでも諦めちゃダメだと毎年思っていました。何とかまたGIに乗れるように、小さいレースから何とかたどり着けるように頑張ってきました」
“苦労人”という言葉で片付けるのは簡単だ。だが、当の本人は苦労人だとは微塵も思っていない。むしろ「苦労してきたとよく言われるのですが、僕の中ではただ自分の苦労が足りなかっただけ」と、この21年の歩みを振り返る。
3年かけて教え込んできた競馬と距離
「長い年月をかけて競馬と距離を教え込んできた」と振り返った高柳大輔調教師、その地道な努力が花開いた 【photo by Kazuhiro Kuramoto】
「人気はなかったのですが、トレセンで取材を受けた時は『抜群の出来で出走させることができるから注目してほしい』と答えていました」
一方、キャリア通算5勝のうち1400mで4勝、1200mで1勝。マイルでは勝利がない。それだけに今回も距離に不安を抱えてのチャレンジかと思いきや、綿密に計画を積み重ねた上でのマイル女王決定戦への挑戦だったと、トレーナーは語る。
「牝馬の短い距離のGIというと1600mのヴィクトリアマイルしかありませんので、長い年月をかけて進めてきました。この間に競馬と距離を教え込むことができたこと、そして調整がしっかりできたことが今回の勝因だと思います」
高柳大調教師によれば、ヴィクトリアマイルを大目標に掲げた道のりは2021年6月の1勝クラスで初めて1400mを使った時からスタート。それから3年。種を植えて水をやり、地道に育ててきた月日の成果はテンハッピーローズの中で大きなつぼみとなり、今にも大輪を咲かせようとしていたわけだ。
最高ポジションの道中、4コーナーの手応えも抜群
道中は「最高のポジション。4コーナーも手応え抜群だった」と津村騎手、最後の直線は一気の伸び脚で突き抜けた 【photo by Kazuhiro Kuramoto】
そしてレースもこの上ない形で進めることができた。
「しまいの脚は確実な馬なので、前半はリズム良く行こうと思っていました。前に人気馬がいて、かつあまりプレッシャーがかからない位置だったので、最高のポジションが取れたなという雰囲気で3コーナーまで行けました」
内枠から出ムチを入れながらコンクシェルがハナを切り、外からフィールシンパシーが続いて、前半はやや速めの600m33秒8、800m45秒4。この流れの中、テンハッピーローズは中団よりやや後ろ、後方から数えて5番目の位置だったが、津村騎手が語ったとおり他馬にもまれることもなく3コーナーに差し掛かるころにはすぐ前方にマスクトディーヴァ。これをちょうど目標にするような形で先団との差をジワジワと縮めていく。
「もう本当に4コーナーの手応えは抜群。先頭を捉えられそうな手応えだったので、そこからは必死に追いました」
「家族のために頑張れるのが僕の生きがい」
感動と馬券のインパクトと……記憶にも記録にも残るレースだった 【photo by Kazuhiro Kuramoto】
「先頭に立ってからは『誰も来ないでくれ』という思いで追っていました。いつかGIを勝ちたい、勝ちたいと思い続けてきた中で、まして一番大きな東京競馬場で勝つことができて、本当に最高の瞬間でした」
ゴールの瞬間、津村騎手の心に浮かんだのは妻と2人の息子、家族の顔だったか。
「何としてでも家族のために、大きなレースを勝つところを見せたいと思ってずっと乗ってきました。間違いなく家族の支えが一番大きかったです。家族のために頑張れるのが僕の生きがいでもあるので、本当に今日は最高ですね。(自宅に帰ったら)パーティーです(笑)」
叩き上げの馬と騎手、人馬の努力がリンクしたような感動のフィナーレを迎えた2024年のヴィクトリアマイル。GIの単勝では史上4番目の高額配当、馬単30万3260円は同2番目という馬券のインパクトも相まって、記録にも記憶にも残る春のマイル女王決定戦となったのは間違いないだろう。(取材:森永淳洋)
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