【佐々木クリスが聞く】前編 中地区優勝の三遠ネオフェニックス、大野篤史ヘッドコーチのチームビルディング
【(C) B.LEAGUE】
「面白いバスケ」実現のためのPPPとeFG%
まずバスケは点数を取らないと面白くないと思っていて、でも点数だけ取っていれば試合に勝てるかと言ったらそうではないですよね。自分の中で大事にしているのはPPP(ポイント・パー・ポゼッション)です。ペースを上げて攻撃回数を増やせばその分だけ失点も増えます。そこはあまりネガティブになりませんが、ペースを上げてもクオリティが低かったら面白くない。じゃあクオリティを上げるために、どのスポットでどのようにスペースを利用できるか。ベーシックなことですが、それを徹底できている今は良い形でオフェンスを遂行できています。
──平均89.5得点は2位以下を大きく引き離す数字です。それはペースが高いのが一つの要因ではあれど、一回の攻撃あたりの得点期待値もトップだからこそですね。
ペースは長崎が1位でウチが2位という中でクオリティを加味する時に大事なのがPPPですし、eFG%(エフェクティブ・フィールドゴール・パーセンテージ)です。「誰に」、「どこで」、「何をさせるか」の共通理解を持ってオフェンスを構築できていれば数字に表れます。
──三遠では平均2.0アシスト以上の選手が6人とボールがよく回っていて、シュートアテンプト7以上の選手が7人います。ファーストブレイクに全員が走れるチームでもあります。特定の選手に集中しないバスケができる要因は何でしょうか?
選手たちがすごくコーチャブルなことです。ボトムから這い上がりたい意識を持って、私が伝えることを真摯に受け止めてくれます。オフェンスでは「スポットに行くことが目的じゃない」とよく言いますが、誰がそのスポットに入って、それで何を選択していくかを考えてプレーしようと言うのに対して、忠実に遂行してくれます。
──ペース&スペースのチームはB.LEAGUEではまだ多くないと思うのですが、三遠、長崎や名古屋Dがそのスタイルです。三遠はサーディ・ラベナのようにファーストブレイクで生きる選手がいて、外国籍も3人ともボールプッシュできます。ここも大野さんのおっしゃる「面白いバスケ」だと思いますが、この魅力についてご説明いただけますか?
そういうプレーヤーを連れてきたのはまず事実です。リバウンドが強い選手はボールプッシュができなかったり、だいたい何かを捨てざるを得ません。そこに魅力を感じる人もいるかもしれませんが、私が考える面白いバスケに必要なのは、何かに特化して他を失うより、すべてを効率良くできる選手です。特にヤンテ・メイテンはすごくユニークで、サイズはありませんがリバウンドが強くてボールプッシュもできます。デイビッド・ダジンスキーは優れたバランサーで、献身的にプレーすることでシューター陣やスラッシャーにスペースを与えられます。自分たちがやりたいバスケにフィットする外国籍選手を連れてきたのは、今季の飛躍の要因の一つだと思っています。
「献身性が出ている時はすごく良いバスケができます」
【(C) B.LEAGUE】
スタートの時からこういう未来を予想していたわけではありません。昨シーズン、あれだけアクシデントがあったのは初めてだったので、選手がフロアに倒れている時間が長いと今でもそれがフラッシュバックしてドキッとします。相手もあることなので成熟度が高いとか低いとかは考えず、1試合1試合をどう勝つかと60試合続けてここにいると感じています。
──2月7日のFE名古屋戦での「勝ったこと以外は全然ダメ」というコメントがすごく印象的でした。あの時のチームはどんな状態だったのですか?
FE名古屋の試合はオフェンスは良かったのですが、自分たちのベースとなるディフェンスに全然フォーカスできておらず、やらせちゃいけないことは何なのかのプライオリティを忘れていました。オフェンスリバウンドを取られて、ファーストブレイクポイントもたくさん取られて。ただ殴り合いをして勝った以外に何もなかったので、あのコメントをしました。
──その次のA東京との試合では、すごく良いバスケができていました。
A東京との1戦目は、自分たちが積み上げてきたディフェンスをしっかり表現できたし、お互いのためにスペースを作る努力ができました。「自分が、自分が」ではなくて、「チームのために何ができるか」、「チームメートのために何ができるか」という献身性が出ている時はすごく良いバスケができます。でも、それは犠牲ではないんですよね。何のためにバスケをするか、それは自分のスタッツのためじゃなくてチームが勝つためです。20得点、30得点は自分の努力で取れますが、その努力だけでチームを勝たせることはできません。一人の努力で成し遂げられることは簡単なのに、5人とか12人のチームで成し遂げることがいかに難しいか。その難しいことを成し遂げた時に大きな満足感、充実感があることを選手に理解してほしいと私は常に思っています。
「ここまででいいや、という限界は掲げたくない」
私が選手たちに伝えられるのはどれだけ良い習慣を身に着けられるか、準備がどれだけゲームに大切なのかを理解してもらうことです。毎日実行して毎日努力する積み重ねを見ているから、選手たちが満足感や充実感を得られた時に、自分もその一員になれたと感じられます。僕がすごくうれしいのは選手が成長している姿を見ること、成長している選手たちが試合に勝つことの2つなんです。
──B.LEAGUEが始まってから取材させていただく中で、チャンピオンシップでも成長を続けているチームが優勝するという実感があります。今のチームは大野さんが理想とするバスケにどれぐらいの開きがあって、どう埋めなければいけないと考えていますか?
理想はありません。常に「もっともっと」です。もっと良くなれるんじゃないか、このチームにもっとプラスになるために何ができるのか。一人ひとりがそう考えて試合を積み重ねていくことで、私が理想としているもの以上が出ると思っています。だから「ここまででいいや」という限界は掲げたくないです。
編集協力:鈴木健一郎
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