【ラグビー/NTTリーグワン】ラストホストゲームでの劇的勝利を生んだ ボーデン・バレットの“魔法”<トヨタV vs 横浜E>

トヨタヴェルブリッツ ボーデン・バレット選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
トヨタV 35-31 横浜E


野球で言えば逆転サヨナラ打、バスケットボールで言えばブザービーターで、本拠地ラストゲームのトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)が劇的勝利を収めた。

きっかけは自陣深い位置でのスクラム。横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)ボールだったがフォワード陣が踏ん張った。たまらず相手がペナルティ。そこからトヨタVの猛攻が始まった。

それでも31対28でリードする横浜Eのディフェンスは堅く、敵陣の22mライン付近で両チームのせめぎ合いが続く。80分経過を告げるホーンが鳴ってもトヨタVは相手のラインをブレイクできずにフェーズ(連続した攻撃)を重ねた。

仲間たちの激しいぶつかり合いを見ながら、最後方で勝機を探っていた髙橋汰地は、「早くアドバンテージが出てくれ」と願っていたという。しかし、横浜Eは粘り強く、ペナルティを犯さずにトヨタVの突進に対して体を張って食い止めていく。

そして迎えた31フェーズ目。パスを受けたボーデン・バレットがイチかバチかの賭けに出る。前方のスペースにボールをキックで出したのだ。

この場面、トヨタVがアドバンテージを得ていたら、失敗してももう一度攻撃の機会を与えられるが、アドバンテージはなく、相手にボールを抑えられたらその瞬間に試合終了、横浜Eの勝利となっていた。しかし、ボーデン・バレットのキックに走り込んだ髙橋が相手よりも先にボールを拾い上げてそのままトライ。世界的司令塔のキックがトヨタVに土壇場での逆転勝利を呼び込んだ。

トヨタヴェルブリッツ 髙橋汰地選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

「フェーズを重ねる中でタイチ(髙橋)が『キック』というコールをしたので、自分も(スペースを)そんなに見ていなかったけど、人生を賭けてでも彼を信頼することにしてキックした」(ボーデン・バレット)

ニュージーランド代表オールブラックスの一員で、長いキャリアを誇るボーデン・バレットにとっても、アドバンテージを得ていない中でこうしたプレーを選択したのは初めてだったという。それだけ髙橋を始め、チームメートとの信頼を築けていたということなのだろう。

ボーデン・バレットのキックは最後少し浮き上がるようにバウンドした。それも多くのファンが観に来てくれたおかげだと笑顔を見せた。この試合は世界最高峰のスタンドオフにとってトヨタVでのラストホストゲームだった。そして最後の最後に素晴らしい魔法を見せてくれた。

(斎藤孝一)

トヨタヴェルブリッツのベン・へリング ヘッドコーチ(右)、姫野和樹キャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

トヨタヴェルブリッツ
ベン・ヘリング ヘッドコーチ

「今日は非常にいいラグビーだったと言えると思います。序盤からフィニッシュまでいい形で終えることができましたが、横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)さんとやり合うような、そういった試合でした。その中でわれわれとしては最後まで戦い抜くことができたと思います。ベンチメンバーに関しても、非常にいい仕事ぶりでした。

最後のプレーに関しては、31フェーズ(を重ねた末のトライ)という選手の努力も垣間見えました。そして冷静さ、勇敢さというところで、髙橋汰地とボーデン・バレットが非常に良い判断をしたと思います。ファンが祝福できるような、そういった結果を見せられたと思います」

――最後のホストゲームでした。
「私自身こういったチームに関わることができて、非常に誇りに思います。特に選手たちに関しては、本当にいろいろなキャラクターの選手が集まっていますが、その中で非常にいいエナジー、そして人間性を持ち合わせている選手ばかりです。なので、ああいった形で今日のラストのホストゲームを終えることができて非常にうれしく思っています。特に最後の31フェーズに関しては、ああいった気持ちの高揚、そういう場面がトヨタヴェルブリッツの次の数年でも見られることを期待しています」

――アーロン・スミス選手が控えからの途中出場だったが意図を教えてください。
「外国籍選手のバランスというのが理由の一つになりますが、今節に臨む上でフォワードにフォーカスをした力強いフィニッシュをするのが目的でした。なので、ジョシュ・ディクソン、アイザイア・マプスア、ピーターステフ・デュトイなど、そういったメンバーを先発させたことによって、アーロン・スミスをベンチに下げるという運びになりました。茂野海人も非常に良いパフォーマンスを発揮しているので、スタートにふさわしいという判断をしました。今日の試合に関しては、ベンチメンバーが非常にいいフィニッシュをしてくれたと思います」

トヨタヴェルブリッツ
姫野和樹キャプテン

「ホストゲーム最終戦で勝つことができてうれしく思います。本当に選手の笑顔が素晴らしかったと思いますし、今後に自信を取り戻す機会になったと思っています。また今週に関しては、コリジョンの部分にフォーカスしてやってきましたが、ラグビーの根底にあるコンタクト、コリジョン、そして自分たちのラグビーで戦い抜くというところがテーマでした。それを80分間体現してくれた選手たちを、すごく誇りに思います」

――最後の場面をベンチで見ていてどう感じましたか?
「難しい判断だったと思います。もちろんボールキープしなければいけなかったし、横浜Eさんもすごくハードにアタックしていました。難しい判断だと思いますけど、その判断を信じるということがすごく大事だと思っています。なので、ボーディ(ボーデン・バレット)がその判断をした。そして(髙橋)汰地が信じて追いかけた。そういうところが結果を生んだと思います。その判断に対して信じてプレーするというところが、すごく大事だと思います」

――これまではそれが足りないこともあったのでしょうか?
「自分たちのラグビーに対して、信じ切れなかった場面は正直ありますし、うまくいかないときはそういうところもできていなかったことがあったかもしれません。ただ、過去は変えられないので、いまから信じてやり続けることが、自分たちのやるべきことだと思います」

――第2節では横浜Eに敗れていたが、今回は勝てるという自信は持っていたのでしょうか?
「常に自分たちのポテンシャルを信じていますし、歯車がかみ合えばベスト4にいけるチームだと自分たちは思っています。横浜Eさんに対してだけではなく、自分たちの実力をしっかり発揮できれば(どこが相手でも)勝てると感じています」

――今日は今季のベストゲームと言えるのでしょうか?
「そうですね。自分たちがやる事を徹底してやって、自分たちのやりたいラグビーができたので、自分としてはすごく満足しています」

横浜キヤノンイーグルスの沢木敬介監督(右)、中村駿太ゲームキャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督

「最後はああいう結果でしたが、僕たちは今週新しいメンバーが入りながら、良いコンペティションにできたと思いますし、プレーオフトーナメントに向けて今日もいろいろと学べました。最後スクラムを選択して、あれだけ力の差があってペナルティをするわけがないと。あれだけスクラムでペナルティを取れていたのに、ウチが落とすわけがないと思っていました。ただ、それを(ペナルティだとレフリーに)判断されたというところにまだ甘さがあると思います。

次の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦は、しっかりと(プレーオフトーナメントの)セミファイナルで勝つための準備になる試合にしたいと思います」

――プレーオフトーナメント進出が決まった状況での試合だったが、それは影響したのでしょうか?
「僕は(影響が)ないと思います。確かに張り詰めた緊張感がなくなってしまうのは当たり前ですが、その中でいい準備はできたと思います。今日はウチのアタックもディフェンスもコントロールを失っている時間が長かったので、そこはしっかりと自分たちにベクトルを向けて、レベルアップしなければいけないところだと思います」

――武藤ゆらぎ選手の評価を教えてください。
「これからどんどん良くなっていくと思います。うまさもあるし、間違いなく伸びる選手だと思います」

――小倉順平選手も10番にする選択肢もあると思いますが、武藤選手を次の10番として育てていきたいと考えているのでしょうか?
「そうです。10番だったらいまは順平よりもゆらぎのほうがいいので。もちろん経験値とかそういうものもありますが、スキルとか、横浜Eのラグビーで、僕が求めている10番のレベルで言えば、ゆらぎは本当に良い位置にいると思います」

横浜キヤノンイーグルス
中村駿太ゲームキャプテン

「本当に『悔しい』の一言です。今日のゲームテーマは、自分たちのスタンダードでやるというところだったんですけど、それがほとんどできなかったと正直思います。たぶん、このスタンダードでやっていったらプレーオフトーナメントも同じ結果になると思うので、もう1回月曜日から引き締めて、次の試合に向かっていきたいと思います」

――今日チームをまとめる上でフォーカスしたところは何でしょうか?
「良いリーダーがいっぱいいるので、各部門は任せながら最後はしっかり締めるというところだけを意識しました」

――最後のプレーはチームメートにどうしてほしかったのでしょうか?
「今日は規律の部分で負けたと思います、しっかりそこをクリアにやってほしいなとずっと思っていました」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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