【ジャパンウィンターリーグの挑戦(前編)】 「アピールの場や野球を”やりきった”と思える環境に」 日本初のトライアウトリーグの設立から実現まで
【提供:ジャパンウインターリーグ】
それが現在、日本でも継続的に行われている。その名は「ジャパンウィンターリーグ」。2022年から開始した同リーグは、初年度からNPB・MLBなど30チーム以上が視察へ来る場となっている。
日本初のウィンターリーグではどのような取り組みや成果が生まれたのか。創設者である鷲崎一誠さんにリーグ創設の歩みとともに伺った。
(取材 / 文:白石怜平)
アメリカでの経験がルーツに
アマチュア選手や独立リーガー、さらには海外の選手100名以上が一堂に会する。集まったメンバーでチームを結成し、20試合以上にわたるリーグ戦を開催する。
ここでの活動を通じて次の所属先へ進む選手や、所属チームでの飛躍のきっかけにする、そして次のキャリアのスタートの場となるなど、それぞれの道が広がる場となっている。
日本初のトライアウトリーグが沖縄県で開催されている 【提供:ジャパンウィンターリーグ】
野球部を引退し就職浪人時に自らの人生を考え直した際、そこで湧いたのが「野球をもう一度やりたい」という想いだった。そのタイミングでウィンターリーグの存在を知り、単身カリフォルニアへと渡った。
そこでは出場機会を増やし、レギュラーとして活躍した。逆方向にHRを打った翌日には大柄なMLBの卵とも言える選手たちを押しのけ、4番にも座った。
1試合約4打席立つことができる日々を送り、野球に対しての未練を断ち切ることができた。
「ウィンターリーグで結果を出し、大学時代の努力の成果をここで出すことができた。そこから完全に切り替えてビジネスマンとしてやって行こうという気持ちになれたんです」
鷲崎さんのアメリカでの経験が元になった 【写真:本人提供】
「ファーストリテイリングに入って本当によかったです。僕は”巻き込み力”が強みだと思っているのですが、そこは店舗時代に培われました。会社は”世界一のアパレル製造小売業グループになる”を掲げているのですが、僕も本気で目指していました。
店舗ではアルバイトさんたちをまとめながらやっていくのですが、『この人たちをどう巻き込んでモチベーションを上げていくか』が今の仕事に役立っています。高い目標を掲げて言い続けることが大事なことに気づけました」
ファーストリテイリング時代の経験が生きたと語る 【©Homebase】
会社で事業化を進める傍らで、JWLの立ち上げを決意。カリフォルニアのウィンターリーグでチームメートだった山田京介さんとともに、本格始動した。
ここで山田さんへの感謝を語った。同氏はウィンターリーグ立ち上げを提案した1時間後には球場確保に向けて動き出していたという。
「彼の行動力とスピード感があったからこそ、構想から1年半で実現までたどり着けました」
大きなハードルも”熱意”で超えた
「特に一番気をつけたのが、『誰が何をやっているんだ』という疑いの目を持たれないようにすることでした。どこの誰かも分からない人間が、野球界で新しいリーグを立ち上げるわけですから、直接お会いして想いを伝え続けていきました」
慶大の人脈も活かし、先輩方の力を借りながら輪を広げていく。元フジテレビアナウンサーの田中大貴さんや「トラックマン」の日本代表である星川太輔さんも後輩の想いに賛同し、立ち上げ時の記者会見にも駆け付けた。
広がる協力の中で特に2人のNPB経験者も大きな力になった。
その2人とは斉藤和巳・現ソフトバンク4軍監督と、かつて地元沖縄の野球を沸かせた大野倫・現ジャパンウィンターリーグGM。鷲崎さんはここで改めて感謝を述べた。
「和巳さんは男気のある方で、『お前たちが動くなら俺は手伝うよ』と言ってアンバサダーに、大野さんは”沖縄のため・野球界のために”とGMに就任していただきました。お2人の力もなければここまでは来ていないと思います」
沖縄で行われた記者会見にも参加した斉藤さんと大野さん 【提供:ジャパンウィンターリーグ】
というのも、当時沖縄で活動していた「琉球ブルーオーシャンズ」が経営難となり活動停止となった頃。
同球団が「アジアウィンターリーグ」を22年に開催すると発表したが、これも直前で中止となり、県内では懐疑的意見が生まれてしまっていたタイミングでもあった。
スポンサー営業に行った際にも関係者と誤解されるケースも一度や二度ではなかったという。
また、球場確保の壁が大きく立ちはだかった。
山田さんと共に沖縄県内の全球場に電話したが、NPBの球団をキャンプで万全に迎え入れる準備のため、いずれも一般貸し出しは行っていないという回答だった。
開催に向けて絶望感に苛まれた中、救世主として繋がったのが宜野湾市の又吉亮・市議会議員だった。
「野球界にとって大事なことだからと賛同いただいて、当時僕は沖縄に出張として行っていたのですが、現地に自分がいない時は分身になって、ミッションや意義を話してくださったんです」
鷲崎さんの想いが沖縄でも力となり、ついに開催が実現することになった。
「野球って素晴らしいな」と改めて思えた
MLB3球団・NPB4球団を含む31チームのスカウトが視察へと訪れた。
選手は3つプランから選び、参加費は税抜で半期20万円から全期35万円(沖縄在住者は割引)を負担して参加している。
参加層も高校生から社会人、所属も独立リーグやクラブチームなど多種多様。さらに初年度から海外の選手も加わり、7人の外国人選手も沖縄で活躍の場を求めに来た。
第1回開催を前に選手へ語る鷲崎さん 【提供:ジャパンウィンターリーグ】
NPBの合同トライアウトでは、1日のみで投手は3人・打者は3打席のほぼ一発勝負であるが、JWLではより多くの実戦機会を通じてのアピールが可能なのが特徴である。
ようやく実現した第1回。開催するにあたって、鷲崎さん自身の経験も踏まえてこんなことを思っていたという。
「NPBやMLBに行くといったアピールの場でももちろん活用いただきたいですが、野球にピリオドを打つ選手がいてもいいと思うんです。選手が長年やってきた野球を”やりきった”と思える、そんな環境にもなればいいなとも今もですが考えています。
僕の願いはこの1か月間参加して『自分自身が成長できた』と実感していただくことでした」
ウィンターリーグが実現し様々な化学反応が見られた 【提供:ジャパンウインターリーグ】
結果36人の選手がスカウティングを受け、10人の選手が契約を勝ち取った。
士別サムライブレイズや兵庫ブレイバーズといった独立リーグ、社会人ではJFFシステムズ(大阪府)などへの入団が決まり、中には運営との繋がりを通じて、ポーランドのチームに入団した選手もいた。
「契約が決まった選手も含めて、参加した66人が全員野球を継続しました。野球の楽しさをもう一度思い出したそうなんです。それも素敵なことだと思います」
感動と熱気で記念すべき第1回を終えた 【提供:ジャパンウインターリーグ】
「野球って素晴らしいなと改めて思えたんです。1試合チームメイトとしてプレーするだけで戦友になれるんですよ。スタッフも含めて”ファミリー”になれたんです。
最終日は別れを惜しんで涙を流してくれる選手もいました。結果を問わずファミリーができたというのが僕がやりたかったことの一つなので、すごくよかったです」
そして、更なるブラッシュアップを目指し2年目へと突入する。鷲崎さんは”日本らしいウィンターリーグ”にするために、この1年目から様々な付加価値をつけていた。
昨年の取り組みとともに、1ヶ月間のプログラムやエピソードなどを次で紹介する。
(後編へつづく)
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