【皐月賞】「育ててくれた康太のおかげ」ジャスティンミラノが捧ぐ涙の一冠

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3歳牡馬クラシック第一冠・皐月賞は戸崎圭太騎手が騎乗した2番人気ジャスティンミラノが優勝 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 3歳牡馬クラシック第一冠・第84回GI皐月賞が4月14日(日)、中山競馬場2000m芝で行われ、戸崎圭太騎手騎乗の2番人気ジャスティンミラノ(牡3=栗東・友道厩舎、父キズナ)が優勝。好位5番手追走から最後の直線で力強く末脚を伸ばし、3戦無敗でGIタイトルを手にした。良馬場の勝ちタイム1分57秒1は従来の記録を0秒8更新するコースレコード。

 ジャスティンミラノは今回の勝利でJRA通算3戦3勝、重賞は今年2月の共同通信杯に続く2勝目。騎乗した戸崎圭太騎手は2018年エポカドーロ以来、同馬を管理する友道康夫調教師は2009年アンライバルド以来となる皐月賞2勝目となった。

 クビ差の2着にはジョアン・モレイラ騎手騎乗の7番人気コスモキュランダ(牡3=美浦・加藤士厩舎)、さらに半馬身差の3着には川田将雅騎手騎乗の3番人気ジャンタルマンタル(牡3=栗東・高野厩舎)が入線。76年ぶりの牝馬Vを目指した1番人気レガレイラ(牝3=美浦・木村厩舎)は6着に敗れた。

友道調教師が明かした藤岡康太騎手との最後の言葉

中山競馬場に設置された献花台、藤岡康太騎手は生前に友道厩舎の調教をサポートしていた 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 ゴールまで残り100m。先行押し切り態勢に入った2歳マイル王者ジャンタルマンタルを一完歩、また一完歩と、ジャスティンミラノが追い詰めていく。

「康太! 康太!」

 レースを見守った友道康夫調教師は馬の名前でもなく、騎乗している騎手の名前でもなく、自然と藤岡康太騎手の名前を何度も叫んでいた。

 落馬事故のため4月10日に急逝した藤岡康太騎手は生前、友道厩舎の調教をサポートしており、ダービー馬のマカヒキ、ワグネリアンをはじめ数多くの所属馬の調教、追い切りに騎乗していた。「うちの馬にはほとんど調教で乗ってくれていましたし、ほとんどの勝利は彼のおかげだと思います」と友道調教師。皐月賞に向けたジャスティンミラノの大事な稽古である2週前、1週前の追い切りにも続けて騎乗。馬の仕上がり具合を確認した康太騎手は4月3日の1週前追い切り騎乗後、トレーナーにこう伝えたという。

「康太君はうちの馬の調教を手伝ってくれていて、ジャスティンミラノにも最後の最後まで乗ってくれました。1週前追い切りの感想が『1週前としては最高の追い切りができました』。これが彼と交わした最後の言葉でした。ジャスティンミラノの能力を去年の秋ぐらいから感じてくれていて、ここまで育ててくれたのは彼のおかげだと思っています」

 この勝利は彼のおかげ、本当にありがとう――レース後の共同会見の冒頭、友道調教師は涙をこらえきれずにジャスティンミラノを通じた藤岡康太騎手とのやり取りを明かした。

「最後のクビ差は康太が後押ししてくれた」

レース後、友道調教師(手前)とともに勝利を噛みしめた戸崎騎手は「最後の差は康太が後押ししてくれた」と涙を浮かべながら語った 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 康太が勝たせてくれた皐月賞。この思いは手綱を託された戸崎騎手も同じだった

「藤岡康太騎手が2週前、1週前と追い切りに乗ってくれて、本当に事細かく馬の状態を教えてくれました。最後のクビ差というのは康太が後押ししてくれたんだと思います」

 3番手追走のジャンタルマンタルがいち早く抜け出した最後の直線、一時は2歳マイル王者が完全にセーフティリードに入ったかとも思われたが、坂を上り切った残り100mあたりからジャスティンミラノ、コスモキュランダが並走しながらグングン加速。そして、ゴール手前50mで前を行くジャンタルマンタルをグイっと差し切り、返す刀で外のコスモキュランダを抑え込んでのゴール。その瞬間、藤岡康太騎手が後押ししてくれた、そう思ったのは友道調教師はじめ厩舎スタッフ、戸崎騎手だけではなく、競馬ファンみなが同じ気持ちだったことだろう。

「康太も喜んでくれていると思います。康太には『ありがとう。お疲れさま』と伝えたい」

 戸崎騎手は目に涙を溜めながら、この特別な勝利を噛みしめた。

輸送にも動じず馬体重プラス10kgは成長の証し

ジャスティンミラノは初の小回り中山コースに戸惑うことなくリズムよく好位5番手を追走 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 一方、昨年のソールオリエンスに続く3戦3勝の皐月賞史上最少キャリアでの戴冠となったジャスティンミラノのポテンシャルにも触れないわけにはいかない。昨年11月のデビュー戦(2000m芝)、今年2月の共同通信杯(1800m芝)はいずれも左回りの東京競馬場ワンターンコースだったのに対し、今回は初めての中山競馬場で右回りの1周コース。まるでタイプの違うコース形態であり、友道調教師もジャスティンミラノに関しては戦前「ダービー向き」と語っていた。まだキャリア2戦しか経験していない若駒にとって、初めて尽くしとなる今回の皐月賞は未知の部分が多く、力を発揮できなかったとしても責められるものではない。しかし、ジャスティンミラノはそれらの全てをクリアしてみせた。

 特に指揮官が驚いたのはレース前の馬体重。512kgという数字は前走から10kgも増えていた。

「今日、競馬場でジャスティンミラノを見たときは落ち着いていて、普段通りだと思いましたが、プラス10kgという馬体重を見て『え!?』と思いました。いつもは輸送すると少し減っていた馬が今回は全く減っていなくて、栗東にいるときと同じ体重でした。輸送も3回目で慣れてくれたのだと思いますし、装鞍所やパドックに入るときなどはまだちょっと力が入ってしまうところはあるのですが、それ以外では随分と成長しているなと感じましたね」

初の右回り、超ハイペースも克服しての満点内容

3、4コーナーで「手応えが怪しくなった」ものの直線では再びエンジン点火、ジャスティンミラノ(左)がクビ差で大きな勝利をものにした 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 レースも完ぺきに近い形で道中を運んでいる。外めの13番枠スタートだった分、「ストライドが大きい馬だから馬のリズムでスムーズな競馬をしよう。インにこだわりすぎず、いい位置で競馬をしよう」というのがレース前の陣営の作戦。好スタートを決めると、鞍上の指示に従いジャスティンミラノは無理なく5番手のポジションを確保した。戸崎騎手が道中を振り返る。

「ある程度良いスタートを切ってポジションを取りたいなと思っていたのですが、その通りに馬も応えてくれて、良いポジション、良いリズムで行けたと思っています」

 ただ、今年の皐月賞は前半のペースがとにかく速かった。2番ゲートから勢いよく飛び出した4番人気のメイショウタバルがグイグイと飛ばし、1000mの通過はなんと57秒5。これまでの2戦、ゆったりとしたペースしか経験していなかったジャスティンミラノにとってもこれはきつい流れとなった。その影響か、「ずっとリズム良く行けたのですが、3、4コーナーあたりから手応えが怪しくなった」と戸崎騎手。しかし、GIがこれまでのような楽なペースであるはずがない、そう想定していたジョッキーに焦りはなかったという。

「(手応えが怪しくなるのは)頭にはあったことなので慌てずに行きました。直線を迎えてからまた反応してくれましたし、そのあたりにもまた能力を感じたところです」

二冠へ手応え「皐月賞馬として狙っていきたい」

いざ春二冠へ、ジャスティンミラノの新たな戦いが始まる 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 キャリア3戦ながら、初めて体験する右回り、4つのコーナーを回るタイトな競馬、超ハイペースとあらゆる難関を突破して出した満点の答え。さらに、従来の記録を0秒8も上回る中山2000m芝のコースレコード更新のおまけつきという破格の内容での第一冠奪取だ。当然ながら5月26日に東京競馬場2400m芝で開催される競馬の祭典、日本ダービーでの二冠もハッキリと見えている。戸崎騎手が言葉に力を込めて意気込みを語った。

「狙える器だと思いますし、責任も感じています。僕自身、日本ダービーは2着が2回。皐月賞を勝てたことでまたチャンスのある馬に巡り合えたことに感謝しながら、本番に向けて日々を過ごしていきたい」

 そして、現役調教師としては最多の3勝を誇るダービートレーナーの友道調教師も4回目の栄光に大きな手応えを感じている。

「皐月賞の前からダービーの方が競馬をしやすいと思っていました。ですので、改めて皐月賞馬として二冠を狙っていきたいと思います」

 志半ばで旅立った藤岡康太騎手に捧げる皐月賞V、1カ月後にはそれをさらに上回る報告を天に届けたい――。ジャスティンミラノと戸崎圭太騎手、そして友道厩舎の二冠に向けた新たなチャレンジが始まる。(取材:森永淳洋)
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