ロッテ 藤岡 人生で一番 集中した打席。勝負の一振りで幕張の奇跡を演出。

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幕張の奇跡 【千葉ロッテマリーンズ提供】

 「人生で一番集中をしていた」。藤岡裕大内野手はあの場面をそう表現した。10月16日、ZOZOマリンスタジアムで行われたクライマックスシリーズファーストステージ第3戦。勝てばファイナル進出。負ければシーズン終了というゲームは九回終了まで両軍無得点という緊迫した展開で進みながら延長十回にホークスが一挙3点を先制。試合は大きく動いた。そしてマリーンズは土俵際まで追い込まれた。しかし、そこから伝説のシーンが生まれる。誰もが心が折れそうになるその裏の攻撃。先頭の角中と次の荻野の連続ヒット。ベテランコンビで無死一、二塁のチャンスを作り藤岡が打席に向かった。

 「3点取られて正直、ヤバいなあ、厳しいなあという雰囲気はあった。でも角中さんが出塁して荻野さんが繋いでくれて、押せ押せの雰囲気が生まれていた」と藤岡は述懐する。

 藤岡は打席に入る前に腹を決めた。ヒットで繋ぐではない。長打を狙う。プロに入って6年。初めて毅然と長打狙いを決めバットを握った。

 「ヒットで繋いでも正直、なかなか3点は厳しいと思った。継投も考えられる。ここは腹をくくって長打狙い。自分のバットで最低でも2点はとる。そんな気持ちで打席に入りました」(藤岡)

 前の打席ではバントを失敗している。いつもならマイナスなことが頭を駆け巡ることもある藤岡だが、この時だけは違った。なぜか長打を打つイメージしか頭に過らなかった。野球をやって初めてといってもいい研ぎ澄まされた感覚を感じていた。まさにゾーンに入っていたというのはこういうことなのだろう。

 「いつもならゲッツーになったら嫌だなあとか頭をよぎるものなのですけど、あの時は不思議とそれは思いもしなかった。いいイメージだけ。長打を打つということしか考えられなかったし、集中をしていた。あ、よくいうゾーンってこんな感じかもと後から思った」

 人生一世一代、勝負の打席。藤岡はストレート1本に絞った。出番がくるまでベンチとネクストでは冷静にマウンド上の津森を分析。先頭の角中の打席では津森は10球投げて、いずれもストレート。続く荻野は4球のうち、2球がストレートだった。レギュラーシーズンでも勢いのあるストレートを武器にする投手。一か八かの賭けに出た。

 「とにかくストレート。絶対にストレートで入ってくると自分に言い聞かせていた。状況的にもストレートでストライクをとりにくると思っていたので、初球のストレートを一発で仕留めるという強い気持ちだけでした」と振り返る。

 真ん中やや低めの148キロストレート。コンパクトに振り抜かれた打球は幕張の夜空に向かって舞い上がり、やがてライトスタンドに消えていった。一瞬の静けさの後、歓声が上がる。打球が消えた瞬間に絶叫へと変わった。シーズン1本塁打の男が一撃必殺のホームランで試合を振り出しに戻した。ベンチもスタンドもお祭り騒ぎ。戻ってきた藤岡は仲間と抱擁し、叫んだ。

 「ここでなんとかと思っていた中でこれ以上ない結果となった。本当に思い通りに一発で仕留めることが出来た。打った瞬間に行ったと感じました。自然と右手も上がってガッツポーズが出た。ただ、自分は入ると思っていたけど、周りからは『案外、ギリギリだったよ』と言われました(笑)。確かにホームランラグーン(ラッキーゾーン)でしたね)」と今でもそのシーンを思い出すだけで興奮が蘇る。

 試合は振り出しに戻り、勢いに乗ったチームは安田のサヨナラヒットでイッキに勝利を決めた。「幕張の奇跡」。延長戦に起こったこの一連のマリーンズの攻撃はファンの間でそのように語り継がれるようになる。

 「歓声がすごかったですし、家族も見に来てくれていた。ファンも家族も喜んでくれた。本当に良かったと思う」と藤岡。

 あの日、藤岡は2万9050人の大観衆の歓声を一身に浴びた。ダイヤモンドを一周しながら鳥肌が立った。興奮の坩堝と化したZOZOマリンスタジアムを目にした。

 「ここで優勝を決めたら、どうなるのだろう?」。

 藤岡は、そしてマリーンズの選手たちは誰もがそう思った。この後、マリーンズはチャンピオンチーム バファローズの待つ大阪へと戦いの場を移したが、1勝3敗で濃密な2023シーズンは終わりを告げた。しかしオフに入ったマリーンズの戦士たちは少しばかり身体を休めると、すぐに立ち上がり、汗を流し始めた。それぞれの課題に向き合い、長所を伸ばすべく、歩むべき道を一歩ずつ進めている。「幕張の奇跡」で終わらせない。それは2024年に向けた序章。幕張の奇跡から優勝へのドラマはスタートする。もっともっと感動的な場面が未来には待っている。

千葉ロッテマリーンズ広報室 梶原 紀章
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