悠長な歌うたってさ、これからのぜんぶも笑いたい。 2023.11.25 横浜FCvs湘南ベルマーレ マッチレビュー

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【悠長な歌うたってさ、これからのぜんぶも笑いたい。 2023.11.25 横浜FCvs湘南ベルマーレ マッチレビュー】

【これはnoteに投稿されたぺんさんによる記事です。】
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置 【ぺん】

各ポジションの噛み合わせ 【ぺん】

■両チームのゲームプランは?

 前日から10度近く気温が下がった横浜は三ツ沢でキックオフ。リーグ戦も最終盤、残り試合2つで迎えた11月下旬。第33節で降格圏18位の横浜FCと17位湘南が激突する。勝ち点2差の両チームが置かれた状況を見ると、湘南が勝利すれば自力でJ1残留を確定。横浜FCが勝利すれば勝ち点差をひっくり返して有利な立場で最終節を迎えることができる。引き分けは互いに痛み分けだが、勝ち点差を保ったまま最終節を迎えられる分、湘南にとって若干利が多いか。いずれにしても両チームが来シーズン戦うカテゴリをかけてぶつかる、今シーズン屈指の注目ゲームとなった。
 湘南のメンバー変更は1名のみで右IHに池田が復帰、他10名は前節名古屋戦から引き続きの顔ぶれ。横浜FCは前節鳥栖戦から11名全員変更なしで臨む。



 試合を振り返る前に両チームのゲームプラン、試合展開に応じて準備してきた策を検討してみよう。わかりやすいのは横浜FCで、勝利以外の結果は負けに等しい。なぜなら最終節、敵地で鹿島を相手に勝利したうえで、湘南と柏の試合結果を待つ不確定要素が多く難しいミッションに挑むはめになるからだ。彼らからすれば0-0の時間が長くなるのはじわじわと土俵際に追い込まれているのと同義であり、どこかのタイミングでリスクを負って前がかりになる必要があった。
 しかし横浜FCがここ最近挙げている得点のほとんどがボールを奪ってからの速攻。あるいはビハインドを背負って前に出てきた相手の背後を突いての得点と、相手守備陣が手薄になったシチュエーションが主。自分たちでボールを動かし、相手に構えられた守備を崩していく手立ての成功体験は皆無と言っていい。つまり得点を奪うためボールを主体的に持たなければならない状況に置かれること自体、出来れば避けたいと考えていたはず。これらをまとめると、横浜FCが検討していたプランは以下のようになる。
横浜FCのプラン勘案

★最優先事項
失点を避ける(=素早い帰陣による5-4-1ブロック)
リスクを抑えて得点を狙う(=ロングボールとカウンター、セットプレー)

★出来れば避けたい事項
0-0で試合終盤を迎える(=焦って得点を狙わなければならない状況)

★希望事項
リードを奪ってカウンターを狙う(=自分たちが得意な戦い方)


・ゲームプラン
ボール保持ではリスクを避けたロングボールとセットプレーを主体として、ボール非保持の時間(=カウンターの可能性がある)からチャンスを伺う。得意なショート・ロングカウンターを発動させるために相手にボールを持たせる状況=リードを奪った状況を作りたい。苦手である「最終ラインの組み立て~相手守備陣攻略」をすることなく試合を終えたい。


 横浜FCがこのように考えるのは想像に難くない。では湘南はどのようなプランで試合に臨んだのだろうか。まずは立ち上がりの先制点。京都・神戸・名古屋を相手に3試合連続で前半のうちにリードを奪っており、よい流れを継続したいところ。そしてそれは相手にとってもただの1失点ではなく、苦手を押し付けられる痛恨の一撃となるはず。
 続いて失点を避けること。これは得点の裏返しで、相手の得意なシチュエーションを呼び込んでしまうのを防ぐ意味合いもある。また先ほど見た通り、湘南にとって引き分けは最悪の結果ではない。0-0の状況が続けば苦しさと焦りを感じ始めるのは横浜FCのため、時間と32試合分の積み重ねを味方につけられる。
 得点を狙う際にもリスクを考慮した一工夫。ボールを奪ってすぐのカウンターはチャンスになりやすいが、奪い返されると一転して窮地に陥る。そのためこの試合ではハイリスクハイリターンのチャレンジよりも、ローリスクローリターンの安全策の方が優先された。横浜FCの帰陣が早いことも利用し、相手を自陣内に押し込む場面を多く作り出す。仮にボールを奪われてもカウンタープレスを出しやすく、自陣ゴールから遠いため決定的なシーンが作られる可能性が低いという攻守両面を検討した戦法である。

湘南ベルマーレのプラン勘案

★最優先事項
失点を避ける(=5-3-2ブロックと中盤の攻防、リスク管理)
リスクを抑えて得点を狙う(=押し込んだ場面からのサイドアタック)

★出来れば避けたい事項
とくになし

★希望事項
早い時間帯に先制点を奪う(=最近の好調ぶりで相手に苦手を押し付ける)
0-0で試合終盤を迎える(=相手が前に出てくる状況)
リードを奪ってカウンターを狙う(=自分たちが得意な戦い方)


・ゲームプラン
ボール保持ではリスクを避けて相手を押し込んだ状況からサイド攻略を鍵に攻略を狙い、ボール非保持の時間(=カウンターの可能性がある)でもチャンスを伺う。0-0の状況が続けば自ずと相手がボールを持って出てきてくれるので、得意なショートカウンターを発動したい。相手にボールを持たせる=リードを奪った状況を作れれば理想的。先に失点して、相手の得意な撤退守備からのカウンターを打ちやすい状況だけは避けたい。



 もちろんチャンスがあればダイレクトにゴールへ向かう必要があるが、そのあたりを巧みなさじ加減でバランスをとったのが阿部だ。ポジションにとらわれず相手2DHやWBの背後に立ってボールを引き取り、ゴールに向かってテンポアップしたがるチームメイトの手綱を握った。攻め切れない焦れた展開にも見える時間帯もあったが、両チームの置かれた状況とプランを考慮すると湘南は優位な位置に立ち続けられていた。その立役者は、恐ろしく冷静な黒子にほかならない。

 余談だが阿部の恐ろしいほどの冷静さを筆者が初めて目の当たりにしたのは、川崎所属時代の2018年第29節:鹿島戦だ。0-0で迎えた後半アディショナルタイム、鹿島が攻勢を仕掛けている状況。鹿島の決定的なカウンターを止めるために阿部はファールで阻止。すでに1枚イエローカードをもらっていたため2枚目で退場になるが、阿部は自ら主審に申告。それはフェアプレーの精神のみならず、鹿島へのアドバンテージを防ぎ、川崎の守備陣形を整える時間を稼ぐためであった。競技規則上、2枚目のイエローカードで退場となる場合は試合を止める必要があるため、鹿島へのアドバンテージは認められない上、阿部がピッチを後にするまではリスタートも出来ない。決定的なカウンターを阿部個人の判断で防ぎ、さらに守備陣形をセットした状態でリスタートを迎えた川崎はそのまま試合をドローに持ち込み、首位の座を守り抜いたのだった。
 最小限のデメリットでチームに大きなメリットをもたらしたビッグプレーであるとともに、季節外れの炎天下で90分近く走り回った極限状況の中、競技規則まで含めたプレー判断と振る舞いが出来る男に末恐ろしさを覚えた。



 さて両チームのゲームプランを比較すると、どちらも最優先事項として「失点を避ける」「リスクを抑えて得点を狙う」が共通しているのが分かる。大きく異なるのは「0-0の展開に関する解釈」で、湘南がある程度受け入れる一方で横浜FCは避けたがる傾向にある。つまり試合序盤~中盤までは膠着状態が続き、時間が過ぎなければスコアも動きづらい展開となる見込みで、1点が与える影響はただの1ゴール以上の価値がある。リードを得たチームは自分たちの得意なシチュエーションに持ち込むとともに、相手に苦手を押し付けることになる。優勢のチームがより有利に、劣勢なチームがより不利な状況に置かれるというわけだ。よく試合解説などで「重要なのは先制点」とよく言われるが、この試合における先制点は本当の本当に相当な重みをもったものであったと言えるだろう。
・両チームの思惑

★試合開始〜スコアが動くまで
①先に失点したくない
②チャンスがあれば得点を取りたい
③自分たちの得意な展開で戦いたい

★スコアが動いたら(失点側)
①苦手な方法でリスクを負ってでも得点を取りたい
②失点を重ねたくない

★スコアが動いたら(得点側)
①得意な方法でリードと主導権を保ちたい
②失点は避けたい


リードした方が得意な形(カウンター)を繰り出せ、ビハインドの方が苦手な形(ボール保持からの崩し)に取り組む展開。お互い2番目の状況に陥りたくないため、慎重かつ緊張感のある試合になる。
横浜FCはタイスコアで時間が経過すると、徐々に2番目のマインドに移行せざるを得ない。
湘南は0.5点分リードしていると考えてもよく、落ち着いて戦っていれば相手が焦って出てくる隙を突くことも出来る。


■鍔迫り合い、膠着状態

 キックオフ直後から球際で激しいバトルが繰り広げられる。特に両サイドでマッチアップする岡本vs林、杉岡vs山根のぶつかり合い。戦術や技術もさることながら、ベースの部分であるボールの奪い合いで絶対に後れを取らない意識が伺える序盤戦だった。中村主審は接触に寛容であろうとしたのだろうが、フットボールの魅力と選手の安全面のどちらも担保できたかという点で、試合を通じて疑問を感じるレフェリングであった。


 湘南は自陣での繋ぎを極力避け、相手DFラインの背後に蹴っていく姿勢。相手陣内に入って押し込んだ状況を作れたら足元の繋ぎから崩しにかかる。15分を過ぎると試合が落ち着き、湘南の2IHが横浜FCの2DHの背後に立ち、彼らの門に大橋が立つ。阿部は前後左右に顔を出し、フリーマンとして+1の役を担った。試合の熱量からスピードをどんどん上げたくなる場面でも阿部がペースをコントロール。攻略の可能性が低ければ時間をかけてボールを持って、相手に帰陣を強制。カウンターを受けるリスクを軽減した。

 4分、ヒアンへの浮き玉をミンテが冷静に処理、カプリーニに競り勝った田中から岡本・池田と繋いで大外に回った大岩から斜めのボールを大橋へパス。味方1枚を飛ばしたパスで相手2枚を置き去りにした場面、抜け出した阿部のクロスは跳ね返されたがボックス内の選手に合えば1点のシーンだった。
 続いて18分、名古屋戦の1点目と同じく阿部が右IHの位置に降り、池田が中央へ。田中のパスを反転して受けた池田からフリーの阿部へ渡すと、前節と同じく平岡がボックス内へ走り込む。クロスはやや精度を欠いたが、イメージが共有された攻撃の形だった。

阿部が+1の働きでテンポをキープした 【ぺん】

 横浜FCはヒアンを狙ったロングボールが中心。こちらも自陣での繋ぎを極力避けていた。好調な最近の試合と同じ形ではあるが、ボールを失うリスクとセカンドボールの回収結果のバランスが取れていたかどうかは怪しいところである。
 17分、湘南のパスミスから横浜FCにチャンス。右サイドからカプリーニのクロスを大野がカットするが、小川の前にこぼれる。だが反応できずにコーナーキックとなった。34分には横浜FCがセットプレーから連続して決定機。右サイドのフリーキック、山根のキックは合わないが流れたボールをヒアンが拾って作り直し。カプリーニがボックス内左からクロスを上げると、両チームの選手が殺到。すんでのところでミンテがゴールラインへ蹴り出した。その後のコーナーキックも二次攻撃からカプリーニがアウトにかけた低いクロス。しかしニアの小川、ファーの吉野には合わずゴール前を通過した。
 44分にも横浜FCが再び決定機。湘南が押し込んだ場面から中央でボール奪取、ヒアン・カプリーニ・小川でカウンターを発動。カプリーニのクロスにファーで小川がボレーで合わせるがミートできず、ボムグンが余裕をもってキャッチした。


 前半に迎えた決定機の数は横浜FCの方が上。とくに30分以降、セットプレーとカウンターから好機を連続して作り出した。一方の湘南は構えられた5-4-1を崩せたシーンは少なく、カウンター気味に素早く攻め込めた場合のみゴール前まで迫ることが出来ていた。だが横浜FCもバックラインからの繋ぎ・放り込みのいずれでも狙った形でチャンスは作れず、ヒアンはミンテにほぼ抑え込まれていた印象もある。
 湘南からすれば0-0で折り返す結果は悪いものとは言えず、客観的に見ればまずまずの出来。だがこの試合で求められるのはバランスの維持とリスク管理である以上、ピッチ上の選手たちがどのように感じていて後半からどんな風に意思統一するかは難しいところだったはずだ。
 横浜FCとしてはチャンスが続いた時間帯に得点を奪えなかったのは痛手だろう。終盤に向かうにつれて苦しくなるのは彼らのため、はっきりとどちらが優勢とは言い切れない展開で前半を終えた。


■キャプテンが動かしたドラマ

 後半開始早々、横浜FCが決定機を迎える。湘南が背後に蹴ったボールをクリアすると、ヒアンがピッチ中央で田中の制止を振り切ってターン。裏抜けしていたカプリーニがボールを受けると、右斜め45度からボックスへ侵入。利き足とは逆の右足でシュートを放つ。追走する大野は落ち着いて左足への切り替えしとファーへのシュートコースを切りながら寄せると、ボムグンが落ち着いてシュートストップ。こぼれ球を池田がクリアして事なきを得た。カプリーニは今シーズン21試合出場ながら前節PKで初ゴールをあげた選手なので、チャンスクリエイトに秀でているが決定力には欠けている可能性が高く、そのあたりはスカウティング済みだったのかもしれない。
 前半同様に構えられた5-4-1ブロックを崩せない湘南だが、セットプレーから突破口を見出す。連続したコーナーキックの2回目、ショートから繋いで池田が放った強烈なミドルシュートを永井が右に飛んでセーブ。しかし弾いたボールの飛距離は不十分で、その先に詰めていたのは大岩。身体を開きながら冷静に右足でファーサイドに流し込み、12シーズン連続のゴールはJ1残留を引き寄せる値千金の先制弾となった。


 ゲームプランの項で見た通り、先に失点したことで苦手な戦い方に取り組まざるを得なくなったのは横浜FC。ボールを持つ時間を増やすものの、湘南が構えた5-3-2ブロックを崩せない。逆に60分、最終ラインのパスミスから大橋がゴール正面からフリーでシュート。わずかに枠を外れてしまうが、危うく残留の芽を自ら潰すところ。絶好機をモノに出来なかった湘南としてはもったいないシーンだった。
 選手交代を先に行ったのは1点を追いかけるホームチーム。60分、小川に代えて伊藤、林に代えて近藤を投入。ストライカー増員とドリブルに長けたウインガーで得点を狙う。交代に伴い近藤が右に入り、山根が左に移動した。


 65分、横浜FCのゴールキックを跳ね返した湘南に決定機。大野のヘディングを大橋が収め阿部へ落とす。スピードを上げた阿部から左サイドを抜け出した平岡へ通すと、切り返して右足でクロス。ゴール前でマークを外した大橋が頭で合わせるが、シュートは僅かに枠の右。続けて決定機を逃した大橋、この試合は彼の日ではなかったか。
 記録に残る形では成果が得られなかった大橋だが、それ以外の面では身体を張ってチームのために戦い続けた。前線で競り合ってはボールを収めて時間を作り、プレスではギリギリまで相手に寄せてプレー精度を落とさせる。ミンテがヒアンに競り勝ちつづけられたのも、プレス隊のさぼらないプレッシングがあった故であろう。


 先制後の湘南は、ウインガーを中心にサイドから攻めようとする横浜FCのパスを引っ掛けて前半よりも好機を創出。相手が選手交代と配置変更したことで大野はカプリーニ、杉岡は近藤と各自がマーカーに対して受け持つ責任がはっきりしていたような印象もあった。ウインガーが思い描いたような突破を見せられない横浜FCは、引き続きセットプレーでチャンスを伺う。77分ごろにフリーキックとコーナーキックが連続するが、シュートは枠の外へ飛んだ。
 80分に湘南も選手交代、池田・平岡に代えて茨田・奥野。IHにボールを落ち着かせることも出来る二人が投入され、蹴って逃げる以外の選択肢を提示する。82分の選手交代を皮切りにパワープレーに移行した横浜FC。ロングボールとロングスロー、ウインガーからのクロスをゴール前に送ってくる。87分、湘南は阿部に代えてサイズのある鈴木章斗を投入、システムも5-4-1気味に変更して最終盤に向け防壁を整えた。

 96分には最後のピンチを迎えるが、クロスに合わせたボールをボムグンがしっかりとキャッチ。アディショナルタイム6分間の猛攻をベンチを含めた全員で耐えきり、0-1でタイムアップ。直接対決に勝利した湘南が、自力でJ1残留を掴み取った。




 静寂の三ツ沢に勝利のダンスと歓喜の歌声。
 湘南は、今年も落ちなかった。






試合結果
J1リーグ第33節
横浜FC 0-1 湘南ベルマーレ

横浜:なし
湘南:大岩(49')

主審 中村 太


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