期待を超えた一筋の放物線。京都ハンナリーズ 青木龍史
苦悩の2022-23シーズン
【©京都ハンナリーズ】
加入2シーズン目となるSG・青木龍史だ。人知れず地道な努力を積み重ねた男は、アウトサイドからのシュートを得意とする。
加入1年目の昨年は、開幕当初からスターティング5に名を連ねるなど、順調なスタートを見せたが、思うように結果を出せずベンチに座り続ける歯痒い日々を送った。若手中心の編成に舵を切った京都ハンナリーズでは、選手間の競争が日々激しさを増し、青木は必死にもがいていた。
「ロイヘッドコーチはディフェンスを中心にバスケットボールをすることを求めている」。
自身がコートに立つために何が必要なのか。「ディフェンスのIQを高め、強度を上げることがプレータイムの増加に繋がる」と練習に精を出した。シュートを決めるだけじゃない。多くの課題と向き合った。
そして徐々に青木はコートに立つチャンスを得る。1月7日(土)のサンロッカーズ渋谷戦。リードチェンジを繰り返す激しい試合展開の中での出場となったが、プレッシャーのかかる場面で得意な3ポイントシュートを2本連続でリングに収める。試合には惜しくも敗れたものの、攻守に渡ってチームに大きなエナジーをもたらし、存在感を見せつけた。
「負けたけど試合に貢献できたこと、ずっと準備していたことが形に表れて嬉しい。誰もいない所で練習していたし、結果を出していないときにサポートしてくれたコーチやチームメイトに感謝している。みんなが自分に自信を与えてくれている。活躍は全員のお陰」。
試合後に残したコメントには実直な性格が表れていた。
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「素晴らしい選手はウチにもいっぱい揃っているけど、本当に強いチームになるには、スタメンだけだと体力的にも戦力的にも足りない。それは他の選手もわかっている。ベンチにいる自分達がチームにエナジーを与えられるように、自分が持ってる100%の力をコートで発揮したい」。
勝利のためならどんなハードワークもいとわない。それが信条だ。
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恵まれていないサイズでも力強くプレーできるということを証明したい。
灼熱の暑さが続く京都の夏。滝のような汗を流してシュート練習に励む青木を見守るアシスタントコーチ・井堀真緒はこのように語った。
「絵に描いたようなハードワーカー。こちらが止めないといつまでも練習している。マシンのようにシュートを打ち込む。ひたすらに貪欲で『活躍するんだ』という気持ちが伝わってくる。彼はB1の中でも178cmとサイズの小さいシューター。須田侑太郎選手(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、金丸晃輔選手(三遠ネオフェニックス)を筆頭に大体みんな大きい。龍史はそれをよく理解していて、『自分のサイズでもB1でやれるんだ』というような意気込みを強く感じる」。ストイックな姿はチームスタッフも見ていた。
井堀アシスタントコーチの言葉を聞き、青木自身が目指す未来はどのようなものなのか。本人にも話を聞いた。
「誰もが認めるシューター、信頼されるディフェンダーになりたい。恵まれていないサイズでも力強くプレーできるということを証明したい。僕は小さい頃からセンスがあるかと言われたらそうでもなかった。中学とか高校で上手でも意味がない。上手い人こそ手を抜いたりしている。だから、自分にセンスや体格がないと感じても諦めないでほしいし、自分も見本になれるようなプレーをする」。真っ直ぐな目で語った。
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青木に求められるモノ。
「彼は自分がどんな選手なのかをよく理解している。向上心を持ってワークアウトに励むこと。怪我をしても腐らないこと。シーズン中も内面では悔しいことが多々あったはず。でも崩れることは決してなかった。自分を律する所が彼の大きな強みだと思う。
ムービングからのシュートなど、シューターとしての彼の良さは試合の中で生かされて成長していく。ロイヘッドコーチやユトフ(ジェロード・ユトフ。現在は横浜ビー・コルセアーズでプレー)に積極的に話を聞きに言ったり、上手くいかない時も何とかして抜け出そうと工夫をしていた。
本当にバスケットボールが好きなんだと思う。
タフなシーズンの中で少しでも前に進もうと、目の前の壁をクリアしていこうと、そういった姿勢が見えた」。渡邉GMは懸命な姿勢に目を細めた。
しかし、その上で求めるモノがある。
「シュート1本で流れを変えるプレイヤーになってほしい。期待を超えていかないといけない時期が来たと思う。
単なるシュート1本じゃない。シュート1本の価値を高めていってほしい。彼の場合、モチベーションの高さが故に、見失うモノもある。選手は点を獲りたい生き物。それは僕にもよくわかる。
ただ、焦ってシュートを打って、ブレが生まれることもある。だからこそ冷静に目の前のディフェンスで相手に泥臭く食らいつくことも重要。先を読んで予測することも重要。自分が得点を挙げることよりも更に良い選択肢があったりもする。
チームのために泥臭く、おとりになって周りを生かすこともひとつ。そうやってチームのための強いメンタルがあれば、大切な場面で必ず自分にチャンスが回ってくる。バスケットボールはそういうもの。ひとりのシューターである前に、ひとりのバスケットボールプレーヤーだから。そうやって自分の感情をコントロールして、チームのために走り続ければ、シュートも安定してくる。そういった部分をよく理解して、観ている人の期待を超えていってほしい」。
渡邉GMもひとりのバスケットボールプレーヤーとして長年コートの上で戦ってきた男だ。自身の経験からあるからこそ、青木に対する言葉には静かながら確かな情熱が込められていた。
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ニューヨーク・ニックス ジェイレン・ブランソン選手から贈られた言葉。
上手くいきたい時に、上手くいかない。そこに辛さはないのか。
青木は答えた。
「辛いことは沢山ある。でも学生の頃から今より辛いことがあった。アメリカでプレーしていて、人種の壁を感じたり、対格差もあった。ひとりで泣くことも沢山あった。それに比べたら今の辛さはどうってことない。苦じゃないし、NBA選手でさえ苦労している。僕が今のこのレベルだったら、苦労して当たり前だと思っている」。青木を強くしているのは、常にチャレンジを続けてきた自身の過去の経験だった。
そして、大切にしている言葉も青木を支えていた。NBAニューヨーク・ニックスで活躍するジェイレン・ブランソン選手の言葉だ。
「学生の頃に彼のキャンプを手伝った時に、『ひとつのやり方は、すべてのやり方に反映される』という言葉を聞いて、それが今もずっと心に残っている。素晴らしいバスケットボールプレーヤーは、ひとつひとつ丁寧にバスケットボールに取り組んでいる。あらゆることで何かひとつを疎かにしたら、バスケットボールも疎かになる。あのレベルの選手でそう考えているなら、自分はもっと手を抜いてはいけないと思った」。
然るべき準備をして、しっかりとコンディショニングを整える。
開幕のスタートには間に合わなかったものの、自分のやるべきことをただひたすらに続けた。そして、満を持してコートに帰ってきた。
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キャリアハイの17得点で殻を破る。
1Qから激しく得点を奪い合う両チーム。1Qから悪い流れを断ち切る3ポイントシュートを決め切り、試合後半には要所で果敢なペイントアタックから得点を挙げる。そして勝利を大きく手繰り寄せる3ポイントシュートを決めるなど、キャリアハイとなる17PTSを記録。3ポイントシュートは4/9と、こちらもキャリアハイを記録。これまでの殻を破ったかのようなプレーだった。
「今日の活躍は単純に嬉しい。チームメイトが良いスクリーンを作ってくれたり、侑大(岡田)が良いタイミングで良いパスを与えてくれた。自分の役割は3ポイントシュートを決めることと、アグレッシブにソリッドに堅いディフェンスをすること。ディフェンスではエナジーを出すことができたし、シュートに関してはスペースが空いたら打つことは常に意識している。今日はそういうプレーでチームにエナジーを与えることができたと思う。
京都のホームアリーナは最高で、リーグで一番だと思っていて、13番のタオルを掲げてくれたり、ユニフォームを着てくれているのを見るとすごく力をもらえる。これからも、もっとチームに貢献できるように日々成長して、皆様の前で勝てるように頑張る」。試合後に見せた青木の表情は今年1番の満面の笑みだった。
【©京都ハンナリーズ】
「ハードなディフェンス。そしてオープンの3ポイントシュートを決め切ること。チームには良いシューターが沢山いる。その中で競争を勝ち抜いて、チャンスが訪れた時に、その1本を決め切る選手になってほしい」。
青木の放つシュートは、青木ひとりのシュートじゃない。
リングのネットを揺らす一筋の放物線は、青木を支える全員の想いと期待が強く込められた1本だった。
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