私のミッション・ビジョン・バリュー2023年第10回 鳥羽俊正ヘッドオブコーチ兼ジュニアコーチ「地域とホーリーホックの未来を創る」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

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水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

2023年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2023年第10回は鳥羽俊正ヘッドオブコーチ兼ジュニアコーチです。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.このMVVを作成するために、どのぐらい面談を行いましたか?
「僕は1回1時間の面談を6回行いました。すごく丁寧にやってもらいました。スタッフは5回の設定だったんですけど、僕は1回多くやっていただきました」

Q.どのぐらい過去から振り返ったのでしょうか?
「現役時代、このクラブにお世話になったところからですね。このクラブや地域に恩返ししたい気持ちが強いことを振り返り、その後、教員としていろんなことを学んだことを今度は指導者として還元したいということを振り返りました」

Q.今まで面談をして過去を振り返るようなことはありましたか?
「一昨年まで高校の教員をしていたので、子供たちに面談でいろいろ話を聞くことはありましたけど、自分が聞かれることはありませんでした。貴重な経験ができました。面談の担当の方も野球の指導をしているとのことだったので、指導についての話もできて、頭の中がすごく整理されました」

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Q.まずはMISSIONについて聞かせてください。「関わった人たちの夢や目的の実現に向けて寄り添い、人間性・社会性の成長に寄与すること。つながりを大切にし、関わった責任を持つこと」。こちらはどのような思いが込められていますか?
「現役時代はいろんな人に支えてもらいました。その後、指導者として育成年代に携わってきた中でただ指導するだけ、ただサッカーを教えるだけではダメだと思うようになりました。思春期特有の悩みや子供たちの様々な環境の違いといった問題がありますよね。そういうものをしっかり受け止めながら、サッカーだけでなく、人間性や社会性を大切にしながら、サッカー以外の分野でも活躍できる人材になってもらいたいという思いを持って指導しています。それは私個人の思いではなく、ホーリーホックアカデミーの理念でもあります」

Q.そのために意識していることはありますか?
「そこには責任が伴うと思うんです。指導で関わって終わりではありません。今はホーリーホックアカデミーで仕事していますが、以前勤めていた高校の卒業生から困った時やいいことがあった時などに連絡が来ることもあります。卒業してからもずっと見守っていきたいという思いがあります」

Q.このMISSIONは以前から大切にしてきた考えなのでしょうか? それとも水戸に来て強く感じた言葉なのでしょうか?
「元々そういう思いを持ちながら、指導をしていました。高校では担任業務もしていましたから、ずっと大切にしている言葉ですね」

Q.現役引退をしてすぐに高校の教員になったのでしょうか?
「そうです。03年に引退して、04年に県立高校の非常勤教員として勉強させてもらって、05年から一昨年まで山形県の高校で教員として採用されて勤めていました」

Q.指導者として、教員の経験で得たものは?
「教員になったばかりの頃は分からないことばかりで、先輩や同僚を見ながら学ぶ日々が続きました。その時に感じたのは、子供と接しているのですが、その先には保護者がいるということ。保護者から信頼されないと、クラス担任は務まらないと思ったんです。どうやって保護者から信頼していただけるかと考えた時、まずは話をしっかり聞いてあげることだと思いました。部活動に間に合わなくても、放課後にクラスの生徒と話をすることを大切にしていました。そういう姿勢が家庭につながるんです。その積み重ねによって、保護者から信頼を得られるようになると思っています」

Q.「関わった人たち」には保護者も入るんですね。
「もちろんです。今も連絡が来ますよ。たとえば、教え子の中に現在Vリーグの選手がいるんですけど、今年12月に茨城で試合をするとのことなので『見に来てください』という連絡もいただきました。そういうことも嬉しいですよね」

Q.サッカーの指導も保護者との関係は大切ですよね。
「選手、指導者、保護者が三位一体じゃないとうまくいかないことが多いです。そのためには常に子供たちとしっかり向き合うことが大事ですし、保護者とのコミュニケーションも大切にしています。もちろん、保護者からクレームが来ることもありました。でも、そういう時は保護者が不安を抱えているんです。だから、ちゃんと話をすることによって、払しょくしていくんです。すると、逆に協力してくれるようになるんです。教員として、そういう経験をさせてもらったことは今に活きていると思います。責任を持って指導することによって、得られるものは多い。ホーリーホックでもそういうことを大切にしていきたいと思っています」

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Q.次はVISIONについて聞かせてください。「関わった人達が笑顔で、やりがい、生きがいのある生活を送っていること」。こちらはいかがでしょうか?
「関わった人たちが生き生きしている姿を見ると、すごく嬉しいんですよね。ホーリーホックに関わる人はもちろんのこと、地域の方や支えてくれる方の笑顔を多く見たいんです」

Q.そのために大切にしていることは何でしょうか?
「まずはしっかり観察すること。時には手を差し伸べること。逆にちょっと我慢をして見守ることも必要。すべて説明すればいいわけではないんです。そこのさじ加減がすごく大切で、アカデミーの中には指示待ちの子もいるのですが、やはり主体的に考えて行動できる子になってもらいたい。そのためにも指導者が待ってあげることも必要だと思っています。そのタイミングが難しいんです。だからこそ、しっかり見て接しないといけないと思っています。逆に一緒に喜ぶ時には喜びたいし、悲しむ時は悲しみたい。ただ、理論や説明するだけではなく、個々の感情としっかり向き合っていきたい」

Q.「生きがいのある生活」という言葉が印象的です。サッカーだけでなく、サッカーを通して生活を豊かにしてほしいという思いが伝わってきます。
「その通りです。現役を引退して、すぐにサッカーの指導者になっていたら、そういう考えにはなっていなかったかもしれません。教員としての体験があって、サッカー以外の生活の大切さをすごく感じることができました。高校には運動部の生徒だけでなく、文化部の生徒もいますし、部活に入っていない生徒もいる。でも、みんながいい顔をしているんですよ。そういう経験をできたことによって、『サッカーは生活の一部分』という考えになりました。その中で僕らはサッカーをきっかけに生活を豊かにしてもらいたいと思って指導をしています」

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Q.次はVALUEについて聞かせてください。「個々に合った的確なアドバイス・厳しさ・正しさ・タイミング・気配り・広い視野・関係性・自らの成長」。こちらはいかがでしょうか?
「指導って難しいんですよ。それぞれ性格も考え方も違いますから。多く言わなくても察することができる子もいますし、すごくかみ砕いて話をした方がいい子もいる。逆に厳しいことを言わないといけないケースもある。その中で僕が気を付けていることは自分自身が成長すること。日々自分が成長していることを示さないと、子供たちも話を聞いてくれないと思うんですよ」

Q.年代によってアプローチの仕方で意識していることはありますか?
「高校生だろうと、中学生だろうと、小学生だろうと、話を聞いてあげることが大事だと思うんです。そして、子供たちから『この人は真剣に接してくれている』と思ってもらうことが大事だと思います。ただ、高校生になると、今までやってきて確立してきたものがあると思うので、そこを否定してしまうと、選手のプライドを傷つけてしまうことにもなる。だからこそ、気を付けないといけない。問題が起きた時、みんなの前で叱るのではなく、2人だけでかみ砕いて話をしてあげるとか、気配りをしてあげることが大切だと思っています。高校生はある程度、現実が見えてくるんですけど、ジュニアユースは純粋に夢を追いかけている選手が多い。そういう思いをしっかり受け止めて、そのためにどうするかということを問いかけたり、一緒に考えてあげたりすることを大切にしています。今はジュニアを見ることも多いのですが、その年代はすべての基本を身につけることが大切なんです。そのベースとなるのは、サッカーができることは当たり前ではないということを理解すること。親の送迎がなければ、サッカーはできないですし、試合をするためには相手チーム、審判や運営の方も必要です。そうやって支えてくれる人たちがいるからサッカーができるということをちゃんと理解してもらいたいですし、そういう方々へのリスペクトの思いを持ってもらいたい。技術的なことも教えますが、そういうことを毎回伝えるようにしています」

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Q.最後はスローガンについて聞かせてください。「地域とホーリーホックの未来を創る」です。
「選手として、クラブ設立翌年の98年から縁があって在籍させてもらいました。昔と今と比べると、僕からすると、すごく環境が整っている。恵まれすぎているようにも感じます。それは今まで関わったOBたちが地域をすごく大事にして、地道に関係を紡いできたからだと思うんですよ。OBをはじめ、これまでクラブに関わってきた人たちが自分たちのことやクラブのことだけを考えてきたら、地域との関係を築けていないと思うんですよ。だからこそ、僕はよりここからホーリーホックと地域の関係がよりよくなるためにどうするかいいかを考えないといけないと思うんです。サッカーを指導するだけではダメだと思っていて、地域の指導者の方々と交流することもそうですし、いろんな場所で普及活動を行うこともより大事にしていかないといけないと考えています。今後、クラブが発展しても、今まで関わってくれた人たちの思いを絶対に忘れずにやっていきたいという思いがありますし、ホームタウン15市町村の方々に『ホーリーホックがあってよかった』と思ってもらえるようにしていきたいと思っています」

Q.昨年、アカデミーの指導者として水戸に戻ってきました。それまで高校の教員をされてきたとのことで、収入面や生活面を考えてリスクのある選択をされたと思うのですが、水戸に来る決断をした理由を聞かせてください。
「それは、みんなに聞かれますね(苦笑)。ホーリーホックだからこそ、戻ってきたんです。他のクラブからのオファーだったら、教員を辞めることはありませんでした。僕にとって選手としてお世話になったことは非常に大きいですし、JFLでプレーして、J2昇格を果たして、ちょっとずつ応援してくださる方が増えていくという進化を味わえたことも素晴らしい経験となっています。もちろん、教員の方が収入面をはじめ、待遇面では安定しています。『馬鹿じゃないの?』とよく言われますけど、僕はホーリーホックに関わったからこそ、ホーリーホックの未来に微力かもしれませんが、自分の力を注ぎたいと思いましたし、自分の人生を捧げたいと思ったんです。とにかく後悔したくなかった。その思いだけですね。収入や待遇のことは考えませんでした。この選択が正しかったと言えるのは、ここから先、水戸が発展していった時だと思っています。ただ、今は毎日が楽しいですし、すごく充実しています」

Q.水戸ホーリーホックアカデミーの色や特長をどのようにしていきたいですか?
「今年からトップチームのコーチに就任した樹森大介コーチが昨年まで10年以上ユース監督を務めながら、アカデミーのベースになるものを築いてくれました。それはサッカーの戦術的なことだけではなく、人間形成にも力を入れてきました。Jリーグクラブのアカデミーはサッカークラブではありますけど、教育機関だとも思っています。サッカー以外のところも水戸の選手は素晴らしいと言われるようになってもらいたい。サッカーの試合でも負けたくないですが、それ以前に挨拶や整理整頓、道具の手入れといったところで負けたくない。水戸の選手はどこに行っても通用する人材になってもらいたい。ユースに上がれなくても、高校の部活でリーダーシップを取れるような人材になってもらいたいですし、学校生活の中でも困っている人がいたら自然と手を差し伸べられるような人になってもらいたい。保護者が子供を預ける時の判断材料として大切にするのはサッカーの指導だけではないと思うんですよ。そういうベースは絶対に変えてはいけない。そして、ピッチの中での『水戸らしさ』は何かというと、ボールを大切にするとか、戦術眼を持った賢い選手を育てていく。そういうことを引きつづき、大切にしていきたいと思っています。究極なところで言うと、水戸のアカデミーに預けたら、サッカー的にも、人間的にも成長できると思っていただけるようなクラブにしていきたい。今年はユース出身の田辺陽太選手が9試合に出場しましたが、これからもトップチームで活躍できる選手をこれからも輩出していきたい。将来的に日の丸をつけたり、海外で活躍したりするような選手を育てていくこともアカデミーの役割だと思っています」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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