私のミッション・ビジョン・バリュー2023年第8回 田辺陽太選手「アカデミー選手の新しい道を!」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

2023年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2023年第8回は田辺陽太選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.水戸ユース出身で、プロ3年目ですが、MVVを作成したのは今年がはじめてですか?
「トップ昇格が決まった高校3年生の時に作って、今回が2回目になります。プロになってからははじめてです」

Q.面談はどのぐらい行いましたか?
「開幕して少し経ってから2週間に1回ぐらいのペースで、6~7回行いました」

Q.面談してみていかがでしたか?
「自分の過去について、今まで話をする機会はなかったのですが、話をしてみて思ったのは、自分は物事を決められないタイプだと思っていたんですけど、人生のターニングポイントでは強い思いでチャレンジする決断をしているんですよね。そこに気が付きました」

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Q.まずはMISSIONについて聞かせてください。「シンキングサッカーを代表する選手の一人になって、サッカーのおもしろさを広げる」。この言葉の思いは?
「まず、話をしていく中で『サッカーのおもしろさを広げたい』という言葉が出てきました。そこで自分ができる表現として、どうするかを考えました。僕の場合、身体能力で勝負する選手ではありません。そこでどう戦っていくかということに関して、自分で頭を使って、戦術を理解してプレーすることを大切にしてきました。戦術面に注目してサッカーを見るのもすごく好きで、それを自分も体現して、戦術やマニアックな点でもサッカーのおもしろさを感じてもらえたらと思って、この言葉を選びました」

Q.「考えてサッカーすること」をいつ頃から意識していましたか?
「中学生になったタイミングですね。ウイングスというチームに所属していたんですけど、周りは身体能力の高い選手ばかりだったんです。そういう選手にどうやって自分が勝っていくかということを考えていましたし、身体能力の高い選手は攻撃的なポジションに多く、守備的なポジションだった僕はそういう選手をどう止めるかということを考えていました。そこがきっかけだったと思います」

Q.考えることを強みにしようとしてきたのですね。
「そうですね。中学生の頃からサッカーを戦術的に考えている選手はあまりいなかったので、偶然ではあるんですけど、そこで考えながらプレーするようになったことは自分の強みになったと思っています」

Q.今季はリーグ戦デビューを飾り、飛躍のシーズンとなっています。そうした積み重ねが活きた実感はありましたか?
「プロとして試合中に考えながらプレーすることは当たり前ですけど、毎試合後にコーチの方々と振り返るようにしています。実際、試合中に『こういうシーン、前にもあったな』思い出して、対応できたこともありました」

Q.田辺選手が考える「サッカーのおもしろさ」とは?
「サッカーはやっぱり勝ち負けにフォーカスされるものだと思います。もちろん、勝ち負けは大事ですけど、それ以外にも面白さがあるんです。勝敗だけでない、サッカーのおもしろさを多くの人に知ってもらいたいと思います」

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Q.次はVISIONについて聞かせてください。「自分の考えを言語化し周りに共有し、考えることの大切さを体現し影響を与えられる選手になる」。こちらはいかがですか?
「自分自身を振り返った時、周りに伝えられた時にいいプレーができているんですね。でも、以前は自分で分かっていても、周りに伝えられないシーンが自分の中で少なくはなかった。自分だけで解決するのではなく、うまく周りを巻き込んで、自分だけの問題にするのではなく、DFラインや守備の問題として、周りの選手と考えを共有して同じ絵を描きたいと思って、このVISIONにしました」

Q.田辺選手は今年になって自分から発信する姿勢や要求する姿勢がすごく強くなったような気がします。何か変化があったのでしょうか?
「発信している時が自分のいい時だということを昨年までの2年間気づけていませんでした。今年はユース時代の監督だった樹森(大介)さんがトップチームのコーチに就任してくれて、『まずは声を出せ』とある練習試合の前に言ってくれたんです。そこで意識して声を出してみたところ、すごくプレーがうまくいったんです。『声を出すこと』が良いプレーをするために必要なものなんだと気づくことができました。それ以降、自信を得ることができて、だんだんプレーが良くなっていったという印象があります」

Q.それまでは周りから指示されることが多く、合わせようとしすぎてうまくいっていないように見えていました。自分から発信することで変わったんですね。
「自分のプレースタイル的にもうまく味方を動かした方がいいんです。さっきも言いましたけど、身体能力の高い選手ではないので、1人でどうにかするというタイプではないんです。だからこそ、声を出すことが大切なんだということに気づけたことが、今年一番大きな収穫でした」

Q.周りの反応も変わってきたのでは?
「自分に自信がついてくると、『なんで?』という問いに対して答えられるんですよ。それをうまく伝えられるようになると、周りも信頼してくれるようになるんです。そこから徐々にコーチングの質も変わっていった気がします」

Q.自分の中でちゃんと答えを持ってコーチングすることによって、関係性はさらに密になるのでしょうね。
「そうだと思います。あとは、試合中以外のところで確認しにいくことができると、さらに良くなると思います」

Q.そのうえで「影響を与えられる選手になる」ということですね。
「ゲーム全体の流れを決めるのはボランチの選手だと思っています。その中で自分もゲームの流れを読んで、チームの方向を決めることに関わりたいと思っています」

Q.今季はこのVISIONがかなり具現化したのでは?
「リーグ戦で9試合に出場できたことは、自分の中ですごく大きなことです。でも、試合に出続けられなかった現状もあります。『やれる』ことは分かったので、次は試合に出続けられるようになりたい。そして、勝利に貢献できる選手になりたいと思っています」

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Q.次はVALUEについて聞かせてください。5つあります。1つ目は「自らを客観視し、俯瞰視点で捉える」。
「これは自分が小さい頃から無意識でやっていたことなんです。今は試合が終わった後に映像を見ることによって、客観的な視点を持つようにしていますが、小さい頃は『相手がパスの受け手だったらこういうパスが欲しいだろうな』とか、相手の気持ちになるというか、他の選手から見た自分をすごく考えてプレーしていました。そこは自分の特長だと思ったので、VALUEに入れました」

Q.2つ目は「振り返り、改善のサイクルを回す」です。
「先ほども言ったように、試合の映像を見てフィードバックしたことを次の試合に活かすことを大切にしています。実際そういうシーンもあるので、これからも続けていこうと思っています」

Q.これは、いつから行っていますか?
「ユース時代も映像のデータを渡されてはいたのですが、学校もありましたし、時間がなかったので、あまり見ることができませんでした。そうすると、自分の主観で判断してしまうんですよね。でも、プロになって、映像で振り返ることによって、主観では悪く感じていた場面も、俯瞰で見ると、そんなに悪くないというようなこともあるんです。逆もありますね。そこでどうすれば改善できるのかを考えるようになりました。新しい自分を発見するというか、良さや改善点を見つけるために、このサイクルはどんな状況でも続けていかないといけないと思っています」

Q.フィードバックは大事ですね。
「(西村)卓朗GMもよく言っているのですが、自分が良くない試合を見るのはつらいけど、それでも見ないとダメなんです。そこは続けていきたいと思っています」

Q.3つ目は「自らの考えを主体的にアウトプットする」。
「これはVISIONと似ていて、自分が思ったことを自分だけで解決するのではなく、うまく周りに手伝ってもらいながら解決していきたいという思いですね」

Q.それを今年経験できていますね。
「自分の強みは通用したと思っていますが、まだまだ良くなるとも思えています。練習試合と公式戦は全然違う。今年はリーグ戦でいろんな経験ができて良かったと思えています」

Q.4つ目は「積極的にフィードバックをもらいインプットを増やす」です。
「このチームは全体的に若い選手が多いですけど、僕はまだまだ若手の部類に入ります。自分自身のためにも、チームのためにも、もっともっと成長しないといけない。その中でDF陣だけでなく、GKの(本間)幸司さんや(中山)開帆君はすごくアドバイスをしてくれるんです。さらに樹森大介コーチや森直樹コーチ、安田好隆コーチなどが一緒に映像を見て、『もっとこういうことができる』と教えてくれます。そこでプライドとかが邪魔してしまって、吸収できなくなったら自分の成長は止まってしまう。僕は何歳になっても、インプットの量を増やしていきたいと思って、この言葉にしました」

Q.自分からアドバイスを聞きに行くこともありますか?
「ありますね。でも、プレー中にみんなが言ってくれるんです。そこで気になったことがあったら、さらに深堀りするようにしています」

Q.田辺選手は素直に話を聞く姿勢があるからこそ、周りの選手やコーチもアドバイスしたくなるんだと思いますよ。
「言ってもらえることは幸せだと思っています。それはプラスに捉えています。でも、1年目に言われた内容と今では大きく質が異なります。より深い内容になっていますし、改善できた時には自分自身うまくなっている実感もある。それもサッカーの楽しさの一つですね」

Q.最後は「楽しむ気持ちを忘れない」
「小学校の時にチームメイトの保護者から『陽太君は笑顔でプレーしている時が一番輝いている』と言われたことがあったんです。その一言がすごく頭の中に残っているんです。ふざけてプレーするわけではなく、心からサッカーを楽しめている時が一番いいプレーができると思っています。そういう時は無限にアイデアも浮かんできますし、いろんなプレーが出せる。だから、楽しむ気持ちを忘れないという言葉はVALUEの中でも特に大切にしている言葉です」

Q.その保護者の方の気持ちはすごく分かります。田辺選手が笑顔を見せる時は本当に楽しくサッカーできているんだろうなと思いますよ。
「やっぱりサッカーが楽しいからここまで続けることができている。だからこそ、どんな状況でもそこは忘れないようにしたいです」

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Q.そして、スローガンは「アカデミー選手の新しい道を!」です。この言葉にはどんな思いを込めていますか?
「アカデミー出身選手で4年以上在籍した選手はいませんし、トップで活躍した選手もいなかった。そういう水戸ホーリーホックの歴史がある中で、自分が最初の成功例になりたいと思ったし、第一歩を踏み出したいと思っていました。『新しい道を』というのは、自分が成功例になって、後から続く後輩たちに希望を与えられるようになりたいという思いを込めました」

Q.田辺選手は今季トップ昇格3年目。いわゆる「3年目の壁」と言われてきたシーズンに臨みました。それだけ今季にかける思いは強かったと思うのですが。
「今年がダメならプロ生活は終わると思っていたので、強い気持ちを持って挑みました。結果的に、自分が目標としていた出場試合数は達成することができました。それはその強い気持ちがあったからだと思っています」

Q.あと、先ほど話に出ましたが、樹森コーチの存在も大きかったのでは?
「ユース時代に指導していただいた方が近くにいることは大きかった。もちろん、他のコーチも信頼していますが、やっぱり樹森さんが一番聞きやすい。自分の良い時を知っている人がいることはすごく心強かった。樹森さんの存在の大きさをすごく感じました」

Q.昨年まではなかなか試合に出られず、苦しい時期を過ごしました。自信を失うこともありましたか?
「トップに昇格して、『ここまでできないのか』と打ちのめされました。コーチに聞くこともできないぐらい、自信を失っていました。『そのレベルにも達していない』と勝手に思ってしまっていたんです。今年のチームは樹森さんだけでなく、ヤスさん(安田コーチ)もよく話しかけてくれますし、監督も含めて、すごく話しやすい雰囲気があるんです。だからこそ、気軽に聞きに行って、そこでアドバイスを受けて改善して、また次の課題について聞きに行くという良いサイクルができていると感じています」

Q.客観的な意見を聞くことは大事ですからね。
「本当にそう思います。自分に足りていないことを明確に言ってくれるんです。それは自分にとってすごくありがたいこと。逆に、1年目からそれをやれば良かったという後悔も少しあります」

Q.前述の通り、今季は飛躍のシーズンとなりました。あらためて、自身のプレーをどのように捉えていますか?
「自分の強みであるビルドアップは自信を持ってできました。天皇杯の川崎戦では自分のミスから失点してしまいましたが、ある程度通用したと思っています。改善する点は挙げればたくさんあるのですが、センターバックとしてもう少し個の強さをつけないといけない。あと、サッカーはメンタルスポーツと言われますが、そのメンタルの部分をもっと強くしないといけない。100点のプレーを目指すというより、常に80点のプレーを続けられる選手になることを意識しています」

Q.これからどのようなビジョンを描いていますか?
「今はけがで離脱していますが、この状況をプラスに捉えて、個人の能力向上に時間を費やしたい。トレーナーの方々に協力してもらいながら、一回りも二回りも大きくなってピッチに戻りたいと思います」

Q.最後にアカデミー選手にメッセージをお願いします。
「自分がユースだった時代と比べて、環境が良くなっている。よりサッカーにかける時間は増えたと思います。この環境を最大限に活かして、さらにうまくなってもらいたいと思います」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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