思いよ、届け

note
チーム・協会
【これはnoteに投稿されたgloveaceさんによる記事です。】
声にならない叫び、まともに跳べない足、にじむ視界。
それでも伝えたい思いが溢れた。

J3リーグ・第21節、SC相模原対カマタマーレ讃岐。
最下位からの抜け出しを図る中で、下位チームを迎えてのホームゲーム。

夏、5人の新加入選手がやってきた。応援するそれぞれが、それぞれに思いを抱えてこの大量移籍を見守ったと思う。
クラブの方針に対する様々な気持ち、新加入選手への期待、既存のメンバーを後押しする気持ち。

様々な思いが交錯している中、試合が始まった。

前半は互いに決定機を作れない展開が続きながらも、新加入選手のMF岩上裕三の効果的なパス出しやFW 瀬沼優司のキープ力を生かして、比較的ボールを保持する展開が作れた。
前線の選手を信じて、ある程度アバウトにクロスを放り込むなど、チームとしてのサッカーも新たな選手の加入にあわせて幾分変化しているように見えた。



ノースコアのままエンドを変えた後半、相模原は風上に立ったこともあり、さらに押し込む展開が増えた。何度かあった危ない場面は、GK東ジョンの好セーブで失点を凌いだ。

しかし、点の入らない展開は続いた。アタッキングサードまでボールを運ぶも、最後に効果的なラストパスを刺せない、フィニッシュが決まらない、難しいシーンがいくつもあった。

今季、こんな展開の試合を何度も落としてきた。
欲しい時に、点が入らない展開。何とかして欲しいと応援しつつ、また無得点で終わってしまうかもしれない、もしかしたらカウンターを一発食らって負けるかもしれない、と憂いていた自分がいた。


そのまま、後半45分が経過し、ビジョンに追加時間4分が表示されて間もなく。
その時は訪れた。

押し込んだ展開から、岩上の押さえの効いた鋭いシュートが枠に飛んだ。
相手GKが処理を試みるも弾いたボールに詰めていたのは、今季のSC相模原で背番号9を背負う、途中出場のFW藤沼拓夢だった。



ゴール裏からでは、反対側のピッチで何が起こっているのかあまりよく分からなかった。
けれど、視界の中で、ゴールネットにボールが重なった。
ボールが吸い込まれ、放射状に揺れるネットを確かに見た。ベンチからチームの皆が飛び出した。

ついに、こじ開けた。



熱い熱い油の中に大量の水をぶちまけたように、ゴール裏で応援していた人々が弾けた。
老いも若きも関係なく、皆が芝生のスタンドを飛び跳ね回ってもみくちゃになった。

目の前に現れる人達と誰彼構わず抱き合った。待ちに待っていた得点。
疲れや憂鬱など、一瞬で吹き飛んだ。



得点後、試合が再開してから終わるまでの数分間、虎の子の一点を守り抜く選手達を、声を枯らして応援した。

チャント:Greenboysが流れた。

もみくちゃになったスタンドが、そのままの状態で歌い続ける。
気付けば、周りの人と肩を組んで飛び跳ねながら歌っていた。

相手のボールに対して果敢にチャレンジしてマイボールにした藤沼を見て声を上げようとしたが、もう声が出なかった。

酸欠で掠れて、声量もなく、音程もめちゃくちゃで、それでも飛び跳ねてGreenboysを歌った。

「さあ立ち止まることなく 気持ち見せろ相模原」

ただただ、勝って欲しい。
けれど、思いの届け方など、もう分からなくて。

声が出なくても、足が重くて跳びにくくなっても、選手達に届いてほしくて、掠れた声を出し続けた。



芝生スタンドで応援していた人たちは、皆必死だった。
重い重い扉をこじ開けて取った1点。勝利してこれを本物の1点にしてほしくて。
皆、飛び跳ねて歌っていた。

バックスタンドに目を向けると、後ろの方の人達が立ち上がって手を叩いていた。

皆、ピッチのSC相模原に夢中だった。

待ち焦がれていた展開。
皆の思いが充満したスタンド。
言葉などいらない、素晴らしい光景だった。



勝利を告げる笛の音は、聞こえなかった。
夢中で応援していたら、試合が終わっていた。

気付けば、喉は枯れ、足も腰も肩も重くなっていた。着ていたユニフォームは汗を吸って、大雨に打たれたかのように重たくなっていた。
けれど、やり切ったチームが誇らしくて、そんな事はもうどうでもよかった。

皆で歌って踊る勝利のファミリアのあと、選手達がすぐに引き締まった顔になったのが印象的だった。

まだ、何も終わっていない。
このチームに何故いるのかを自問しながら過ごす選手達は、どうしなければいけないのか、きっともう分かっていると思う。

フットボールの旅路は続く。
SC相模原の、そして、それぞれの未来を照らすために。

けれど、純粋に勝って欲しいと願って応援したあの時間は、何物にも代えがたい。

このクラブをずっと応援していたい。
届けたい思いが充満するスタンド。あんな光景をもっと見れるように。
思いが溢れる試合がこれから先も続くことを願って。

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