早大ア式蹴球部男子 熱気に包まれた早慶戦は早大に軍配! 2連覇を達成し、七夕の夜空に『紺碧の空』を響かせた!

チーム・協会
第74回早慶サッカー定期戦 7月7日 味の素フィールド西が丘
【早稲田スポーツ新聞会】記事 安岡隼人 写真 大幡拓登、板東萌、渡辺詩乃、富田佳奈

 「死力を尽くす」とはまさにこのことだろう。試合終了後、喜びを爆発させるというよりどこかそれを静かに噛み締めるような早大の選手たち。1年に1度の絶対に負けられない一戦で、早稲田に関わる全ての人の思いを背負いピッチに立ち、持てる限りの力を尽くして戦い抜いた選手たちの姿がそこにはあった。今年で74回目を迎えた早慶サッカー定期戦。会場である味の素フィールド西が丘の全席が開放、さらに声出し応援が解禁された今大会。早大に勝利をもたらしたのはMF平野右京(人4=兵庫・滝川)のゴールだった。今季ア式の切り札として活躍を見せている平野。この大舞台でも後半途中から出場すると、前半停滞していた攻撃を活性化し試合の流れを変える。そして迎えた76分、左サイド森のクロスを頭で押し込み、値千金の先制ゴールを奪った。早大はこの1点を守り切り勝利。七夕の早慶クラシコは早大の2連覇で幕を閉じた。

試合後、集合写真を撮るア式蹴球部 【早稲田スポーツ新聞会】

 両校の意地とプライドのぶつかり合いともいえる早慶戦。試合後、兵藤慎剛監督(平20スポ卒=長崎・国見)も「独特の雰囲気に持っていかれた」と話したように、想像以上に苦戦を強いられる前半となる。試合開始直後から目立ったのが慶大の激しいプレスだ。5分にはMF平松柚佑主将(社4=山梨学院)が最終ラインでボールを失いかけるなど、慶大FWが序盤から早大のディフェンスラインに圧をかける。それでもボールを握る早大は、左サイドのMF本保奏希(スポ2=JFAアカデミー福島U18)、DF森璃太(スポ4=川崎フロンターレU18)らの縦への突破を起点に攻撃の糸口を探るが、なかなかチャンスを生み出すことができない。26分、自陣深くから持ち上がった本保を起点に、MF小倉陽太(スポ4=横浜FCユース)、MF小松寛太(教4=東京・早実)、そして左の森へとつなぎ、森のクロスからコーナーキックを獲得。この試合初めて息の合った連携を見せたが、ここも得点にはつなげられない。ボールを持つ時間も長かった前半だが、ほとんど決定機をつくることができなかった。

左サイドで攻撃の起点となった森。この日も決勝点をアシストするなど、今季のクロスの精度は抜群だ 【早稲田スポーツ新聞会】

 一方の慶大は、1年生FW塩貝健人が爆発的なスピードと前への推進力で圧倒的な存在感を放ち、慶大の攻撃をけん引。早大ゴールに迫る。32分、ペナルティエリア内でフリーキックのこぼれ球を収めた塩貝は、華麗なルーレットでディフェンス2枚を一気に剥がしシュート。一度はクロスバーに助けられるが、その跳ね返りを頭で押し込まれネットを揺らされる。痛恨の先制点を許したかと思われたが、主審と副審の協議の結果ここはオフサイドの判定に。間一髪のところで難を逃れた。慶大の縦への速い攻撃に苦しめられていた早大であったが、その後は平松、DF中谷颯辰(基理4=静岡学園)らの落ち着いた対応でチャンスをつくらせず、0-0で前半を終える。

得点を決めた平野 【早稲田スポーツ新聞会】

 後半も拮抗(きっこう)した展開が続く中、先に動いたのは早大ベンチだった。58分、1枚目の交代カードとしてFW鈴木大翔(スポ1=ガンバ大阪ユース)を投入。その鈴木の体を張ったプレーで徐々に高い位置でボールが収まるようになり、相手を押し込む。61分には、MF山市秀翔(スポ2=神奈川・桐光学園)が相手ペナルティエリア付近でボールを奪うと、左足から狙いすましたシュートを放つが、ここは惜しくもクロスバーに阻まれる。それでも少しずつ攻撃のリズムをつかみ始めた早大は、66分に平野を投入。右サイドに入った平野は投入直後から相手陣地深いエリアへの侵入を繰り返し、脅威を与える。そしてここから試合は早大のペースに。74分、左サイドから中へ切り込んだMF植村洋斗副将(スポ4=神奈川・日大藤沢)が強烈なミドルシュートを放つがこれは枠の外へ。さらに75分には高い位置でボールを奪うと、植村のパスを受けた平野がキーパーと1対1の状況に。このビックチャンスを決め切ることができなかったものの、確実にゴールを予感させるプレーが増えていく。そして迎えた76分、左サイドでボールを受けた森が左足で美しいクロスを上げると、ファーサイドにポジションをとっていた平野が頭で合わせゴール。試合終盤での貴重な先制点を挙げる。リードを奪った早大だが、その後も引くことなく相手ゴールを目指し続けた。また、兵藤監督はMF福井寿俊(文構4=東京・国学院久我山)、さらにDF松沢遥(スポ4=松本山雅FCユース)を投入。経験を積んだ4年生の力で試合を締めにかかった。追加点こそ奪えなかったものの、最後まで高い集中力を見せた早大は1点を守り切り勝利。早慶クラシコ2連覇を飾り、七夕の夜空に『紺碧の空』を響かせた。

試合後カップを掲げる平松主将と部員たち 【早稲田スポーツ新聞会】

 前半から互いに譲らぬ展開が続き、チームとして非常に苦しいゲームであっただろう。そんな中、「切り札と言われている中で、自分が入って流れを変えて、仕事はしっかりやろうという気持ちで思い入りました」と平野。その言葉通り、チームの攻撃に推進力をもたらすと、自身のゴールで試合を決めてみせた。まさに文句なしの大活躍である。「(平野が)途中から来たら何かやってくれるんだろうなっていうのは感じた」と決勝点を挙げた平野について話すのは、今日も最終ラインからチームを引っ張り鼓舞し続けた主将の平松。また、試合後の紺碧の空の大合唱について、「もう本当に昨日から『紺碧をでかい声で歌おう』って言っていたので、これまで聞いた中で一番でかい紺碧だったなって。最高でした」と、部員全員でつかみ取った勝利への喜びを口にした。

 アミノバイタルカップと早慶戦を終え間違いなくチームは上がり調子だ。そしてここから再びリーグ戦、9月には総理大臣杯と、関東1部昇格、さらには日本一という目標達成に向けた戦いが続く。「ベースはある程度前半戦でできたと思うので、そこにどれだけクオリティをつけられるかという作業がこれから」と兵藤監督。この先のシーズンア式の選手たちはどんなプレーを見せてくれるのか。常に進化し続ける兵藤早稲田のサッカーから、今後も目が離せない。

MVPを獲得した平野 【早稲田スポーツ新聞会】

コメント

兵藤慎剛監督(平20スポ卒=長崎・国見)

――率直に試合を振り返っての感想をお願いします

 自分も経験のある早慶戦で、前半は独特の雰囲気に持ってかれてしまったなというのがあります。そこを伝えてはいたのですが、戦術的にこちら側の意図というのが、チームをもしかしたら戸惑わせたのかなというのはあったので、後半はもっと思い切りいこうと守備の仕方を整えていくと、少しずつチーム全体にエネルギーが出たのかなというところでは、修正できて良かったなという反面、入りのところの悪さがちょっと出ちゃったなというところはあったので、良い部分もあり悪い部分もありという感じです。けど、悪いなりに負けなくなったというのは、今の早稲田が少しずつ良くなっているところだと思いますしポジティブにとらえて、最後はまたビデオを見直してチームですり合わせていければなと思います。

――会場に飲まれてしまった部分もあり、立ち上がりのところはやはり課題として出てしまったのかなと思いましたが

 そうですね。キックオフからつなごうと常に言っているのに、最初蹴ったので「あれ?」どうしたんだろうというのはふと思ったところもありました。最初の強度のところが相手が想像以上に早かったというところでピンチになりかけて、自分たちはラインを下げるつもりはなくても、あの圧で前半を通して守備ラインが後ろに引っ張られちゃったかなというのはあったので、そこら辺は課題かなと思いつつもゼロで帰ってきてくれたというところは多少評価できるのかなという感じです。

――後半は流れが変わったなという感じでしたが、監督の中でどのようなことを変えましたか

 守備のハメ方を変えて、引き込んで守備をするというよりは、やられてもいいから自分たちからアクションを起こして前に奪いに行く守備というのにシフトして、最初やられるシーンというのも多少はあったのですが、それを中ですり合わせて、(奪いに)いく時にいくのかどうするのかという判断ができるようになってきたのかなと思います。こういう歓声が大きい中では、外からの指示はなかなか伝わらないと最初から伝えていたので、それを自分たちで中で改善できるようになってきたというのは、少しずつ良くなってきたのかなと思います。

――平野右京選手(人4=兵庫・滝川)の得点が決まったシーンはどのような心境でしたか

 良い時間帯が続いていたのでチャンスは来るのかなと思っていましたし、その前に右京が1対1を外したシーンもあったので、そういうところも踏まえゴールに近づいているなと思いましたし、クロスに対してチームとしてしっかりと入るべきところに入っていたので、ヘディング、相手が引いた状態で後ろからジャンプできるというポジションも取れてましたし、チームとしての狙いのかたちでしっかりと点が取れたのはよかったなと思います。

――最後は4年生の福井寿俊選手(文構4=東京・国学院久我山)や松沢遥選手(スポ4=松本山雅FCユース)を投入して締めにいくという理由がありましたか

 やっぱり早慶戦は当然技術も大事ですけど、在籍年数がプレーを変えるというか、メンタル面がすごく大事な試合だなと僕自身感じています。1年生の時の早慶戦より、4年生の時の早慶戦の方が、思いというのが乗っかってくる分、4年生にすごく戦ってほしいなと思いましたし、この半年間、僕が就任してからすごく変化した選手たちを評価して自信を持って4年生をピッチに送り出しました。

――選手として経験された舞台に監督として戻ってこられましたが、改めてこの早慶戦はどのような舞台だと感じましたか

 やっぱり独特で面白いなというのがあります。慶応も負けたくないというプライドをピッチ上で表現してくれて、普段大学の試合では体験できないようなことをできたというのは、早稲田にいる意味だと思います。この早慶戦をきっかけにお互いにどんどん良くなって、来年は一つ上のカテゴリーでやるというのは一つの目標だと思うので、この早慶戦でお互いに変わったよねという早慶戦になってほしいなと思います。

――1週間後からリーグ戦が再開しますが、どのように臨んでいきたいですか

 ここはもうカップ戦、早慶戦が終わってというところでは、4連敗しているという現実をしっかりと受け止めて、これからはトーナメントと同じ気持ち、1回負けたら終わるというところを常に学生自身に考えてもらうというところをやりながら求めていくという中では、結果プラス内容をどれだけ突き詰めていけるか。これから半年というところでベースはある程度前半戦でできたと思うので、そこにどれだけクオリティをつけられるかという作業がこれからだなと思います。

平松柚佑主将(社4=山梨学院)

――試合を振り返って率直な感想をお願いします

 ほっとしてます。

――前半から相手のプレッシャーがきつく、塩貝健人選手(慶大)のところから狙われている印象でしたが、どのように感じていましたか

 自分のサイドの方であまりうまくいかなかったです。修正できるっていうのはあったので、焦らず前半(失点)0でっていうのを意識してやっていました。

――後半流れがかなり変わったと思います。どのようなところが変わったという印象がありましたか

 前半は受け身だったのですが、自分たちからしっかりアクションを起こしてっていうのがありました。しっかり前からプレスして、そこをボール拾って相手陣地から攻撃を始められるようになりましたし、シンプルに相手が結構前半から飛ばしていたので、そこが多少運動量が落ちたのかなっていうふうに感じます。

――同期の平野選手のゴールでの勝利です。そこについてはいかがですか

 最高です。

――やってくれるなと思っていましたか

 そうですね。今シーズン右京は途中から出て、何回もゴールの起点になっていました。山梨学院の時だったり、駒澤で点決めたりっていうのがあって、作新もですけど。本当に今日途中から来たら何かやってくれるんだろうなっていうのは感じたので、ま、ナイスって感じです(笑)。

――主将としてご自身の代で勝利できたというのは、すごく意味のあることだと思いますがいかがですか

 そうですね。自分たちの代でももちろんですけど、やっぱり負けてしまった先輩の分もっていうのはずっと思っていました。リベンジを最後自分たちの代でできたっていうのは、すごいうれしいです。

――改めて早慶戦の雰囲気はいかがでしたか

 最高でした。

――試合後に紺碧の空を歌った瞬間はどのようなことを感じていましたか

 もう本当に昨日から「紺碧をでかい声で歌おう」って言っていたので、これまで聞いた中で一番でかい紺碧だったなって。最高でした。

――1週間後にまたシーズンが始まります。総理大臣杯なども控えていますが、どのように臨んでいきたいですか

 大臣杯決まって早慶戦勝ちましたけど、リーグだけ見れば3連敗で中断しているので、まず1つ連敗を切るっていうかたちです。しっかり1週間いい積み上げをして、向かっていきたいなと思います。

平野右京(人4=兵庫・滝川)

――試合を振り返っての率直な感想をお願いします

 前半は、早慶戦という独特な雰囲気で堅い展開になって、ハーフタイムの時に監督からげきが飛んで、後半はギアを上げていこうという中で、みんなが良い波に乗ってくれて、自分も良い波に乗れて、最後は勝利というかたちにできて良かったです。

――途中からの出場、ピッチに入る時考えていたことは

 無心だったのですが、このまま0-0で終わるのはプライドとして考えてなかったし、自分が推進力とか、切り札と言われている中で、自分が入って流れを変えて、仕事はしっかりやろうという気持ちで思い入りました。

――監督からの指示はありましたか

 いや、特になくて、思いっきりやってこいと伝えられました。

――得点シーンを振り返ってください

 その前に、1本決められるシーンがあったのですが、それを外したというのがあって。それでも自分の中でプラスに捉えて、「今日ついてるぞ、来るぞ」と思って、(森)璃太 がいつも良いクロスを上げてくれているので、それに飛び込むだけで得点につなげることができたのかなと思っています。

――ヘディングはなかなか平野選手からは見られませんが

 自分もあんなに飛べるんだとびっくりしました。地上戦と空中戦どちらも警戒される選手になりたいです。

――MVP獲得となりましたが今の心境は

 最高です。

――まさに切り札という活躍でしたね

 自分の役割はチームに推進力であったり、攻撃に点をもたらすのが役割なので、(背番号)11番といえばジャック、ジャックはJ、JはジョーカーのJなので。いろいろな思いがこの早慶戦にあったので、いろいろな人の思いを得点というかたちで表現して、返せたのかなと思います。

――今年の早慶戦を「集大成」と早慶戦前取材でおっしゃっていました

 早慶戦という中では、集大成は見せられたのかなと思います。ですが、監督からもありましたが、この早慶戦をきっかけに日本一、関東昇格に向けて良い弾みをつけられたと思います。

――今後の意気込みをお願いします

 目指すところは、関東1部昇格と、日本一なので、より圧倒して自分たちが立てた目標を成し遂げられるように、これから限られた時間ですが、切磋琢磨(せっさたくま)して絶対に成し遂げたいなと思います。
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著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

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