【Inside Story】 コベルコ神戸スティーラーズ チーム広報 近藤 洋至

チーム・協会

【コベルコ神戸スティーラーズ】

身長193cm。現役当時の日本人最長身ロックは引退後、神戸製鉄所 総務部、SCIXラグビークラブを経て、2018年4月からラグビー部支援室(現・ラグビーセンター)へ。リーグ最長身広報(!)としてチームのPR活動に携わり、田中大治郎スタッフと一緒に「M・I・R」のエージェントKとしてインスタライブやイベントでMCを務めることも。7月から活躍の場を移すことになった近藤氏の、チーム広報として奔走した5シーズンを振り返る。(取材日:2023年6月2日)

怪我に泣いた現役時代、引退後は社業に専念

 5シーズンでかかわった取材件数は、約500件。テレビや雑誌、新聞などで、チームや選手が取り上げられる時は、必ず近藤氏が選手とメディアの間に入ってきた。チーム広報に抜擢されたのは、2018年4月。広報業務に携わるのは、初めてのことだ。
「仕事内容、業務の進め方など、イメージが湧かなかったですね」と、内示を受けた時のことを回顧する。
「ラグビーワールドカップ2019日本大会」でラグビーに興味を持っていただいた方は、田中大治郎スタッフ扮する「エージェントT」との掛け合いが絶妙な「エージェントK」のイメージが強いのではないだろうか。
 1984年生まれ。兵庫県明石市出身。ラグビーをはじめたのは、明石清水高校1年から。それまでは野球に熱中していた。ポジションはピッチャーだ。しかし、肩を負傷し、白球から楕円球に持ち替えた。当時から身長が高くて身体能力に恵まれていたこともあり、競技をはじめるとすぐに才能が開花し、高校日本代表候補に選出。進んだ立命館大では、2年からレギュラーを獲得した。
「通っていた高校のラグビー部は強くなかったですし、大学は入学する前に同志社を破って関西大学リーグで優勝しましたが、在学中は2位が最高でした。大学選手権でも結果を残すことができなかったこともあり、社会人で競技を続ける選択をしたときは日本一を狙えるチームでプレーしたいと思いました」
身長193cmの長身ロックには、多数のトップチームからオファーがあったが、出身地に近いことや伝統あるチームで力を試したいという思いで、2007年4月、神戸製鋼コベルコスティーラーズ(当時)に入団。当時総監督を務めていた故・平尾 誠二GMから高い評価を受けて、1年目、4試合に出場を果たす。和製リアルロックとして活躍が期待されたが、度重なる怪我もあり、2012年3月、ユニフォームを脱いだ。
「怪我も実力のうちです。活躍できるだけの力がなかったと思います」
サバサバした表情で語るが、応援してくれる会社の方々のために活躍したかったという思いも。社内でもチームや選手への手厚いサポートで知られる神戸製鉄所に勤務していた近藤氏は、引退後は、社業で会社に貢献し、これまでの恩返しをしようと業務に励んだ。

2007年度入団。2009年シーズンには、コーチ陣が選ぶ春シーズンのMVPに選ばれたことも。しかし、度重なる怪我に悩まされ、2011年シーズンをもって現役を引退。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

故・平尾 GMとの偶然の出会いから再びラグビーの世界へ

「どうしてるんや?」
工場近くの飲食店で昼食を取っていた時のこと。ふいに声をかけられた。その人は、平尾GM。
「神戸製鉄所の総務部で働いています」
「そうか。元気そうでよかったわ」
短い会話を交わした。
それが再びラグビーと関わりを持つことになるきっかけだ。平尾氏は、コベルコスティーラーズでGMを務める傍、自らが創設したNPO法人スポーツ・コミュニティ・アンド・インテリジェンス機構(SCIX)の理事長も務めていた。
「平尾さんは、SCIXで3年間コーチを務めた大石(嶺)さん(OB)の後任を探していたようなんです。平尾さんは、こういう人間がいないかなと思った時に自然と適任に出会うそうで。会話をした数ヶ月後に、SCIXへの異動が決まりました(笑)」
 不思議な縁に導かれて、2015年4月、SCIXへ異動。事務局の運営を行いながら、コーチとして中高生や女子の指導に当たった。SCIXで3年間近く過ごしたある日、ラグビー部支援室への異動が言い渡された。担当は、チーム広報。
冒頭のコメント通り、これまでまったく経験のない世界へ。
その時、ふと頭をよぎったのは、「ラグビーワールドカップ2015イングランド大会」後のこと。ベスト8進出は叶わなかったが、日本代表は南アフリカ代表を破るなど大躍進を遂げた。コベルコスティーラーズからも山下 裕史をはじめ4選手が日本代表に選ばれ活躍したものの、あまりメディアに取り上げられていないなと感じていた。
「メディアに露出することで、チームの認知度が上がります。スティーラーズのことをより多くの人たちに知ってもらって、そのものの価値を上げたいと思い、どんな案件でもなんとか調整して受けようと決意しました。それは、ずっとぶれなかったですね」

選手、スタッフ、メディアの方々と信頼関係を築き、チームの魅力を発信

 2018年シーズン、新チームのキックオフミーティングでの挨拶では、選手全員の前で取材への協力を呼びかけた。その後、すぐに山中 亮平のもとへ。
「目立つの好きやんな?」と問いかけた。
「チームの“顔”になる選手を作りたいと思ったんです。彼も『テレビや雑誌にどんどん出たいですね』と言ってくれて。それならば、僕が取材を調整するから、練習等で体力的にきついかもしれないけど、その時は頑張って対応をしてほしいという話をしました」
選手、スタッフの協力なくして、取材は成り立たない。クラブハウスやグラウンドで彼らと密にコミュニケーションを取り、時には、選手と食事に行ったり自宅に招いたりして、信頼関係を築いていった。
「試合に出ている選手だけでなく、チームにはたくさんの選手がいます。イケメンの選手もいれば、頭の良い選手もいますし、お笑いのセンスに長けた選手もいます。さまざまな個性を持った選手に注目してほしいと思い活動していました」
メディア側に「こういう選手もいますよ」と提案することもしばしば。
 チーム広報1年目の2018年シーズンは、ダン・カーター(現・アドバイザー)が加入し、15年ぶりにトップリーグ(当時)の頂点に立ったこともあり、取材件数は、約130件。前年度と比べると、なんと、1.5倍に増えた。依頼された取材の日程が練習の都合で無理な場合は、別の日を提案するなどして、なんとか実現できるように調整した。取材調整に奔走する近藤氏を見て、カーターが「大丈夫?」と肩をマッサージしてくれたことも。
「その後コロナ禍に入ったこともあり、取材件数としては、1年目が一番多かったですね」
シーズン中は試合メンバー発表の日に、メディアに向けて練習が公開され、その後、選手の囲み取材が行われる。練習公開中に、報道関係者と積極的に会話することで、チームや選手のことを知ってもらおうと心がけた。その姿勢は、1年目からメディア側に伝わり、優勝した後には、報道関係者が集まって祝勝会を開いてくれたそうだ。
「昨シーズンや今シーズンは、試合の結果が伴わない時でもグラウンドに足を運んでくれる報道関係の皆様に『取材に来てよかった』と思ってもらいたいと、その一心で取材対応をしていました」
 メディアへの取材依頼や取材対応だけでなく、2020年からはプロモーション担当の田中大治郎氏とともに選手をゲストに迎えてSNSでのライブ配信を行った。田中氏の「エージェントT」と近藤氏による「エージェントK」との『M・I・R』は、たちまち人気に。さらに、シーズン中には、試合前、選手と一緒に見どころや注目選手についてトークするインスタライブを実施。リーグワン初年度からはSpoLive担当としてSteel Matesからのコメントに応じたり、試合経過を配信したりした。

2021年7月からスタートしたインスタライブ『M.I.R』では、黒いスーツにサングラスという出で立ちで、「エージェントK」として出演。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

5年がかりで実現したドキュメンタリー番組の密着取材

 テレビや新聞、雑誌といったメディアやSNSを通じてチームの魅力を伝えるなど奮闘してきた近藤氏。そんな彼に、これまででもっとも印象深い仕事を問うと、李 承信が取り上げられたMBS(毎日放送)のドキュメンタリー番組『情熱大陸』だと話す。
「現役時代から大好きな番組でした。MBSとは、KOBELCOグループが『全国高校ラグビー大会』に特別協賛していることもあり付き合いがあって、スポーツ局の方に会う度に、うちの選手を『情熱大陸』に出してくれないかとお願いし続けていたんです。承信という注目株が日本代表に選出されたことやワールドカップが開催されることなど、さまざまな要素が重なり、5年がかりで実現する形になって、とても嬉しかったですね」
密着は、李が秋の代表活動を終えてチームに合流した11月からスタート。李のコンディションを考慮しながら、取材スタッフとスケジュールをすり合わせ、コーチ陣やスタッフといった現場との調整に追われた。シーズンに入ると、試合日にも撮影が行われる。スタジアムに選手バスが到着するところから、ロッカールームにもカメラが入った。撮影が進む中で、チームは思っていたような結果が得られなかった。
「承信のメンタルが心配でしたが、しっかり撮影に対応してくれましたし、灘浜グラウンドやスタジアムのロッカールームにカメラを入れることを許可してくれたニック(ニコラス・ホルテンヘッドコーチ)をはじめ、コーチ陣、スタッフには感謝しかないですね」
撮影は、リーグ最終戦まで行われ、「取材スタッフが気持ちよく仕事ができるように気を配りましたし、カメラが入っている中で、選手やスタッフがいつも通り動けるよう意識しました」と話す6ヶ月間だった。
放送日は、家ではあまり飲まないというビールを片手に視聴。
「オープニングを見ただけで、なんだか満足しちゃって(笑)。達成感がありましたね」と笑う。

チーム主催の記者会見では司会を務めた。「ラグビーワールドカップ2019日本大会」前には、近藤氏の提案で、社員の方々が見守る中で、チームから選出された日本代表メンバーの記者会見を行った。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

チーム広報として、やってきたことは間違っていなかった。

 今年はワールドカップイヤー。5月24日には日本代表メンバーが発表され、神戸スティーラーズからは具 智元、アマナキ サウマキ、李、山中が選出された。取材依頼がひっきりなしに入る。ワールドカップに向けてチームとしても盛り上がりに一翼を担えればと思っていた矢先、異動が告げられた。
「取材同行の際、山中と承信に異動のことを伝えたら、『ワールドカップもあるし、これからでしょう』と残念そうな表情で。選手からそういうことを言ってもらえるような人間関係を作ることができたのかなと思います」
また、メディア関係者からも「近藤さんだから取材がやりやすかった」「いろいろなチームの取材をしてきたが、スティーラーズが一番スムーズに取材ができた」と声をかけられた。
「2018年シーズンからチーム広報として手探りでやってきましたが、やってきたことは間違いではなかったんだなと思いましたね」
今後はSteel Matesの1人としてチームを見守る。
「日本一に返り咲いてほしいというのは、もちろんなのですが、良い意味で常に話題を提供してくれるようなチームでいてほしいと思います。テレビや新聞、雑誌
にチームが取り上げられることで、従業員を含め多くの方の目に留まりますし、選手を身近に感じてもらえると応援しようという気持ちになると思っています。2018年シーズンに優勝した時のように、社内がスティーラーズの話題で持ちきりになるようになってほしいですね」
そう話し、充実した表情を見せる近藤氏は、これからは高身長ビジネスマンとして社業に邁進する。

取材・文/山本 暁子(チームライター)

選手、メディア関係者とも良好な人間関係を築き、「やってきたことは間違っていなかった」と達成感を感じている。「大変なこともありましたが、すべてが楽しかったですし、チーム広報として充実した時間を過ごすことができました」 【コベルコ神戸スティーラーズ】

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著者プロフィール

兵庫県と神戸市をホストエリアとして、日本最高峰リーグ「NTTジャパンラグビー リーグワン」に参戦しているラグビーチーム「コベルコ神戸スティーラーズ」。チームビジョンは『SMILE TOGETHER 笑顔あふれる未来をともに』、チームミッションは『クリエイティブラグビーで、心に炎を。』。 ホストエリア・神戸市とは2021年より事業連携協定を締結。地元に根差した活動で、神戸から日本そして世界へ、笑顔の輪を広げていくべく、スポーツ教室、学校訪問事業、医療従事者への支援など、地域活性化へ向けた様々な取り組みを実施。また、ピッチの上では、どんな逆境にも不屈の精神で挑み続け、強くしなやかで自由なクリエイティブラグビーでファンを魅了することを志し、スタジアムから神戸市全体へ波及する、大きな感動を創りだす。 1928年創部。全国社会人大会 優勝9回、日本選手権 優勝10回、トップリーグ 優勝2回を誇る日本ラグビー界を代表するチーム。

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