【北海道誕生20年】稲葉篤紀が振り返る5試合③

チーム・協会

2000安打の記念ボードを掲げる稲葉 【ⒸH.N.F.】

「2000安打のボールかは定かではなく(笑い)」2012年 通算2000安打達成

 快挙の舞台裏こそ、色濃く記憶に残っている。2012年4月28日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦(日本製紙クリネックススタジアム宮城)。稲葉篤紀は1回表の第1打席で、メモリアルな快音を響かせた。3ボールからの「打て」のサインに、体は動いた。「ああいう場面で、そんなに打つことはしないんですけど、打てる球をしっかり打とうと積極的にいきました」。ストライクゾーンに飛び込んできた直球を右前にはじき返した。史上39人目の2000安打に、敵地も沸き上がった。
 記念ボードを両手に掲げ、大歓声を浴びた。“何か”が足りない。「ボールが見つからなくて(苦笑)」。原因は、直後に起こった本塁クロスプレー。相手捕手の嶋基宏と球審が白熱する中、メモリアルな1球は、ボールボーイに返されてしまった。ベンチ一丸となって「ボール!ボール!」と必死にボールボーイに要求も、思わぬところに飛び火した。当時の星野仙一監督が「何やっとんじゃあ!」と激怒。プレー再開まで時間を要したことが、闘将の逆鱗に触れてしまった。
 「ボールは返ってきたんですけど、結局本当にそれが2000安打のボールかは定かではなく(笑い)」
 偉大な一打も、周囲の思いが渦巻く中で生まれた。稲葉の前を打つことが多かった中田翔からは後日、切なる思いを打ち明けられたという。「球場が、稲葉さんにまわせという雰囲気だったから、めちゃめちゃプレッシャーかかりました。稲葉さんにまわさないとダメだから思い切って打てなかった」。稲葉の記録達成を前に、球界屈指のスラッガーは四球を選んででも塁に出ようとしていた。稲葉に打席をまわせなかったときに響き渡る「あ~」という大きな落胆の声が、耳に残っていたという。稲葉は「2000本って個人的な記録だけど、まわりの人に気を遣わせたんだなと。記録って、そういうものなんだよね」と、かみしめた。

「皆さんの応援が、最高の結果を与えてくれた」2014年 クライマックスシリーズ

【ⒸH.N.F.】

 現役最終年、手術明けの左膝の影響もありシーズン中に現役引退を表明。チームはクライマックスシリーズ進出を決め、迎えた10月12日オリックスバファローズとのファーストステージ第2戦(京セラドーム大阪)。代打で一時勝ち越し打を放った。勝てばファイナルステージ進出を決める第3戦でも、代打で値千金の同点タイムリー。延長戦の末に競り勝ち、ファイナルステージへの切符を手にした。
 「よく覚えています。フォークボール、フォークボール、フォークボールが続いて、ライト前に打った。ああいうところでヒットを打てるということは、やっぱり皆さんの応援が、最後に最高の結果を与えてくれた」
 稲葉の現役引退をきっかけに、チーム全体が「稲葉さんのために」と1つになって、1試合でも長くユニフォームを着てもらえるよう一丸となった。ソフトバンクとのファイナルステージでもヒットを打ち、敵地・福岡ヤフオク!ドームで「稲葉ジャンプ」が起こった。現役生活20年、ファイターズで10年。最後の打席はキャッチャーフライに終わったが、試合後には両チームによる胴上げが行われ、盛大な花道が広がっていた。
 「やっぱり幸せでした。有り難かったです。1人の野球人として、みんなで労をねぎらうというのがスポーツのいいところ。ライバルであり、勝負事なので勝ち負けありますけど、終わってみればみんなで称えあう。これからも続けてほしいと思いますね」

これからのファイターズに期待すること

【ⒸH.N.F.】

 5試合を振り返り、稲葉はフッと息を吐いた。「過去の人の話は所詮、過去のこと。未来は自分たちでつくっていかないと。過去こうだったから、ではなくて『優勝したいんだ』『未来をこうつくっていきたいんだ』と思っていかないといけない」。北海道誕生当初のファイターズで黄金期を築いてきた1人だからこそ、新時代を担う選手たちに期待する。本拠地球場となるエスコンフィールドHOKKAIDOで、勝利を積み重ねていくことが新たな伝説につながっていく。
 「ファイターズに携われているときは、しっかりとした良いチームをつくっていきたいです。やっぱり勝たないとね、勝負事なので。勝つことに、もっともっと執着を持ってほしい。自分自身も含めて、チームとしてどうやったら強くなれるか、みんなで考えていかないといけない。そして、北海道にチームがあるという意義を、今以上に持ってほしい。選手たちはやはり影響力がある。野球だけではなく、社会貢献活動も含めて『ファイターズが北海道に来てくれてよかった、元気がもらえるし』と言われる球団を目指さないといけない」
 熱い思いをこぼした後、20年後の稲葉篤紀を想像してみた。「一ファンとして、試合を観に来ているかもしれないですね。ヤジっていっているかもしれない。『走れー!』って(笑い)。でも、着実に階段をのぼり、接戦で勝てるようなチームになってきているので、楽しみですよ」(おわり)

6月30日から北海道20年を振り返るシリーズ

 北海道日本ハムファイターズでは6月30日(金)から7月13日(木)まで、北海道誕生20年を記念した《HOKKAIDO 20th MEMORIAL SERIES》を開催する。その期間に合わせ、ここで20年の歴史を紐解くとともに、未来のファイターズに思いを馳せることにしたい。

【ⒸH.N.F.】

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