泥臭くチームに貢献。 PG 小西聖也のルーキーイヤー
そう語るのは、ルーキーシーズンを終えた小西聖也(ポイントカード)だ。ディフェンスでのハードワークを武器に京都ハンナリーズの躍進のキーマンとなった。
2021-22シーズン、関西学院大学4年生時に特別指定選手としてチームに加入。わずか13試合の出場に終わったが、プロとして本格的にキャリアをスタートさせた2022-23シーズンは56試合に出場。スタッツには表れないアグレッシブなプレーで出場機会を掴むと、懸命な姿勢でチームに大きなエナジーを与え続けた。
【©京都ハンナリーズ】
スタッフ陣も認める献身的なプレースタイル
「彼は本物の努力家。探求心がある。自分が上手くなるために、チームが良くなるために自分を犠牲にできる。プロのバスケットボール選手と言うよりもプロのスポーツ選手、アスリートとして素晴らしい素質を持っている。それをルーキーの時点で兼ね備えているのは凄いこと」。
その献身的な姿勢をロイ・ラナHCも評価。徐々に信頼を積み上げ、シーズンを追うごとにコートに立つ時間が増えた。
「チャンスを掴むために試行錯誤して、考えながらバスケットに取り組みました。自分の良さをロイHCが引き出してくれて、そこから徐々にプレータイムを得ることができて。試合に出ないことには、B1の強度やプレーしていく感覚を肌で感じることができません。実戦で得た経験はとても大きかったです。声出し応援も解禁になったので、会場の温度感や空気もよくわかりました」。
試合に出ることでしか得られない経験を積むことが小西にとっては重要で、試合に出るために日々の生活でもバスケットボールのことを考える時間が増えたと言う。
「ロイHCも『よくフィルムを見ろ』と常々言っていますし、今までよりも考えて映像を見るようになりました。自分のためになる時間が明らかに増えましたね」。
時間があれば自身のプレーや対戦相手の動画を細かくチェックした。
それだけではない。練習がオフの日でもジムに足を運び、トレーニングに励んだ。チームのトレーニングを統括している竹田ストレングス&コンディショニングコーチも小西の姿勢に目を細める。
「彼の最大の魅力はハート。厳しいことや辛いことに打ち勝つ心の強さがある。根本にその強さがあるから、トレーニングも最後まで逃げずにやり遂げる。その姿勢はフィジカルのデータの数値にも繋がっていて、フィジカルの面でも大きく伸びている」。
自分自身のために、チームの勝利のために、バスケットボールと真正面から向き合い続けた。
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千葉ジェッツ・富樫勇樹選手とのマッチアップで得たもの
「富樫選手(勇樹/千葉ジェッツ)に3ポイントシュートを決められた時ですかね。シュートを決められて同点になって、延長戦にもつれ込んで負けた試合です。自分が富樫選手のディフェンスを任されていたので責任を感じました。『あの時ファールをしてれば』と考えたり、左から右のクロスオーバーは富樫選手の得意なムーヴ。その形で決められて。後から思うことが多くありました。悔しかったですね。試合に出ている以上は責任がありますし、そこに関してはルーキーだからとか、経験が少ないとかは関係ないです。ただ、『これだけはやられてはいけない』というミスをしたことで、これからはあのようなシーンでも対応できるように、事前の準備や想定をしっかりした上で最大限のプレーをしなければ通用しないと思いました」。
プレーヤーとしての成長には失敗も必要不可欠だ。日本のバスケットボールを代表する”富樫勇樹”とコート上で対峙したことで大きな収穫を得た。
【©B.LEAGUE】
その成長について井堀アシスタントコーチが語る。
「シュートの技術、状況判断、あらゆる面で成長している。雑で荒々しいプレーが学生時代は多々あったけど、それが無くなってきた。身体を張ったプレーが注目されつつあるけど、その部分は学生の頃からの魅力。同じポイントガードの久保田義章のような魅せるプレイヤーではないし、バスケットボールに詳しくない人が見たら聖也は地味な存在かもしれない。でも絶対的にチームに必要な存在で、チームに欠かせない大切なピース。大きな歯車としてチームを動かしている。寿命の長い選手になっていくのではと感じる。まだまだ課題はあるけど、時間と経験が解決してくれるはず。瞬間、瞬間に全力で100%を出すプレーは簡単にできることじゃないが、彼はそれができる。そこが一番凄い部分」。
まだキャリアは始まったばかりだが、若きポイントガードを評価するのは井堀ACだけではない。小西を知る多くの人が明るい将来を予想している。
チームの編成を担当する渡邉拓馬ゼネラルマネージャーもそのひとりだ。
「成長と言うよりかは、彼の良さが出たシーズンだったと思う。具体的に言うと、バスケットボールIQやボールへの反応。そして折れないメンタル。もともと光っていた部分がコートの上で出ていたし、ファンの皆様にも良いところを知ってもらえた。彼自身の成果でもあるし、魅力を引き出したロイさんやコーチ陣の成果も大きい。試合以外の見えないところでも、プレータイムが少ない選手を誘って一緒にワークアウトをしたり、そういった人間性も彼の魅力。色んなきっかけでまだまだ成長できる」。
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小西が語る、自身の魅力と成長の要因
「タフな部分が大きく評価されていると自分では思っています。特にディフェンス。どちらに転ぶかわからないルーズボールを必死に取ってきましたし、そこには自信があります。泥臭さと言いますか」。
続けて、今後の課題についても言及した。
「そこにプラスして得点力をもっと伸ばして、オフェンスに絡んでいけば自分も良い選手になれると感じています。そうなるためには、まずはオープンなシュートを確実に決めていく。ポイントカードとして絶対的に必要な能力です。自分が得点を挙げることができれば相手の脅威にもなりますし、味方の選手も更に生かすことができます。2022-23シーズンは、自分が得点を挙げることよりも味方の選手が得点を挙げる場面を作るプレーが中心でした。それに加えて自分が起点になって得点を挙げていく場面を作っていきたいです。ただ、前提としてディフェンスでのタフな部分を続けていくことが大切で、そこはこれからも忘れないようにプレーします」。
ロイHCの就任やチームスタッフの増員など、チームの環境の変化も成長を支える大きな要因となった。
「ロイHCが就任してからチームルールが多く増えました。凄く多いですよ(笑)。でも、その数多いチームルールを徹底させたり、浸透させる力がロイHCは凄いです。練習から細かい部分を徹底的に確認しています。プレイヤーとしては、そこを徹底できないと試合には出られないですし、全員が入念にチェックしています。リーグの中でもチームとしてのディフェンスは比較的良い方に成長したと思っていますし、ボールマンに対してのディフェンスは昨シーズンに比べて確実に良くなっています。ロイHCの徹底力は、勝ち星が増えたことにも直結しています。ロイHCだけじゃないです。スタッフ陣も増えて、それぞれの役割が明確になり、個人として自分に時間を作ってもらえる機会が増えました。バスケットボールの技術面、戦術面、ストレングスに関すること、リカバリーのこと、それぞれの分野でチームスタッフの方々が自分と向き合ってくださって成長することができたのですごく感謝しています」。スタッフへの感謝の言葉を口にした。
【©京都ハンナリーズ】
「60試合戦い抜くことがどれだけタフなことかを身をもって知りました。怪我なくシーズンを終えることが重要です。それと、チームの完成度。京都は後半になればなるほど良いチームになっていきました。そこの完成度をもっと早く高めていかないと良い成績は残せないです。個人が良くてもチームとして結束しないと勝てません。シーズン序盤は各々が勝手に1対1を始めたりして、納得できないままコートでプレーする選手も多かったと思います。でも最後は本当の意味での『チーム』になりました。シーズン終盤は『この場面で誰がどこでボールが欲しい』という共通理解をチーム全員が持っていましたし、『この人がここでシュートを外したなら仕方ない』とお互いに信頼できているシーンが増えました。来シーズンはもっと早く完成度を高めるために良いコミュニケーションを積極的に取っていきます」。
【©京都ハンナリーズ】
応援を受けて芽生えたプロとしての自覚
「新しい選手も加入して、メンバーも変わります。プレータイムをもらえる保証もありません。また1からのスタートです。そこは競争なのでプレータイムを得られるように準備をして、信頼を勝ち取れるようにハードワークします。横浜ビー・コルセアーズがCSに初めて進出したように、自分達もそうなりたいですし、そうなるためにはチームが結束することが重要です。自分はまだまだ年齢的にも若いですけど、チームメイト・スタッフと良いコミュニケーションを取って勝利のためにバスケットボールをします」。
小西は力強く言い切った。
プロバスケットボール選手として全力で駆け抜けた初めてのシーズン。多くの応援を受けたことでより一層の自覚が芽生えたと言う。
「『応援されている』と感じる機会が増えました。飲食店でも声を掛けてもらえる機会が増えましたし、イベントでも多くのブースターの皆様が足を運んでくれたり、ホームゲームでも明らかにお客様が増えて『自分はプロバスケットボール選手になったんだ』と心から実感できました。でもそれはチームの選手だけの力だとは思っていません。フロントスタッフの方々が、オフシーズンもシーズン中も常にチームのために尽力してくださったお陰です。すごく感謝しています。だからこそ、全員で勝ちたいですし、多くの皆様に喜んでもらえるように自分も頑張ろうと原動力になっています。僕は京都の高校で育ちましたし、京都の街も好きです。プロに憧れて、プロを目指してここまで来ることができました。自分自身も子どもたちにそう思ってもらえるようにプロ選手として成長していきたいです」。
京都の名門・洛南高で揉まれ、全国のレベルの高さを知った。大学も関西に残り、関東の名門大学に勝ちたいと関西学院大で腕を磨き、京都でプロのキャリアをスタートさせた。他クラブにもルーキーながら存在感を発揮し、B1の世界で小西以上の結果を残している選手も少なくない。
しかし、23歳の若武者の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
京都から全国区のプレーヤーへ。更なる飛躍を目指して泥臭く、小西らしく、登り続ける。
取材・執筆
京都ハンナリーズ広報部 笠川真一朗
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