【神戸スティーラーズ特別連載第5回/RWC2023フランス大会〜神戸から夢の舞台へ】 「兄の夢を叶えるためにも、日本代表としてラグビーワールドカップに出場したい」 LOサウマキ アマナキ

チーム・協会

【コベルコ神戸スティーラーズ】

5月24日、日本代表および日本代表候補メンバーが発表された。コベルコ神戸スティーラーズからは、PR具 智元、LOサウマキ アマナキ、SO李 承信、FB山中 亮平の4選手が日本代表に選出。6月12日から合宿がスタートし、「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」出場をかけた代表メンバー33人枠の争いが本格的にはじまる。昨年夏、日本代表候補に初めて選ばれながらも怪我で戦線離脱したサウマキは、「今度こそチャンスを活かしたい。桜のジャージを着てテストマッチに出たい!」と意気込む。子どもの頃、隣の家のテレビで見た「ラグビーワールドカップ2007」。ずっとこの舞台でプレーしたいと思っていた。26歳の若きFWプレイヤーは自らの力で夢を現実に変える。(取材日:2023年5月28日)

FWへのコンバートが転機

「また日本代表に呼んでもらえて嬉しいです」と、グラウンドで見せる厳しい表情と違って、はにかみながら話すのは、「ナキ」こと、サウマキ アマナキ。
兄は、「トンガン・ゴジラ」の異名を持つ、WTBホセア・サウマキだ。5歳上のホセアは、大東文化大、キヤノンイーグルス(現・横浜キヤノンイーグルス)、サンウルブズで活躍。日本代表を目指すも、7人制トンガ代表としてプレーしていたことがあり、代表資格を得ることができずに2021年横浜Eを退団。現在は、イギリスでプレーする。
「兄にはすぐに連絡しました。とても喜んでくれました!」
出身はトンガ・ヴァヴァウ諸島。首都ヌクアロファから船で1日。ハラフリ村という人口1000人ほどの小さな村で生まれた。ナキが、日本でプレーすることになったのは、大東文化大でプレーする兄の記事がラグビーマガジンに載ったことがきっかけだ。記事の中で弟がいることが紹介され、それを読んだ横浜Eのスカウトが村にやって来た。兄と相談し、日本でチャレンジすることに決め、高校卒業後、ホセアより1年早く横浜Eでプレーすることに。入団当初は、ウイング。しかし、なかなか出番に恵まれない。
ラグビー人生が好転するのは、入団5年目の2020年シーズン。サントリーサンゴリアス(現・東京サントリーサンゴリアス)を2016年から2018年まで指揮した沢木 敬介氏が監督に就任する。沢木氏に勧められ、FWにコンバート。また、プライベートでは、一目惚れしたという女性と結婚し、子どもにも恵まれた。守るものができ、意識が変わった。FWでプレーするにあたり、体重を10キロ増量。トレーニングがきつく、どんなに食べても痩せるので、「内緒でジャンクフードをたくさん食べましたね」と、当時を振り帰り笑うも、パワーアップしたナキは、そのシーズンの「トップリーグ2021」第5節で後半56分から出場し、公式戦デビューを果たす。
「FWに転向したことはターニングポイントになりました。来日してからずっと兄と一緒に日本代表を目指してはいましたが、僕自身は試合に出られなくて、自信を失いかけてしました。FWでプレーするようになってから、自分の力を信じられるようになったんです。本気で日本代表を目指そうとマインドセットが変わりました」

怪我を乗り越えて、今季11試合出場

FW転向2年目のリーグワン初年度は、ロックで14試合に出場。シーズン終了後に、横浜Eのチームスタッフから「日本代表に呼ばれるかもしれないよ」と声をかけられたそうだ。
「正式に発表されるまで信じられなかったです。ずっとドキドキしていて、スタッフから代表に選ばれたと連絡があった時は、本当に嬉しかったですね」
しかし、シーズン中に負傷していた右肩が、代表合宿中に悪化し、離脱を余儀なくされる。
「悔しい気持ちはありましたが、手術して、リーグ戦で活躍して、また選ばれるように頑張ろうと思いました」というナキは、7月上旬に手術を受け、神戸スティーラーズへ。
「『神戸ラグビー』に触れることで、プレーの幅を広げたい」という思いから移籍を決めたという新天地には、ギプスをした状態で合流し、リハビリに打ち込んだ。
復帰戦は、1月21日、リーグワン第5節クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦となった。フランカーで出場し、持ち味であるパワフルな走りを見せ、1トライをマーク。試合には敗れるも、手応えを感じた。
神戸で開催の第12節NECグリーンロケッツ東葛戦は、人生で初めてというナンバーエイトで出場。ラインブレイク3回、ディフェンス突破10回、ゲインメーター111と、チームトップの数字を叩き出し、プレイヤーオブザマッチに選ばれた。その後も「8番」を付けて、グラウンドに立った。
今シーズンは、フランカー、ナンバーエイトで、11試合に出場したが、日本代表では、ロックでの選出だ。日本代表ロックは、201cmのワーナー・ディアンズ(東京ブレイブルーパス東京)を筆頭に、190cm台の選手が顔をそろえる。189cmはロックとしては決して大きくはない。
「身長がないのはわかっています。その分、ほかのロックと比べて、ボールキャリーでは絶対に負けないようにしたいです。ジェイミー(・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)からはボールを持っていない時の動きとディフェンス面をレベルアップしてほしいと言われていますので、そこを伸ばすように意識して取り組んでいきます」

「NTTリーグワン2022–23」第12節NECグリーンロケッツ東葛戦は自身にとって初となるナンバーエイトで出場し、プレイヤーオブザマッチに選ばれた。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

日本代表としてW杯に出ることが恩返しになる

いつか着たいと思っていた桜のジャージ。実は、昨年夏、選手名鑑の撮影のため、一度だけ袖を通した。その時のジャージはプレゼントされ、日本代表を常に意識するようにとの思いからハンガーに吊るして部屋に飾ってある。
そして、今、「日本代表のジャージを着て、テストマッチに出ることが夢なので、ファーストキャップの時は泣いてしまうかも」と、テストマッチで代表ジャージを身にまとう自身の姿を想像する。もちろん、ファーストキャップは通過点。その先には、日本代表としてラグビーワールドカップに出場するという大きな目標がある。
子どもの頃、テレビがなかったので、隣の家で「ラグビーワールドカップ2007」を見た。小さなテレビに村の人が大勢集まり、決勝トーナメント準々決勝オーストラリア代表vsイングランド代表戦を見たことをよく覚えているという。
「この場所でプレーしてみたいな」
当時10歳だったナキ少年は、強く思った。
それから4年後、日本代表が南アフリカ代表に勝利した「ラグビーワールドカップ2015イングランド大会」は、首都ヌクアロファにあるトンガカレッジで寮生活を送っていたこともあり、寮を抜け出して、友達の家で観戦した。
「まさか日本が勝つとは思っていなかったので、びっくりしました。その試合で、マフィ(アマナキ・レレイ・マフィ)のことを知りました。トンガ人が活躍していて、すごいなと思いました」
今度は、ナキが故郷の子どもたちにそう思われる番だ。兄が目指した日本代表のジャージを着て、ワールドカップの大舞台で活躍する。それが、日本でプレーするチャンスを与えてくれた横浜Eをはじめ、自身を支えてくれる、すべての人たちへの恩返しになる。
「兄はナキが自分の夢を叶えてくれると言って、応援してくれています」
兄のため、日本のためにも、ラグビーワールドカップに出たい。
「メンバーに選ばれる自信はあります!自分の力を信じています」

取材・文/山本 暁子(チームライター)

サウマキ アマナキ(Amanaki Saumaki)
1997年3月8日生まれ、トンガ・ヴァヴァウ出身。189cm・108kg。6歳からラグビーをはじめ、トゥポウカレッジ卒業後、2016年度、キヤノンイーグルス(現・横浜キヤノンイーグルス)へ。2021年シーズン、BKからFWへ転向し、公式戦デビュー。2022年春には日本代表候補候補に入るも、怪我で戦線離脱することに。同年、コベルコ神戸スティーラーズに移籍を果たす。今シーズンは11試合に出場。大東文化大を経て、横浜E、サンウルブズでWTBとして活躍した5歳上の兄、ホセア・サウマキは実兄。


日本代表にはロックで選出された。FW第3列での経験をいかし、「ボールキャリーでは絶対に負けない」とナキ。子どもの頃は、元ニュージーランド代表キャプテン、リッチー・マコウに憧れていたという。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

バックナンバーはこちら↓
【第1回】「『出たい』から、『出ないといけない』という気持ちになってきた」
日本代表の司令塔争いに挑む、李承信の決意
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202301310032-spnaviow

【第2回】 「代表活動の“集大成”にしたい」山中 亮平のW杯への思い
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202302270063-spnaviow

【第3回】「個人としても、チームとしても、前回大会を超えたい!」
度重なる怪我を乗り越えて、復帰を果たした具 智元、W杯に向けて本格再始動
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/2023033000025-spnaviow

【第4回】山下 裕史、日和佐 篤 ラグビーワールドカップ2015イングランド大会「ブライトンの奇跡」を語る
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/2023042600014-spnaviow

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著者プロフィール

兵庫県と神戸市をホストエリアとして、日本最高峰リーグ「NTTジャパンラグビー リーグワン」に参戦しているラグビーチーム「コベルコ神戸スティーラーズ」。チームビジョンは『SMILE TOGETHER 笑顔あふれる未来をともに』、チームミッションは『クリエイティブラグビーで、心に炎を。』。 ホストエリア・神戸市とは2021年より事業連携協定を締結。地元に根差した活動で、神戸から日本そして世界へ、笑顔の輪を広げていくべく、スポーツ教室、学校訪問事業、医療従事者への支援など、地域活性化へ向けた様々な取り組みを実施。また、ピッチの上では、どんな逆境にも不屈の精神で挑み続け、強くしなやかで自由なクリエイティブラグビーでファンを魅了することを志し、スタジアムから神戸市全体へ波及する、大きな感動を創りだす。 1928年創部。全国社会人大会 優勝9回、日本選手権 優勝10回、トップリーグ 優勝2回を誇る日本ラグビー界を代表するチーム。

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