【ラグビー/NTTリーグワン】ファフ・デクラークと田村優。名手2人が見せたビッグプレーが史上最高順位をもたらした<横浜E vs 東京SG>

横浜キヤノンイーグルス 田村優選手 【©JRLO】

マッチエピソード&記者会見レポート
横浜E 26-20 東京SG

NTTジャパンラグビーリーグワン2022-23プレーオフトーナメント準決勝で昨季王者の埼玉パナソニックワイルドナイツに敗れた横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)は、東京サントリーサンゴリアス(東京SG)との3位決定戦に臨み、26対20のスコアで接戦を制した。横浜Eにとって、3位はチーム発足以降、「史上最高順位」(安昌豪)。試合後の横浜Eフィフティーンは、試合外メンバーである“ライザーズ”とともに、勝利の歌で3位の喜びを共有していた。

プレーオフトーナメントに臨む前、田村優はあることを心に誓っていたという。

「プレーオフトーナメントの2試合は、僕とファフ(ファフ・デクラーク)がほかの選手にはできないことをやらなければいけないと思っていた」

南アフリカ代表のスクラムハーフと日本代表のスタンドオフで形成する“縦のホットライン”。今季、二人が奏でるハーモニーは対戦相手を大いに苦しめてきたが、東京SGとの3位決定戦は、田村の心の誓いを実証するかのように、それぞれが異次元のプレーでチームを勝利に導いた。

例えば後半6分。ファフ・デクラークは7対15という劣勢の中、ワールドクラスのプレーで秩父宮ラグビー場の観衆を魅了した。モールの展開からボールを引き出したファフ・デクラークは、対峙した相手にワンフェイントを入れてボールを運ぶと、前方にボールを蹴り出し、そのボールを自らが回収。そのままトライまで持ち込んだ。

「チャンスだと思ったので、躊躇せずにあのプレーを選択した」

劣勢の空気感を覆す“ビッグプレー”。このスーパートライで「チームにエナジーを与えた」ファフ・デクラークは、自らが逆転に向けた“起爆剤”となった。

そして、勝負を決定づける逆転トライを導いたのが田村だ。後半26分だった。梶村祐介のパスを受けた田村は相手をあざ笑うかようなチップキックでグラウンダーのパスを小倉順平に通すと、最後は松井千士がこの日2つ目のトライを奪った。スコアは24対20。さらに小倉がコンバージョンゴールも決め、横浜Eが3位決定戦を制した。

ノーサイド直後、「もう体がしんどかった」ファフ・デクラークも、殊勲の田村も、一歩も身動きが取れなかった。ピッチに膝をつき、しばらく立ち上がれなかったファフ・デクラークと田村。その光景は、2人のスター選手がチームの勝利のために、すべてを出し尽くした証だった。

(郡司聡)

【©JRLO】

横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督

――後半は攻め合う中でも、東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)を相手に勝ち切ったことは感慨深いのでは。
「自分たちが1シーズン取り組んできたことや1つの成長を、仲間やファンの方々に見せようと1週間準備をしてきました。いつもであればトライを取られたあと、ズルズルといきそうな時間帯でもカジ(梶村祐介)たちリーダーが引っ張りながら耐えることができました。それは成長したことです」

――史上最高の3位を獲れたこと、一度も勝てていなかった東京SGに勝てたこと、田中澄憲監督に勝てたこと。どれが一番うれしいですか。
「新しい景色を見られたことと、チームが成長した姿を見せてくれたのは喜ばしいことです。僕やカジが元サントリー(東京SG)所属だとか、そういうことは関係なく、サントリー(東京SG)に対しては、すごく苦手意識があったと思います。接戦に持ち込めるけど、勝てない。それが強いチームということなのでしょうけど、公式戦に勝ったことでさらに自信がつくと思います」

――ファフ・デクラーク選手と松井千士選手の今日の出来はいかがでしたか?
「キックオフで松井のサイドに蹴って、そのボールをダイレクトで取ってトライするという戦術を狙っていたのですが、それをまだできていないので、松井はまだまだだと思います。でも良かったと思います。今日のファフは、ファフ・デクラークでした」

――試合後には「ライザーズ(ノンメンバーのチーム内での呼称)おめでとう」という言葉がありました。その胸の内を聞かせてください。
「前日練習後にメンバー外の選手たち(ライザーズ)は泣いていました。チーム愛がすごく出てきたなと思ったので、みんなで勝ち取った勝利です」

――例えば松井選手は最初の東京SG戦で先発出場しても、パフォーマンスは芳しくなかったですし、またチャンスが巡ってきても決して良いプレーはできていませんでした。でも信じて使い続けて、今日こうして結果を残しました。松井選手が代表的な選手というわけではないですが、なぜそこまでライザーズのメンバーを信じることができるのでしょうか。
「それは松井うんぬんではなく、僕の我慢強さではないですか(笑)。力があることは若いころから知っていましたし、7人制日本代表でプレーして、そこから15人制に戻ってきても、なかなかフィットしませんでした。確かにチャンスは与えましたが、それをつかみ取るかどうかは、本人次第です。今日みたいな出来を毎試合、フィジカルの面でも発揮しないと、もっと上のステージの選手になれないと思います。いまはそのための良い期間になっていると思います」

――梶村キャプテンの働きぶりはいかがでしたか。
「今日の試合はフィジカルやタックルの部分で良いレベルでプレーしてくれました。あのレベルのプレーを毎試合やってもらうぐらいにならないと。ただ、キャプテンをやるといろいろなプレッシャーもあるし、ミーティングの準備や話す言葉など、いろいろなことを先回りしてやらないといけない立場です。どういう発言をすべきか。考えることも多いですが、それによって成長できます。そのプレッシャーを力に変えることができれば成長のスピードも速くなると思います。まだカジはキャプテン1年目で何が大事か、そういうことにも慣れてきていると思います。さらに良いリーダーになると思います」

――東京SGのパフォーマンスはどう見えましたか。
「良い若手選手がたくさんいますし、今日の試合も若手の選手をたくさん起用して、若手を育てようという姿勢が見られます。準決勝でもクボタスピアーズ船橋・東京ベイと、あれだけのゲームをしているわけですから、もっともっと良くなると思います」

――今後の横浜キヤノンイーグルスはどんなところに成長の余地がありますか。
「すべてにおいて、成長の余地があると思います」

――1シーズン、応援していただいたファンのみなさんへメッセージをお願いします。
「ファンのみなさんの力を感じた1年でした。とても感謝しています。日曜日にファンのみなさんとの感謝祭もありますし、その場で感謝の気持ちを直接伝えたいと思います」

横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン

――3位になったのもうれしいことだとは思いますが、古巣を相手に3位を勝ち取れたことに対してはどんな思いでいますか。
「横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)として、1つのターゲットだったトップ4入りを果たせましたが、さらに上の順位を獲りたいというチームの空気感もありました。ただ、3位という成績はチームにとって大きなことだと思います。また、古巣である東京サントリーサンゴリアスさん(以下、東京SG)は、ほかのチームと対戦するときとは違うモチベーションになる相手です。そういう意味でも勝ったことがない相手にプレーオフトーナメントという舞台で勝てたのも大きいことだと思います」

――3位決定戦の相手が東京SGになったことは、さらなる発奮材料になったのでしょうか。
「ほかのチームメートも東京SGには負けたくないという気持ちはありましたし、『この1年間で積み上げてきたことを出していこう』と、その上で『勝って終わろう』という話はしてきました」

――1シーズン、キャプテンを務めたことで得られたものはどんなことでしょうか?
「横浜Eは僕以外にもリーダーを経験してきた選手が多いチームなので、グラウンドで一番チームを引っ張っていきたいと思っていました。言葉でどうこうではなく、パフォーマンスで引っ張ることは意識してきました。昨季よりは試合ごとの波は減ったと思いますし、チームを引っ張るという意味でも、少しずつ良くなっていったシーズンになったと思います」

――今日のファフ・デクラーク選手について。
「今日のファフ(・デクラーク)はいつも以上にフォワードの選手にプレッシャーを掛けていました。また、『スイッチを切るな』と、自分たちのフォワードの選手にずっと言っていました。いつもであれば、緩んでしまうような時間帯でも、彼がそうやって働き掛けることによって、80分間チームをコントロールしてくれました。練習では特に言葉を発するタイプではないですが、試合では常にチャンスをうかがっているので、そういったアグレッシブな姿勢がチームに良い影響を与えたと思います」

――1シーズン応援していただいたファンのみなさんへメッセージをお願いします。
「1シーズンをとおして、ファンのみなさんの熱量をとても感じました。それはホストゲームでも、ビジターゲームでも感じたので、感謝しています。来季はもっと上の順位を目指していきますので、また熱い応援をお願いします。1シーズン、ありがとうございました」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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