【記録と数字で楽しむ第107回日本選手権】男子5000m:至近3年の「表彰台占有率78%」の遠藤vs松枝vs坂東に誰が絡むか?
【フォート・キシモト】
各種目の「2023年日本一」を決める試合であるとともに、8月にハンガリー・ブダペストで行われる「ブダペスト2023世界選手権」、7月のタイ・バンコクでの「アジア選手権」、9月末からの中国・杭州での「アジア競技大会」の日本代表選手選考競技会でもある。また、「U20日本選手権」も同じ4日間で開催される。
本来であれば全種目についてふれたいところだが、時間的な制約のため10種目をピックアップしての紹介になったことをご容赦いただきたい。また、エントリー締め切りは5月15日であるが、この原稿はそれ以前の10日までに執筆したため、記事中に名前の挙がった選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれないことをお断りしておく。
過去に紹介したことがあるデータや文章もかなり含まれるが、可能な限り最新のものに更新した。
スタンドでの現地観戦やテレビ観戦の「お供」にして頂ければ幸いである。
なお、「10000m」の日本選手権は12月10日に国立競技場で、「混成競技」は6月10日・11日に秋田で、「リレー種目」は10月7日・8日に国立競技場で行われる。また、「競歩」は「20km」が2024年2月18日に神戸で開催。2022年度からかつての50kmから距離が変更された「35km」は先日4月16日に輪島で行われた。「マラソン」は、10月15日に日本選手権を兼ねたパリオリンピックマラソン日本代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」が行われる。
「世界選手権」「アジア選手権」「アジア競技大会」の代表選考要項は、
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15943/
現時点での「ブダペスト世界選手権参加資格有資格者一覧」は、
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17055/
選考に関わる世界陸連の「WAランキング」は
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17277/
をご覧頂きたい。
・記録は、5月5日判明分。
・記事中の「WAランキング」は5月2日時点のもの(毎週火曜日に発表されるので、できる限り最新のものを盛り込みたいところだが、原稿の締め切りの都合で5月2日時点のものとした)。
・記事は、5月5日時点での情報による。上述の通り、エントリー締め切り5月15日以前に書いた原稿のため、記事に登場する選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれない。また、競技の実施日は確定しているが具体的なタイムテーブルとエントリーリストは5月19日に公表される予定である。
・現役選手については敬称略をご容赦いただきたい。
なお、日本選手権の期間中、ここで取り上げることができなかった種目以外の情報(データ)も日本陸連のSNSで「記録や数字に関する情報」として、その都度発信する予定なので、どうぞご覧くださいませ。
※リンク先は外部サイトの場合があります
【男子5000m】
至近3年の「表彰台占有率78%」の遠藤vs松枝vs坂東に誰が絡むか?
大会初日、男子のトラック競技では唯一決勝が行われる種目だ。
ブダペスト世界選手権参加標準記録は「13分07秒00」で大迫傑(ナイキ)が2015年にマークした日本記録(13分08秒40)を上回る。
21年の東京五輪には富士通コンビの松枝博輝と坂東悠汰、22年オレゴン世界選手権には遠藤日向(住友電工)が出場した。
21年と22年の日本選手権は、ともに遠藤が制し2位は松枝だった。遠藤も松枝も、日本選手権では非常に安定した成績を残してきている。
遠藤と松枝に20年に勝った坂東を加えた5000mの日本選手権での成績は以下の通りだ。
【JAAF】
今回もこの3人、とりわけ2連勝中の遠藤と3年連続2位の松枝が中心になり、これに坂東が絡んでくる展開になるのかもしれない。
あるいは、後述の10000mで好記録を保持する選手などもここに加わってくるかもしれない。
遠藤・松枝・坂東の1500m・3000m・5000m・10000mの自己ベストは以下の通り。
( )内は、23年5月4日現在の日本歴代の順位を示す。
【JAAF】
【アフロスポーツ】
この時の1000m毎(非公式計時)は、
【JAAF】
このラスト1000mは、それまでの展開にもよるが、五輪や世界選手権の入賞争いでも十分に通用するスピードだ。
このレースでは、4000mまでアフリカ勢が形成する十数人の集団の後方で、先頭から2秒弱ほど遅れた位置にいた。残り700mあたりから徐々に上がっていき、ラスト450m付近で先頭に立った。
最後の1周の100m毎(非公式計時)は、
【JAAF】
そして、ベスト記録が12分59秒台の選手を筆頭にレース前までの遠藤のベスト13分16秒40を上回る自己記録を持っていた7人を含む17人のアフリカ系選手をラスト勝負で抑え、2位に4mあまりの差をつけて勝ち切ったのだった。
2連勝を決めた22年日本選手権も4200mからの一気のスパートで勝負を決めた。
そのラスト800mの100m毎は以下の通りだ(非公式計時)。
【JAAF】
ラストに切れがある遠藤に対して、他の選手がどんな展開や対応をしてくるかも注目ポイントだ。
10000mを得意とする選手が参戦してくれば勝負は一層面白くなりそうだ。
27分30秒以内のタイムを保持し同種目の日本歴代上位に並び、5000mの日本選手権参加標準記録(13.36.00)もクリアしている田澤廉(トヨタ自動車/13.22.60=22年)、伊藤達彦(Honda/13.17.65=23年)、田村和希(住友電工/13.27.56=22年)が出場すれば、当然のことながら優勝争いに絡んでくることだろう。とりわけ伊藤は、5月4日に3年前の自己ベストを16秒以上も更新して勢いがありそうだ。
【フォート・キシモト】
遠藤が3連覇を果たせば、この種目の連勝記録としては、
【JAAF】
21・22年は「富士通勢」が2年連続でトリオ入賞している。
8位までが入賞となった1989年以降での同一チームの3人以上入賞は、下記の通り。
【JAAF】
松枝、坂東以外の富士通勢では、18年に3000mSCで日本一になったことがある塩尻和也が元気だ。
2月26日の日本選手権クロスカントリーの10kmは29分15秒で優勝。三浦龍司(順大4年。当時は3年)に13秒差をつける快勝だった。
3月24日に3000m7分48秒56の自己新。
4月8日の金栗記念5000mでは最終組で日本人トップの13分26秒03で、佐藤圭汰、吉岡、坂東に先着。
5月4日のゴールデンゲームズの10000mでは27分46秒82で、3月に27分28秒04で走っている田澤廉(トヨタ自動車)に4秒以上の差をつけて優勝。
以上の通り、今年の塩尻は、2月から勢いに乗っている。
【アフロスポーツ】
23年5月4日のゴールデンゲームズinのべおかの最終組では佐藤と同学年の吉居駿恭(中大2年)が13分27秒33で実業団勢を抑えてトップでフィニッシュ。自己ベストを13秒あまり更新するとともに日本選手権参加標準記録の13分36秒00をクリアして、出場資格を得た。
佐藤と吉岡はともに2004年生まれで、2023年も「U20」の資格がある。「U20」の歴代1・2位の対決でもある。
また、2つ差の弟・吉居駿恭に自己ベストで2秒以内に迫られ、資格記録では上回られてしまった兄・吉居大和(中大4年/13.25.70=20年。資格記録13.29.35=22年)は日本選手権の舞台では兄の意地を見せたいところだろう。こちらは兄弟対決だ。
日本人学生最高記録は、16年前の07年に竹澤健介さん(早大。現、摂南大ヘッドコーチ)がマークした13分19秒00。そろそろ更新してもらいたいところである。
【アフロスポーツ】
22年のベストは13分39秒95だったが、5月4日の延岡で13分32秒36をマークして日本選手権参加標準記録(13.36.00)をクリアした。ただし、ターゲットナンバー(出場人数制限)が「30名」なので参加標準記録をクリアしていても、出場できなくなってしまう可能性もあるけれども……。
日本選手権では、エスビー食品時代の09年に1500mと5000mの二冠王に輝いている。
また、上野の長野・佐久長聖高校の1年後輩にあたる86年11月26日生まれの36歳・佐藤悠基(SGHG)も22年に13分33秒61で参加標準記録をクリアしている。佐藤も14年に5000mを制し、10000mでは11年から4連覇した。14年は5000mとの二冠だった。
5000mの日本記録保持者で91年5月23日生まれの32歳・大迫傑も佐久長聖高校の出身。こちらも22年に13分30秒23で参加資格がある。16年に5000mを制し、10000mは16年と17年を連覇している。
上野・佐藤・大迫のベテラントリオが出場してくれば、高校の後輩にあたる04年5月18日生まれの19歳・吉岡大翔と、佐久長聖高校OBによる「年の差対決」となる。吉岡は上野とは18歳差、佐藤とは17歳差、大迫とは13歳差だ。
【JAAF】
日本人による大会最高記録は2020年の坂東悠汰(富士通)の13分18秒49である。
至近3年間で各順位別の最高記録がマークされているが、今回もそれらのすべてが更新されそうなメンバーが揃いそうである。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
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