【神戸スティーラーズ特別連載第3回/RWC2023フランス大会〜神戸から夢の舞台へ】 「個人としても、チームとしても、前回大会を超えたい!」 度重なる怪我を乗り越えて、復帰を果たした具 智元、W杯に向けて本格再始動
【コベルコ神戸スティーラーズ】
特別な舞台で能力以上の力を発揮できた
「ワールドカップはほかのテストマッチとは違いました。ちょっと特別ですね」と語る。
いつもと違うと感じたのは、オープニングマッチとなったロシア代表戦。
具は、リザーブに入り、仲間と戦況を見つめた。先制したのはロシア代表。スタンドがどよめく。ベンチに座る具は、これまでに聞いたことがないような大歓声を聞いた瞬間、頭が真っ白になったという。
「これまでに経験したことがないくらい緊張して、パニックになりました。大会前に、ジェイミー(ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)から2015年のワールドカップを経験した選手から雰囲気などについて聞いておくよう言われていたんです。ミニチームに分かれて、フロントローの僕は、堀江(翔太)さんや稲垣(啓太)さん(両選手ともに埼玉パナソニックワイルドナイツ)と話をしました。二人とも、普段のテストマッチとは雰囲気がまったく違うと言われていて、その時はどう違うんだろうと不思議だったのですが、『これか!』と理解しました。言葉にうまくできないけれど、すべてが違いました。でも、ロシア代表戦の経験があったから、それ以降の試合では、気持ちを落ち着かせて、平常心で臨むことができました」
アイルランド代表戦ではスクラムの安定やフィールドプレーでも存在感を発揮。具の活躍もあり、日本代表は格上相手に大金星をあげた。続く、サモア代表戦、スコットランド代表戦も先発出場。しかし、スコットランド代表戦では、試合途中に負傷し、前半21分でフィールドを後にすることになった。
「決勝トーナメントは出ることができないと思っていたんですが、ジェイミーからチャンスをもらって、スタートから出場させてもらいました。痛みはありましたが、それよりもワールドカップに1試合でも多く出たいという気持ちの方が上でした。決勝トーナメントの南アフリカ代表戦は、前半、相手に要所でミスがあり、僕らは敵陣でのスクラムで反則を取ってPGを決めて、自分たちの流れだと思いました。結果的には3–26で敗れましたが、決して勝てない相手ではないと自信を持てたことが嬉しかったです」
『ラグビーワールドカップ2019日本大会』では、先発4試合を含む全5試合に出場。
「会場の雰囲気、チームの空気感が自分の能力以上のものを出させてくれました」
柔和な笑みを浮かべながら、そう述懐する。
4年後を見据えて、神戸スティーラーズへ移籍
しかし、新型コロナウィルスの感染拡大により、「トップリーグ2020」が中止に。その後、緊急事態宣言が発令され、チームはもとより、日本代表の活動も停止を余儀なくされた。兄(智允)とともにHonda HEAT(現・三重ホンダヒート)に在籍していた具は、
「大人数が集まることやチームのクラブハウスも使用禁止になっていたので、兄と2人、夜中に坂道を走るなど、できることをしていたんですが、先が見えなくて不安でした。だから、ラグビーができた時は涙が出そうなくらい嬉しかったです」と打ち明ける。
日本大会で良い経験をさせてもらったのだから、それを2023年につなげないといけない。使命感が具を動かした。
新リーグ「リーグワン」が設立にあたり、三重ホンダヒートは2部リーグにあたる「ディビジョン2」に振り分けられることになった。チームに残るという選択肢もあったが、2021年シーズンにコベルコ神戸スティーラーズへ。
「ホンダが好きだったので、チームを離れるのは辛かったのですが、より成長するためにディビジョン1のチームでプレーしたいと考えました。ホンダのスタッフも『智元が望むようにすればいい』と言ってくれて。それで神戸スティーラーズに移籍することに決めました。神戸スティーラーズには、平島(久照)さん(現・コーチ)やヤンブーさん(山下 裕史)といった日本を代表するようなフロントローの選手がいます。また、お2人以外にも体が大きい選手やパススキルに長けた選手も多く、そういうスキルも身に付けたいと思いました」
怪我を乗り越えて、オールブラックス戦で掴んだ自信
しかし、2021年秋の日本代表活動中に、違和感を感じた。ボールをキャッチしにくいな。右腕が上がりづらいな。トレーナーやドクターに相談するが、原因が判明しない。そのまま、ヨーロッパへと渡り、アイルランド代表とのテストマッチに先発出場するも、思うようなパフォーマンスを発揮できずに、チームも敗戦。続く、ポルトガル代表戦では足を負傷し、遠征は終了した。
神戸スティーラーズに合流後、足の怪我は完治したが、手の不調は消えなかった。万全のコンディションではない中で「リーグワン2022」開幕戦から出場も、本来のスクラムが組めずに、苦悩する日々。首に問題があることがわかったのは、2022年2月。その後、手術を受け、リハビリ生活へ。
「昨シーズンは、本当にきつかったです。これまでに怪我は何度も経験していますが、傷んだ箇所が明確だったので、リハビリをして治せばグラウンドに戻れる。けど、あの時は、『なんでだろう』と思いながら、手が使いづらい状況で試合に出ていて…。原因がわからないことが精神的にきつかったですし、周りの方々をがっかりさせてしまって、これまでで1番辛いシーズンになりました」
2022年夏の代表活動には、数日間だけ合宿に参加し、コーチやスタッフに手術からの回復具合を伝えた。垣永 真之介(東京サントリーサンゴリアス)、ヴァル アサエリ愛(埼玉パナソニックワイルドナイツ)、木津 悠輔(トヨタヴェルブリッツ)といったライバルたちの活躍に、強い危機感を感じたというが、まずはコンディションを戻そうと、黙々とリハビリとトレーニングに取り組んだ。
代表復帰は、2022年秋。満員の新国立競技場で開催されたニュージーランド代表戦だ。右手の感覚は、まだ50パーセントくらいだったというが、「スクラムも、フィールドプレーも意外と良くて、完璧に治れば、もっと良いプレーができるんじゃないかと思いました。オールブラックス戦は、自信になりました」と手応えを感じた。
ラグビーワールドカップに出たいと思ったのは、高校2年の時のことだったとか。九州代表に選ばれ、そこで10年後に日本大会があることを知り、その舞台に立ちたいと決意した。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
格闘技を通じてメンタルを強化し、フランス大会への切符を掴む!
「スクラムを組む時、相手とのギャップがいつも以上にあると感じたんです。こんなに相手と距離があって組めるのかなと思ってしまって、それで組んでは落ちてを繰り返して反則を取られてしまいました」
ハーフタイムには、長谷川 慎スクラムコーチからギャップを気にせず、強気で組むように声をかけられた。後半は対応できたというが、遠征後、ジョセフヘッドコーチからはメンタル面が課題だとフィードバックを受けた。
そして、チームに戻り、ワールドカップイヤーのリーグワンに向けてアピールしようと思った矢先に、プレシーズンマッチで負傷。その後も、怪我を繰り返し、ようやく第9節埼玉パナソニックワイルドナイツ戦で復帰を果たした。
「垣永さんはスクラムも強いし、ジャッカルもうまい。リーグ戦でも絶好調です。アサエリさんは今、怪我をしていますが、出場した試合は、良いパフォーマンスを発揮しています。ほかにも、木津、竹内(柊平/浦安D-Rocks)と、3番はライバルが多いです。もっと頑張らないといけないと焦りはあります」
今年2月には日本代表のミーティング合宿が行われた。その時はリハビリ中でまだ試合に出ていなかったこともあり、ジョセフヘッドコーチからは再びメンタル面について言及された。メンタルを強くすることを目的に、復帰後は、総合格闘技のジムへと通う。
「格闘技をしていると、クソっと向かっていく気持ちが湧いてきます。メンタルを鍛えるには、格闘技はすごくいいなって。ジェイミーからはスキルやフィットネスなどは問題ないと言われていますが、タックルの激しさをもっと出すようにと、気持ちの面を指摘されるので、その部分を克服し、ワールドカップに出場できるよう頑張ります」
試合には敗れてしまったが、チームで久しぶりに『3番』を付けて出場した第13節クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦は、闘志を前面に出して戦う具の姿があった。
出場すれば、29歳で迎えることになる『ラグビーワールドカップ2023フランス大会』。
「スクラムでも、ワークレートでも、前回大会を超えるようなパフォーマンスを発揮したいですし、チームとしてもベスト8以上の成績を残したいです!」
夢の舞台に立つため、何度も怪我をしても諦めずに前を向き、不断の努力をしてきた。
フランス大会で、具のトレードマークである癒し系スマイルが見ることができるように…。そう願うファンは多いはずだ。
取材・文/山本 暁子(チームライター)
「NTTリーグワン2022-23」第9節から試合に出場し、第13節で今シーズン初となる『3番』を付けた。課題だというメンタル面を強化するために、3月から総合格闘技のジムに通っている。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
1994年7月20日生まれ、韓国・ソウル出身。183cm・117kg。韓国代表のPRとして長年活躍した父・東春氏の影響もあり、小学6年からラグビーをはじめ、ニュージーランドへ留学後、家族とともに日本へ。日本文理大学附属高校から拓殖大学に進み、大学4年の時、サンウルブズに初招集。その後、父もプレーしたHonda HEAT(現・三重ホンダヒート)へ入団。2017年から日本代表で活躍する。2021年、コベルコ神戸スティーラーズに移籍。スクラムの強さだけでなく、運動量が豊富でフィールドプレーでもチームに貢献する。日本代表キャップ20。
【第1回】「『出たい』から、『出ないといけない』という気持ちになってきた」
日本代表の司令塔争いに挑む、李承信の決意
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202301310032-spnaviow
【第2回】 「代表活動の“集大成”にしたい」
山中 亮平のW杯への思い
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202302270063-spnaviow
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