【物語りVol.31】FL 藤田 貴大「練習で良くないことを良くないと言える選手が、いまは増えている」
【東芝ブレイブルーパス東京】
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【物語りVol.31】FL 藤田 貴大
藤田貴大である。
在籍7年目を迎えている29歳は、チームメイトとスタッフから厚い信頼を得ている。「ミスター東芝ブレイブルーパス東京」と言ってもいい存在なのだ。
藤田自身は「東芝には拾ってもらったような立場です」と言う。
「東海大学では2年から試合に出ていますが、サイズがあるわけではないし、足が特別に速いわけでもないので、たくさんのチームから誘ってもらえるような選手ではありませんでした。4年生になった時点でも進路は決まっていなかったのですが、トップリーグのチームでやりたい希望はあったので、大学の木村監督を通じてトライアウトのような形で東芝ブレイブルーパス東京の練習に参加させてもらいました。当時の採用担当の猪口(拓)さんも、気にかけてくださいました」
藤田と同じフランカーのポジションでは、リーチや德永、山本浩輝らが出場していた。いずれも日本代表経験者である。超激戦区と言っていい。
「練習参加したあとに、当時の監督だった冨岡(鉄平)さん、猪口さんと食事をさせてもらいました。富岡さんに『リーチも、トク(德永)も、山本もいるけど、いけるか?』と聞かれまして、『いけます!』と答えたら、『よしっ、採用だ』と。そのあとに何チームか声をかけていただきましたが、もちろん迷うことはありませんでした」
【東芝ブレイブルーパス東京】
「1年目の最後にフッカーの選手が立て続けにケガして、ちょっとやってみないかと言われてフッカーの練習をしました。翌シーズンから瀬川(智広)さんが監督になり、シーズン前に面談をしたときに、『僕はフロントローですか、それともフランカーですか』と聞いたら、瀬川さんは『どちらにしても腹を括るしかない。プロップとかフッカーになったとしても2、3年はかかる。それなら、フランカーを全力でやったほうがいいんじゃないか』と。瀬川さんと話ができて、腹を括ってフランカーで勝負すると決めたら、2年目は開幕からスタメンを取ることができました。それが、いまにもつながっているんじゃないかなと思います」
2年目は主力と言っていい出場時間を記録し、3年目も相応のプレータイムを弾き出した。しかし、4年目以降はケガの影響などもあり、出場機会が限られている。
「試合にはもちろん出たいです。その気持ちはずっとあるので、毎週メンバー発表で自分が入らないとすごく悔しい。けれど、メンバー発表のミーティングが終わったらすぐに切り替えて、そこからはチームにどうコミットするかを考えています。出られないことのほうが多いですけど、ラグビーはめっちゃ面白いんですよ」
メンバー外の選手たちは、試合に備えた準備をサポートする。対戦相手の特徴に基づいたシミュレーションの相手役を担う。
「相手チームのラインアウトの分析をして、ゲームで同じムーブがあってスチールをすると、『うわっ、これ、オレらがやったとおりだ』と思える。それはホントに嬉しいことですね」
【東芝ブレイブルーパス東京】
チーム全体に気を配ったり、個人練習に付き合ったりするのは、藤田にとって特別なことではない。「勝ちたい」という思いに駆られて、自然と身体が動いている。
「ホントにチームとしてはいいと感じています。ただ、僕も含めて良いときはすごく良いけれど、悪い時は悪い。波がある。それは練習のクオリティもそう。そこのブレが小さくなったら、僕らが目ざすところへもっとスムーズにいける。でも、波は確実に狭まっている。練習で良くないことを良くないと言える選手が、いまは増えているし、自主練をやろうと言ったらすぐに反応できる雰囲気がある。積み上がっているな、と思います」
チーム内での発信力も高い。ミーティングで、試合後の円陣で、藤田は自らの思いを伝えていく。
「自分が出ている、出ていないに関わらず、とにかく勝ちたいんです。勝利を目ざすうえで『これは違うのでは』と感じたら、そのままにしていたら負けるかもしれない。そこが気になるから、言うのかもしれないですね。言わないで試合でうまくいかなかったら、絶対に『あのときなんで言わなかったんだろう』と思う。自分が言うことのすべてが正解じゃないでしょうし、言ってみてあとから違ったかなということもあるけれど、言ったことを後悔はしていません。勝ちたいから言います」
【東芝ブレイブルーパス東京】
「ブレイブルーパスにはホントに感謝していて、だからこそチームのために全力を尽くしたいし、あと何年できるか分からないですけど、ブレイブルーパスに関わった人に『いいチームだよね、関わって良かったよね』と思ってもらいたい。そうしたら、ブレイバーとかルーパスファミリーがもっと大きく広がっていって、強いクラブにとどまらず最高のクラブになるのかな、と。だからこそ、ゲームに出る、出ないに関わらず一瞬にコミットしたいし、フォーカスしたいし、それができなくなったら僕がこのチームにいる意味はない。関わった人全員に、東芝ブレイブルーパス東京を好きになってほしいんです」
そう言って藤田は、「ホントにいいチームなので」と続けた。「ホントに」は「ホンッットに」とでも書くべきだろう。それほどに強い思いが、込められていた。
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)
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