物産展にキッズインターンシップ。『萩の月総選挙』も開催。 ホームゲームを“地域のコンテンツ”として活用してもらいたい。(株)マイナビフットボールクラブ 本棒陽一 代表取締役社長インタビュー

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2月7日、マイナビ仙台レディースは、人気お笑いトリオ「パンサー」の尾形貴弘さんの公式アンバサダー「サンキュー!アンバサダー」に就任したと発表した。宮城県東松島市出身で、仙台育英学園高等学校サッカー部で「背番号10番」で活躍した尾形さんには、2022-23シーズンのホームゲームでのイベント参加やSNSでの発信を通して、クラブの魅力を広く伝える役割が託された。尾形さんは「マイナビ仙台も現在3位と優勝を目指せる好位置につけていると思います!選手のみんなには僕のように泥臭く、気持ちを全面に出して、優勝に向かってがんばって欲しいです!僕もマイナビ仙台レディースを背負って、芸能界を戦っていきます!」と気合十分だ。
 オファーを出したのは、マイナビ仙台レディースを運営する株式会社マイナビフットボールクラブの本棒陽一代表取締役社長。「僕たちのチームコンセプトとして、仙台を活動拠点に、宮城の方々に愛されて、東北を代表する女子スポーツチームを目指したいという考えがあります。より多くの方々に愛されるということで、幅広い年齢層のファンから支持されている尾形さんが『サンキュー!アンバサダー』に適任だと思いました」と任命の理由を語った。
 もっと地域で愛されるクラブへ。2季目のマイナビ仙台は、WEリーグのチームでも類を見ない「多様なアイディア」で人々との“つながり”を築いていく。本棒社長へ、次から次へと新しい施策を打ち出す舞台裏を聞いてみた。

『それは誰のためになる?』本棒社長が徹底している“利他”の精神

――3月からリーグ戦が再開します。本棒さんは昨年7月に社長に就任されましたが前期を終えて、今感じていることはどのようなことですか?
「チームも、クラブとしても良い雰囲気です。具体的には現場とフロントの距離感が縮まり、一体感が出ているかなと思います」

――本棒社長と選手が気さくに話している様子を見かけます。
「そういう点には気を配っていて、選手やスタッフとはまんべんなくコミュニケーションを取るようにしています。チームではコロナウイルスの感染対策で、宮城県の指示よりも一段階高いものを実施してきました。感染対策では一定の成果は上げられたと思うのですが、一方でストレスも与えてしまったと思うので、そんな時にみんなに焼き肉弁当をふるまったりしました。それは、選手たちのためでもありつつ、実はスポンサーさんのためでもありました。飲食店もコロナ禍の影響で厳しい状況にありましたので、ランチの時間にまとまった数のお弁当を発注できるというのは、お店のためにもなります」

――選手、監督、スタッフとかなりの数になりますし、お店にとっては助かりますよね。
「そうですね。僕の中には基本的に『利他』という考えがあります。やはり、この地域で活動させてもらっているのは、皆さんのおかげであるので『恩返し』をしたいです。自分たちのチームだけが良ければいいのではなく、宮城、仙台に元気になってもらいたいという思いがあります。そういうことが、今季の方向転換として上手くいっているかなと思います」

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――地域とのつながりという点では、今季は宮城県内の全市町村にサッカーボールを贈る取り組みも始まっています。
「継続した復興支援という側面もあります。東日本大震災発生から12年が経過しますが、チームのできた経緯やDNAは残していきたい。サッカーを通して宮城の復興支援や健全育成に寄与できるとしたら、ボールを各市町村の小中学校に贈るという活動もいいと考えました。この活動に対し、遠方や在京の会社の方々も多く、仙台を応援する意義を持って協賛してくれています。そうした面でも、サッカーボール贈呈は良いのかなと思います。スポンサーの会社の皆さんの名前やロゴがボールに入ります」

――震災発生から長い時が経っても、継続して何らかの形で復興支援を行いたいという企業にとっても良い取り組みですよね。
「そうですね。仙台以外の会社からの協賛も多いです。それと、サッカーボールの贈呈の時には、ホームゲーム会場へ各自治体の首長さんに来て頂くんですが、その市や町のPRの場や機会としてどうですか?とセットでご提案しています。スタジアムをPRの場として使っていただくということは、せっかく来て下さる自治体の方にとってもプラスになるかなと考えています」

――WEリーグの試合が行われるスタジアムの有効な活用方法ですよね。
「今までは、若い女性層をいかにスタジムに呼び込むかというところがポイントだったのですが、少し見方を変えて、『試合前後のイベントを含めてスタジアムに来たい』と思ってもらえるようにできないかなと考えたんです。そうした施策もあって、集客の状況も良くなっています。前年の平均観客数より、今は180%くらい増えているんです。昨季はリーグでも下から数えた方がはやかった。今は、中断期間の前までで全体の3位の入場者数です。現場のスタッフもたくさんのアイディアを出してくれています。その象徴が『萩の月総選挙』なんです」

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萩の月総選挙から見えた、スポンサーとクラブの好連携

―選手が仙台銘菓『萩の月』のパッケージを飾る。しかも、サポーターを巻き込んだ人気投票で「萩の月エイト∞」を決めるというスタイルを取りました。これは興味深い取り組みです。
「現場の広報・運営スタッフのアイディアなんです。元々、スポンサーとなって頂くため営業をし、ひとつのきっかけを作った後で、さらに“萩の月をさらに盛り上げるために”ということで『萩の月総選挙』のアイディアが生まれました。萩の月は、仙台の人たちにとっては県外の方々へのお土産として誰かにあげるもので、自分たちのためには買わないのかなと。12月の試合では萩の月を来場者プレゼントにしましたが、アウェイのサポーターさんにも喜んでもらいました。美味しいから買って帰ろうということにつながってくれたらいいです。一緒に取り組むことで、スポンサーサイドからしても、僕たちにスポンサードしてくれる意味になると思います。そういうことを考えられるようになったということは、企業としても一歩成長できた部分ですね」

――ひと捻りあり、スポンサーと一緒に取り組めるような企画を仕掛けることで、双方にとって良いことがありますね。
「そうです。『協賛します』『ありがとう』だけで終わらず、協賛してもらっているからそこ何を返せるか?ということを考えられるようになってきました。ベースにあるのは自分たちだけが利益を得るのではなく『利他』です。僕自身の中で、スポーツ経営を行う基本だと思っています。誰を真ん中に置いて考えるか、ということです。真ん中に置くと、そこを一番大事に考えるんです。誰を中心に考えるかという時に、それはクラブではない。サポートしてくれる人、応援してくれる人を真ん中に置くべきだと思います。スポンサーやサポーターです」

――あくまでも真ん中に来るのは、パートナーであるという考え方なんですね。
「スポーツビジネスのコンテンツとして、女子サッカーはまだ弱いところがあります。例えば同じ100万円でも、ベガルタ仙台に出す100万円と、マイナビ仙台に出す100万円では、当クラブに出す方が割高に感じると思います。観客の動員数も違うので、その上でスポンサードして頂いてるということも踏まえて、営業のスタイルとしてもホスピタリティーを持って取り組んでいかなければいけないなと思います。今季は選手のサイン入りユニフォームを贈呈していて、『お付き合いでお金だけ出している』というのではなく、本当につながりを作っていきたいと思っています」

――本当のお付き合いですよね。
「そうです。そうすると、皆さんはより良く付き合ってくれますし、他の企業をご紹介いただいたりもします。紹介して下さる方が増えましたね。それが営業においての手応えにつながっています」

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機会や場を提供し、地域の未来に還元していく。キッズインターンシップやチアフェスの取り組み

――昨年から2度に渡って、スタジアムでの子どもサッカー職業体験「キッズインターンシップ」を開催しています。このイベントも好評ですね。
「マイナビという会社は就職などの事業を起点にしています。そういった意味でも、職業体験はとても大事にしたいと考えています。個人的には、試合運営時のイベントの軸に置きたい活動です。アナウンサー志望の子が、リポーターを体験して本当にアナウンサーになったらいいなと思います。今はサッカーのスタジアムでできる職業だけで実施していますが、今後は、スタジアムの外での仕事体験などもできないかなと。クラブと連携している朴沢学園に協力いただいて食育や調理に関する職業体験も提供したいと思っています」

――アイディアはどんどん広がりますね。前回のキッズインターンシップでは、体験したお子さんに本棒社長が名刺を渡して挨拶をしていましたね。
「キッズインターンシップとしても、実際の職業に携わる人として認めるべきだし、目線を合わせたかったんですよね。限られた枠での募集なので、お子さんたちにとっても一生の内何度でも経験できることではないですよね。その子にとっていい思い出になり、ファンになってくれたら嬉しいなと思います。家族また一緒に来てくれたらいいですね。キッズインターンシップだけではなく、チアフェスもそういった取り組みの一つですね」

―昨年12月の「マイナビ仙台レディース×東北チアプロジェクト チアフェス」では、宮城県や東北エリアを中心に活動しているチアダンスチームが集まり、スタジアムエントランスやピッチ上でパフォーマンスをしました。
「コロナ禍などで子どもたちの活動や表現の場が限られている。そういった子たちが踊ることができる場を提供したい。『スポーツチームのチアリーダーになりたい』という未来につながっていけばいいなと思います。お客さんに『孫が出演するんですよ』と声をかけて頂きました。スタジアムをいろいろな形で使っていただきたい。キッザニアじゃないですが、将来につながる仕掛けをしたい。そうすればもっとスタジアムに来たいと思ってもらえるのではないかと。サッカーの試合を盛り上げるというよりは、人が集まる場所になる。そこにサッカーがあるという形です」

――マイナビ仙台の試合やイベントが、子どもを持つ家庭の「週末の選択肢」に入ってきますね。スタジアムに来る動機や目的は、必ずしもサッカーではなくて良いのかもしれません。
「そうですよね。今、メディア戦略で取り組んでいるのが、サッカーやスポーツ番組ではないところで出演させてもらうということです。チームとしての認知も高め、選手のことも知ってもらいたいです。そういう意味でも、広くバラエティー番組で活躍している尾形さんはサンキュー!アンバサダーとして適任です」

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地域を飛び出して生まれたキャンプ地・北海道網走市とのつながり

―宮城県の市町村だけではなく、スタジアムでは網走市の物産展も開催しましたね。
「夏季のキャンプでお世話になっている網走ですが、実は昨年秋の大宮アルディージャVENTUS戦での物産展は“謝罪”から始まったものなんです」

――チーム内のコロナウイルス感染のため夏に予定していた網走でのキャンプをキャンセルしました。
「出発前日のキャンセルでした。ご迷惑をかけてしまったので、受け入れ準備をしてくれた網走市の方々やホテルの皆さんへ、後日謝罪に伺いました。水谷洋一網走市長とお話し、『マイナビ仙台が前年に初めて網走でキャンプをしてくれたことで、今年は千葉Lや大宮Vも来てくれた』と。行政として営業をかけた成果だと思うんですが、今季は複数のクラブのキャンプが実現しました。水谷市長にホームゲームに来てくださいとお願いしたら、大宮V戦に来てくださいました。『ではジャガイモも配ろう!蟹も持って行こう!』と」

―スタジアムで北海道のジャガイモをもらうことができる……。これはサポーターにも喜ばれました。
「市長にお越しいただいて、物産展も開いて頂きました。網走市としても、ふるさと納税の返礼品のPRになりますよね。そういうことが、ふるさと納税の増加につながっていったらいいですよね」

――宮城のみならず、いろいろな方々、地域を巻き込んでいきますね。
「前例にとらわれないようにしたいと思っています。軸にあるのは『誰のためになるのか』ということです。サポート頂いている方に対して、僕らというコンテンツを使ってPRできる機会があるのであれば、どんどん使って欲しいです」

――サッカークラブは応援される側だと思っていましたが、いろいろな人を応援していくことができます。
「応援というか、恩返しですね。サポート頂いているからこそ、恩返ししたいんです。選手たちに話を聞いても、頂いたサポートに対し何かの形で返したいという思いが彼女たちの中にもあるんです」

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ホーム戦が多い後半戦。“地の利”がない東京開催試合で示したいこと

――3月5日から再開するリーグ戦では、12試合中、ホームゲームが7試合と多くあります。
「3月は復興支援をテーマにしていますし、スタジアムをさらに表現の場として活用して頂くことも考えています」

――今後、企業や自治体、学校など地域とのつながりがクラブの強みになっていきそうですね。
「そういった点が活動拠点としている仙台へ恩返しです。どんどんやっていきたいです」

――また昨年も実施した「東京開催のホームゲーム」が4月に実施されますね。
「東京開催は賛否両論あると思いますが、敢えて浦和レッズレディース戦を東京開催の試合にさせてもらいました。僕の強い意志を反映させてもらいました」

――会場が東京となれば、ホームアドバンテージを生かせるとは言い難いですね。
「そうです。ホームゲームは“地の利”があるもの。浦和との対戦は相手の地の利があります。ホームタウンからも近いですし。しかし、これは松田岳夫監督にも相談して『マイナビ仙台対浦和の試合を、WEリーグとしても大きく注目される試合にしたい。それを東京で開催したい』と」

――大きな覚悟で挑む試合ですから、順位の上でも、運営上でも、この一戦を女子サッカーのビッグマッチにしたいですね。
「WEリーグカップの決勝を味の素フィールド西が丘で開催したのですが、その時の動員は3546人。それを超えたいです。勝敗があるプロの世界なので、ホームというアドバンテージを生かせない、不利になる取り組みには賛否あると思います。でも、女子のサッカーを盛り上げていくことや認知を高めること。大勢のスタジアムでプレーをしてもらうということも優先順位として高いと思っています。もちろん勝ちたいです。それは大前提ですが、国内の女子サッカーの最高峰の試合を関東圏の子どもたちにも見て欲しい。『将来、あのピッチに立ちたい』と思う子が増えてくれたら嬉しいと考えています」


【試合情報】
2022‐23 Yogibo WEリーグ第9節 
マイナビ仙台レディース 対 INAC神戸レオネッサ
日時:3月5日(日)14時キックオフ
会場:ユアテックスタジアム仙台

(インタビュー・構成 村林いづみ)
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著者プロフィール

東日本大震災により休部した東京電力女子サッカー部マリーゼが移管し、2012年ベガルタ仙台レディースが発足。2017年に株式会社マイナビとタイトルパートナー契約を締結しマイナビベガルタ仙台レディースとなりました。 2020年10月にWEリーグへの参入が正式決定。2021年2月より「マイナビ仙台レディース」とクラブ名を改め、活動をスタート。選手達の熱いプレーが多くの方に届くような盛り上がりをともに作っていきます。仙台、東北から日本全国、全世界に向けて、感動や勇気を与え、WEリーグ優勝を目指し活動しています。

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