【神戸スティーラーズ特別連載第2回/RWC2023フランス大会〜神戸から夢の舞台へ】 「代表活動の“集大成”にしたい」山中 亮平のW杯への思い
【コベルコ神戸スティーラーズ】
中学3年の時から憧れを持ち続ける大舞台
出場すれば自身にとって2度目となるラグビーワールドカップ。今年9月に幕を開けるフランス大会まで200日を切った。
6月の誕生日で35歳となる山中は
「2027年の大会への出場は考えられない。若い選手もどんどん出てきていますし、日本代表としては、今回のワールドカップが最後になります」
と、代表からの引退を考えていると明かす。
「ラスト」
インタビュー中、何度も「ラスト」という言葉を口にした。
山中がラグビーワールドカップに憧れを抱いたのは、中学3年の時のこと。
中学2年から競技をはじめ、テレビに映し出される真剣勝負に釘付けになった。
「ジョニー・ウィルキンソン(イングランド代表のSO)が活躍していて、いつかこの舞台に立ちたいと思ったんです」
4年に一度のラグビー界最大の祭典。熱気あふれる超満員のスタンドで国や地域のプライドをかけて、戦いが繰り広げられる。
15歳の山中は、将来ワールドカップの舞台に立つことを目標に定め、ラグビー選手としてキャリアを積んでいった。
紆余曲折を経て、夢を実現
2011年にニュージーランドで開催のワールドカップに立てるチャンスもあったが、大会を直前に控え、ドーピング違反により2年間の資格停止処分を受けた。再び桜のジャージに袖を通したのは、2014年秋。「ラグビーワールドカップ2015イングランド大会」は、最終選考の場となった宮崎合宿の時にメンバーから漏れた。
その時の心境を「あの時は、合宿の時から『無理だろうな』という感じでしたね」と淡々と振り返る。
転機になったのは、2018年。
スタンドオフからフルバックへ転向し、才能を開花させる。
そして、2019年、ついに山中の夢は現実のものとなる。しかも、日本で開催される大会。そこで、W杯メンバーに初選出された。
ただ、出られたとしても「リザーブだろうな」と弱気だった。
というのも、2016年以降は、日本代表やサンウルブズに怪我人が出たら、追加招集されることが多く、「追加招集の男」と呼ばれることもあった。
2019年にようやく代表に定着するも、同年出場したテストマッチはアメリカ代表との1試合のみ。
「まさかワールドカップで5試合も出られるとは」と驚きを隠さない。
オープニングマッチとなったロシア代表戦は、リザーブで途中出場し、思い切りの良いカウンターアタックを見せた。そのプレーが評価され、2戦目のアイルランド代表戦は『15番』を背負った。
「開幕戦はめちゃくちゃ楽しかったですけど、その後の試合は緊張とプレッシャーで死にそうでした(笑)。けど、ワールドカップは最高でしたね」
今が一番充実している
フルバックに転向した当初は、言われた役割を果たすことで頭がいっぱいだったという。4年間で多くの経験を積み、成長を感じている。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
もちろん、若い時とは違う。練習前のストレッチを入念に行い、リカバリーにしっかり取り組む。
食事にもこれまで以上に気を配ったことで、4年前と比べると体脂肪も落ち、プレーに切れが増したと感じている。
何よりフルバックとしての経験値が上がった。神戸スティーラーズでも、最後尾で安定感あるパフォーマンスを見せている。
2020年は、新型コロナにより代表活動は中止を余儀なくされたが、2021年に再び日本代表に招集されると、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの代表選手で構成されるブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦にも出場を果たした。
昨年夏の代表活動では、フランス代表との2戦目に先発出場し、2つのトライをマーク。秋も、オーストラリアA代表との3試合、ニュージーランド代表戦、ヨーロッパツアーでのイングランド代表戦、フランス代表戦と6試合にフル稼働した。
特に新国立競技場で行われたニュージーランド代表戦は、山中にとって感慨深い試合になった。4年前の2018年11月、味の素スタジアムで行われた同カードで、日本代表としては初めて『15番』を付けて出場。
「あの時からフルバックとして成長しているところを見せることができた」と笑顔を見せる。
好調の要因は、経験値やコンディションのほかにもある。
昨年から日本代表のシステムに若干の変化があり、戦術やフルバックのポジショニングが変わった。
「つなぎ役のような役割を与えられて、スタンドオフとして経験をこれまで以上にいかすことができるようになりました。パスをしたり、キックをしたり、自分が得意なスタイルになって、プレーしていてすごく楽しいですね」
選手として、まさに脂が乗ろうとしている。
自身も「今が一番いい時期じゃないですかね」と充実感を得ている。
フルバックに転向した当初は、言われた役割を果たすことで頭がいっぱいだったという。4年間で多くの経験を積み、成長を感じている。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
余裕をぶっこいてなんかいられない
いつ日本代表から外れるか「常にビクビクしている」と。
これまで桜のジャージを着て一緒にプレーしてきた仲間が、代表に呼ばれなくなる。2019年のW杯メンバーで、昨年秋に招集されているバックスの選手は、自身を含めて数人ほどだ。
「ファンの方から日本代表の不動の『15番』と言っていただくこともあるんですが、僕自身は代表に定着したとはまったく思っていません。いつ外れるかわからないという気持ちでいます。ワールドカップでも、大会前まで好調だったけど、大会では1試合も出ていないという選手がいました。そういうシビアな世界です。余裕をぶっこいてなんかいられないですね。もちろん、代表歴が長いので、(李)承信をはじめ、若い選手には、代表のアタックはこんな感じだよとか教えたりはしますが、僕自身は、どんな時でもジェイミー(・ジョセフヘッドコーチ)が求めるプレーをしないといけないと必死です。そういう意味では、秋のヨーロッパツアーでの、イングランド代表戦、フランス代表戦は、パフォーマンスが良くなくて。ハイボールのコンテストでも競り負けてしまいました。特にフランス代表戦は、嫌になるくらいパフォーマンスが良くなかった。タフな状況でも、一貫性あるパフォーマンスを発揮できるように、スキルだけでなく、メンタルも身に付けないといけません」
リーグワン後半戦でも全力でアピールする
「NTTリーグワン2022-23」では第8節を終え、全試合フル出場。ワークレートをさらに上げて、チームに貢献したいと話す。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
「毎試合、強度の高い試合が続きます。その中で良いパフォーマンスをし続けないといけない。それに、リーグワンのプレーは、すべてジェイミーに見られていますので、緊張感がありますね。ジェイミーからは『リーグワンでも常にテストマッチのマインドで戦ってほしい』と言われています」
今シーズン、チームは開幕戦を落とすと、第3節から3連敗を喫するなど、苦しい戦いが続く。
特にディフェンス面は、30点以上相手に与える試合が多く、大きな課題だ。
「横との連携やタックルの精度、ディフェンスの上がり方などをしっかり意識してやっていきます。あと、リーグ戦の前半戦は、ボールを持つ回数が少なかったので積極的にボールをもらって、チームにエナジーを与えていきたい」と、気合を込める。
リーグワンでしっかりアピールすることが、ワールドカップに繋がる。
「2度目のワールドカップ。絶対に出たいと思っています。ラストなので、そこに向かって、すべてを出し切って、W杯メンバー入りします!」
桜のジャージを着て出場できる試合は、数えるほどしかない。
代表活動の“集大成”に向けて、山中は全力を尽くす。
取材・文/山本 暁子(チームライター)
「NTTリーグワン2022-23」では第8節を終え、全試合フル出場。ワークレートをさらに上げて、チームに貢献したいと話す。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
1988年6月22日生まれ、大阪市出身。188cm・98kg。中学2年からラグビーをはじめ、東海大学付属仰星高校では花園優勝を経験。早稲田大学に進み、大型SOとして活躍。2013年に神戸製鋼コベルコスティーラーズ入団(当時)。飛距離の出る左足のキックに、パス、自ら突破ができるランも魅力。2018年、FBに転向し、2003年度以来の優勝に貢献する。今シーズンの第2節で、スティーラーズキャップ100を達成した。日本代表キャップ25。
【第1回】「『出たい』から、『出ないといけない』という気持ちになってきた」
日本代表の司令塔争いに挑む、李承信の決意
https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202301310032-spnaviow
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