【神戸スティーラーズ特別連載第1回/RWC2023フランス大会〜神戸から夢の舞台へ】 「『出たい』から、『出ないといけない』という気持ちになってきた」 日本代表の司令塔争いに挑む、李承信の決意
【コベルコ神戸スティーラーズ】
コベルコ神戸スティーラーズから、この『夢の舞台』を目指して奮闘中の選手や、ラグビー界最大の祭典を経験した選手のインタビューを連載企画としてお届けする。
第1回は、日本代表の司令塔争いに挑む、李承信。
昨年5月、初めて日本代表候補入りすると、ウルグアイ代表戦でテストマッチデビュー。世界ランキング2位のフランス代表との一戦では先発に抜擢された。秋にも日本代表に招集され、強豪国との戦いに臨み、多くの経験を積んだ。目まぐるしいスピードで自身を取り巻く環境が変化した2022年を経て、迎えるワールドカップイヤー。李の決意を聞いた。
(取材日:2023年1月23日)
人としてラガーマンとして成長できた2022年
夏にまた日本代表に選ばれないといけないと気が引き締まりました。ただ、代表の活動から離れているので、記事を見た時に、ジェイミー(・ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)の写真が一緒に出てきて、「うわっ!」と、身震いしました(苦笑)。ジェミーはすごく貫禄があって、1対1のミーティングの時など、固まってしまうんです(笑)。
ーーそうなんですか(笑)。1対1のミーティングでは、どういうことを言われているのでしょうか。
これまでは基本的に褒めていただくことが多くて。まだ代表に入って1年目ということもあり、あまり厳しく言われないのかもしれませんが、これからが怖いですね(苦笑)。
ーーさて、その初めて日本代表の活動に参加した2022年はどんな1年でしたか?
これまでのラグビー人生の中で大きな1年になりました。人として、ラガーマンとして、いろいろな経験をさせていただき、ひと回りもふた回りも成長することができたと思います。
ーー昨年の代表活動を振り返って、ご自身にとってターニングポイントになった時期を教えてください。
ウルグアイ代表戦、フランス代表戦に出場した夏のシリーズでは、自分自身が日本代表だという実感があまりなくて。松田力也さん(埼玉ワイルドナイツ)が怪我で代表活動に参加していなかったり、フランス代表戦も、山沢(拓也)さん(埼玉ワイルドナイツ)が体調不良となり急遽出番が回ってきたり、運良くチャンスが巡ってきという感じで。運が良かったという思いがあったのですが、秋のシリーズの途中くらいから気持ちが変わってきました。
ジャパンの『10番』を背負う自信がついた
夏のシリーズは、いきなりテストマッチに出場し、こんな大きな舞台で自分がプレーしていていいのか、という思いがありました。そういう状況で、力の差は感じましたが、通用するところもあって。秋のシリーズでは、周りからの要求も高くなり、実際、オーストラリアA代表との3連戦がはじまる前に、コーチ陣とのミーティングで、リーダーシップをもっと出してほしいと言われたんです。それまでは正直、日本代表のアタックをリードするというマインドではなくて、先輩たちの意見を聞いたり、コミュニケーションを取ったりしながら、言われるままにプレーしているところがありました。だけど、コーチからゲームを作る『10番』として、もっと前に出て、周りを巻き込みながら、アタックをリードしていってほしいと言われて。その後、ニュージーランド代表戦に出場し良いプレーができて、『10番』として、どうやってチームを勝たせるのか、自分の役割はどういうものなのかがクリアになり、自信を持つことができました。ニュージーランド代表との一戦をきっかけに、ジャパンの『10番』としての覚悟を持つことができたように思います。
ーー自信を持つことができたというニュージーランド代表戦は、後半から出場し、あのオールブラックスを31対38と7点差にまで追い詰めました。
ニュージーランド代表は、子供の頃から憧れていたチームですし、雲の上の存在だと思っていたのですが、チームとしてすごく良い試合運びができました。勝てたら最高だったのですが、継続して良い準備をすれば、敵わない相手ではないですし、自分のスキルでも戦うことができると手応えを感じることができました。また、ワールドカップまであと1年というところで、チームとしても、自分たちの可能性を示すことができたと思います。
ーー子供の頃から憧れだったというオールブラックスのハカは、どういう気持ちで見ていたのでしょうか。
ジェイミーから、後ろの方の選手はキャップの少ない選手なので、そっちを見るように言われていたので、ずっと後方ばかり見ていました。けど、ニュージーランド国家を聞いて、ハカを見たら、やっぱりオールブラックスはカッコいいなと思いましたね(笑)。
DCの言葉に助けられている
福本チームディレクターがセッティングしてくれて会うことができたんです。代表の一員としてテストマッチに出ることに対し、緊張もありましたし、プレッシャーを感じていたので、DC(ダン・カーター)も21歳で代表入りをしていたこともあり、DCはどうだったの?と質問したんです。そうしたら、DCはプレッシャーから絶対に逃げたらダメだ、試合に入り込んで『かかってこい!』くらいのマインドで戦うこと、ラグビーを楽しむことが大切だし、21歳で代表に選ばれたことに自信を持ってプレーすればいいとアドバイスしてくれて。すごく心に響いて、その言葉にはリーグワンで戦う上でも助けてもらっています。
ーー貴重な経験をすることができたんですね。
そうですね。ほかにも、試合に向けて1週間どうやって過ごすのか、準備の部分についてなども教えてもらうことができ、いろいろな話が聞けて素晴らしい時間を過ごすことができました。
スペースが見えなかったイングランド代表戦
イングランド代表戦は、チームとしても、個人としても、本当に何もできなくて…。手も足も出なかったという感じです。ニュージーランド代表戦で手応えを感じていましたし、ワールドカップでも対戦するイングランド代表とのテストマッチということで、チームとしても万全の準備をして臨んだのですが、結果は完敗。イングランド代表に、日本代表がやりたいことをされてしまったという印象です。イングランド代表はキックの精度が高くて、エリアマネジメントが安定していて、すべての場面において、1枚も2枚も上で。強豪国は、やっぱり甘くないなと思いました。イングランド代表戦は、本当にショックで…。代表に入ってから、どんどん自信をつけていたところで、鼻をへし折られたような…。僕自身、パスミスをしてしまいましたし、どこにスペースがあるのかもわからなくて、納得のいくプレーを1つもできずに終わってしまってしまいました。
ーーイングランド代表戦では、いつもなら見えているスペースが見えなかったと。その原因はどこにあったのでしょうか。
普段なら外からのコールを聞いて、前を見て、どこにスペースが空いているのかがわかるのですが、イングランド代表戦は、相手からのディフェンスのプレッシャーがすごくて、視野が狭くなっていました。あとから映像を見返すと、いろんなところにスペースがあったんですが、試合中は余裕がなくて、まったくスペースが見えませんでした。『10番』としてやるべきことを果たすことができなくて、今後、メンバーから外れるんじゃないかと思うくらい酷い出来で。ただ、ワールドカップ前に、イングランド代表のフィジカルの強さやスピードの速さを目や体で感じることができたことは良かったと、今はポジティブに捉えています。いきなり、本番であのような強度でやられたら…。ワールドカップに向けて良いリハーサルになったと思います。
ーー秋のシリーズに参加する前に話を聞いた時、イングランド代表の司令塔、マーカス・スミス選手との対戦が楽しみだと言われていましたね。
スミス選手と僕は体型がほぼ同じなんです。それに、彼の強気なプレーは、学ぶことが多くて。試合では、スミス選手は、余裕がない僕とは反対に、スペースを見つけてアタックして、楽しみながらラグビーをしているように感じられました。スペースの見つけ方やボールの運び方などを間近で見ることができたことは良い経験になりました。
ヨーロッパツアーは良いリハーサルになった
イングランド代表戦であのようなパフォーマンスだったにもかかわらず先発で起用してもらって、ジェイミーの期待に応えないといけないという気持ちが大きかったです。それこそ、またここで同じようなパフォーマンスだったら次はないと。フランス代表もプレッシャーがすごかったのですが、うまくゲームコントロールできた時間帯もありましたし、ディフェンスの面でも相手を止めるなど良いところがありました。敵陣であまり戦うことはできなかったことは反省点ですが、日本代表のスタイルをやり続けたらスペースが空くと感じることもできましたし、また、フランス代表の戦い方のうまさやプレーの精度の高さなどを再度感じることもでき、イングランド代表戦と同じように、ワールドカップに向けて、良いリハーサルになったと思います。
ーー個人的に秋のシリーズでの収穫とは。
秋のシリーズは、イングランド代表戦で悔しい思いもしましたが、それを含めて、夏のシリーズと比べものにならないくらいたくさんの収穫がありました。まず日本代表の『10番』として、キックを使うのか、継続するのか、アタックのバランスをスクラムハーフの選手やプレーメーカーとコミュニケーションを取りながら考えてできるようになった点は成長したところだと思います。
「NTTリーグワン2022-23」では第6節まで全試合フル出場を果たす。日本代表でも22番ではなく、『10番』にこだわると話す。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
ライバルのプレーからも多くのことを吸収
第1戦目は終始ボールを継続していたのですが、第2戦目の前にバランスのことを言われました。実は、それまでそんなことを考えたことがなくて。なので、夏のシリーズの経験を踏まえて、秋のシリーズでは、ブラウニー(トニー・ブラウン日本代表コーチ)やほかの選手からアドバイスをもらいながら、よりうまくゲームコントロールができるように意識していました。
ーー選手からもアドバイスをもらうんですね。
山沢さんや中尾(隼太)さん(東芝ブレイブルーパス東京)からも言われます。基本的にスタンドオフは3人一緒に練習や試合の映像を見ますので、ここはボールを持ち過ぎているよね、とか、そんな感じでフィードバックし合っていました。
ーー両選手ともに司令塔争いをするライバルですし、ほかにも日本代表の司令塔候補はいますが、そういったスタンドオフの選手たちのリーグワンでのプレーは気になるものなのでしょうか。
リーグ中は自分自身やチームのことにフォーカスしているんですが、やっぱりチェックしますね。この選手は、ここのスペースを見ていて、こう攻めるんだ、とか、このスペースは僕なら見えていなかったかな、とか。チームによってラグビースタイルは違いますが、ゲームコントロールの面など、学べることが多いです。
難しい局面でもリードできるスタンドオフに
チームがうまくいっている時は、どうリードしても、うまくいくと思うのですが、イングランド代表やフランス代表とのテストマッチのように、相手から大きなプレッシャーを受けている状況で、スタンドオフがどうやってアタックをリードしていくのか。難しい状況の中で、みんなを同じ方向に向かせて、リードしていくところを身に付けていきたいですし、そういうレベルの高いスタンドオフになっていかないといけないと思います。
ーーワールドカップまで約7ヵ月半、代表入りする前は、ワールドカップ出場は「漠然とした目標」と言われていました。今の李選手にとってワールドカップ出場とは?
昨年、日本代表の活動に参加して『ワールドカップに出たい』という気持ちから『出なければいけない』となってきました。ワールドカップメンバーに入るためにどうすればいいのか考えて、自分のレベルを自己分析しながら、昨日の自分より成長できるよう、未熟なところは良くしていき、逆に良いところは継続して伸ばしていけるように取り組んでいます。その積み重ねが、ワールドカップ出場につながると信じています。
ーーワールドカップメンバーに選ばれるために、特に伸ばしたいところは?
ディフェンス面ですね。1対1で確実に止めることができるようにならないといけません。それと、『10番』としてのゲームコントロール。キックを使うところとボールを継続するところのバランスもそうですし、先ほど話したチームがうまくいってない状況でのアタックのリードも。リーグワンの試合でも、そういうところをレベルアップさせられるように意識しながらプレーしています。
ワールドカップでは「ベスト4以上」を目指す!
ラグビーが好きだったので、ワールドカップは家で観ていたのですが、「出たい」と思ったのは2019年の日本大会です。当時、大学1年で、寮で試合を観ていました。中でも一番印象に残っているのは、アイルランド代表戦です。日本代表が勝利し、選手が手を振りながらグラウンドを一周していました。観客全員が総立ちになって、喜んでいる姿に感動し、僕もこの舞台に立ちたいと思いました。自分がプレーし勝つことで、多くの方々に喜んでもらえる。自分のやりたいことはここにあると思った試合でした。
ーーそれから4年後、実際に日本代表の司令塔争いをしている。
その舞台に立つことができるように成長していき、2023年はワールドカップに出る1年にします!
ーーでは最後に、気が早いかもしれないですが、ワールドカップに出場したら達成したいことを教えてください。
まず『10番』を背負って試合に出る。その上で前回大会を超える成績を残したい。『ベスト4以上』を目指します!
取材・文/山本 暁子(チームライター)
李 承信(り すんしん)
2001年1月13日生まれ、神戸市出身。176cm・85kg。4歳からラグビーをはじめ、大阪朝鮮高校から帝京大学へ。さらなるレベルアップを求めて、大学を中退し、ニュージーランド留学を目指すが、コロナ禍の影響で頓挫し、2020年度、神戸スティーラーズ入団。1年目から試合に出場し、2021年度はSO、CTBで全試合に出場。昨シーズンからバイスキャプテンを務める。日本代表キャップ6
相手を引きつけてから放つパスに、強気なランも魅力。第3節NECグリーンロケッツ東葛戦ではプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた。 【コベルコ神戸スティーラーズ】
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