【ベガルタ仙台】2023年へのスタートライン(下)
【©VEGALTA SENDAI】
優勝を掴み取るために
選手たちに目指すサッカーを落とし込む伊藤彰監督 【©Seiro ITAGAKI】
「『優勝』の2文字です」。
指揮官は2019年から3季に渡り甲府を指揮し、明治安田生命J2リーグでの経験を積んできた。最高成績は2021年の3位。それらを踏まえ、優勝のために必要な要素をひとつひとつ落としこむ。数値的に目指すものの目安も挙げている。
「より攻撃的にするなかでも、J2リーグで頂点を取るためには、失点は試合数×1以下にしないといけません。プラス、得点が1試合平均1.5を目指すことが重要です。40失点以下におさえ、60点以上、70点は取っていかないと。プラスマイナス(得失点差)で20点以上にしたい」
来季の目標達成のためにお互いを高め合う選手たち 【©VEGALTA SENDAI】
ある日はプレーエリアを縦横に細かく区切り、状況に応じた選手同士の位置取りを確認。またある日は、攻守両方でクロスボールへの対応をテーマとした練習が多く組まれた。自陣でパスを繋ぎ、その間に相手陣内でFWがフリーの状態を作ったところで、縦パスを入れる練習を組んだときもあった。コートの大きさ、攻守にかける人数、フォーメーションも様々だ。緊張感のあるぶつかり合いもあれば、クールダウンを兼ねて楽しいリラックス要素も入ったミニゲームが組まれることもあった。
けがをしないことが第一であり、また長いシーズンで溜まった疲労を抜くことから、それまでより全体としての負荷は軽め。だが1対1の対人練習など、負荷をかけるべきときはかける。松本純一フィジカルコーチは、負荷を調整しつつ「今季よりも早い段階で強度を上げられるように、ベースの部分を作っていきたい」と、走行距離などのデータが夏場に落ちた今季の反省を生かし、長い目でのコンディション作りをこの時期の練習でも生かそうとしている。メニューを任されたコーチングスタッフも、それぞれ前の日よりも良い伝え方にチャレンジした。
今シーズンのチームを牽引した遠藤康 【©VEGALTA SENDAI】
ベテランの遠藤康は日頃の練習について「言われたことを受け身でやっているだけでは駄目、ということはこれからも言っていきたい。練習のメニューに対して、『これで何を身につけるか』『何のためにやるか』という意識を常に持ってやっていかないと。うまくいかなくてもがいても、もがいた分だけ返ってくるし、そういう選手が長くやれます」と、能動的に取り組むことの重要性を強調する。まず自身がその姿勢を示すとともに、若手に対してもひとつのプレーに対する指摘や、より良く練習に取り組むためのヒントになるようなアドバイスの声をかけることを増やそうとしているという。
今シーズンのチームで最も長く出場した真瀬拓海 【©VEGALTA SENDAI】
涌谷町に訪問した小畑裕馬 【©VEGALTA SENDAI】
選手たちはそれぞれ、訪問先の子供たちと一緒にボールを蹴るなどの活動を通し、このホームタウンでJリーガーとして働くことの意義を再認識したようだ。宮城県登米市出身の小畑裕馬は、その登米市を含む県内各地を周り「たくさんの人たちの支えがあってこそ自分たちはプレーできることをあらためて感じたし、だからこそピッチで結果を出さないといけない」という思いを抱いた。2023シーズンもこの先もチームとともに歩む地域の人たちと触れ合えたことも、チームがこの時期に得た大きな財産だ。
「13」のコレオを背に挨拶をする平岡康裕 【©VEGALTA SENDAI】
「このクラブと仙台の街に、僕自身、成長させてもらいました。ありがとうございます」
2022年を最後にチームを去る選手も、2023年も仙台でプレーを続ける選手もいる。それぞれの立場の者が、来季にJ2優勝を果たせるチームを作ろうと土台作りに精を出したのが、この約1か月だった。平岡の言葉にあったように、選手たちは日々の練習や試合、街とそこに縁のある人たちとの出会いにより、日々成長する。10月27日から11月22日までの期間では、それが通常のシーズンとはまた違ったかたちでチームに浸透していった日々だった。
それを今後に生かせるかどうかは、各選手の努力次第。現時点で、来季の結果が保証されたわけではない。だが、クラブが掲げた「2023は、始まっている。」の言葉のように、この時期からより良い未来のために培ってきたものは、きっと2023年の財産になる。
文=板垣晴朗
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