【ベガルタ仙台】2023年へのスタートライン(下)

ベガルタ仙台
チーム・協会

【©VEGALTA SENDAI】

優勝を掴み取るために

選手たちに目指すサッカーを落とし込む伊藤彰監督 【©Seiro ITAGAKI】

 ベガルタ仙台の伊藤彰監督は、10月27日に2023シーズンに向けた練習を始めるにあたり、あらためて来季に目指すものを言葉にした。
「『優勝』の2文字です」。

 指揮官は2019年から3季に渡り甲府を指揮し、明治安田生命J2リーグでの経験を積んできた。最高成績は2021年の3位。それらを踏まえ、優勝のために必要な要素をひとつひとつ落としこむ。数値的に目指すものの目安も挙げている。
「より攻撃的にするなかでも、J2リーグで頂点を取るためには、失点は試合数×1以下にしないといけません。プラス、得点が1試合平均1.5を目指すことが重要です。40失点以下におさえ、60点以上、70点は取っていかないと。プラスマイナス(得失点差)で20点以上にしたい」

来季の目標達成のためにお互いを高め合う選手たち 【©VEGALTA SENDAI】

 2023年の頂点を目指す準備が始まった。伊藤監督が掲げた数字を達成すること、2022シーズン終盤に試みた戦術をチャンピオン仕様にすることは、当然ながら一朝一夕にはいかない。シーズン終盤に最低限の約束事を植え付けるだけでも、難事だった。見方によっては“秋季キャンプ”ともいえるこの時期の練習でチームのベースをコツコツ作るため、選手・スタッフはメニューに取り組んだ。

 ある日はプレーエリアを縦横に細かく区切り、状況に応じた選手同士の位置取りを確認。またある日は、攻守両方でクロスボールへの対応をテーマとした練習が多く組まれた。自陣でパスを繋ぎ、その間に相手陣内でFWがフリーの状態を作ったところで、縦パスを入れる練習を組んだときもあった。コートの大きさ、攻守にかける人数、フォーメーションも様々だ。緊張感のあるぶつかり合いもあれば、クールダウンを兼ねて楽しいリラックス要素も入ったミニゲームが組まれることもあった。

 けがをしないことが第一であり、また長いシーズンで溜まった疲労を抜くことから、それまでより全体としての負荷は軽め。だが1対1の対人練習など、負荷をかけるべきときはかける。松本純一フィジカルコーチは、負荷を調整しつつ「今季よりも早い段階で強度を上げられるように、ベースの部分を作っていきたい」と、走行距離などのデータが夏場に落ちた今季の反省を生かし、長い目でのコンディション作りをこの時期の練習でも生かそうとしている。メニューを任されたコーチングスタッフも、それぞれ前の日よりも良い伝え方にチャレンジした。

今シーズンのチームを牽引した遠藤康 【©VEGALTA SENDAI】

 そうした練習が続く中で、選手たちはときに楽しみながら、ときにバチバチとぶつかり合いながら、練習で自身を高めようと奮闘する。練習に「ついていく」だけでは、来季に活躍するどころかチーム内競争を勝ち抜くことはできない。

 ベテランの遠藤康は日頃の練習について「言われたことを受け身でやっているだけでは駄目、ということはこれからも言っていきたい。練習のメニューに対して、『これで何を身につけるか』『何のためにやるか』という意識を常に持ってやっていかないと。うまくいかなくてもがいても、もがいた分だけ返ってくるし、そういう選手が長くやれます」と、能動的に取り組むことの重要性を強調する。まず自身がその姿勢を示すとともに、若手に対してもひとつのプレーに対する指摘や、より良く練習に取り組むためのヒントになるようなアドバイスの声をかけることを増やそうとしているという。

今シーズンのチームで最も長く出場した真瀬拓海 【©VEGALTA SENDAI】

 その遠藤たちに声をかけられる若手の1人、プロ2年目の真瀬拓海はこの期間の練習に悪戦苦闘しながら「最初は確かに覚えることが多くて『何をやっているんだろう』となってしまったこともありました」と明かすが、理解に努めるなかで監督たちの意図を汲み、さらに自身のプレーの幅を広げられる視野が開けてきたという。「この期間のうちに少しでも成長したいし、一つひとつの練習に対してそういう意識を持ってできていることが大きい。だからこそ、自分はもっとチームを盛り上げられるようにならないと。少しずつでもチャレンジしていきたい」。彼は2022シーズンのJ2でチーム最多の39試合(2759分)に出場した。だがプレーに迷いが出た時期もあったし、常に前の自分よりも高い精度のプレーを求める発言が目立つ選手でもある。若手もベテランも関係なく、チームを積極的に引っ張ることが求められていることも自覚している。シーズン中のみならず来季への種まきをしている今も、というより今こそ、高めなければいけないことがある。遠藤や真瀬だけでなく、どの立場の選手にもそれが求められ、約1か月間の練習は続いた。

涌谷町に訪問した小畑裕馬 【©VEGALTA SENDAI】

 チームは来季に繋げる練習と並行し、来季だけでなく将来にも続く活動にも取り組んだ。宮城県内各市町村を回る“ホームタウン応援団”活動がそれだ。ベガルタ仙台は宮城県仙台市をホームタウンとして創設されたチームだが、今季の4月26日にJリーグ理事会において宮城県の全市町村がホームタウンとして承認された。各市町村に担当の選手が割り当てられており、11月12日から各自治体の学校などを訪問した。今季は通常より前倒しになっていた試合日程の影響でなかなか訪問活動ができなかったこと、さらに近年の感染症禍の影響でふれあい活動が難しかったことなどの難しい事情はあった。しかし、今回のこの機会に、感染対策をとったうえで、この活動が実現できた。

 選手たちはそれぞれ、訪問先の子供たちと一緒にボールを蹴るなどの活動を通し、このホームタウンでJリーガーとして働くことの意義を再認識したようだ。宮城県登米市出身の小畑裕馬は、その登米市を含む県内各地を周り「たくさんの人たちの支えがあってこそ自分たちはプレーできることをあらためて感じたし、だからこそピッチで結果を出さないといけない」という思いを抱いた。2023シーズンもこの先もチームとともに歩む地域の人たちと触れ合えたことも、チームがこの時期に得た大きな財産だ。

「13」のコレオを背に挨拶をする平岡康裕 【©VEGALTA SENDAI】

 22日に練習を終え、翌23日にチームは“ベガルタ仙台2022ファン感謝の集い”を今季最後の活動とした。3年ぶりの対面方式でサイン会を開催するなどして、ここでもサポーターの存在をあらためて実感した選手たち。その1人で、今季をもって仙台を離れる平岡康裕は、サポーターへのメッセージで感謝の言葉を口にした。
「このクラブと仙台の街に、僕自身、成長させてもらいました。ありがとうございます」

 2022年を最後にチームを去る選手も、2023年も仙台でプレーを続ける選手もいる。それぞれの立場の者が、来季にJ2優勝を果たせるチームを作ろうと土台作りに精を出したのが、この約1か月だった。平岡の言葉にあったように、選手たちは日々の練習や試合、街とそこに縁のある人たちとの出会いにより、日々成長する。10月27日から11月22日までの期間では、それが通常のシーズンとはまた違ったかたちでチームに浸透していった日々だった。

 それを今後に生かせるかどうかは、各選手の努力次第。現時点で、来季の結果が保証されたわけではない。だが、クラブが掲げた「2023は、始まっている。」の言葉のように、この時期からより良い未来のために培ってきたものは、きっと2023年の財産になる。


文=板垣晴朗
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著者プロフィール

1994年に東北電力サッカー部を母体とした「ブランメル仙台」として発足。1999年にチーム名を「ベガルタ仙台」に改め、J2リーグに参戦。 「ベガルタ」というクラブ名は仙台の夏の風物詩である七夕まつりに由来する。天の川を挟んで光輝く織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)の2つの星の合体名で「県民・市民と融合し、ともに夢を実現する」という願いを込められている。地域のシンボルとして親しまれ、誇りとなり、輝きを放つことで広く地域へ貢献していく意味も含んでいる。 ホームタウンは宮城県全域。ホームスタジアムはユアテックスタジアム仙台。

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