【ベガルタ仙台】2023年へのスタートライン(上)

ベガルタ仙台
チーム・協会

【©VEGALTA SENDAI】

「2023は、始まっている。」

来シーズンに向け、チームは約1か月間トレーニングに励んだ 【©VEGALTA SENDAI】

 2022年10月27日が、2023年へのスタートラインとなった。
 
 ベガルタ仙台は2022シーズンの明治安田生命J2リーグ戦を、7位で終えた。前年の降格により2009年以来のJ2を戦うことになった仙台は、1年でのJ1復帰を目指したものの、果たせずに終わる。自動昇格圏どころか、J1参入プレーオフ出場圏からも外れてしまった。
 10月24日、最終的に仙台にとって今季最後の公式戦となったJ2第42節の翌朝、伊藤彰監督が来季も指揮を執ることが発表された。

 それから3日後に、仙台の練習場にはこのシーズンを戦ったほとんどの選手が集まった。

強度は調整しながらも、戦術を落とし込む 【©VEGALTA SENDAI】

 その日から翌シーズンへの準備が始まった。例年では、最終戦の日を以て解散するときもあれば、練習を継続するにしてもシーズンで蓄積した疲労を抜くクールダウンメニューが中心。だが、今回は来季を強く意識したメニューが組まれた。
 伊藤監督はこの時期に、適度にオフを入れ、また、けがをしないようにプレー強度を調整しつつ、シーズン中に実施するような戦術練習を設定。その理由を以下のように語る。
「積み上げられるものは積み上げて、少しでも早くやれるものはやっておいた方がいい。少し選手たちの頭の中にちょっと残って、次のシーズンにパッと入ったときに、自分の引き出しを空けられるようにすることが大事です」

9月6日に就任が発表され、10日の大分トリニータ戦で指揮する伊藤彰監督 【©VEGALTA SENDAI】

 その背景には、悔しさが、そして進歩への渇望が、ある。
 
 悔しさとは、言うまでもなく、今季果たすべきことが未遂に終わったことへの悔しさだ。
 伊藤監督がチームを引き継ぐことになったのは、明治安田生命J2リーグも終盤戦に入った第34節を終えた頃のこと。当時、仙台はリーグ戦で4連敗を喫していたところ。結果が出ず、試合内容も上向かず、チームとして自信を失っていた状態だった。

数多くのゴールを決めた富樫敬真と中山仁斗 【©VEGALTA SENDAI】

 2022シーズンの仙台は、昨季終盤に就任した原崎政人前監督のもと、攻撃的なスタイルで上位を走っていた。開幕数試合こそ攻撃がなかなか噛み合わなかったものの、スロースタートの3月から一気に加速の4月を迎えた。突くべきスペースを共有し、それに応じた立ち位置を取ることで、攻撃のチャンスを増やす。このスタイルのもとでゴール量産体制を確立させ、中山仁斗と富樫敬真の両FWがゴール前で豊富なシュートパターンを発揮してともに2桁得点。遠藤康の左足から繰り出すパスやシュート、氣田亮真のドリブル、SBから攻め上がる内田裕斗のパス交換や真瀬拓海の飛び出しと、前線から最終ラインまでパスワークに関わりつつゴール前に複数人が顔を出す。遅れてきて合流したキム テヒョンやレアンドロ デサバト、4月に加わった中島元彦もフィット。火力の高い攻撃を有する仙台は、一時期リーグ首位に躍り出た。

相手の対策を跳ね返すことができず、5連敗を喫す 【©VEGALTA SENDAI】

 だがリーグ戦も折り返し地点が近づいた頃から、その火力が湿ってくる。対戦が一巡するあたりは互いの基本スタイルへの対策が練られてくるもので、それを上回る次善策を準備することや、ピッチ上の選手たちが状況に応じて微調整することなどが、どのチームにも求められる。仙台はそれが足りなかった。6月の4試合を2分2敗の勝ちなしで終えたことがひとつ目の壁で、これについては7月にセットプレーや2トップ時のビルドアップにバリエーションが加わったことで一時盛り返した。しかし8月になると、また悪い状況に陥る。相手が中盤のプレッシャーに人数をかけて中島や遠藤の緩急をつけるプレーや氣田のドリブルを押さえたり、サイドのスペースをそれまでより早く塞いだりした際に、チームとしても個人としても打開できず。また、それまで攻撃力でカバーしてきた守備の脆さについてはなかなか改善策を見出せず、攻守のバランスもとれなくなった。仙台はシーズン終盤までリーグトップの得点力を誇っていたが、監督交代に到った第34節までに複数得点した試合が20試合あるのに対し、複数失点した試合も17試合と多め。高い得点力がありながら逆転勝ちは第2節の1回だけで、「取られても取り返す」というより「取っても取っても取り返される」カラーだったことは否めない。

 また、新型コロナウイルス感染症の影響もあった。これはどのチームも直面した問題で、感染者が出ること自体は仕方がない。問題は思いがけないかたちで出場機会を得た選手達がなかなか結果を出せないことで、チーム内競争が活発化できない状態に陥ることだった。仙台の場合は3月から4月にかけて選手に欠場者が相次いだときは、最初は苦しんだものの新たに台頭した選手の活躍があって持ち直し、4月の躍進に繋げた。だが7月から8月にかけて新たな波が訪れた時には、立て直せず。悪い流れが続いてしまった。

 そういった複合的な要因もあって内容・結果ともに厳しいものとなっていたところ、残り8試合の時点で監督交代となった。

第36節 栃木戦でフォーメーションを変更し、バランスを整備 【©VEGALTA SENDAI】

 伊藤監督は第35節から指揮を執るにあたり、J1昇格という短期的なポイントともに、クラブとしてスタイルを構築することなど長期的なヴィジョンに共感して引き受けたという。この時期の立て直しは困難なものだが、指揮官は課題だった守備の改善を中心としたバランスの整備など、限られた時間で課題の解決に取り組んだ。第36節 栃木戦で就任後初勝利を挙げ、最後の2試合では内容的にも持ち直した。だが、J1昇格には届かなかった。
 悔しさは残るが、伊藤監督は第42節・秋田戦直後に「来季に必ずJ1に上がる強い気持ちでシーズンを過ごすため、しっかりと準備をしたい」とその先の指揮への意欲を示し、「終わったことですから、(気持ちを)切り替えました。プロフェッショナルとしていつまでも引きずっていてはいけないし、選手たちも切り替えているはず」と前を向いた。

選手たちは2023シーズンを見据えている 【©VEGALTA SENDAI】

 そしてオフを挟んで再開した27日から、2023シーズンに向けた練習が始まっている。2022シーズンのJ2リーグ戦終盤8試合のなかでも、仙台の選手たちは伊藤監督が志向する5-3-2と4-3-3を行き来する可変システムを理解したり、そこから調整を加えた3-5-2にも対応したりしていた。だが、長いシーズンに向けた戦術のベースを作り、この複雑なシステムを安定して機能させるためには、時間が必要だった。その“仕込み”に、この公式戦日程が終わった後でも、約1か月に渡りチームは取り組んでいる。
 意識を2022年の悔しさから、2023年への進歩に切り替え、選手たちは成長を誓った。

 佐藤瑶大はシーズン途中に育成型期限付き移籍で仙台に加わった。「J1昇格ができず、連係でも個人のプレーでもミスが多くあって悔しい年になりました。でも、原崎さんにも彰さんにも我慢して使っていただいた中で、改善できたこともありました」と、仙台での日々を振り返る。失点に直結するプレーを反省したときもあれば、守備の統率役を任されてチームの攻守に貢献できたときもあった。それを踏まえて「ここで満足してはいけないし、この時期の練習をお楽しみ会にしてはいけない。この時期に何ができるかは、これからの差にも繋がるはず」という意欲のもと、練習に汗を流す。
 ベテランの遠藤は、秋田戦後はしばらくコンディションが整わず別メニューだったが、回復とともに志願して戦術練習に合流した。「早く戻りたかった。大事な時期の練習だし、日々の練習でいかに意欲や問題意識を持ってできるかが、その先で返ってきます。それに、今シーズン一緒に戦ってきた仲間たちとサッカーができるわけだから」と2022年の残り期間を大切に過ごす。フォギーニョも来季への契約を更新したうえで「今年で離れる選手もいれば来年に更新する選手もいますが、そういったこともありながら全員でいい雰囲気の中、練習ができています」と仲間とともにチーム作りを進める。

 様々な立場の選手やスタッフがいるなかで、来季に向けてやれることに力を尽くす。仙台はこの約1か月をそのように過ごしている。公式戦日程終了後、クラブは今季の名場面を中心に据えたポスターを作成し、そこにこの言葉を添えた。


「2023は、始まっている。」


文=板垣晴朗

【©VEGALTA SENDAI】

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著者プロフィール

1994年に東北電力サッカー部を母体とした「ブランメル仙台」として発足。1999年にチーム名を「ベガルタ仙台」に改め、J2リーグに参戦。 「ベガルタ」というクラブ名は仙台の夏の風物詩である七夕まつりに由来する。天の川を挟んで光輝く織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)の2つの星の合体名で「県民・市民と融合し、ともに夢を実現する」という願いを込められている。地域のシンボルとして親しまれ、誇りとなり、輝きを放つことで広く地域へ貢献していく意味も含んでいる。 ホームタウンは宮城県全域。ホームスタジアムはユアテックスタジアム仙台。

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