ベトナムからスタートしたフロンターレのアジア事業。「アジアの地でも川崎で培ってきたものを提供していきたい」(吉田社長)
【©KAWASAKI FRONTALE】
どのようにベトナムとの関係を深めていったのか、クラブがアジアとどうつながっていこうとしているのかを、ベカメックス・ビンズンFCとの特別親善試合を前に考える。
フロンターレだから、できたこと
そう吉田社長が話すようにフロンターレは、サッカー面だけではなく、多方面で培ってきたものがある。地域密着で地元の方々との交流を深めることや、サッカーファンでなくても楽しんでもらえるイベントの数々。その他にも数え切れないほどの活動をしてきたフロンターレだからこそ、できることがある。それが、Jリーグと世界をつなげることだ。
その可能性を示したのが10年前の2012年。クラブパートナーの東急が出資するベカメックス東急が、ベトナムのホーチミンの北30キロに位置するビンズン新都市に大規模な都市開発に乗り出したタイミングがキッカケとなった。
翌年の2013年、日越外交関係樹立40周年という節目の年を記念して「東急ビンズンガーデンシティカップ」を開催。ビンズンスタジアムでフロンターレとVリーグのビンズンFCが対戦した。そのスタートに当たってベトナムの方々に楽しんでもらえるイベント開催をフロンターレに協力してほしいとの相談を受けたことで、本格的にベトナム事業が始まっていく。そのイベントで見せたのは私たちが知っているフロンターレらしさだった。
ビンズンスタジアムの外に広がる光景は、まさに日本のお祭りそのもの 【©KAWASAKI FRONTALE】
この催しの成功を経て「この街に住みたい」と思わせ、住民の生活を豊かにするには、そのためのコンテンツが欠かせない。ベカメックス東急はその軸になるのがサッカーであると考え、ベトナムでの育成年代の国際大会開催、サッカースクールの開校につながっていった。
地道な活動が実を結んでいく
こうした地道な活動が2018年にビンズン新都市で「ベトナム日本国際ユースカップU-13」の開催につながる。両国から13歳以下の4チームずつを招いた大会は4度行われ、選手の児童養護施設訪問、交流パーティーで社会教育、国際交流の場も設けている。また、日越外交関係樹立50周年の2023年は他のASEAN諸国からもチームを招く計画であり、さらなる広がりを見せようとしている。
2014年のU-13ベトナム遠征には宮城天(背番号10)も参加していた 【©KAWASAKI FRONTALE】
「この大会の企画、法人営業などを手掛けていただいている、ブレインコミュニケーションズの古川直正代表がおっしゃるには、『ベトナムに進出している日系企業には、この国でビジネスをさせてもらっている』という意識がある。これだけ多くの企業が協賛してくださったのは、この大会がベトナムのためになり、日越の友好、そして日本のプレゼンスのアップに結びつくからではないか、ということです。この考察がアジアでの事業の成否のカギになるのかもしれないなと思っています」
この考え方はJリーグのみならず、スポーツ界にとってもアジアでの事業の成否のカギになるかもしれない。
次なるステップへ
新型コロナの影響で当初の予定からは遅れたものの、2021年12月に通年のスクールが開校 【©KAWASAKI FRONTALE】
川崎からアジアへ
「ベトナム国内で言いますと、現地のクラブとのつながりが深まってきています。『フロンターレの育成メソッドを学びたい』『日本で合宿をさせてくれないか』、『ウチのユースにいい選手がいるので取らないか』という、競技面の相談だけでなく『クラブ経営・事業運営について学びたい』という声も出てきました。こうした関係性を、いかにクラブのメリットに直結させていけるかが、今後のテーマになってきます」
11月20日にはビンズンスタジアムで9年半ぶりにフロンターレとビンズンFCのトップチームが対戦する 【©KAWASAKI FRONTALE】
川崎から世界へ──。
フロンターレは今まで培ってきたことをベトナムで体現することで、川崎市からアジアや世界への輪を広げることの可能性を示してきた。それだけの力がサッカーとフロンターレが築いてきたものにあるということだ。地道に前を向いて進んできたからこそ今がある。
今後も積極的にベトナムとの関係を深め、Jリーグ、フロンターレを世界とつなげていく。
(文・高澤真輝)
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