台湾プロ野球、後期シーズンは林威助監督&平野恵一統括コーチの中信兄弟が優勝

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【昨年わずか1イニングのみ登板の吳哲源(中信)が、規定投球回数を達成し11勝(C)CPBL】

最大7ゲーム差から猛チャージで逆転優勝、年間順位1位は楽天に 

 前後期シーズン60試合、5チームで行われている台湾プロ野球は、前期に続き、後期も混戦となった。10月22日、首位の中信兄弟に2ゲーム差ながら、残り3試合を全勝すれば、同率で61試合目の優勝決定戦に持ち込む可能性を残していた前期優勝の楽天モンキーズは、本拠地、楽天桃園球場で味全ドラゴンズと対戦した。

 試合は、2対1と楽天リードで迎えた9回表、回跨ぎで続投したクローザーのヘーゲンズがあと一人の場面から乱調で4点失い、逆転を許すまさかの展開に。その裏、粘りをみせ同点に追いついたものの、結局、延長12回の末、5-5で引き分け。この瞬間、楽天の後期優勝の可能性が消滅し、中信の18度目(前身の兄弟エレファンツ時代を含む)の半期シーズン優勝が決定した。

 一方、19日の時点で後期優勝マジックを1としていた中信も、この時点では、直接台湾シリーズに直接進出できる年間順位1位の可能性を残していた。しかし、20日、楽天が統一セブンイレブンライオンズに勝った中、20日と21日、本拠地・台中インターコンチネンタル球場で行われた味全戦で、実に1カ月半ぶりとなる連敗を喫し、年間3位、味全とのプレーオフ(5勝3勝制)に、1勝のアドバンテージをもって回ることとなった。

「台湾版阪神タイガース」ともいうべき熱狂的なファンをもつことで知られる中信兄弟、20日は今季平日最多の11607人、21日は今季リーグ最多となる13830人が優勝を期待して来場したなか、ファンの前での胴上げはならなかった。林威助・監督も「2試合共に勝てず、自力で優勝を決められなかったことは悔しい」と肩を落としたものの、「選手たちはシーズンを通じて頑張ってくれた。最大7ゲーム差から、一試合一試合努力し、後期優勝をつかむことができた」と健闘を称えた。

 昨年、チームを11年ぶりに台湾一に導いた林威助監督の半期シーズン優勝は、昨年前期に次いで2度目となった。

後期シーズン優勝を決めた中信兄弟の林威助監督 【(C)CPBL】

 実際に、8月末以降の中信の戦いぶりは見事であった。7月22日にスタートした後期シーズンも、前期同様、楽天がロケットスタートを決め、勝率は一時9割に達し、楽天の前後期優勝で決まったかに思われた。

 一方、前期、楽天に4.5ゲーム差の2位だった中信は、前期シーズンの終盤に、ショーン・モリマンドが韓国プロ野球SSGへ移籍、また、テディ・スタンキビッチも家庭の事情により帰国、先発外国人三本柱の2人が退団し、後期はさらなる苦戦が予想されていた。

 実際、出足は悪く、8月下旬までは低迷、8月26日には首位の楽天が16勝6敗1引き分け、勝率.727であったのに対し、4位の中信は勝率4割、8勝12敗1引き分けで、7ゲーム差をつけられていた。

 しかし、そこから猛チャージがスタート。特に9月16日から10月13日までは、19試合で17勝1敗1引き分けという脅威的なペースで白星をかさね、10月4日、ついに首位に躍り出ると、最後までその座を守った。結局、8月27日から優勝決定まで38試合で28勝9敗1引き分け、勝率は.757に達した。期間中のチーム打率は.284、防御率2.97、投、打、守備の成績は他チームを圧倒した。楽天もこの期間、5割以上の勝率はキープしたものの、中信の快進撃の前に、年間1位の座を守るのが精一杯であった。

快進撃のカギは、「1.5軍」控え選手の活躍に、外国人捕手の好リード

 林威助・監督は、後期シーズン中盤以降の快進撃について、新型コロナウイルスによる主力の離脱、さらに怪我、不調といったアクシデントが発生した中、林監督が「1.5軍」と呼ぶ、一軍の控え選手たちがその穴を埋め、さらには主力級へと成長したことが大きかった、と振り返った。

 投手陣では、先発のホセ・デポーラが14勝で最多勝、鄭凱文が8勝、呂彥青が、怪我がちだった李振昌に替わりクローザーに転向し20セーブをマークするなど、主力級が活躍したほか、王建民二軍投手コーチからシンカーを学び、後期から先発に定着、球団新となるシーズン11連勝と大ブレイクを果たした吳哲源や、6試合に先発し3勝をあげた陳柏豪ら、昨シーズンは一軍登板がほぼなかった投手がチャンスを活かし、チームを支えた。

 ただ、これらの投手陣の好成績を引き出したといわれるのが、今季から加盟したドミニカ共和国出身の捕手、フランシスコ・ペーニャだ。父は選手としてMLBオールスターゲーム5回出場、ゴールデングラブ賞4回受賞、指導者として、ロイヤルズやWBCドミニカ代表の監督もつとめたスーパースターのトニー・ペーニャで、本人もMLBで5シーズンプレーしたキャリアをもつ。

「グランドの司令塔」として、後期の快進撃を牽引したフランシスコ・ペーニャ(中信) 【(C)CPBL】

 開幕時は一軍スタートも、先発投手が必要なチーム事情もあり2週間で抹消、その後、結果的には約3カ月、二軍でプレーすることになったが、腐ることなく試合出場を続けた。陽気な性格で、熱心に若手へ技術指導をするなど人間性もすばらしく、チームに打ち解けていった。

 その後、クラスター発生により一軍でのプレー機会をつかむと、正捕手として起用されるようになった。マスクをかぶった試合の勝率は.650を越え、防御率は2点台をマーク、盗塁阻止率も5割を越え、開幕当初は捕手ペーニャの実力について明確な判断を下していなかった林威助・監督も、後期快進撃のキーポイントであったと認め、「若手、中堅、外国人投手に限らず、ペーニャがマスクをかぶると投手陣が安定している」として、評価した。

 入団当初、昨年3Aで23HRを放った長打力が期待されていたことを考えれば、71試合、打率.255、5HR、28打点という「打者ペーニャ」の成績はいささか物足りないが、「捕手ペーニャ」の貢献は大きかった。ただ、プレーオフでは外国人選手4選手のうち、登録枠は3人のみ。短期決戦で投手力が重要となる中、投手の枚数を揃えるのか、司令塔としてペーニャを残すのか、林監督の決断が注目される。

 また、台湾人野手では、看板選手の張志豪、昨年の優勝を支えた詹子賢や陳子豪ら外野手が怪我や不調に陥った際、陳文杰、岳政華、林書逸といった選手が攻守で貢献、穴を埋めるどころか、スタメンに定着しつつあり、外野の競争は激化している。また、内野手でも、主力の許基宏がコロナで離脱した際、代役に抜擢した黃韋盛が活躍した。

 こうした若手、控え野手の才能開花を陰で支えたと言われているのが、平野恵一・野手統括コーチだ。林威助・監督の肝いりで今季から入閣した中、チーム状態が上がらない時期にはファンから厳しいヤジを飛ばされることもあったというが、チーム成績の向上、そして活躍した選手から感謝の言葉が聞かれるようになったことで、あらためてその手腕が注目されている。

 台湾メディアから、チーム打撃が好転した理由や、若手野手の中で誰が最も成長したかを問われても、「秘密」と答えをはぐらかしている平野コーチだが、「コーチは選手によりそい、困っている時に手を差し伸べてあげるものだ。でも、選手達には自信をもってもらいたい」と、指導スタンス、選手達への期待を語っている。

10月29日から中信と味全がプレーオフ、勝者が台湾シリーズで楽天と対戦へ

 台湾プロ野球では今季から、台湾シリーズ進出をかけたプレーオフが毎年実施されるようになった。ここでは全てのパターンの紹介は割愛するが、今季、前期は楽天、後期は中信が制し、年間勝率1位は楽天となったことから、楽天は台湾シリーズに進出、一方で、中信は1勝のアドバンテージをもって、前後期優勝を共に逃したチームのうち、勝率が最も高い味全と、10月29日から5試合3勝先勝制のプレーオフを戦う。

 プレーオフ4試合中、第1、3、4戦は中信の主催ゲームで、台中インターコンチネンタル球場で開催され、味全の主催ゲームは第2戦のみ、台北市の天母球場で開催される。

 中信と味全のレギュラーシーズンの対戦成績は中信の16勝13敗1引き分け、前期は味全が8勝7敗でほぼ互角も、後期は中信が9勝5敗1引き分けと大きく勝ち越した。ただ、直近の2試合は味全が連勝し、胴上げを阻止した。

 2019年に、20年ぶりに台湾プロ野球に再参入した味全は、首脳陣こそOB主体だが、選手についてはゼロから集めチームをつくってきた。今季は中信から事実上の「ノンテンダー」となったレジェンド打者、林智勝が移籍、主力打者として活躍し、若手主体のメンバーを牽引した。投手陣も外国人投手がフル回転、台湾人投手も成長をみせ、一軍参入2年目でのプレーオフ進出を果たした。年間勝率は約5割ながら、明るく活気のあるチーム。勢いに乗ると手がつけられなくなることから、中信にとっては数字以上の怖さを感じるだろう。

 果たして、プレーオフを勝ち上がり、11月5日から楽天モンキーズと、7試合4勝先勝制の台湾シリーズで対戦するのはどちらのチームだろうか。

 仮に中信が勝ち上がると、中信・林威助監督と楽天・曾豪駒監督による、一学年違いの中学の先輩、後輩対決となるだけでなく、楽天一軍には古久保健二ヘッドコーチと西村弥守備走塁コーチ、中信一軍には平野恵一野手統括コーチがおり、日本人コーチが監督を補佐するチーム同士の対決となる。

 なお、プレーオフ、台湾シリーズは、台湾プロ野球を運営するCPBLの有料OTT「CPBLTV」でも視聴可能だ。ちょうどこの26日から、月額177元(日本円約820円)で、「プレーオフ、台湾シリーズ」パックが販売された。

 1年で最も盛り上がりをみせるプレーオフ、台湾シリーズの熱気を感じられることはもちろん、各球団の人気チアガールのパフォーマンス、そして、WBCの「予習」もできるはずだ。熱戦は11月2週目まで続く。野球ファンの皆さんは、台湾プロ野球のプレーオフ、台湾シリーズにもぜひ注目頂きたい。

文・駒田英
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