マイナビ仙台コラム vol.1「杜の都で“女子プロサッカー”を文化に。マイナビ仙台レディース、2年目の挑戦」
【mynavisendai】
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2021年に創設された日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」。2年目のシーズンが、今週末10月22日に開幕する。「WEリーグ」はWomen Empowerment Leagueの略。その名称には、日本に“女子プロサッカー選手”という職業が確立され、リーグに関わるわたしたちみんな(WE)が主人公として活躍する社会を目指す、という思いが込められている。
宮城県仙台市を本拠地とする女子プロサッカーチーム、「マイナビ仙台レディース」は、初年度からこのWEリーグに参戦。前身となるのは、サッカーJ2ベガルタ仙台の女子チーム「ベガルタ仙台レディース」。そのベガルタ仙台レディースも、東日本大震災の影響を受け休部となった「東京電力女子サッカー部マリーゼ」(福島県)を引き継ぎ、2012年に創設されている。東北の地で受け継がれてきた女子サッカーの系譜。いくつものチーム思いや歴史をつないで存在するのが「マイナビ仙台レディース」(以下、マイナビ仙台)なのだ。
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名伯楽、次の一手は?選手の個性を最大限に生かす松田監督
初年度に続いて2年目の指揮を執るのは、サッカー指導者歴30年目を迎えた松田岳夫監督だ。Jリーグやなでしこリーグ、更に下部組織の選手まで、ありとあらゆるカテゴリーで指導経験がある名将。特に女子サッカーの分野では、日テレ・ベレーザ(現・東京NB)、I神戸などで数えきれないほどのタイトルを手にしてきた。
昨シーズン、松田監督はボールを握り、主導権を持ってゲームを進めることを選手たちに意識づけた。細かなパスで相手を動かし、頭と体を連動させる。次々とボールを追い越し、ボールの前に多くの人数をかける。試合で訪れる様々な局面を想定し、自ら瞬時に判断して自然と体が動くようになるまで、徹底してトレーニングを重ねた。常に考えながらプレーし続ける松田サッカーに、初めは「頭が疲れる」とこぼしていた選手も、次第にプレーのスピードを高めていった。
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アグレッシブさを選手たちに共有する上で、松田監督が例に挙げたのがUEFA欧州女子選手権2022でヨーロッパ各国の選手たちが見せた力強さだった。「欧州サッカーの基準は、我々が日本で考えている小さなサッカー観より、もっと男子のサッカーに近く、スピード感がある。女子はパス数が多い、パワーが足りず一本のパスでサイドチェンジできない、と考えがちだが、世界はそうではない。その基準に近づいていきたいということを、今季初めに選手たちに話した」。大きな展開から大胆に、時には速攻からシンプルにゴールを狙う。リーグ戦では、昨季積み上げてきたサッカーとの両立が、勝利への鍵となってくるだろう。
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若い選手が多く所属するマイナビ仙台に、今季は頼れるベテラン選手が加わった。元日本代表のMF中島依美選手の加入は、特に驚きを持って伝えられた。中島はオフに13年間在籍したI神戸から海外移籍を試みるも、思うようなオファーを得られず。移籍先を模索していた中島に声をかけたのは、彼女自身が厚い信頼を寄せる松田監督であった。溢れる闘争心と高いコミュニケーション能力を誇る彼女は、日々のトレーニングからプロ選手としてあるべき姿を仲間たちに伝えている。中島を中心に、マイナビ仙台の練習場には活気にあふれている。
さらに今季は国際色豊かなタレントが増えた。モンテネグロ代表キャプテンのFWスラジャナ・ブラトヴィッチ選手は174cmの長身を誇り、両足から鋭いシュートでゴールを狙う。元日本代表で高い技術を誇るFW後藤三知選手(元I神戸)も、前線で攻撃の起点として期待がかかる。中盤でスピードを持ってプレーできるMF茨木美都葉選手(元新潟L)は、攻撃の新たなピースとしてアクセントをつける存在となる。そして、タイリーグの2022年MVPに輝いたDFポンピルン・ピラワン選手も、WEリーグカップで高い対人能力を見せつけた。5色の新しい力が、既存の選手たちとどのように混ざり合っていくか、ピッチから目が離せない。
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“どうしたら女子サッカーの魅力を広く伝えていけるのか”。これはマイナビ仙台だけではなく、リーグ全体で取り組むべき課題である。2021‐22シーズンのWEリーグの平均入場者数は1560人と、初代チェアの岡島喜久子氏が目標に掲げた「平均5000人」を大きく下回った。新型コロナウイルスの影響下に始まったリーグ、声出し応援ができないなど様々な制限があるとはいえ、盛り上がりに欠ける厳しい状況はシーズンを通して変わらなかった。
GK松本真未子選手はこうした状況に表情を引き締めた。「昨年は初めてのことも多かったので、まずはWEリーグを知ってもらうことから始まった。ここからは“生き残っていかなければいけない立場”。リーグやチームが生き残っていくために、マイナビ仙台のサッカーは楽しいと思って欲しい」。
松本が感じているのは“危機感”だ。「女子サッカーが今まで歩んできた道のりもそうだし、今置かれているWEリーグの状況もそう。特に観客数はわかりやすく、けして輝いている状況とは言えない。子どもたちに女子サッカーの楽しさを伝えていけるように、私たちが魅せ続けていかなければならない。仙台から女子サッカーを文化として発信していきたい」。厳しさを乗り越えて、子どもたちの夢を広げる存在を目指していく。
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マイナビ仙台は、WEリーグカップのホームゲーム全試合で、地域の子どもたちを対象にした無料の「サッカー教室」を実施し、選手やコーチと触れ合いながらボールを蹴る楽しさを広めてきた。また、9月11日のちふれASエルフェン埼玉戦では、地元出版社とタッグを組んで、子どもを対象とした就労体験イベント「おしごとらぼ」を開催した。小中学生に、グッズ販売や、カメラマン、スタジアムDJにインタビュアー等、サッカーを取り巻く仕事を実際の公式戦で体験してもらう取り組みだ。真剣勝負が行われるピッチサイドで、本物に触れる。仕事の面白さ、難しさを感じながら子どもたちが真剣に取り組む姿は、選手たちやスタンドのサポーターの心までを動かしていた。
「仙台の方々に愛されるチーム作りをしなければいけない。サッカーを通した地域の方々の健康促進や復興支援に取り組んでいきたい」と話すのは、マイナビ仙台を運営する今年7月に就任した株式会社マイナビフットボールクラブの本棒陽一取締役社長。新たなビジョンの中で、地域との距離を近くする施策を打ち出していく。
「おしごとらぼ」を今後も展開していくのと同時に、自分たちから地域に入っていく仕掛けも行う。今季から3年かけて、宮城県の35市町村の小学校、333校全てにサッカーボールをプレゼントする方針だ。また、スポーツの街・仙台で、J2 ベガルタ仙台やB1 仙台89ERSなどのプロスポーツチームとのタッグを組むことや、試合が行われるスタジアムの周りのスペースで「マルシェ」を開いて地域の物産を販売したり、チアや吹奏楽などの「発表の場」として提供するなど、様々なアイディアを打ち出して人の輪を広げていく。一足飛びにはいかない観客動員数のアップ。地道に一歩ずつ「愛されるチーム作り」に取り掛かっている。
10月22日のWEリーグ開幕戦EL埼玉戦(13時キックオフ、ユアテックスタジアム仙台)では、“宮城県民は誰でも自由席(北)が無料”となる施策を打ち出した。(オフィシャルホームページより事前の申し込みが必要)まずはスタジアムで直接見てもらい、身近に感じてもらうことから、最初の一歩が始まる。
チームが魅力的なサッカーで結果を出し、フロントは彼女たちが輝く舞台を作り上げる。両輪がうまく回ることで、WEリーグ元年とは異なる成果が生み出されることに期待したい。杜の都の芝生の上で、選手たちがプロサッカー選手としての誇りを感じながらプレーし、それを見つめる人たちにも多くの夢が生まれるシーズンがいよいよ始まる。
(マイナビ仙台レディースオフィシャルライター・村林いづみ)
【試合情報】
2022‐23 Yogibo WEリーグ第1節
マイナビ仙台レディース 対 ちふれASエルフェン埼玉
日時:10月22日(土)13時キックオフ
会場:ユアテックスタジアム仙台(仙台市泉区)
https://www.mynavisendai-ladies.jp/
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