山本華歩選手が銀メダルを獲得「満点の演技ができた」パルクール世界選手権

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【@JGA】

第1回パルクール世界選手権の最終日が16日、東京・アーバンスポーツパークで行われ、女子フリースタイルで山本華歩選手が25.0点(難度点12.0、実施点13.0)の高得点をマークし見事、日本選手初の銀メダルを獲得。また、近藤凪紗選手が22.5点(難度点11.0、実施点11.5)で7位入賞を果たした。

世界選手権女子フリースタイル:山本華歩選手 【©︎JGA】

最後のロンダートからのフルツイスト(後方宙返り1回ひねり)の着地が決まった瞬間、山本選手は大きくガッツポーズ。そして、両目から涙があふれた。

「自分が出したかった技がすべてできて、ホッとしました」

22.0点で3位通過だった予選から3点伸ばした決勝のラン。ポイントとなったのは最初の入りで取り入れた連続技のコンボ。宙返りを2回続けて行うという難度の高い構成に変え、勝負に出た。

「これはずっと練習してきた技のコンボでした。練習では100%ぐらいの確率でできていたんですけど、試合では出したことがなかったので不安と緊張で……。でも、表彰台に上がるためには予選で減点された箇所を修正するだけではダメで、技をもう一段階上げないといけないとも思っていました」

良き仲間として長い時間を一緒に高め合ってきた泉ひかり選手やコーチからも「やった方がいい」と後押し。ならばと、決勝直前の練習で試したところ、完ぺきに成功。「これなら本番でもできる」――もう迷いはなく、山本選手の心が定まった瞬間だった。

世界選手権女子フリースタイル:山本華歩選手 【©︎JGA】

8選手によって争われる決勝は、ライバルたちが予選の得点を次々更新していく中、緊張が高まる6番目でのラン。台上で不安を和らげるようにやや時間をとった後、いざ踏み切って前方宙返りからフルツイストのコンボを投入。これが見事に、そして練習同様、完ぺきに決まった!

「バッチリ決まって、自分の中では満点の演技ができたと思います」

この大技の成功で波に乗ると、体を180度反転させながら壁から壁へと飛び移る得意の上半身を使った技を繰り出し、また回転技もきれいに決まるなど山本選手のスタイルを存分に発揮。世界の大舞台で表現したかった自分のパルクールを余すところなく出し切ることができた。

そして、大会前には「30代でもこれだけ動けるということを証明したい」と意気込みを語っていたが、まさに有言実行。パルクールを通して得た、32歳となってなお進化する肉体の動きを日本のファンの前でアピールすることもできた。ただ本当は、「30代になってもこんなに動けることを想像していなくて、自分でも驚いています」。正直な胸の内を打ち明けて、山本選手は笑顔を見せた。

「パルクールをもっと世の中に広めたい」

世界選手権女子フリースタイル:山本華歩選手 【©︎JGA】

一方で、山本選手は現在、コーチとして大人から子供まで様々な年齢層の人たちにパルクールを教え、その楽しさを広めている。大会前日の13日も普段通りに担当クラスでのレッスンを終えてから、世界選手権に臨んだ。

「本来のパルクールは自分のフィジカルやメンタルを強くするためにあるもの。しかも、それを楽しみながらできるというすごく良いスポーツなんです。もっと身近なもの、運動不足解消のエクササイズのようなものとして、もっと世の中に広めていきたいなと思います」

国際体操連盟主催による初めての世界選手権は当初、2020年に開催が予定されており、山本選手もその前年に一度は日本代表に選ばれていた。しかし、新型コロナの影響で大会が延期され、また山本選手自身もコーチとしての仕事のスケジュールなどから、世界大会への出場を断念したこともあった。そんな紆余曲折を経て、まるで障害物を乗り越えるようにしてつかんだこの銀メダル。世界選手権で日本選手初のメダルという山本選手の歴史的な快挙は、自身が目指すパルクール文化の定着へ向けた大きな一歩となるに違いない。

7位の近藤選手「もっとレベルアップしていきたい」

世界選手権女子フリースタイル:近藤凪紗選手 【©︎JGA】

同じく女子フリースタイル決勝に進出した近藤凪紗選手は7位入賞。

「予選の7位から順位を上げられなくて悔しいですね。海外の選手はすごかったし、山本選手もすごいなと改めて思いました」

鉄棒や壁を使った回転技、最後のフルツイストもミスなく決めることができ、予選を1.5点上回る22.5点をマーク。「今の自分が持っている技を全部出し切れた」とベストを尽くしたが、それでも表彰台には届かなかった。それだけに「もっと技の難度を上げてレベルアップしていきたい」と、次への課題は明確に見えている。

本格的な大会出場は昨年の日本選手権が初めてで、パルクール歴はまだ3年にも満たない21歳。山本選手、泉選手を追う次世代の代表格・近藤選手の今後の成長に注目したい。

泉選手「大会をエンジョイ」、岩崎選手「次へのバネに」

世界選手権女子スピード:泉ひかり選手 【©︎JGA】

また、前日の女子スピードで4位に入賞した泉ひかり選手は、女子フリースタイルで予選8位の得点を出したものの、決勝は1カ国・地域から2名までという規定のため、残念ながら決勝進出とはならず。それでも日本選手でただ一人、初日から最終日までの3日間すべてに出場する大活躍で会場を沸かせた。そんな3日間を泉選手は「スピードもフリースタイルも楽しくて、始まってみればアッという間。大会をすごくエンジョイできたかなと思います」と持ち前の笑顔で振り返った。

世界選手権女子スピード:岩崎優衣選手 【©︎JGA】

そして、チームジャパン最年少16歳の岩崎優衣選手は、他の日本女子3選手とは違い、この日が初めてのラン。しかも、1番目の演技者というプレッシャーのかかる中だったが、「最大限努めることができました」と全力を出し切って14.5点(難度点7.0、実施点7.5)。予選落ちとなったものの、「ケガ(左ひじの脱臼)の影響はあったけど、世界選手権に出ないという選択をせずにチャンスをつかみに行って本当に良かった。この経験は次へのバネになります」と、大きな刺激になった様子。近藤選手同様に次世代を担う選手の一人として、初めて挑んだ世界の舞台をきっかけに大きく飛躍してくれるはずだ。

男子スピードの勝乗選手、大西選手は決勝進出ならず

世界選手権男子スピード:勝乗志音選手 【©︎JGA】

一方、この日に行われた男子スピードでは勝乗志音選手が31秒04で予選23位、大西隼人選手が31秒52で予選26位となり、上位10名が進出する決勝に上がることはできなかった。

「言い訳にはしたくないのですが……」と苦い表情を浮かべた勝乗選手。同じレースで走った相手が中盤でリタイアしてしまったことで、つられて集中力がプツリと途切れてしまったという。

「予選はタイムを競うものですけど、自分としてはやっぱり相手と競い合って走る方がいい。今回は途中で選手がいなくなってしまって、それが気になったというか、気が散ってしまって……そこから急に足が疲れてしまいました」

不運ではあったものの、この不完全燃焼はやはり大きな反省点であり、次回への改善点と勝乗選手自身も自覚している。また、前日に出場したフリースタイルも予選9位となり8人で争われる決勝には惜しくも進出できなかった。

「今大会は本当に勉強になりましたね。僕はまだまだこれからの選手。この経験と悔しさは絶対に生かさないといけない」

体操競技の元世界王者・内村航平さんの「オールラウンダーとしてのカッコよさ」に憧れて、自身もスペシャリストではなくスピード、フリースタイルどちらでも強いオールラウンダーを目指す23歳。世界選手権で味わった悔しさを糧に成長を遂げる勝乗選手の今後に期待したい。

世界選手権男子スピード:大西隼人選手 【©︎JGA】

また、9日の日本選手権でスピード日本王者となり世界への切符をつかんだ大西選手は、序盤の斜面を下った際に尻餅をついてしまう痛恨のミス。これが最後まで響いた結果となった。

同じコースで行われた日本選手権では28秒40。そこからタイムを3秒落としてしまっただけに「悔しいですね」と無念の表情。早朝8時30分からのレースに備えて入念にアップをして臨んだレースだったが、「大会の雰囲気に飲まれてしまったかもしれません」と、体調よりもメンタル面での気後れを大きな敗因として挙げた。

ただ、大西選手もまだまだ若い19歳。初の世界大会を経験し、また海外トップ選手の動きも間近で勉強できた。勝乗選手同様、大西選手も「この経験を今後に生かしていきたい」とさらなるレベルアップを力強く誓った。
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