私のミッション・ビジョン・バリュー2022年第10回 曽根田穣選手「誰かのために」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが2020年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2022年第10回は曽根田穣選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.今回のミッション・ビジョン・バリューの面談はどのぐらい行いましたか?
「1回1時間ぐらいの面談を4、5回行いましたよ」

Q.今まで自身の過去やサッカーに対する思いなど誰かに話すことはありましたか?
「家族に話すことはありましたけど、それ以外にはないですね」

Q.面談してみて、感じたことは?
「自分の過去や考えていることを文字にしてもらってよかったなという思いはあります」

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Q.まずミッションから聞かせてください。「誰かのために力を尽くす」。こちらの言葉にはどのような思いが込められていますか?
「小学2年からサッカーをはじめて、中学1年の時に母親が亡くなって、それからサッカーをやっていないと気持ちを保てない時期が続きました。それからお父さんが応援してくれて、愛媛FCのジュニアユースとユースに在籍したのですが、トップチームに上がれないことが分かった時にサッカーをやめようと思ったんです。でも、父親が『大学に行ってみたら』と言ってくれて、大学に進学したことによって、結果的にプロサッカー選手になることができました。そういう成り行きの中、父親だけではなくて、周りの友人とか、その父兄の方々とか、指導者の方とか、自分に携わってくれた人のおかげで今、こうやってサッカーすることができている。だからこそ、お世話になった人たちにプロとして活躍している姿を見せることが自分のミッションだと思ってプレーしています」

Q.プロになろうという思いは、子どもの頃から持っていたのでしょうか?
「ずっと持っていたというより、自然と目指してたという感じでした。もちろん、サッカーをする限り、上に行きたい思いはありましたし、常に目標とはしていました。なので、プロになれてよかったと思っています」

Q.亡くなられたお母さんにもプロになっていい報告をしたいという思いがあったのでは?
「サッカーにしがみつくしかなかった。サッカーしている時は夢中になるので、そういうことを考えなくて済んだんです。悲しさを乗り越えることができたのも、自分には夢中になれるものがあったから。それがたまたまサッカーだったということです。高校卒業後愛媛FCのトップチームに上がりたかったんですけど、上がれなくても夢があったから、まっすぐ道を逸れずに大人になれたかなと思っています

Q.サッカーがあってよかったですね。
「本当にそう思います。小学生の時に母親が病気になって、自分は家族で一番下だったので、知らされていないことも多かったんです。なので、突然母親がいなくなっちゃったという感覚がありました。だからこそ、本当にサッカーがあってよかったと思います」

Q.先日、小学校に訪問した際、子どもたちにその体験を経た上でのメッセージを送られたそうですね。
「『夢』というテーマの話をしたんですけど、僕が伝えたのは自分のやりたいことや夢を口にして言うことが大事だということですね。そしたら、周りの大人の人たちは助けてくれる。同時に支えてもらってることを自覚することも必要だよということですね。その上で他のやりたいことを犠牲にしてでも追いかけられるものが夢なんじゃないかなという話をしました」

Q.曽根田選手自身、夢を追うことをサポートしてくれた周りの人たちへの感謝の思いが原動力となっているのですね。
「ですね。なので、小学生には学校の先生や自分のことを見てくれている大人に自分の思いや悩みを打ち明けていいんだよということを話しました。手助けを借りながら夢を目指していけばいいんだよということを伝えたかったんです」

Q.曽根田選手も父親になられて、当時のお父さんの気持ちとかも理解できるようになったのでは?
「やっぱり子どもの夢をかなえてあげようと思いますよね。以前、父親と話した時に『仕送りしようか』という提案をしたら、『そんなのは要らない』と。自分がプレーしている姿を見せてくれるのが一番の親孝行だと言ってくれました。なので、そういう姿をなるべく長く見せたいと思うようになりました。それは父親だけでなく、今までお世話になった人や友人たちに対しても同じ思いです」

Q.「誰かのために」という思いが曽根田選手を奮い立たせているんですね。
「自分は弱い人間なんです。周りに流されてしまうこともありますし、いろんなことにも興味があるので、ぶれてしまいそうになることもあります。でも、そういう思いが自分の中の絶対的な軸としてある。だから、今もこうやってプロとしてプレーできているんだと思っていますし、これからもやっていきたいと思っています」

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Q.次にビジョンを聞かせてください。「サッカー界の価値を高める」。こちらはいかがでしょうか。
「自分が思い描いたプロの世界はもっとキラキラして華やかだと思っていました。でも、全然そんなことはなくて、ピッチを離れれば、普通の人間です。逆にプロ選手ということで不便なことも多いんです。大学卒業して、いきなり個人事業主となり、確定申告をしないといけないですし、自分でいろんな手続きもしないといけない。学生時代までサッカーばかりをしてきたので、サッカー以外の知識がほとんどないんですよ。プロになった途端、代理人と契約することを求められますし、いろんな大人が寄ってきて、お金の話をたくさんされるようになりました。その時にいろんな話をされて、よく分からないままにサインしてしまう選手も少なくありません。それと、プロサッカー選手にはセカンドキャリア問題があります。サッカー選手がサッカーを離れた時に何ができるか。その答えを持っている選手は決して多くありません。なので、今の子どもたちに胸を張って『サッカー選手を目指せ』と僕は言えないんです」

Q.もっと選手がサッカーに集中できる環境を作ることが大事だと感じているのですね。
「そうです。なので、自分の今後を考えた時、サッカー界に携わりたいけど、現場ではなくて、選手の周りのマネジメントというか、環境を整えてあげるような仕事ができればいいなと思っています。そして、サッカー界の価値を高めていきたい。そのためにも現役中に勉強して必要な資格を取るなどできることがあればやっていこうと思っています。そして、後輩たちにこういう道があるよという背中を見せられるようになれればいいなと考えているところです」

Q.プロになる前にいろいろ知っておくべきことはありますよね。そこは日本サッカー界の課題だと思います。
「本当にそう思います。学生のうちから代理人と契約する選手もいますけど、その必要があるかどうかも1人1人がしっかり考えないといけないと思っています。周りが契約しているからとか、先輩から『つけておいた方がいい』と言われたからとか、そういう理由で契約している人が多い。そうではなくて、ちゃんとそれぞれが考えて、必要だったら契約すればいいし、必要ないと思えば契約しなければいい。そういう判断をするための知識をつけておくことが大事だと思います。そういう選手が多くなるための力になりたいという思いがあります。周りから守られていた学生時代から、いきなりプロの世界に放り出されて、何も分からず、戸惑う選手は少なくないですから。そういう選手たちのサポートをしてあげたいと年々思うようになりました。そういう意味で『サッカー界の価値を高めたい』んです」

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Q.次はバリューについて聞かせてください。1つ目は「周りをよく見る」。
「水戸に加入して、結構年上の方の立場になりました。自分がプロ入りして1年目や2年目で悩んでいる時、いろんな先輩やスタッフに相談してアドバイスをいただきました。そして、トライして失敗するということを繰り返して、今があるんです。今、自分が上の立場になって、悩んでいる選手がいたら、あんまり偉そうに言うことはできませんが、『こうした方がいいんじゃない』とボソッとアドバイスすることに最近ハマっているんです(笑)。それで、その選手のプレーがよくなったらすごく嬉しい。水戸に来てから、自分のプレーだけじゃなく、周りの選手のことをによく見るようになった。それはいいことだと思っています。そういったことはセカンドキャリアにもつながるような気もしています」

Q.それによって自分のプレーへの還元はありましたか?
「それこそ自分の調子が悪い時や体が重い時や疲れている時に自分のことばかり考えるんじゃなくて、周りを活かすようなプレーをすることが増えましたし、自分が試合に出ない時には試合に出る選手に対してチームが勝つために必要なことを伝えるなど、そういうことをストレスなくできるようなった。そういうことをこれからも続けていきたいと思っています」

Q.二つ目は「自分の物差しで判断する」。
「監督から言われたことをただやるだけでは自分のよさが分からなくなってしまうことがある。監督やコーチの話をしっかり聞くことは大切ですけど、自分の中で判断することが重要だと思うんです。若い選手には難しいですし、自分も言われたことに反応してしまうタイプなので、考えすぎて立ち止まってしまうことがありました。そういった経験を経て、何が必要なのか、何が必要じゃないのかを自分の中で考えることが大事なんだと思っています。たとえば、代理人に関して、周りが『いい代理人』だと言っても、自分にとって『いい代理人』かどうかは分からない。なので、しっかり話をして、お互いに理解した上で契約することが大切。ちゃんと契約書を読むことや契約内容に関して細かく確認することが重要なんです。そういう部分を自分は大切にしていきたいと思っていますし、それを若い選手たちに伝えたいと思っています」

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Q.スローガンは「誰かのために」
「今まで話した内容が、ここにつながっています。お世話になった人たちのためにプレーしたいですし、これからの若い選手や子どもたちのためにサッカー選手の環境も変えていきたい。引退してからも誰かのために、後輩たちのために何かをしていきたいと思います」

Q.若い選手たちにいろんなことを伝えたい思いが強いのですね。
「そうですね。水戸はまだ小さなクラブですけど、組織としての風通しがいいですし、新しいパートナー企業がつくなど今後に向けて希望をすごく感じています。ただ、Jリーグ全体を見た時、プロは必ずしも努力と結果が比例する世界じゃないんです。それでも、胸を張って『サッカー選手はいいぞ』と言えるようなサッカー界にしていきたいんです。そして、これからの選手たちがもっとサッカーに集中して取り組める環境を作っていきたい。今はその気持ちが強いです」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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