ビジネスパーソンから学んだ、アスリートの成長に必要なものとは?〜スポーツ以外の世界から学ぶ重要性〜 (1/3)|A-MAP2期生 下澤悠太

チーム・協会

【TEGEVAJARO MIYAZAKI】

初めまして。現在、J3テゲバジャーロ宮崎に所属している下澤悠太です。今年でキャリア3年目を迎え、日々「どうしたらもっとサッカー選手として成長し、活躍していけるか?」という問いと、真摯に向き合いながら生きています。
自分のプレーを振り返る、試合を見る、色々な人からアドバイスをもらうEtc…そのような取り組みをしていく中で、「サッカー以外の分野から取り入れられるヒントがあるのではないか?」という視点がこの記事の出発点です。

アスリートにも、認知的多様性が求められる?

【下澤悠太】

『多様性の科学』という本をご存知でしょうか?本書は、同じような考え方や視点を持っている似たり寄ったりな組織と、様々な価値観や考え、視点を持った人たちが集結している認知的多様性が豊かな組織を事例にあげながら、
「複雑な問題に直面にした時ほど、認知的多様性が豊かな組織の方がスムーズに問題解決していける」ということを説いた本です。

本書を読んでいて率直に感じたのが、「これは組織だけではなく、個人としても当てはまるのではないか?」ということ。
つまり、偏った知識や考え方を持っている人よりも、さまざまな視点を持ち合わせている人の方が、複雑な問題に直面した時に、多角的に問題を分析し、最善の解決策を導き出すことができるのではないかと。
もしそうであるならば、プロサッカー選手として活動していく自分にとっても非常に重要な指標になると考えました。

なぜなら、サッカーというスポーツは、ピッチ内外で様々な要素が無数に絡み合っていることで、個人としてもチームとしても複雑な問題に直面することが多いスポーツ(※1)だと考えているからです。

そこで、「サッカー選手として認知的多様性を高めることが、選手としての成長や活躍に相関関係があるのではないか?」という仮説を立てました。

※1 それぞれ違う価値観を持っている個が集結し、一つの目的に向かって協力しなければいけなかったり、予測不可能なこと(相手や環境による影響を受けること)が多いなど。

サッカー選手としての認知的多様性を高める3つの分野

【FREE】

個人的に、サッカー選手としての認知的多様性を構成する分野は以下の3つだと考えています。

1.『直接的競技力向上分野』
(例:キックの蹴り方、ボールのもらい方、個人戦術やチーム戦術などサッカーの専門知識)

2.『間接的競技力向上分野』
(例:筋トレといった基礎体力の向上、栄養やメンタル、睡眠といったアスリート能力に関するものなど)

3.『土台構築分野』
(例:1と2以外の分野全て。また、問題解決能力、傾聴力、目標設計の仕方、内省の仕方など)

1から順番に競技力の向上に即効性がある分野。そして、これらの1~3が豊富な選手ほど、選手としての成長や活躍に相関関係があるのではないか?と考えています。

そこで、サッカー界を見渡してみると、1と2に関する情報は身の回りに溢れているため、積極的に取得している選手が多いように感じています。
しかし、3の、選手(人間)としての土台を構築する分野に関しては触れる機会が少なく、あまり重要視されていないように思いました。

では、なぜ重要視されていないのでしょうか?
その最も大きな理由は、『3の分野をサッカーの競技力向上とは全く関係のない分野と捉え、選手としての成長や活躍には繋がらないと無意識に思い込んでいるから』だと考えています。

しかし、もしサッカーを取り巻く複雑な問題を解決するヒントが別の分野にあったとしたらどうでしょう?

例えば、チームとして結果がでず、雰囲気も悪い状態で、どこから手をつければいいのか分からない状況だった時。

実は自分が知らないだけで、他の世界(分野)では「そういう時は〇〇を意識することが効果的」という答え合わせがすでに終わっていたとしたら、その情報を手段の1つとして持っておいて損はないと思います。

『スポーツ→ビジネス』ではなく、ビジネスからサッカー選手に活かせるノウハウを学ぶ。

【下澤悠太】

そこで注目したのが『ビジネス』の世界。なぜなら、ビジネスの世界では、成果を出すために、『思考力』や『コミュニケーション』、『リーダーシップ』といった、活躍するために必要な土台となるスキル(3)が、体系化されていると感じたからです。

さらに、セカンドキャリアに関する情報の中で、「アスリートとして培った能力が、ビジネスの世界で活きる」といった、『スポーツ→ビジネス』に関する話を耳にすることが多いことを考えると、
逆にビジネスの世界で求められるスキルやノウハウが、アスリートとしての成長や活躍のヒントになる可能性はなおさら高いと考えました。言わば、ビジネス領域からの逆輸入といえるでしょう。

以上の背景から、自ら立てた仮説を確かめるために、15人の元アスリートで現在はビジネスパーソンとして活躍されている方々を対象にインタビューを実施しました。
(考える系/コミュニケーション系/リーダシップ系の3つの職種に分け、それぞれ5人ずつに実施。)

【下澤悠太】

インタビューの中で一番のポイントとして質問したのは、「ビジネスの世界で培ってきたスキルの中で、現役時代から身につけていたらもっとプラスになっていたと思うものは?(ビジネス→スポーツ)」という問いです。

回答を整理すると、15人中15人がビジネスとスポーツの繋がりを感じ、「ビジネスの世界で経験をした今の脳みそのまま、もし現役時代をやり直せたら、もっと成長できていたと思う」と答えていました。
そこでの学びがとても勉強になったので、ここでいくつか紹介したいと思います。

例えば、社会人2年目で営業をしている方に話を伺ったところ、『目標設計』と『振り返り』についての話が印象に残りました。

「目標設計のところで、学生時代の自分は”プロサッカー選手になりたい”というザックリとした目標を掲げていた。今は”目標はSMART(※2)を意識してしっかり設計しろ"と言われている。もしこれを現役時代から知っていて、ザックリとした目標ではなく、より精度の高い数値で測れる具体的な目標を掲げていたら、もっと成長できていたし、プロに近づけていたかもしれない。」というような話をしていました。

※2『SMART』→Specific(具体に)、Measurable(測定可能な) 、Achievable(達成可能な) 、Relevant(経営目標などに関連しているか) 、Time-bound(期限があるか) の観点で目標を設計すること。

また、振り返りでは、『KPT法(※3)』『帰納法(※4)』について挙げられていました。

「学生時代はなんとなく自分なりにサッカーノートを書いていたが、例えばそこでKPT法で整理してみたり。また、『帰納法』を使って、自分の成功(失敗)したプレーをいくつかピックアップして、そこから共通点を洗い出し、プレーに再現性を持たせやすくしていたら、もっと成長速度が高まっていたかもしれない。」というような話をしていました。

※3『KPT法』→ Keep(良かったこと、続けること) 、Problem(問題、上手くいかなかったこと、Try(次にやること、Pに対する解決策)に沿って整理するやり方。
※4『帰納法』→複数の事実から共通点を洗い出し、そこから結論を得る考え方。


その他の事例を挙げると、組織の企画・運営をしている方とのインタビューでは、『コミュニケーション』に関する話が印象に残りました。仕事の中で、周りの人をモチベートして動いてもらう際に意識していることとして、以下の2つのポイントを共有してもらいました。
1.まずは共感すること
2.『Youメッセージではなく、Iメッセージ』を意識する (「あなたは〇〇です」ではなく、「私は〇〇だと思ったけど、どうかな?」)。

そして、もしこれを現役時代に意識していたなら、仲間との意思疎通をより緻密に図ることができて、自分も味方もプレーしやすい状況を作れていたのではないか、とも話してくれました。

また、コンサルタントをされている方との話では、「現役時代の時に、コンサルタントが問題解決をする時にベースとなるMECE(「漏れや、ダブりがないか。」)の考えを持っていたら、問題解決能力の精度が高まり、もっと成長することができたように感じている」という話がありました。

現役時代の時に「なかなかプレーがうまくいかない」という問題に直面した時には、「トラップが良くなかったのかな?」といった“技術”にフォーカスして問題を探そうとしていたとのこと。
しかし、今考えると、本来は『心技体』の3つの側面から考えることができたはずで、それぞれの側面に当てはまりそうな要因を全て洗い出し、そこから本当の原因を見つけて解決していけば、もっと効果的に成長速度を高めることができたのではないか?と。

その他にも様々な話を伺うことができましたが、どの話もサッカー選手としての成長に繋げられる可能性を感じました。

(色々な職種の方に話を伺った中で「もっと現役中に〇〇に力を入れておけばよかった...。」と共通して後悔している要素もあったので、その他のインタビューの内容は、今後自分のnote等で発信する予定です。)


今回のインタビューを通して、改めてサッカー選手としての成長や活躍の土台となるヒントが、ビジネスの世界に散りばめられていることを再確認できました。

土台がしっかりしていない建物が簡単に崩れやすいように、選手としての土台の良し悪しが、サッカー選手としての成長や活躍に影響することは必然なのかもしれません。
例えば、どれだけ質の高い指導を受けたとしても、聞いた選手の傾聴力、理解力、内省能力といった土台が不十分だったら、せっかくの質の高い情報も無駄になってしまうように。

だからこそ、サッカー人は1と2の情報だけでなく、3の土台となる分野の情報も積極的に取り入れ、認知的多様性の高い状態を構築しておくことが大切なのではないでしょうか。そして、それは本気で上を目指している選手ほどそうだと感じています。

しかし、ここまで記述してきた認知的多様性を高める重要性については、私自身は学生時代から感じていて、継続的に取り組んできたことなのです。
時間さえあれば、本や動画で多種多様な情報に触れたり、サッカー以外の分野で活動している人から学び、「これはサッカーにどう置き換えられるのだろう?」と自分の成長に繋げようと人一倍取り組んできたつもりです。
その結果、学びや気づきだけでなく、変化もあったと思いますし、結果プロサッカー選手になるという目標も叶えました。

しかし、「認知的多様性は必要だが、それだけでうまくいくわけでもない」ということを痛感する経験もしました。 その実体験もこの場で共有していきます。 第2回に続く。
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著者プロフィール

元プロサッカー選手の山内貴雄やラグビー元日本代表キャプテン廣瀬俊朗らが理事を務める一般社団法人アポロプロジェクトは、アスリートの価値を最大限に高め、その価値を社会へ還元するプラットフォーム「アスリートオープンイノベーション構想」の実現を目指し2020年に設立。様々な競技の現役・元アスリートが学ぶ実践的マインドセットプログラム「A-MAP(株式会社ビジネス・ブレークスルーと共同開発)」の企画・運営と、アスリート達による社会課題解決のアクションに対し伴走支援を行なっている。

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