島田譲 「僕がサッカーをする理由 〈前編〉」

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【ⓒALBIREX NIIGATA】

はじめまして。現在J2首位(2022年7月20日時点)を走るアルビレックス新潟でプレーしている島田譲です。 サッカー選手として今年で10年目のキャリアを迎えるJリーガーの端くれであります。 僕が昨年1期生として参加したA-MAP(アスリート・元アスリート向けマインドセットプログラム)を通したご縁で、今回スポナビさんに記事を投稿する貴重な機会を頂きました。

10年間の自分自身の泥臭いキャリアの経験や今後の日本のスポーツ界やアスリート達への想いを言語化して、少しでも誰かのためになるものを届けられたら、と考えています。

僕は物心がついた時にはボールを蹴っていて、進路選択や人生のあらゆる決断を迷う事なくサッカーの為にしてきました。

今回は僕がそれほどまでに人生を捧げてきたサッカーについて、改めて自分がプレーする理由を考え、見つけるプロセスについて書いていきたいと思います。

どうかお付き合いください。

“目標”と“目的”の違い

“目標”と“目的”の違いはご存知でしょうか。

僕は幼少期から続けてきたサッカー人生の中で、「プロになりたい」「全国大会で優勝したい」「J1に行きたい」という様々な“目標”を自分の力にしてきました。

ところが、近年は新型コロナウイルスの影響で、スポー ツが不要不急の娯楽だと言われたり、無観客のスタジア ムでのプレーを余儀なくされたり、改めて自分がプロ選手としてプレーする意味や“目的”を考えるようになりました。

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そんな中で去年の夏、自分の中でスッと腹落ちするような原体験がありました。

僕の故郷でもある水戸でのアウェイゲームのこと。僕はベンチから試合をスタートしました。その日のチームは何をしても上手くいかず、失点を重ねました。後半30分で0-4という屈辱的なスコア。僕はベンチでウォーミングアップをしながら、何気なくアウェイ側のスタンドを見上げました。そこにはチームの不甲斐なさに呆然としているサポーターや、腹を立てて怒っているサポーターの姿がありました。僕はベンチにいた冷静さもあり、彼らの気持ちや立場を勝手に想像していました。

新潟から片道4時間、大切な休日にアルビレックスの応援に来ます。ガソリン代や交通費は馬鹿にならないし、ナイターゲームなので試合が終わると、帰りは夜中。明日は朝から仕事や子供のお弁当作りが待っているかもしれません。中には関東在住で、この日のアウェイゲームを心待ちにしていた人もいるでしょう。家族、お金、時間、みんな何かを犠牲にして、僕らの試合に足を運んでくれます。

敗戦濃厚の残り5分。監督から僕に声がかかりました。僕は正直この試合に勝つ事は諦めていたし、残り5分で次の試合に向けて監督にアピールしようとは全く考えませんでした(そもそも5分で結果を出せるような選手ではありませんが)。

この5分間。今日ここまで来てくれたサポーターの心に何かを残したい。結果は変えらなくても、何かを伝えることは出来る。その一心でピッチに入りました。

そして試合後、僕の元にSNSを通して多くのメッセージ が届きました。

「悔しい試合だったけど、残り5分のあなたの姿勢に勇気をもらいました」「敗戦濃厚なチームを鼓舞する姿を見て、明日から仕事頑張ろうと思いました」

自分で言うのも変ですが、決して良いプレーはしてません。むしろ5分という短い時間で簡単なミスもしました。
スコアも0-4のままです。勝ち点も、僕に対する監督の評価も変わりません。僕のプレーを見て何も感じなかった人もいるだろうし、僕が出場した事さえ気づかなかった人もいるでしょう。当たり前です。

それでも誰かに届けようと本気で闘った5分間が、数人でもサポーターの胸に届いたこと、その人達の帰りの道中が少しでも穏やか気持ちになったり、明日の仕事の活力になれること、それが僕にとってこんなにも嬉しいことなんだと、メッセージを読んで気付きました。

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「自分のプレーや言動で、誰かの人生に良い影響を与える」

僕がサッカーをする“目的”が明確になった瞬間でした。

僕のプレーや言動は誰かの人生に影響を与えることが出来るし、僕にとってはたったの”5分”でも、他の誰かにとっては、それが”明日”を生きる活力になったり、”一生" の思い出や経験になる可能性もあります。これは影響力のあるアスリートに共通する特権だと思います。

そんな気付きから、僕は自分自身やサッカー選手の価値を再認識し、プレーする”目的”が明確になりました。そして目標の先にある目的が鮮明に見えるようになった事で、今まで以上にサッカーを主体的に楽しめるようになりました。

そして、僕の中で明確になったプレーする“目的”は、決してサッカーに限定されたものではありません。セカンドキャリアや日常生活においても転用する事が出来ると思います。

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昨年の年末に僕は新潟県の子供達向けに『アルビジョブスク』というアルビレックス新潟のパートナー企業様の職場体験を企画・立案し、クラブの協力の元で実施しました。

詳細や想いを話すと長くなってしまうので割愛しますが、イベントでの子供達の言動の変化やイベント後に保護者の方から頂いたアンケートを見て、参加した子供達に良い影響があり、行動にポジティブな変化があった事が分かりました。これは僕にとって最高に嬉しかったし、時間や労力をかけてイベントを実施して、本当に良かったと思いました。

僕がプレーする“目的”は、そのまま僕の人生の"軸"になる事を実感する事ができました。

後編では、そんな自分がどのようにしてこの“目的”にたどり着いたのかを書きたいと思います。
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著者プロフィール

茨城県水戸市出身。 早稲田大学を卒業後、ファジアーノ岡山でプロキャリアをスタート。4年目の契約満了を経て、V・ファーレン長崎に移籍。長崎ではJ1昇格とJ2降格を経験する。 2020年からはアルビレックス新潟に所属。今年でプロ10年目の節目を迎える。 2021年にはアスリート向けのマインドセットプログラム『A-MAP』に参加する。その集大成として、クラブパートナー企業、地域の子供達を巻き込んだ「アルビジョブスク」を発足。新潟の子供達にクラブパートナー企業の職業体験やキャリア教育を行なっている。

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