体育会学生の人気企業への内定と学業および競技のパフォーマンスの関連

日本スポーツ産業学会
チーム・協会

【イメージ写真】

日本の大学では,多くの学生アスリートが日々それぞれの競技に身を投じ,研鑽を積んでいます。他方,アスリートが競技に従事する時間は長く,学業やキャリア形成において不利になってしまうのではないかとも懸念されています。競技に従事することが将来にどのようにつながっているかについては,入職後の昇進への影響については一定の議論がありますが,学卒時の内定獲得への影響について大規模な調査分析は意外にもあまり行われてきませんでした。そこで,特に競技と学業の両方において優秀であることが人気企業からの内定獲得につながるか,という視点から調査分析を行いました。

2018年卒の体育会学生を対象に調査を行いました。5,534件の回答を得,そのうち分析に必要な項目を全て満たした有効回答1,739件(有効回答率31.4%)を分析の対象としました。
その結果,人気企業からの内定獲得に最も強い影響を示したのは所属大学の入学困難度,以下,順に学業成績,競技成績,国公立/私立の別,入試区分と続きました。では,競技と学業の両方において優秀であることで人気企業への就職につながる,といったことはあるのでしょうか。所属大学の入学困難度別に,そうした分析を行ったところ,難関大学においては競技に卓越することで人気企業への内定獲得が促進される傾向が垣間見られましたが,中堅以下の特定の入学困難度の出身者においては,せっかく学業成績が良くても競技成績が高いことが人気企業からの内定獲得にネガティブに作用することがある,という結果になりました。

調査が行われた2018年度の新卒採用市場の状況を振り返ってみると,中小企業の求人数は年々増えていたが,従業員1,000人以上の大きな企業では求人数が減少傾向にあり,人気企業への就職は厳しい局面だったと考えられます。こうした状況が影響をしている可能性があるため,別の卒業年度のサンプルを分析する必要があります。

ではアスリートに大学はどのような支援を提供すれば良いでしょうか。今後は,企業の採用活動において,エントリー者の背景情報(在学中の学業成績や活動状況)を重視する傾向が強まるとの議論も一部にあります。そうだとすると,競技に卓越することをキャリア形成に接続する取り組みが重要になると言えるかもしれません。例えばアメリカの学生アスリートはNCAA(アメリカ大学スポーツ協会)の規程により,一定時間のアウトリーチ活動(地域社会への貢献活動など)に従事します。これには,地域の子どもたちに競技を教える,などが含まれます。こうしたしくみを整備し,学生アスリートの社会経験を充実させることで,学生アスリートの競技経験をキャリア形成にを結びつけていくことが期待されています。

石川 勝彦 山梨学院大学
束原 文郎 京都先端科学大学
舟橋 弘晃 中京大学
横田 匡俊 日本体育大学
澤井 和彦 明治大学
長倉 富貴 山梨学院大学
中村 祐介 株式会社アスリートプランニング
岡本 円香 株式会社アスリートプランニング
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

日本スポーツ産業学会は「スポーツ産業の健全な発展に寄与できる学会」「産官学の共同による開かれた学会」「国際性豊かな学会」等を中心テーマとし、平成2年に設立されました。 当学会が運営している「SPORTS BUSINESS ONLINE」は、論文誌「スポーツ産業学研究」、情報誌「Sports Business & Management Review」に続く第3の情報媒体として2021年に開設したWebジャーナルです。 コンセプトは「スポーツビジネスのあらゆる情報が集結するオンラインジャーナル」。 本学会が主催するセミナーや学会大会などの情報(案内・プログラム・講演録)や、論文記事情報などを中心に様々な情報を発信しています。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント