帰ってきた男たち「豊田陽平」

ツエーゲン金沢
チーム・協会

【zweigen kanazawa】

豊田陽平が高校を出てから名古屋、山形、京都、鳥栖、韓国、栃木で過ごした年月は18 年。

それはちょうど石川県で生まれ育ったのと同じ時間に及ぶ。そこで経験したのは厳しくタフな世界での闘いであり、生き残るために時には強く、誰も寄せつけな い鎧を纏う必要があった。

ハードボイルドな世界で生き抜いて19年目。豊田が「長 いお別れ(The Long Goodbye)」から帰還した。

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誤算

19年ぶりにふるさと石川県に帰ってきた豊田陽平にとって、県民の、そして地元メディアの反応は計算外だった。

1月7日に行われた新加入発表記者会見。
自己紹介の第一声で、栃木県出身 のお笑い芸人『U字工事』を引き合い に出して笑いを取りにいったが、会場 に集った報道陣はどう反応していいも のか戸惑っている様子。結果として何 事もなかったかのように、淡々と会見 が進んだ。

「つかみとして完璧だと思ったが、 ドすべりした。僕が(栃木SCから移 籍してきたことなどを)もっと説明 をしてからボケるべきだった。真面目に話したところで話題性に欠けるかな と思ったが、ありがたいことに地元に 帰ってきたことは自分が思っている以 上に話題になっていた」。

実際、この会見の模様はテレビ、新聞など、数多くの地元メディアで取り 上げられた。西川圭史ゼネラルマネー ジャーも驚くほどの報道陣の集まり具合であり、さらに後日行われた出陣式後にも数多くのメディアに囲まれる豊田の姿があった。

サポーターからの反応も本人には意外だった。「『帰ってくるのが遅いよ』『なんで今頃になって来るんだよ』っ ていうネガティブな反応だと思っていた」が、かなり温かく迎えられ、豊田が今シーズン背負うことになった19番のユニフォームの売り上げも好調。 選手別では、ナンバーワンの人気の ようだ。

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一丸

会見での「ドすべり」には豊田のキャラクターが報道陣に十分伝わっていなかったということもあるだろう。

ゴツい体格と風貌から感じる威圧感、なにより日本代表でのプレー経験やJ1通算ゴールという肩書きは強いオーラを放っている。
事実、キャンプ中には 若いチームメイトからも「もっと怖い人かと思っていた」という声が聞かれた。

ただし、これは「思っていた」と いう過去形だ。

キャンプに入った直後から、豊田が波本頼や塚元大など若い選手に声をかける姿が頻繁に見られた。
ある日の練習後には若手グループに「こ のなかで誰が一番イケメン?」とい う、サッカーとまったく関係のない話をして盛り上がっていたし、豊田が同じく地元出身の香城洋平トレー ナーと石川弁講座を開いている姿も 見かけた。豊田から若手選手に積 極的にコミュニケーションを図るだ けでなく、練習後にランニングをし ている豊田の元に、若手から合流していき一緒に走る姿もよく見かけた。

そういった若手選手のひとりである 須藤直輝は「後輩に積極的に話しか けてくれるし、チームの雰囲気も良くしてくれる」と、豊田の印象を語っている。

チームが一体となって闘う。そのことに対する豊田の思いは強い。

「期限付きで来ている選手、ルーキー の選手、ベテランの選手、それぞれに いろんな思いがあってシーズンがスタートするし、シーズンが始まってからもいろんな思いが出てくるだろう。

だけど、個人の思いは正直関係ない。ツエーゲン金沢に在籍している以上、 このチームのために誠心誠意振る舞わなければいけない。


クラブスローガン では『ICHIGAN(一丸)』という指針を示してもらった。
だから僕ら選手は、それを共通意識として持たな ければいけない。経験のある選手が積極的に働きかけて、1つになって闘わないといけない。
とくに(ツエーゲンのような)地方のクラブや規模の小さ いクラブにとってはそれが大事。そういったクラブの現状をしっかり見据え たうえで大事なところは伝えていかな いといけない」。

ツエーゲンは決して規模が大きいわけではなく、昨シーズンは最後まで残 留争いに巻き込まれたクラブ。
当然豊田はその事実を認識しながらも、見据えているものは大きく、はっきりと「J 1昇格」という目標を口にする。

「誰 かがJ1昇格というフレーズを口にしなかったら次には進めない。いつまでも残留争いをクラブの当たり前のフレーズにしてはいけない」。


実際、豊田には急激な変化と上昇気流に乗ってJ1昇格を果たした経験がある。
最初が2008年の山形時代。そして次が3年後の鳥栖時代。
とくに鳥栖は、過去に苦しい時期が あったことを思えばドラマチックす ぎるほどの昇格劇だった。なにかのきっかけがあれば不可能なことなど ない。豊田はそれを自分の経験から知っている。

変化

そんな豊田自身にも急激に変わった 時期があったという。

星稜高校時代の1年先輩である辻田真輝コーチは、かつての豊田を「マイペースでのんびり していた。最初から体は大きかったけ ど、ガツガツした感じはなかった」と 振り返る。
だが豊田は最上級生になってガラッと変わったと評する人物がいる。同校のトレーナーとして 3年間 彼を見てきた香城トレーナーだ。

「ツジ(辻田コーチ)たちがいなくなって、 高校3年生になってから急にガツガツ さが出てきた。3年生になって急に点も取るようになった。うるさい先輩たちがいなくなったのが良かったんじゃ ない(笑)」。


立場が人を変えるということは往々 にしてあるが、豊田は自身の変化をどう感じているのだろうか。
「最上級生なので多少は変わらない といけないという自覚はあったのかも しれないけど、高3のタイミングで僕 が『変わらなければ!』と思って何かをした記憶はまったくない。
でも確かに 、1,2年生のときは、いまほどしゃべらなかったし、寡黙で人見知りで、黙々と自分のやるべきことをやっていた。

人の話は聞くけど自分の意思は示さない人間だった」。そして、自身で は高校を卒業してプロとなり、名古屋 に入団してからも「当初は人見知り だったと思う」と振り返る。



いまの豊田にそんな印象は皆無だ。 豊田は明らかに変わった。
プレーをあまり見たことがない人でも、メディア や SNS での発信を見れば、とても「寡黙で人見知り」という印象は受けないはずだ。


では、豊田はなぜ変わっ たのか。

それは、このままではプロとして生 き残っていけないという危機感から だった。 「(名古屋の選手は)みんなうまくて、 強くて、速かった。僕は身体能力には 恵まれているけど性格が内向的。このままでは絶対にこの世界で生き残れな い。自分の殻を破らなければいけな い」。そう感じ取った豊田は、自分が どこを評価されてプロの世界に入れた のかをあらためて考えた。
「フォワードとしてプロでやってい くためには点を取らないといけないか ら、身体能力という自分の武器を最大 限出すために荒々しくなった。名古屋、 山形のときも自分ではない自分をつ くったというか、目つきを変えて、相手選手とバトルをして、やられれば食ってかかった」。


香城トレーナーは「僕らへの接し方 は高校時代と変わらない。おもしろくて、人懐こい部分はそのまま」と言う が、豊田はピッチのなかでは「サッカー 選手・豊田陽平」という別の人格をつ くることで、競争の激しい世界で闘い 続けた。プレッシャーを跳ね除けるた めに鎧を纏い、さらに結果を残し続け る。そうなれば必然的に「人間・豊田 陽平」ではなく「サッカー選手・豊田 陽平」のイメージが増幅される。


そ して本人も認めるように「豊田は怖い、(人を)近づかせないオーラがある」という印象が定着するようになっ ていった。

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温故

自分自身が変わり、そして所属したクラブが劇的に変わるという経験 もした豊田。彼はツエーゲン金沢と いうクラブをも変える存在になるの だろうか。




続きは、ZWEIGEN HEROZで。
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■内容
・特集「帰ってきた男たち」
 豊田陽平選手「Return from "The Long Goodbye"」
 毛利駿也選手「もう一度ZWEIGENのために」
 三浦基瑛選手「いつかこの場所で」
・宮崎キャンプこぼれ話
・2022シーズン開幕戦 マッチレポート
・白山勇海 「時代とニーズに合った変化を」
・辻尾真二コラム しんじのじかん
・2022シーズン 選手一覧
・この街と共に。-ツエーゲン金沢ホームタウン活動-
・HEROZ パートナーインタビュー
 ダートコーヒー株式会社水上 慎太郎 代表取締役社長代表取締役社長
・2022 スタジアム紹介

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著者プロフィール

1956年に誕生した「金沢サッカークラブ」を礎に、2006年Jリーグ入りを目指すべく「ツエーゲン金沢」として生まれ変わりました。JFL、J3を経て2015年にJ2リーグに昇格。「挑戦を、この街の伝統に。」というクラブ理念を掲げ、石川県で先人の築いてきた伝統を大切に守りながらも新たな伝統をつくるため日々挑戦をしているクラブです。地域に貢献し、地域に愛されて発展していけるよう様々なことに挑戦していきます。

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