「大学が運営する地域スポーツ教室の楽しさの検討-大学生の「ささえるスポーツ」の視点に着目して-」
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「ささえるスポーツ」の楽しさを明確に示す
スポーツの継続には「楽しさ」が重要ですが、「ささえるスポーツ」であるスポーツ指導や運営といったボランティア活動を継続する上でも、「楽しさ」は重要な要因であると考えられています。例えば、スポーツボランティアを行う理由として、「スポーツの楽しさを伝えたい」「指導活動を通じて自分自身がスポーツを楽しみたい」といった動機が挙げられています。しかし、日本において「ささえるスポーツ」の普及・研究が遅れたこと、学校部活動などに比べ地域スポーツの振興・発展が遅れたことなどから、地域スポーツにおける「ささえるスポーツ」の楽しさについて調査した研究はほとんどみられません。
本研究は、指導をおこなった大学生の視点に着目し、大学で開催された子どもを対象とした地域スポーツ教室の「ささえるスポーツ」としての楽しさを明らかにすることを目的としました。身近な地域で指導者・運営者としての参画が期待される大学生が、地域スポーツのボランティア活動を通してどのような楽しさを実感しているかを明らかにすることで、指導者確保・育成の際に有益な知見が得られると考えました。
この研究では、大学が運営する地域スポーツ教室の指導をおこなった大学生に対して、各教室実施後に教室の楽しさについて自由記述で回答を求めました。得られた記述に対して、KJ法を用いたカテゴリー分析、KH Coderを用いた語の抽出および共起ネットワーク分析を行いました。
KJ法とは、記述を内容ごとに分類し、カテゴリーを作りラベリングをするという研究手法です。記述を分類した結果、対象とした大学が運営する地域スポーツ教室の「ささえるスポーツ」としての楽しさは、【プログラム】の実施により【かかわり】が生まれ、【リアクション】が起こることであると推測されました。【プログラム】カテゴリーは〈展開〉〈指導〉〈種目〉の3つのサブカテゴリー、【かかわり】カテゴリーは〈子ども〉〈大人〉の2つのサブカテゴリー、【リアクション】カテゴリーは〈参加者〉〈指導者〉の2つのサブカテゴリーから形成されていました。
KH Coderは、記述データを統計的に分析するためのフリーソフトウェアです。共起ネットワーク分析は、出現パターンの似た語を線で結んだ図を描くことができ、視覚的に記述内容を理解することができます。分析の結果、「指導」を中心に形成されたグループが「自分」「コミュニケーション」「向上」と結びついたこと、「専門」「種目」が「教える」「出来る」と結びついたことから、指導することで指導者自身がスキルアップできること、種目を指導することに楽しさを感じたことが示されました。
次に、「子ども」を中心に形成されたグループが「楽しい」「触れ合う」「触れ合える」と結びついたこと、「小さい」「子」「遊べる」「教える」が結びついたことから、子どもとのスポーツを通した交流によって指導をおこなった大学生自身が楽しさを感じたことが示されました。最後に、「アーチェリー」「空手」などの実施種目が「知る」「一緒」と結びついたことからスポーツ指導を通してスポーツを普及させることに楽しさを感じたことが示されました。
本研究は、単一の地域スポーツ教室を対象としているため、一般化には至っていません。地域スポーツはさまざまな形態で開催されており、大学が実施するスポーツ教室も多様です。地域スポーツ教室における「ささえるスポーツ」の楽しさを反映した調査尺度を作成し、地域スポーツにボランティアとして活動している大学生を対象に測定を行うことで、地域スポーツの実施形態や参加者の属性による「ささえるスポーツ」の楽しさの違いを明らかにすることができると考えています。
これまで主に「するスポーツ」としてスポーツに関与していた方々に対して「ささえるスポーツ」の楽しさを明確に示すことは、スポーツとの多様な関わりとその魅力を提示することにつながり、地域スポーツの発展に寄与すると考えています。
元嶋 菜美香 長崎国際大学人間社会学部
宮本 彩 環太平洋大学体育学部
神野 周太郎 長崎国際大学人間社会学部
田井 健太郎 群馬大学教育学部
熊谷 賢哉 長崎国際大学人間社会学部
宮良 俊行 長崎国際大学人間社会学部
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