学生アスリートにおけるスポーツ・ライフ・バランスとメンタルヘルス : 入試経路による比較
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スポーツ・ライフ・インテグレーションこそ、現代の学生アスリートが目指すべき文武両道・文武不岐
また昨今、アスリートのメンタルヘルスへの注目が高まっています。競技力の高いトップアスリートの30〜40%が、不安や抑うつの症状を示したというデータもあります。このことから、学生アスリートにおけるトップアスリートと考えられる、スポーツ推薦入学者のメンタルヘルスを検討する必要がわかります。
この研究では、スポーツ推薦入試によって大学に入学した学生アスリートと、そうでない学生アスリートにおいて、スポーツ・ライフ・バランスとメンタルヘルスに違いがあるかどうか比較しました。
体育会運動部に所属している大学1年生のアスリート168名 (男性136名、女性32名) に、スポーツ・ライフ・バランス (時間的側面と精神的側面のそれぞれについての現状と理想)、メンタルヘルス (主観的幸福度、主観的幸福感、心理的ストレス、運動部活動に対する総括的適応感) への回答を求めました。
分析の結果、時間のバランスの理想と現実のギャップはスポーツ推薦入学者の方が小さいことがわかりました。そして、心理的ストレスを除くメンタルヘルスの得点は、スポーツ推薦入学者の方が好ましくないと明らかとなりました。
学生アスリートがメンタルサポートを利用する際、サポートに対する偏見や、サポートを利用することが一般的という共通認識がないなど、様々な障壁があると言われます。大学関係者には、学生アスリート、とりわけスポーツ推薦入学者がメンタルサポートを積極的に利用できる仕組みを作ることが期待されます。
本研究で扱ったスポーツ・ライフ・バランスの典拠であるワーク・ライフ・バランスに関連して、昨今「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方が示されています。ワーク・ライフ・インテグレーションとは、経済同友会によると「会社における働き方と個人の生活を、柔軟に、かつ高い次元で統合し、相互を流動的に運営することによって相乗効果を発揮し、生産性や成長拡大を実現するとともに、生活の質を上げ、充実感と幸福感を得ることを目指すもの」です。
これをスポーツ・ライフ・バランスに置き換えると、スポーツ・ライフ・インテグレーションという考え方が成立します。競技生活と競技以外の生活を重ね合わせ、統合してゆく考え方です。
このスポーツ・ライフ・インテグレーションこそ、現代の学生アスリートが目指すべき文武両道・文武不岐ではないかと、私たちは考えています。それは、競技に取り組む者が、競技に取り組む中で積んだ経験を競技以外の人生にも活かし、競技以外の生活で体験したことを競技にも活かす考え方です。スポーツ・ライフ・バランスという概念が発展的に消失し、スポーツ・ライフ・インテグレーションという概念が多くの学生アスリートによって体現されることを期待しています。
荒井 弘和 法政大学文学
杉本 龍勇 法政大学経済学部
増田 昌幸 日本経済大学経営学部
釜野 祥太朗 法政大学保健体育センター
徳安 彰 法政大学社会学部
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