【フィギュアスケート】北京五輪・男子シングル展望|頂上決戦…オリンピック2連覇の羽生結弦と世界選手権3連覇のネイサン・チェンが直接対決
【Getty Images】
金メダルに輝くのはオリンピック2連覇中の羽生結弦か、それとも世界選手権3連覇中のネイサン・チェン(アメリカ合衆国)か。史上初の4回転アクセル成功か、それとも4回転5本以上の難構成か。ここ数年に渡って、競い合うようにフィギュアスケート男子シングルのレベルを引き上げてきた好敵手の2人が、北京五輪で頂上決戦を行う。
古くは1988年カルガリー五輪でのブライアン・ボイタノ vs.ブライアン・オーサーや、2002年ソルトレイクシティ五輪でのアレクセイ・ヤグディン vs.エフゲニー・プルシェンコと、オリンピック史上幾度となく、熾烈なライバル対決が繰り広げられてきた。平昌五輪では本当の意味でぶつかり合えなかった羽生結弦とネイサン・チェンにとっては4年の時を経て、あらためて訪れた直接対決の機会となる。
特別な能力を持つオリンピック王者
羽生はここぞという大一番で勝利を引き寄せる特別な能力を持っている。ソチ五輪では、日本男子シングルとしては史上初の五輪金メダルを獲得し、4年後には、1952年オスロ五輪以来66年ぶりとなる男子シングル2連覇を果たした。
平昌五輪前の羽生は、必ずしも絶対本命視されていたわけではなかった。シーズン序盤の2戦を2位で終えた上に、11月に右足関節外側靱帯を損傷。オリンピック直前までの日々をリハビリとトレーニングのみで費やした。しかし羽生はショートプログラム(SP)で驚異的なパフォーマンスを披露した。ジャンプを含む全てのエレメンツをほぼ完璧にこなした上に、3回転アクセルでは出来栄え点(GOE)満点という高い評価さえ得た。
人生最悪の失敗から勝利街道へ
むしろ平昌五輪の金メダル大本命はチェンの方だった。オリンピックまでシーズン負けなしで突っ走り、地元米国からは「クワッド・キング」(4回転王)の称号も得た。ところが肝心の本番で崩れた。SPでは全部で3つあるジャンプ必須要素を全て失敗。参加全30選手中、まさかの17位と大きく出遅れしまう。
当時18歳だったチェンは、フリースケーティング(FS)で自分自身へのリベンジを果たした。いまだかつて誰一人として挑戦したことのなかった「4回転6本」というとてつもない難構成を試み、5本を見事に成功させた。FSでは羽生を上回る得点で首位に立ち(総合5位)、特に技術点では127.64点と歴代1位の高得点を叩きだした。
人生初めての大舞台で人生最悪の失敗をしたからこそ、チェンはさらに強くなった。あれ以来、個人戦16戦15勝と、再び勝利街道をひた走っている。オリンピック直後の世界選手権では、世界の頂点にも駆け上がった。
唯一の黒星は、今季序盤のグランプリ(GP)シリーズ・スケートアメリカ。珍しくSP4位で折り返した後、FSでは再び「4回転6本」を試みた。しかし、この時は4本しか決められず、最終的に3位で終えた。ただ幸いなことに、翌週すぐに勝ち方を思い出し、全米選手権では楽々と6連覇も成功させた。
ドラマチックな羽生のスケーター人生は、北京五輪シーズンも変わりはない。4年前と同じように、11月に右足関節靱帯を痛め、シーズン初戦の全日本選手権で圧巻の6勝目を射止めた。
なにより史上初の大技成功に燃える羽生は、4回転アクセルをついに公式戦の場で試みた。FS冒頭での挑戦は、残念ながら両足着地。ダウングレード判定となり、基礎点や出来栄え点は大幅に下がったものの、構成表には「4A」の文字がはっきりと記された。
「出るからには勝つ」。そうきっぱりと羽生結弦は宣言する。もしオリンピック3連覇を成功させた場合、男子では94年ぶりとなる快挙だ。「羽生の4回転アクセル挑戦が僕に影響を与えるか?答えはおそらくノー」と語るネイサン・チェンは、自分らしい4回転5本(以上)の攻めの構成で、両親の祖国・中国で真っ向勝負を挑む。
頂上を目指す好敵手たち
幸いにも北京五輪・男子シングルの戦いは、羽生 vs.チェンだけにとどまらない。前回オリンピックで羽生に次ぐ銀メダルを手にした宇野昌磨や、昨季の世界選手権でチェンに次ぐ2位に入った鍵山優真も、頂点に駆け上がれる実力を有している。
一度はスケートから離れることすら考えながら、滑る楽しさを取り戻し、勝利への強い欲求に目覚めた宇野は、チェンと同じく4回転5本で北京五輪へ挑む。初出場の18歳鍵山はこれまでの4回転2種類から、新たに武器を1種類追加。メダル獲得へ大いに意欲を燃やす。
やはり野心的な4回転5本構成と芸術性の両立を目指すのが、ヴィンセント・ジョウ(米国)だ。今季スケートアメリカでチェンに唯一の黒星を付け、自信も付けた。両親が北京出身で、北京五輪は人生最大のチャンスだとも感じている。FSの曲目には中国の香りのする「臥虎蔵龍」を選んだ。
ROCの初出場18歳トリオ、マルク・コンドラチュク、アンドレイ・モザリョフ、エフゲニー・セメネンコも、冷静にSPとFSの2本をそろえることさえできれば、表彰台を脅かすことも可能かもしれない。
イタリアのダニエル・グラッスルも、ショートの4回転を2本に増やし、FSでの戦いを有利に進めたい。今季GPシリーズ・ロシア杯を制したモリス・クヴィテラシヴィリ(ジョージア)は、決まればとてつもなく大きい4回転を、とにかく安定させたい。
もちろん、フィギュアスケートは単なるジャンプ合戦ではない。滑らかなスケーティングと柔らかな表現力、なにより細部までこだわり抜いた2つの名プログラムをそろえたジェイソン・ブラウンや、師匠ステファン・ランビエール直伝の逸品スピンを持つデニス・ヴァシリエフスも、入賞に値する魅力と実力とを兼ね備えている。
古くは1988年カルガリー五輪でのブライアン・ボイタノ vs.ブライアン・オーサーや、2002年ソルトレイクシティ五輪でのアレクセイ・ヤグディン vs.エフゲニー・プルシェンコと、オリンピック史上幾度となく、熾烈なライバル対決が繰り広げられてきた。平昌五輪では本当の意味でぶつかり合えなかった羽生結弦とネイサン・チェンにとっては4年の時を経て、あらためて訪れた直接対決の機会となる。
特別な能力を持つオリンピック王者
羽生はここぞという大一番で勝利を引き寄せる特別な能力を持っている。ソチ五輪では、日本男子シングルとしては史上初の五輪金メダルを獲得し、4年後には、1952年オスロ五輪以来66年ぶりとなる男子シングル2連覇を果たした。
平昌五輪前の羽生は、必ずしも絶対本命視されていたわけではなかった。シーズン序盤の2戦を2位で終えた上に、11月に右足関節外側靱帯を損傷。オリンピック直前までの日々をリハビリとトレーニングのみで費やした。しかし羽生はショートプログラム(SP)で驚異的なパフォーマンスを披露した。ジャンプを含む全てのエレメンツをほぼ完璧にこなした上に、3回転アクセルでは出来栄え点(GOE)満点という高い評価さえ得た。
人生最悪の失敗から勝利街道へ
むしろ平昌五輪の金メダル大本命はチェンの方だった。オリンピックまでシーズン負けなしで突っ走り、地元米国からは「クワッド・キング」(4回転王)の称号も得た。ところが肝心の本番で崩れた。SPでは全部で3つあるジャンプ必須要素を全て失敗。参加全30選手中、まさかの17位と大きく出遅れしまう。
当時18歳だったチェンは、フリースケーティング(FS)で自分自身へのリベンジを果たした。いまだかつて誰一人として挑戦したことのなかった「4回転6本」というとてつもない難構成を試み、5本を見事に成功させた。FSでは羽生を上回る得点で首位に立ち(総合5位)、特に技術点では127.64点と歴代1位の高得点を叩きだした。
人生初めての大舞台で人生最悪の失敗をしたからこそ、チェンはさらに強くなった。あれ以来、個人戦16戦15勝と、再び勝利街道をひた走っている。オリンピック直後の世界選手権では、世界の頂点にも駆け上がった。
唯一の黒星は、今季序盤のグランプリ(GP)シリーズ・スケートアメリカ。珍しくSP4位で折り返した後、FSでは再び「4回転6本」を試みた。しかし、この時は4本しか決められず、最終的に3位で終えた。ただ幸いなことに、翌週すぐに勝ち方を思い出し、全米選手権では楽々と6連覇も成功させた。
ドラマチックな羽生のスケーター人生は、北京五輪シーズンも変わりはない。4年前と同じように、11月に右足関節靱帯を痛め、シーズン初戦の全日本選手権で圧巻の6勝目を射止めた。
なにより史上初の大技成功に燃える羽生は、4回転アクセルをついに公式戦の場で試みた。FS冒頭での挑戦は、残念ながら両足着地。ダウングレード判定となり、基礎点や出来栄え点は大幅に下がったものの、構成表には「4A」の文字がはっきりと記された。
「出るからには勝つ」。そうきっぱりと羽生結弦は宣言する。もしオリンピック3連覇を成功させた場合、男子では94年ぶりとなる快挙だ。「羽生の4回転アクセル挑戦が僕に影響を与えるか?答えはおそらくノー」と語るネイサン・チェンは、自分らしい4回転5本(以上)の攻めの構成で、両親の祖国・中国で真っ向勝負を挑む。
頂上を目指す好敵手たち
幸いにも北京五輪・男子シングルの戦いは、羽生 vs.チェンだけにとどまらない。前回オリンピックで羽生に次ぐ銀メダルを手にした宇野昌磨や、昨季の世界選手権でチェンに次ぐ2位に入った鍵山優真も、頂点に駆け上がれる実力を有している。
一度はスケートから離れることすら考えながら、滑る楽しさを取り戻し、勝利への強い欲求に目覚めた宇野は、チェンと同じく4回転5本で北京五輪へ挑む。初出場の18歳鍵山はこれまでの4回転2種類から、新たに武器を1種類追加。メダル獲得へ大いに意欲を燃やす。
やはり野心的な4回転5本構成と芸術性の両立を目指すのが、ヴィンセント・ジョウ(米国)だ。今季スケートアメリカでチェンに唯一の黒星を付け、自信も付けた。両親が北京出身で、北京五輪は人生最大のチャンスだとも感じている。FSの曲目には中国の香りのする「臥虎蔵龍」を選んだ。
ROCの初出場18歳トリオ、マルク・コンドラチュク、アンドレイ・モザリョフ、エフゲニー・セメネンコも、冷静にSPとFSの2本をそろえることさえできれば、表彰台を脅かすことも可能かもしれない。
イタリアのダニエル・グラッスルも、ショートの4回転を2本に増やし、FSでの戦いを有利に進めたい。今季GPシリーズ・ロシア杯を制したモリス・クヴィテラシヴィリ(ジョージア)は、決まればとてつもなく大きい4回転を、とにかく安定させたい。
もちろん、フィギュアスケートは単なるジャンプ合戦ではない。滑らかなスケーティングと柔らかな表現力、なにより細部までこだわり抜いた2つの名プログラムをそろえたジェイソン・ブラウンや、師匠ステファン・ランビエール直伝の逸品スピンを持つデニス・ヴァシリエフスも、入賞に値する魅力と実力とを兼ね備えている。
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