日本馬の躍動なるか? 香港国際競走4レースを展望

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【香港カップが引退レースとなるラヴズオンリーユー【Photo by Getty Images】】

【香港カップ】ラヴズオンリーユーが有終の美へ、立ちはだかるのも日本勢

直近2年は8頭立てで行われ、いささか淋しいメンバー構成だった香港カップだが、今年は地元・香港の6頭に日本と欧州から各3頭が参戦して12頭立てと充実。その中で主役を張るのが引退レースを迎えるラヴズオンリーユーで、優勝争いを含めて見どころの多い一戦となった。

ラヴズオンリーユーは4月のクイーンエリザベス2世Cを勝っており、すでにシャティン競馬場の2000mで舞台経験がある。海外遠征は過去3戦で2勝、3着1回と成績も安定しており、実績からは不安らしい不安は見当たらない。あとは状態面だろう。環境の変化に強いことは証明済みだが、転戦を重ねて今年6戦目になる。8月の札幌記念以降では3戦目とレース間隔は十分に開いているものの、コンスタントに活躍してきたシーズン終盤は何かと疲労も蓄積しているもの。実力を発揮できる体調でさえあれば、有終の美を飾る期待は大きい。

ラヴズオンリーユーの前に立ちはだかるのは、まずは日本のレイパパレとヒシイグアス。レイパパレはラヴズオンリーユーと同じレーティング118で、数字上は勝ち切れるだけの実力を評価されている。今回のメンバーでは地元のカーインスターかレイパパレが逃げそうだが、カーインスターは前哨戦で発馬に失敗して超スローペースに泣いた。元はマイル戦線で先行していたため、今回は主張してくる可能性もある。ただ、ここまで2000mに実績はなく、レイパパレは与しやすい相手かもしれない。その一方、レイパパレが体調不十分などで追走に苦しむと、カーインスターに楽な展開となることもあるだろう。

ラヴズオンリーユーの前に立ちはだかるレイパパレ 【Photo by Shuhei Okada】

ヒシイグアスはG1未勝利で両牝馬に格は劣るものの、まだ底を見せていない魅力がある。前走の天皇賞(秋)は復調途上の中で5着に善戦しており、その一戦で状態が上向けばG1初制覇のチャンスもありそうだ。堀宣行調教師は香港国際競走で通算3勝をマークしているが、これは外国人調教師としてS.ビン・スルール調教師に1勝差の歴代2位。シャティン競馬場を熟知しており、香港マイルのサリオスともども虎視眈々といったところだろう。

日本勢の相手としては欧州勢が手強い印象だ。いずれも今年の欧州競馬を席巻したハイレベルの3歳世代で伸び盛り。終わってみればまた3歳馬という結果も考えられる。ドバイオナーはG1未勝利ながら、前走の英チャンピオンS(2着)でレーティング121を獲得。レースでの斤量差を差し引いてもラヴズオンリーユーとレイパパレを2ポンド上回り、今年の香港Cで最高の評価を受けている。英国では堅良発表の馬場でも勝っているが、当時の時計は平凡。2着に負かした相手とは前走で再戦し、稍重の発表以上に重い馬場状態で大きく着差を広げた。良馬場より重馬場向きの可能性を否定できず、シャティン競馬場の適性次第で結果が大きく変わることも。

愛2000ギニー馬のマックスウィニーは英チャンピオンSでドバイオナーの後塵を拝す3着。ただ、直線でドバイオナーと接触し、大きく進路を変えるロスがあった。当時の1馬身半ほど実力差はないものと考えられる。良馬場に実績はないものの先行するスピードはあり、レイパパレとの兼ね合いは気になるところだ。もう1頭のボリショイバレエは英ダービーで1番人気に推されたほどの素質馬。結果は7着で、その後は尻すぼみの印象を受けるが、ベルモントダービー勝ちやBCターフ6着などアメリカの平坦コースには対応できている。シャティン競馬場にも適性がありそうで、欧州3頭で最先着しても不思議はない。

近年の香港勢は日本勢の影に隠れ、今回もチャンスは少なそうだが、前述のカーインスターの他に、末脚堅実なパンフィールドは展開がもつれれば上位争い可能か。前と後ろからの二正面作戦で外国勢に対抗する。

【香港マイル】包囲網を敷く日本勢、ゴールデンシックスティの連覇阻止へ

国内にもはや敵なしのゴールデンシックスティ 【Photo by The Hong Kong Jockey Club】

香港マイルはスーパースター・ゴールデンシックスティが地元で新記録の通算19勝目なるかが注目を集めている。ここまで見せてきた圧倒的な走りからも可能性は十分だろう。しかし、昨年はアドマイヤマーズの単騎参戦(3着)だった日本調教馬は、安田記念の覇者ダノンキングリー、2019年にマイルG1春秋制覇のインディチャンプ、同じく2019年の2歳王者サリオス、そして海外G1実績のあるヴァンドギャルドが包囲網を敷き、かつてないほどハードルは上がっている。

ゴールデンシックスティは国内にもはや敵なし。同じ相手に繰り返し圧勝し、勝負づけを完全に済ませている。今回は日本調教馬ら外国勢との対決の図式と見て間違いない。日の出の勢いで迎えた昨年も似たような構図だったが、当時は前年の覇者アドマイヤマーズと引退戦で衰えを隠せなくなっていたビューティージェネレーションを後ろからマークしておけば良かった。しかし、今年は外国勢にアイルランドのマザーアースも加わり、マークを絞るのは難しい。ゴールデンシックスティとしても今まで通りと行くか。

日本勢は先行もできるサリオスをはじめ4頭が前後に満遍なく散る布陣。マザーアースは直近2戦で後方に控えているが、ゴールデンシックスティとの追いくらべは分が悪いとR.ムーア騎手が判断すれば、ある程度の位置を取りにくる可能性も考えられる。

安田記念の覇者ダノンキングリー 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

後方からの大外一気を型とするゴールデンシックスティは、これらとの距離を測りながら仕掛けのタイミングを待つ格好になると思われる。抜け出すと気を抜く癖があり、大きく差をつけて勝つタイプではないが、馬体が並ぶところまで行けば勝負根性は抜群。日本勢はそうなる前に決着をつけられるかが焦点になるが、そのチャンスは多少なりともある。

前述の通り、ゴールデンシックスティは気を抜く癖がある。これまでは力関係の解っている相手でC.ホー騎手も仕掛け所に苦労しなかったが、今回の外国勢は初対戦の馬ばかり。想定外に止まらなければ捕らえ切れず、あるいは意識しすぎて早仕掛けになり、抜け出してしまうと隙が生じることになりかねない。いずれにせよ、際どくスリリングなゴール前になるのではないか。

【香港スプリント】日本勢は史上最高の布陣、しかし歴史的に予断許さず

スプリンターズSの覇者ピクシーナイト 【Photo by Shuhei Okada】

前年の香港スプリントの覇者で春の高松宮記念も制しているダノンスマッシュ、秋のスプリンターズSを3歳馬として14年ぶりに勝ったピクシーナイト、そして高松宮記念とスプリンターズSの双方で2着のレシステンシアの3頭が遠征。今年の香港スプリントに遠征する日本調教馬は間違いなく過去最高の布陣といえ、通算4勝目への期待が高まる。

ただし、日本での実績がそのまま通用しないことはレースの歴史に表れている。5年前の2016年には高松宮記念のビッグアーサー、スプリンターズSのレッドファルクスと2頭の勝者が挑むも、そろって10着以下に大敗。ダノンスマッシュには昨年の実績があるものの、今春のチェアマンズスプリントプライズでは同じような相手関係で4馬身差の6着に完敗した。

現状の香港短距離戦線はエースが不在で、レースのたびに勝ち馬が入れ替わるような群雄割拠の状況。昨年の香港スプリントで2着から5着までの地元勢は、香港における馬券発売で2着馬から順に単勝84倍、23倍、42倍、144倍(ダノンスマッシュは22倍)という評価。連勝式馬券は軒並み史上最高配当の大波乱だった。そうした相手に結果を出したダノンスマッシュを基準にすると、実力馬ぞろいの日本勢とて予断は許さない。

香港スプリント連覇を狙うダノンスマッシュ 【Photo by Getty Images】

香港勢でG1勝ちがあるのはホットキングプローンとウェリントンの2頭。前者は1月のセンテナリースプリントC、後者は4月のチェアマンズSPでダノンスマッシュらを破ったものだ。ホットキングプローンは昨年の香港スプリントで日本、地元の双方で1番人気に推されていたほどの実績馬だが、スムーズにレースをできないと頼りない面があり、今回はR.ムーア騎手を鞍上に迎えて新味を出せるか。今季初戦の前走8着は直線で不利があり度外視できる。一方、ウェリントンはホットキングプローンより2歳若い5歳で、重賞実績はチェアマンズSPの1勝のみも上がり目を望める。今季は使い出しで一頓挫あったものの、前哨戦をひと叩きして態勢は整っている。

香港勢は3番手以下ももちろん差がない。ラッキーパッチは前哨戦のジョッキークラブスプリント、2走前のプレミアボウルと重賞を連勝しており勢いは一番。鞍上もリーディング常連のZ.パートン騎手で信頼性は高い。スカイフィールドはウェリントンと同様に昨シーズン終盤に台頭し、チェアマンズSPでの3着からはG3プレミアC勝ちを含む4戦連続の重賞入着と安定感がある。前哨戦のジョッキークラブスプリントも3着だった。これに対してコンピューターパッチは安定感に欠けるものの、チェアマンズSPは2着でスカイフィールドに先着。ジョッキークラブスプリント4着(昨年は2着)と上位とそん色ない力はある。

昨年の結果が結果だけに、香港勢は実績不足や近走不振の馬まで気を抜けないが、今後も含めて注視しておきたいのがクーリエワンダーだ。3歳の昨年10月にデビューすると無傷の5連勝でG3シャティンヴァーズを制覇。当時は最軽量ハンデながらスカイフィールドや今回も対戦するストロンガーを破っている。期待とともに迎えた今シーズンは初戦で初黒星を喫し、前走のジョッキークラブスプリントも先頭で蛇行する若さを見せて連敗したが、J.モレイラ騎手が素質に惚れ込んで手綱を取り続けている。ここまで経験不足は否めず、その分だけまだまだ伸びしろも見込める。

【香港ヴァーズ】グローリーヴェイズが2勝目へ有力、強敵は英国のパイルドライヴァー

2年ぶりの香港ヴァーズ制覇を狙うグローリーヴェイズ 【Photo by The Hong Kong Jockey Club】

今年の香港ヴァーズは一昨年の覇者グローリーヴェイズ、連覇を狙うアイルランドのモーグル、そして英国でG1勝ちのパイルドライヴァーが実績でリードし、この中から優勝馬が誕生しそうな情勢。その中でも日本のグローリーヴェイズが最右翼と考えられる。

グローリーヴェイズは2年前の優勝時に2分24秒77のレースレコードを叩き出している。これまでに2分25秒台での優勝馬さえいない事実と合わせても圧倒的なタイムと評していい。今年の4月には距離不足のクイーンエリザベス2世Cでも鋭く2着に追い込み、シャティン競馬場の適性にも疑いの余地はない。来月には7歳を迎えるが衰えた様子は微塵もなく、前回と同様にJ.モレイラ騎手を確保と首尾は万全と思われる。

昨年のモーグルは中団から追うほどに伸びる末脚で香港ヴァーズを圧勝したが、今年は4戦未勝利(取り消し1戦)と苦戦が続いている。6月のコロネーションCは道悪で大敗したことから、渋った馬場での連戦が合わなかった可能性もあり、実績のある舞台に戻る今回は正念場というべき一戦。ただ、良馬場に恵まれた初戦(ドバイシーマクラシック)で見せ場を作れなかったように、叩き良化型と見られる一面も。昨年は3戦目で初勝利を挙げており、8月以来の実戦となる今回には依然として不安もある。

グローリーヴェイズの最大のライバルとなりそうなパイルドライヴァー 【Photo by Getty Images】

これに対し、パイルドライヴァーはコロネーションCでモーグルを破りG1初制覇。当時は道悪が有利に働いた面もあったが、昨年8月のグレートヴォルティジュールSでも良馬場かつ斤量3ポンド(約1.4kg)負担でモーグルに4馬身差をつけて完勝している。パイルドライヴァーは英国から出るのが初めてで、香港に実績があるモーグルに経験値は劣っているが、対戦成績上は一枚上と言える実力。まともならグローリーヴェイズの最大のライバルとなりそうだ。

ここに割って入りたいのが日本のもう1頭、ステイフーリッシュ。今回はジョッキークラブCを超スローペースで逃げ切った地元のリライアブルチームが再びハナを切る展開が予想され、先行できるステイフーリッシュが流れを味方につけて粘り込むシーンも。日本では詰めの甘さがあるものの、父ステイゴールドや同じ産駒のウインブライトがシャティン競馬場で末脚のキレと粘りを増したように、ステイフーリッシュが新たな一面を見せる可能性に期待したい。

欧州勢は香港ヴァーズで最多7勝(G1昇格後)を誇るフランスから牝馬のエベイラも参戦するが、G1ではサンクルー大賞の2着が最高で良績も重めの馬場に偏っている。先行力があるのは魅力だが、前走のジャンロマネ賞は逃げるも直線半ばで後続に飲み込まれ、瞬発力には課題がありそうだ。C.スミヨン騎手の手腕を持ってしても勝利までは難しい印象がある。

このレースで苦戦の香港勢は昨年3着のコロンバスカウンティに上位争いの目がある。末脚は堅実なタイプで、今回は前々でパイルドライヴァーがマークを集め、グローリーヴェイズらが追随しそうな展開。各馬の動き出しが早ければ、再び3着に届くこともあるだろう。

(渡部浩明)
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