【水戸】私のミッション・ビジョン・バリュー2021年第8回 新里涼選手「新里涼劇場」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【©MITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」
を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2021年第8回は新里涼選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.MVV作成のための面談はいつ頃からどのぐらい行いましたか?
「沖縄キャンプからはじめて、夏には完成していました。サッカーを始めたころから話をしていたので、毎回2時間ぐらい話をしていましたね」

Q.自分の考えを掘り起こし、それをアウトプットする経験は今までありましたか?
「ないですね。自分の中でぶれないものを人に発信して整理することははじめてでした」

Q.新たな発見はありましたか?
「ありましたし、水戸に移籍してきて、これからのサッカー人生で大事にしたいことを再確認できたという印象があります」

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Q.まずMISSIONについて聞かせてください。「サッカー界、水戸を盛り上げる」「水戸のために自分のできることをする」とあります。
「大学までサッカーをしてきた中で、自分の周りでは常にサッカーは人気がありました。でも、プロになった途端、少し薄れた感じがありました。分かりやすく言うと、チヤホヤされにくくなりました。中学・高校・大学と『サッカーがうまくてすごい』とよく言われてきたのですが、プロになったらサッカーがうまいのは当たり前。『サッカー選手だ!』と言われるのは評価というより、自分の職業に対してのリアクションに過ぎないと思っています。そういう意味で、サッカー界を盛り上げるということは、プロになった時から思うようになりました。オリンピックで新たに注目を集めた競技もありますし、そういった盛り上がっている競技と比べて、サッカーの価値が上がっているようには感じないんですよ。日本代表がワールドカップに出場することで盛り上がりがあると思うのですが、Jリーグの盛り上がりがもっとあってもいいのかなといつも疑問に思っています。でも、自分が劇的なことができるかというと難しい。そういうことを考えた上で、今在籍している水戸を盛り上げるために自分ができることをやっていこうと思っています。それがサッカー選手であることにおけるMISSIONだと考えています。これからサッカー選手のキャリアを終えるまで、どのチームに在籍するかは分かりませんけど、どのチームに行っても、そういうことをやっていきたいと思っています。その結果、最終的にサッカー界に少しでも貢献できたらいいなと。自分の中の成功体験で言うと、長崎でのマスコットとの関わり方ですかね。『マスコットとの関わりを見て新里選手を好きになりました』というメッセージをいただくことが多かったんです。そういうことをしていって、個人としても、クラブとしても、ファンを増やすことができればいいと思っています」

Q.プロになると、いろんな社会との接点ができます。そこでサッカーに興味のない人の多さに気付いたんでしょうね。
「そうなんです。なので、もっと多くの人に興味を持ってもらいたいと強く思うようになりました。その一方、サッカー選手という職業は影響力があります。なので、Jリーガーの価値を最大限に活かしていきたいとも思っています」

Q.サッカー選手にしかできないことがありますね。
「『自分にできることをする』という言葉を選んでいるのですが、誰もやっていないことをどんどんやっていきたい。『サッカー選手がそんなことをやるのか』と言われるようなことをもっともっとやっていきたいと思います」

Q.YouTubeやSNSで積極的に発信をしている田中パウロ淳一選手(松本)や槙野智章選手(浦和)らの活動をすごく注目しているようですね。
「サッカー以外のことをやっていると、『サッカーをやれよ』という声もあると思うんです。2人とは会ったことはないのですが、そう言われたところで、2人とも自分の中でぶれないものがあると思います。そこを自分も大事にしていきたいと思っています。サッカーだけをやっていても、サッカーを知らない人には届きませんからね。サッカーと自分の認知度を広げるためにもサッカー以外のところで知ってもらうことは大切だと思っています」

Q.水戸でも積極的に情報発信を行っていますね。
「水戸はフロントと選手の距離がすごく近いので、いろんなことができるんです。先日、市役所に訪問した際には小島耕社長と普通に話をしていました。クラブのトップの人が選手と積極的にコミュニケーションを取ってくれる。他のクラブではなかなかないことだと思います。誰とでも気軽にコミュニケーションを取れるところは水戸ホーリーホックのいいところだと思っています」

Q.これからさらに発信していきたい?
「SNSの使い方はすごく大切だと思うんです。試合のことを発信することも大事だと思いますが、それよりもちょっとしたことを発信するだけでファンの方が喜んでくれるんですよね。僕だけでなく、サッカー選手は自己承認欲求の高い人が多いと思うんですよ。それぞれが個人事業主であるわけですし。ファンの方に喜んでもらい、多くの反応をいただくためにも、自分をさらけだすことが大切だと思っています」

Q.『サッカー選手・新里涼』だけでなく、『人間・新里涼』のファンを増やしたいということですね。
「そういう思いはあります。日本でしかサッカーをしていないので分かりませんが、日本は形式的なことが多いような気がします。結婚の報告も『結婚した事実』だけを発表することがほとんどですね。結婚相手がどんな方なのか、どういうきっかけで出会ったのかとか、そういう経緯を知りたい人は多いと思うんです。そういうところでも自分をさらけだして、ファンの方に喜んでもらえるようにやっていきたいと思っています。まだ結婚の予定はありませんが(笑)」

Q.選手のファンを増やすことがクラブのためになり、さらにはサッカー界のためにもなりますね。
「認知されることによって、影響力が出てくる。そうなると、自分の発信が盛り上がりを作ることになる。それが自分のMISSIONです」

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Q.VISIONは「NO SOCCER NO LIFE」。新里選手らしい言葉ですね。
「その言葉は自分と切っても切り離せないですね。サッカーありきの自分ですから。大げさかもしれませんが、死ぬまでサッカーから完全に離れることはないと思います。自分が思い描くVISIONはサッカーなしでは考えられないと思って、この言葉を選びました」

Q.子どもの頃からサッカー中心の生活を送ってきたのでしょうか?
「サッカー以外では小学校の時に体操教室に少し通った記憶があります。あとはずっとサッカーをやっていました。サッカーのない人生は考えられません」

Q.サッカーとどのように付き合っていきたいですか?
「自分からサッカーを取ったら、何もなくなるというのは嫌です。でも、サッカー選手をやっていれば、社会人としての基礎的な能力を身につけることもできると思うんですよ。あまり『サッカーだけしかやっていない』という考えにとらわれてしまうと、自分の可能性を狭めてしまう。なので、サッカーは人として成長するための手段でもあると思っています」

Q.水戸ではアスリート人材育成プログラム「Make Value Project(MVP)」を定期的に開催しています。その根幹にあるのは「社会人基礎力」を身につけること。決してセカンドキャリアのためではなく、現役生活をより充実させることを目的としています。
「自分はすごく意欲的に受講させてもらっています。毎回、オフラインで授業に参加していますが、『サッカー選手はこういうことは鍛えられている』とか、『社会でこういう能力が必要だったら、サッカーでこういうことを大切にしよう』とか、気付きを与えてくれる場だと思います。よく他のチームの選手から『水戸はいろんなことをやっているね』と言われるんですけど、いろんなことをやっているのも、根本的には自分を高めるためですし、自分の考えを整理するため。すごく意義があると感じています」

Q.水戸では日々の練習だけでなく、MVPも含めて、VISIONに沿った時間を送れているのでは?
「本当にそうだと思います。毎回、MVPが楽しみですし、充実した日々を過ごせています。学んだことを自分の中で整理してチームメイトと話をするということは、他のチームにはないコミュニケーションだと思っています。すごく有意義な時間を過ごせています」

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Q.次はVALUEについて聞かせてください。1つ目の「試合に出て活躍する」について説明してください。
「MISSIONとつながっていて、より影響力を持つためにも試合に出て活躍することは重要です。特に大学からサッカーキャリアにおいて、その重要性をより感じるようになりました。試合に出ない時間があったからこその経験でもあります。昨年は特にそれを経験しましたし、今年は中断明けから継続して試合に起用してもらっているからこそ、感じています。サッカー選手である以上、1試合でも1分でも多く試合に出ることが大切で、シンプルな表現にはなりましたが、ここに関しては間違いなく必要なことだと思います」

Q.どの選手にも当てはまる言葉だと思います。だからこそ、この言葉を常に念頭に置いておくというためにあえて選んだのですね。
「その通りです。試合に出なければ、選手としての価値は高まらない。そして、自分を発信しにくくなってしまう。そういう意味で影響力を考えた時に間違いなく、ここは大事になると思います」

Q.試合に出続けるために意識して取り組んでいることは?
「選手起用は監督が決断すること。ただ、水戸の場合、秋葉忠宏監督が本当に選手のことをよく見てくれている。ほんの些細なプレーや行動、振る舞いも見てくれている人。なので、試合に出続けるために気を抜くことがまったくできない。本当に自分の中で妥協がなくなりましたね。今は全体練習が終わった後に自主トレをするという概念がほぼ0に近いです。それぐらい全体練習ですべてを出し切ることができている。そこは水戸に来て、自然と身についた意識ですね。常に課題に対して向き合えている自分がいるように感じています。長崎に加入して1年目で急に試合に使われなくなった時がありました。当時の自分のプレーを振り返ると、ずっと同じようなプレーをしていたような気がします。その時より、選手として成長しているという言葉で片づけられるのかもしれませんが、気づきのタイミングがその時にはなかった。自分の中にベクトルが向いていなかったのかなと。試合に出て満足している自分がいたのかもしれません。その中で自分に足りないものと向き合えなくて、夏にボランチを補強することとなって、そのまま起用されなくなってしまいました。そういう経験を経て、試合に出続けるために対戦相手に対して何ができるかのイメージをするようになりましたし、先制した後や先制された後のイメージもするようになりました。先日、代理人に『試合中に消えなくなった』と言われました。2年前は試合に出ていても『消えている』時間が多かった。水戸ではボランチに多くのタスクが課されている中、90分間どういうプレーをするのか、周りに対してどういう振る舞いをするのかということを考えてプレーするようになった。そこに変化を感じています」

Q.2つ目は「色々な人の思いを知って背負う」です。
「これはMVVの面談を通して気づいた思いです。自分が今までサッカーをしてきた中で、プロになりたくてもなれなかった仲間が圧倒的に多いんです。自分がプロになって、昔のチームメイトとかと会う機会があるのですが、その時に『お前には頑張ってほしい』と言ってくれるんです。その人たちがサッカーに対して残していった思いを勝手にでも背負ってやっていこうと思うようになりました。そういった思いも自分の中の熱に変えていこうと思って、この言葉を選びました」

Q.3つ目は「自分と水戸ホーリーホックを知ってもらうためのアクションを取り続ける」。MISSIONとつながっていますね。
「水戸のためにできることをする。水戸ホーリーホックに関しては、あまり認知度が高くないというのが正直な感想です。昨年、家を決めるために水戸に来た時、町中にポスターが貼ってあって盛り上がっているなと思ったら、水戸ではなく、Bリーグの茨城ロボッツのポスターだったんです。もちろん、ロボッツさんはよきライバルであるのですが、水戸ホーリーホックをより多くの人に知ってもらいたいなと強く思うようになりました。そのためにも自分が試合に出て、結果を出すことが大事だと思いました。長崎ではJ1に昇格した年に自分は加入したのですが、既存の選手たちは町の盛り上がりに驚いていたんです。それはどこの地域にも可能性を秘めていると思います。なので、まずは多くの人に知ってもらい、盛り上げていきたいと思います」

Q.結果を出して大きな盛り上がりを作るためにも、日々地道な活動をして、種をまくことが大切になりますね。
「本当にそう思います」

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Q.最後にスローガンについて聞かせてください。「新里涼劇場」。最高ですね!
「この言葉を見ると、自分でも笑っちゃいます。サッカー選手に限らず、すべての人が自分の人生の主役なので、こう思うべきだと思っています。特に僕たちはサッカー選手として、多くの人たちを巻き込むことができれば、地域やクラブやサッカー界を盛り上げることができる。そういう意味でいいスローガンだと思っています!」

Q.プレーも言動も含めて、「劇場」ということですね。
「すべてを見てもらいたいですし、自分を多くの人に知ってもらいたい。そういう思いの表現です。どこまで理想の『新里涼』を作り上げることができるか。そして、多くの人に知ってもらえるのか。自分のこれからの人生が楽しみですね」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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