【特別連載】五輪代表のホカバ、張本智和「怪物」と言われた少年
【卓球王国】
ホカバ6連覇、そして世界へ飛び出していった張本
「ホカバ」で5連覇を達成した後の取材では、「学校での好きな教科は算数と体育。憧れの選手は中国の樊振東。ラリーが強く、コース取りもうまくてカッコいい。いつか試合をしてみたい」と語っているが、東京五輪で張本がメダルを狙うために超えるべき壁が樊振東とも言える。
小学校5年当時、すでに才能をグングンと見せていた張本だが、卓球界での評価はどうだったのか。
当時、男子ホープスナショナルチームの松下雄二監督はこうコメントしている。
「張本は、試合運びが非常にうまい。技術的には決して多彩ではないが、少ない技術でシンプルに戦術を組み立て、確実に点を取ることができる。そのうまさは、張本の負けず嫌いからくるものでしょう。彼は『勝つためにどうすればよいのか』ということを同じ世代の誰よりも高い意識で考えており、合宿でのゲーム練習でも常に真剣で、負けた時にすごく悔しがる。そういう部分が伸びる要因になっている」
全日本チャンピオン水谷隼は小学5年生の張本をこう見ていた。
「テレビの企画で試合をしたことがある。すごくセンスがあるなと思った。ボールタッチが良く、ミスが少なく、バックハンドも自信を持って振っている。これからいろいろな経験をして、どんどん強くなってほしい」
2014年冬のコメントだが、それから2年半後の2017年の春の世界選手権デュッセルドルフ大会では、その水谷を張本は破り、ベスト8に入った。13歳だった。
また2018年1月の全日本選手権大会では決勝で水谷に完勝し、張本は14歳の史上最年少で「全日本卓球」を制した。
2014年の時点でナショナルチームの倉嶋洋介監督には「怪物・張本」をどのように映っていたのだろうか。
「ボールタッチや予測能力という部分で非常に才能を感じる選手です。体の使い方もうまくて、攻撃力もアップしてきた。全日本カデットでも中学生を相手に何本も打ち抜いていて、そういう面でも高い将来性を感じます。将来的にも世界チャンピオンを狙える逸材なので、すごく期待しています」
小学校5年生当時、張本はハードな練習を繰り返していたわけではない。両親の方針で、宿題や勉強を終えてから練習に取り組んでいた。1週間のうち、マンツーマン練習ができるのは週1回で、あとはチーム練習で、張本本人の練習は実質1時間半程度。
ではなぜここまでの選手に育成できたのか。2014年当時、父の宇は息子の智和の卓球を説明している。宇自身は国家チームの2軍に所属し、のちに海外のプロリーグも経験したことのある選手だった。
「私の指導で重視しているのは正しいフォームを身につけさせること。良いフォームでないと、将来の成長が難しい。両ハンドのバランスはもちろん大事ですが、最終的にはフォアで攻められるスタイルを目指して指導しています」
母の凌も中国代表として世界選手権を経験している選手だった。息子・智和はどういう子どもなのだろう。
「智和の良さのひとつは『勝ちたい』という強い気持ちですね。卓球以外でも競争することが好きで、何でも一番になりたいという性格。だから負けることがすごく嫌いで、負けるとすぐに泣きます(笑)。勝ちたいから卓球を頑張れるのだと思います」
2021/03/09. Singles - Round of 32 at Doha Star Contender, Lusail Sports Arena, Doha, Qatar. 【卓球王国】
小学生の時から大きな夢を持ち続けた
「選手としては、両ハンドにミスがなく打てて、打ち抜けるし、ラリーでも勝てるような選手になりたい。将来の夢は世界選手権やオリンピックで優勝すること。2020年の東京五輪も狙っています」
それから7年後の今年、張本は東京五輪の舞台に立つ。
「初めてのオリンピックですけど、これまでもこれからも、自分にとって一番大きな大会になると思っています。オリンピックの自国開催なんて滅多にないチャンスだと思うので、この大会が卓球人生で一番大事な大会のつもりで向き合っています」
「目標としては金メダルを二つ獲ること。最低でもメダルは獲りたいですし、特にシングルスは本当に強い気持ちでメダルを獲りに行きたい」(卓球王国2021年7月号より)
小学校の時、「五輪の金メダル」という夢を持っていた少年・張本智和は、その夢を持ち続けてきた。「ホカバ」で勝ち続けることが、その夢に向かって走っていくことのエネルギーだったのかもしれない。張本の原動力となった「ホカバ」が始まる。そして夢の舞台だった東京五輪も追いかけるように幕を開ける。 (文中敬称略)
<写真・記事提供 卓球王国>
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