「フェーズを重ねるということ」クボタスピアーズ トップリーグ2021プレーオフトーナメント準々決勝 試合前コラム

チーム・協会

【【クボタスピアーズ(ラグビー)】トップリーグ2021プレーオフトーナメント準々決勝試合前コラム】

いよいよ10フェーズ目の決戦へ

目の前には横一線のディフェンスライン。

100KG超級のタックラーが並ぶ中、ボールを持った選手は、タックルをされることを分かっていながらそれでも突っ込む。

前から、横から、下から、上から。
様々な角度からのタックルを受けながら、ボールを守り切り、地面に置いて、味方に託す。

前進できる距離は良くて1m。
縦100mのグラウンドで、1m前進できれば良くやったと褒められる攻防を終えると、また立ち上がり、ディフェンスの壁にぶつかりに行く。

スペースとは言えないほど狭いスペースに体をねじ込みに行くのは、いつかできるスペースを作るためだ。
何人もの敵に囲まれながらも恐れずぶつかりに行けるのは、背中を押してくれる仲間がいるからだ。

時に押し返されることもある。
強烈なタックルを浴びることもある。
反則を取られたり、ボールを奪われることもある。

けれど、こうして一見無謀にも思えるアタックを繰り返すのは、このアタックがいつかトライを生むと信じているからだ。



ラグビーは、攻撃した回数のことをフェーズと呼ぶ。
ラインアウトやスクラムなどのセットプレーが起点となりスタートすると、それからタックルを受け、オフサイドラインが形成される度に、2フェーズ、3フェーズとカウントされる。回数や時間の制限もなく、ボールを保持する限り何回でも攻撃のチャンスがある。

クボタスピアーズのアタックはフェーズを重ねる。
フェーズを重ねて、根気よく攻めて勢いを作り、日々の練習で刷りこまれた状況判断でディフェンスラインを崩す。そうして、はじめはなかったはずのディフェンス間のスペースを作りだし、トライを取る。その攻防は、10フェーズを越え20フェーズを越え、数分間にも及ぶこともある。

このフェーズを繰り返すアタックは、走って当たって倒れて起き上がるという一連の動作の繰り返し。
対するディフェンス側も同様。安静時心拍数の何倍にも及ぶこの高強度な運動は、互いの酸素を奪い合う。この酸素の奪い合いの我慢比べに勝利した瞬間、ボールはゴールラインを越え、初めて得点という形でスコアボードに反映される。

これがクボタスピアーズのアタックだ。
苦労して苦労して獲る。
俺たちも消耗した。だけど、相手はもっと消耗した。
なんともクボタスピアーズらしいじゃないか。

「ラグビーは見ていてなんだか力が入る」
「ラグビーを見ていると感情移入してしまって、やけに感動する。」
といった声をたまに聞くことがあるが、フェーズごとに繰り返されるこうした攻防にその理由があるのかもしれない。

一発で勝負が決まる刹那的なプレーも面白いが、フェーズ毎に直向きに何度もチャレンジする姿は、その試合にストーリーを作り、感情を揺さぶる。
そして、なにかを投影せずにはいられなくなる。

試しに開幕からのチームの軌跡を、このフェーズアタックに例えてみる。

セットプレー
これは30週を越えるプレシーズンだ。一致団結していいチームを作り、いいボールが出せた。

1フェーズ目
ほぼ1年ぶりの公式戦の相手はサニックス。強風で前半苦労したけれど、80分を通して自分たちの強みを出せた。

2フェーズ目
セカンドジャージで挑んだ東芝戦。強いフォワード相手にフォワードで勝ち、自信を得た。

3フェーズ目
江戸川区陸上競技場でのNTTコミュニケーションズ戦。ボーナスポイントを取りに、最後までトライを奪いにいった。
勝利したはずなのに、まるで敗者のようなロッカールームが忘れられない。

4フェーズ目
ホンダヒート戦。若いメンバーが出場して、チームの総合力を示した。

5フェーズ目
大雨の中のダイナボアーズ戦。勢いを作った5連勝。雨の中、オレンジに染まったスタンドのサポートが背中を押してくれた。

6フェーズ目
いよいよ勝負のフェーズは全勝対決のサントリー戦。
最後の最後まで逆転を信じ戦った。今シーズン公式戦初黒星となる結果となったが、後半のアタックで自分たちの強さを証明した。

7フェーズ目
試合後あんな落胆した姿を久しぶりに見た。ピンチを凌いだ上での逆転劇。そして、零れ落ちた勝利。
そりゃそうだよ。そうなるよ。けれど、前を向いて帰ってきた。

8フェーズ目
いよいよ負けたら終わりのプレーオフトーナメント。相手はヤマハ発動機。
相手の強みのスクラムと真っ向勝負しながらも、ボールをよく動かし、全員のハードワークで、さらに進化したスピアーズを見せた。

9フェーズ目
サントリーとの練習試合。ハングリーな選手たちが、点差に関係なく最後まで戦う姿勢を示した。全員でこの試合をサポートして、チームの絆はより強固になったはずだ。


そして、10フェーズ目。
この日曜日の準々決勝。相手はトップリーグの歴史を牽引してきたと言ってもいい神戸製鋼コベルコスティーラーズ。
今季、まだ無敗の相手に対して、辛酸を嘗めてきたクボタスピアーズがどんな試合を見せるのか。

トライを取るのにフェーズを重ねるのと同じように、チームが強くなるためにはフェーズが必要だ。
クボタスピアーズは、ここまで意味のあるフェーズを重ねてきた。
きっとこれまでのフェーズが、この10フェーズ目でさらにチームを前に進めてくれるだろう。

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ヤマハ発動機ジュビロ戦でのホネティ選手。速さと強さに注目! 【【クボタスピアーズ(ラグビー)】トップリーグ2021プレーオフトーナメント準々決勝試合前コラム】

代わりになるものはない瞬間

東芝ブレイブルーパス戦での試合前のハドル 【【クボタスピアーズ(ラグビー)】トップリーグ2021プレーオフトーナメント準々決勝試合前コラム】

皆さんにとって「代わりになるものはない」瞬間はなんですか?

4月28日に行われた練習試合後、今シーズンで退団・引退を表明した後藤選手にインタビューすると、試合前の心境を「代わりになるものはない」と言い切った。

キックオフ直前のハドル(円陣)
目の前に見えるのは、共に戦い続けた良く知った顔ぶれ。
これから行われる80分の戦いに挑む表情は、冗談で茶化し合った普段の顔とはまるで別人。
15人対15人の肉弾戦に腹を括り、自分たちがすべきことのみ集中する。

生まれた場所や育った環境はもちろん、国籍も言語も宗教も、すべて違った多種多様なメンバーが、ひとつの目標のために同じ絵を見る瞬間。

カメラも多数、観客も大勢。相手もいる。
けれどそのハドルの中は、たった15人だけが分かち合う世界がある。
とてもシンプルで、なのにストレスフルで、だからこそ作られるハドルの中の世界。
そんな瞬間の代わりなんて、日常生活にあるわけがない。

クボタスピアーズ入団から13年。
後藤選手から出た言葉は、この13年間フェーズを重ねたからこそ、出た言葉だった。

フェーズを重ねることは歴史を重ねることだ。
フェーズを積むことは、プロセスを踏むことだ。
ひとつひとつのフェーズに意味のないことなんてない。
だからこそ、その歴史やプロセスを試合で表現しようとするあの瞬間は特別なんじゃないか。

2003年から続くトップリーグも、残すところあと4試合。
クボタスピアーズのトップリーグでの試合は、あと最大3試合。
フェーズを重ねるからこそ作られた「代わりになるものはない」瞬間をぜひ見てほしい。



トップリーグ2021 プレーオフトーナメント準々決勝
クボタスピアーズvs神戸製鋼コベルコスティーラーズ
 5月9日(日)12時45分 エコパスタジアムでキックオフ


文:クボタスピアーズ広報 岩爪航
写真:チームカメラマン 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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