2年ぶりの祭典で日本馬の活躍なるか? ドバイWCデー4レースを展望

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【良馬場なら巻き返しの目もあるチュウワウィザード【Photo by Kazuhiro Kuramoto】】

【ドバイワールドカップ】小粒なアメリカ勢、チュウワウィザードにつけ入る隙はあるか

自他ともに認めるアメリカのスターホースが中心に構え、当たり前のように勝利を手にしてきたドバイWCだが、近年は直前にペガサスWCやサウジCといった超高額レースが勃興し、かつてのような強豪が集まりにくくなっている。今年はアメリカ勢が4頭参戦するもG1勝ち馬は皆無。全体的に小粒なメンバー構成となった。

スターホースこそ不在ながら、今年のアメリカ勢は例年なら2番手グループ程度の実績はある。そして、それら2番手グループの馬たちがしっかり上位を占拠してきたのもドバイWCの歴史。レースがアメリカ勢を軸に展開することに変わりはない。

今年の中心を担うのはゴドルフィンが派遣したミスティックガイド。重賞は前走のレイザーバックHとジムダンディSの2勝のみだが、G1でも2000mのジョッキークラブGCで3/4馬身差の2着がある。2歳時にデビューできず、重賞初挑戦は例年ならクラシック三冠戦が終わっている3歳7月という、いわばこれからの馬。それでも、デビューから3着をはずすことなく結果を積み上げてきた。4歳初戦の前走は6馬身差での圧勝と順調に成長しており、G1制覇は時間の問題という所まで来ている。それが今回になる可能性も十分だ。

残りのアメリカ勢のうち、スリーピーアイズトッドとタイトルレディにミスティックガイドを脅かせるような実績はない。唯一、ヘスースチームが対抗格となるだろう。ここまで重賞未勝利ではあるものの、前走のペガサスWC(2着)では4着のスリーピーアイズトッドに6馬身余り先着。いずれも完敗ながら、BCダートマイル2着、プリークネスSで3着の実績もある。ただ、ミスティックガイドには直接対決で敗れている。その一戦で勝負づけが済んだとは言えず、堅実駆けで魅力の大きな馬ではあるが、勝ち切れない面を補う何らかの助けがほしい。

こうした相手関係につけ入る隙を見つけたいのが日本のチュウワウィザードだ。前走のサウジCは惨敗に終わったが、日本とは異なるダートに折からの雨が重なり、脚元が滑る感じになって力を発揮できなかったもの。良馬場なら巻き返しの目もあるということだ。これまでも日本のダート王たちが苦戦してきたレースだけに、たとえ良馬場でも上位争いできる保証はないが、国内で大崩れすることなどなかった馬。今度は見せ場を作ってくれると期待したい。

波乱を呼ぶ可能性があるゴドルフィンの所有馬マニークール 【Photo by Getty Images】

チュウワウィザードの他にサウジCから数頭が転戦しているが、3着のグレイトスコットのレースぶりは目を見張るものだった。ミシュリフの内で先団に食らいつき、しぶとく伸びてペガサスWC勝ちのニックスゴーに先着した。アメリカのG1馬たちが生み出すスピードについていけたのは大きな収穫。状態を保っていれば、再びの激走もありそうだ。

前哨戦組ではアルマクトゥームチャレンジR2とR3を連勝してきたサルートザソルジャーが面白い存在。この2戦では逃げ・先行の形だったが、差しにも対応可能な自在性がある。外目の11番枠から上手く流れに乗れれば、見せ場以上があるかもしれない。また、ミリタリーローはアルマクトゥームチャレンジR1勝ちから前走サウジCで6着も、最終コーナーまでミシュリフに食らいついていた。5着のスリーピーアイズトッドに2馬身少々後れたが、あちらは後方から内を立ち回って直線勝負。力負けではない。

波乱を呼ぶならミスティックガイドと同じゴドルフィンの所有馬で、フランスのA.ファーブル調教師が送り込むマニークールか。7か月以上の休養を4回も挟むなど使い込めずに来たが、昨年はペルシアンキング(ムーランドロンシャン賞など)、アスペター(オイロパ賞)とG1ホースを2着に退けてリステッドを2勝。前走はフランスにおけるオールウェザーのドバイ前哨戦で快勝した。今回が初ダートで適性は全くの未知数だが、ファーブル厩舎で活躍したタリスマニック(BCターフ)、レイチェルアレクサンドラ(米年度代表馬)、ゴールデンシックスティ(香港三冠馬)など、バラエティに富む活躍馬を輩出してきたメダグリアドーロの産駒でもあり、底知れない不気味さを秘めている。

【ドバイシーマクラシック】クロノジェネシス vs ミシュリフ、メンバー充実で注目度ナンバーワン

昨年の宝塚記念と有馬記念を制したクロノジェネシス 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

今年のドバイシーマクラシックはワールドカップデーのG1レース4鞍の中で最少の10頭立てで争われるが、集ったメンバーの充実度では一番と言えるだろう。芝・ダート二刀流のミシュリフと日本の女傑クロノジェネシスの激突は最大の見もの。復活なったラヴズオンリーユー、欧州の良血馬モーグルなど、まとめて負かせるだけの能力を秘めた実績馬も控え、約2分半の濃密なレースを堪能できそうだ。

英国のブックメーカー各社の前売りでは、クロノジェネシスとミシュリフが1番人気を争い、3番手にモーグルが続く構図になっている。ミシュリフは英国調教馬の上に、現時点のレーティングも現役馬で世界最高。地元なら1番人気を確保できるものだが、そうはさせていないところにクロノジェネシスの評価の高さが表れている。

宝塚記念で見せた圧巻のパフォーマンス、有馬記念の2500mも問題なくこなした距離の融通性など、メイダン競馬場の2410mを舞台とする戦いにおいては、クロノジェネシスの実績が上回っていることは間違いない。ミシュリフには2100mまでしか経験がなく、祖父は日本でダート短距離系の種牡馬として評価を高めているマクフィ。血統的に不安を抱えているのは確かで、そこはクロノジェネシスに一歩譲らざるを得ないだろう。

また、昨秋のミシュリフは凱旋門賞参戦を検討したものの、追加登録が必要なこともあって断念した経緯がある。仏ダービーを勝つほどの馬ながら、予備登録が締め切られる春の段階で、凱旋門賞出走を想定していなかったということだ。前走でサウジCを勝った一方、ドバイWCではなく賞金が半分以下のシーマクラシックを選択したのも意外。今秋の凱旋門賞に向け、腕試しの狙いがあるとすれば隙も生じよう。

昨年の仏ダービー馬で前走のサウジCを快勝したミシュリフ 【Photo by Press Association】

3番手評価のモーグルはパリ大賞と香港ヴァーズでG1レースを2勝。パリ大賞の2着インスウープと3着ゴールドトリップは次戦の凱旋門賞で上位争いしたほか、香港ヴァーズで3馬身差2着のエグザルタントも、前年にグローリーヴェイズから3馬身3/4差(3着)だった。この比較から相当な能力を秘めていることがうかがえる。ただし、全兄のジャパンともども叩き良化型の面があり、初戦からエンジン全開と行けるかが課題だ。

ラヴズオンリーユーは6番手あたりの評価に甘んじている。しばらく勝っていなかった事実があるだけに伏兵視もやむを得ないが、オークス制覇の際にはクロノジェネシスに約2馬身半差をつけた。前走で久々の勝利を飾りムードも良く、今回はオークスと近似の左回り2410mでの対戦。全兄リアルスティールがドバイターフを勝ったメイダン競馬場には血統面の裏づけもあり、同期のライバルを食って完全復活を遂げられるか。

チャンネルメイカーはこれまでG1レース4勝。日本や欧州より一枚落ちるアメリカでの実績だが、逃げ一手の同馬にとって絶好の2番枠を引いた。昨年のBCターフでは3着に逃げ粘り、5着のモーグルには約3馬身先着している。日本の2頭とミシュリフは外枠に固まっており、有力馬が後ろでけん制し合っている間に逃げ切ってしまうこともありえる。

開催4連覇を狙うゴドルフィン勢だが、今年はいささか苦しい。前哨戦のドバイシティオブゴールドで重賞初制覇のウォルトンストリートについては、鞍上のW.ビュイック騎手が力不足を認めている。僚友のスターサファリも前走のドバイミレニアムSが重賞初制覇だったが、こちらは5歳で通算7戦しかしていない。2走前に今回と同舞台の条件戦勝ちがあり、昨年2月にはメイダン競馬場で芝2000mのトラックレコードも記録。長めの距離に大駒が多いシーザスターズ産駒で、ウォルトンストリートに先着しても不思議はない。

【ドバイターフ】強豪あふれる国内を避け、G1制覇の好機としたいヴァンドギャルド

世界の強豪に胸を借り、G1制覇を狙うヴァンドギャルド 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

不参戦だった2015年を除く過去5回で4勝と、近年は日本調教馬が圧倒的な戦績を残しているドバイターフだが、今年のヴァンドギャルドはG1未勝利で重賞も1勝と、過去の優勝馬と比較して実績が不足している。世界の強豪に胸を借り、どこまで通用するかが焦点だ。

立場はあくまで挑戦者のヴァンドギャルドだが、今回はG1ホースとなるための好機と考えることもできる。国内でマイルや2000mのG1を勝つならば、コントレイルやデアリングタクトの牡牝三冠馬、グランアレグリアやインディチャンプのマイル王、さらには春秋グランプリ制覇のクロノジェネシスらが相手になる。この中で1頭を負かすことさえなかなか容易なことではない。

それに対し、ドバイターフの相手関係でG1勝ち馬はロードノースとロードグリッターズの2頭だけ。もちろん、ヴァンドギャルドとすれば一目置かなければならない格上馬だが、距離が1800mであれば両馬とも後方からのレースになるはず。道中のマークは絞りやすく、展開次第で勝機がめぐってくることもあるかもしれない。

ロードノースは昨年のプリンスオブウェールズSの内容が鮮やかの一語。当時を再現できれば勝利当確の存在だろう。良馬場で末脚を生かしたいタイプだけに、初めてのメイダン競馬場が英国の競馬場以上にフィットする可能性も高い。ドバウィ産駒はベンバトルが2018年のドバイターフ、オールドペルシアン(2019年)とポストポンド(2016年)もドバイシーマクラシックを勝つなど、ワールドカップデーに結果を残している。

コース適性なら証明済みのロードグリッターズ 【Photo by Press Association】

コース適性ならロードグリッターズは自力で証明済み。メイダン競馬場の芝1800mでは重賞4戦で2勝、3着2回の複勝率100%だ。癖の強い競馬場が多い地元の英国では、アスコットの直線コースやヨークなど、比較的平坦なコースで良績を挙げており、整地されたメイダン競馬場が合っているのだろう。展開に左右されがちな追い込み脚質にもかかわらず、この安定感は評価に値する。

この2頭に続き、ヴァンドギャルドと3番手グループを形成するのはリーガルリアリティ、前哨戦のジェベルハッタでロードグリッターズと小差のエクティラーン、ゴドルフィンのアルスハイルとランドオブレジェンズあたりか。

リーガルリアリティは1600mで安定感があり、2000mではやや長いタイプ。今回の1800mは未経験だが、あるいは今回がベスト距離の可能性もある。R.ムーア騎手とも手が合っており侮れない1頭だ。また、前走のエクティラーンはスローペースを利した粘り込みでインパクトに欠けたが、24日にオーナーのハムダン殿下の訃報が伝えられた。今回は弔いの勝利へ陣営の力の入り方が違うはずだ。

ゴドルフィンのアルスハイルは素質こそ高いものの重賞未勝利。鋭い末脚を発揮する一方、最後に踏ん張りが利かずタイトルを逃してきた経緯があり、脚の使い所が難しい。もう1頭のランドオブレジェンズは1800mが未経験で、勝ち鞍も1400mまでしかない。ただ、2走前のアルファヒディフォートは好位から余力十分に抜け出しての重賞初制覇。距離延長に対応できそうな雰囲気はある。

【ドバイゴールデンシャヒーン】日本勢4頭が充実の布陣、史上初制覇のチャンス到来

前走のリヤドダートスプリントを制したコパノキッキング 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

マテラスカイが2着に激走した2年前はインペリアルヒントにプロミシズフルフィルド、ロイエイチ(出走取り消し)とダート大国のアメリカから3頭のG1ホースが遠征し、優勝をさらったエックスワイジェットも前年のドバイゴールデンシャヒーン(GS)で2着という強力なメンバー構成だったが、今年は4頭参戦するアメリカ勢にG1実績馬が不在。これに同じく4頭で対抗する日本勢は現状のベストメンバーとも思えるような実力馬がそろい、初制覇へ期待ふくらむ一戦となった。

今年のマテラスカイとコパノキッキング、ジャスティンにレッドルゼルという顔触れは、ベテランと次代のけん引役が半分ずつ、脚質も逃げ・先行のジャスティンとマテラスカイ、差し・追い込みのコパノキッキングとレッドルゼルに分かれて実にバランスが良い。しかも、先行したい2頭が内目の3番と4番、差しに回る2頭が外目の11番と13番という枠振りになった。

また、新興勢力のレッドルゼルにベテラン2頭との対戦経験こそないが、ジャスティンとはカペラSでクビ差の接戦を演じ、ジャスティンはベテランたちと勝ち負けを繰り返すなど実力拮抗の関係。どんな展開になっても二の矢、三の矢を繰り出せる布陣となっている。

一昨年は2着と好走したマテラスカイ 【Photo by Getty Images】

レッドルゼルを除く3頭は前走のリヤドダートスプリントで対戦し、追い込みのコパノキッキングが逃げ粘るマテラスカイを際どく差し切ってワンツーフィニッシュ。両馬の間から一度も先頭に立てなかったスイッツァランドに逆転の目があるか疑わしい。出遅れて不本意な内容になったジャスティンが巻き返す可能性の方が現実的だ。

日本勢にとって壁となるアメリカ勢では、前走のパロスヴァーディスSを4馬身1/4差で圧勝したワイルドマンジャック、昨秋のBCスプリントで1番人気だったヤウポンが怖い。パロスヴァーディスSの勝ち馬は過去に延べ10頭がドバイGSに遠征して2勝、2着4回、3着1回。ワイルドマンジャックには上位争いの資格がある。昨年は芝のアルクォーツスプリント前哨戦を圧勝しながら、あえてダートに矛先を向けてきたのも自信の表れだろう。

また、BCスプリントで人気を裏切る格好になったヤウポンには、直線入口で両脇から挟まれる不利があった。ただ、逃げ切りでデビュー4連勝してきたものの、BCではマテラスカイと同じ森秀行厩舎のジャスパープリンスに外枠からハナを叩かれ、最終コーナーで早くも鞍上の腕が動いていた。通算5戦とキャリアが浅く、良くも悪くも未知の面を残しており、今回は2番枠から行き切れば勝ち負けにもなりそうな半面、揉まれ込むような形になるとどうか。

地元勢では前哨戦シリーズを勝ってきたD.ワトソン厩舎のキャンヴァストとアルタリクが双璧だが、L.デットーリ騎手が手綱を取るグッドエフォートの出方にも注目。前走のマハブアルシマールはハイペースで逃げ、最後の100mで脚が上がり2着に敗れたものの、勝ったキャンヴァストとはクビ差。枠順が最内の1番なら再び前へ行くしかなく、名手がテン乗りから継続騎手で如何に操るか。隣のヤウポンやマテラスカイらにも気になる存在だ。

(渡部浩明)
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