若き4番、安田尚憲の2020年を振り返る。絶品の変化球打ちと、見えてきた課題
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昨季は二軍の4番として2冠王。今季は一軍の4番へとステップアップ
今回は、2020年のシーズンにおいて安田選手が残した各種の数字から、若き逸材のバッティングを分析。コース別・球種別の打率、打順ごとの成績、ポストシーズンも含めた今季の本塁打の内訳といった要素から見えてくる、安田選手の長所と課題に迫るとともに、若き4番が年間を通じて見せた奮闘ぶりを、いま一度振り返っていきたい。
数字の面では物足りなさも残るが、リーグ屈指の数字を残した分野も
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選球眼についてより踏み込んだ数字を紹介すると、今季の安田選手が相手投手に費やさせた1打席あたりの平均投球数は4.254となっている。この数字は、今季のパ・リーグで規定打席に到達した選手たちの中では、近藤健介選手、西川遥輝選手に次ぐ3番目の多さである。打席での粘り強さ、投手に球数を使わせるといった貢献度という面では、既にリーグ屈指のものを備えていると言えそうだ。
ラストバッターを務めた試合では、また違った存在感を見せていた
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ただ、先述の通りにシーズン最終盤には4番を外れて7番に回り、最終的には9番も経験。その9番という立ち位置では、2試合以上に出場した打順の中では最も優秀な数字を記録しており、中でも出塁率は.429と、まさに出色の数字を残した。11月5日の福岡ソフトバンク戦では2死満塁から点差を3点に広げる貴重な押し出し四球を選び、後続の荻野貴司選手の2点適時打につなげたように、粘り強く上位につなぐ役割を果たしていた。
また、途中出場では4打数無安打と1安打も放つことができず、代打としては活躍を見せられなかった。早い段階でレギュラーに抜てきされたこともあり、そもそも代打としての出場機会自体が少なかったこともあるが、安田選手は3打席以上に立って真価を発揮する選手という見方もできる。
走者の有無によって打率には大きな変化が
今季の千葉ロッテは機動力を生かした攻撃を行うケースも多く、一塁走者がバッテリーに揺さぶりをかける中できっちりと狙い球を仕留めることができているこの傾向は、チームの主軸として頼もしい要素と言えるだろう。得点圏での打率もシーズン打率に比べて.035高く、4番に必要な勝負強さという点では、一定のものを示していた。
その一方で、走者がいない際の打率の低さは気になるところ。当然ながら、初回が3者凡退で終わった場合は、続くイニングは走者なしの状況で4番からの攻撃が始まる。すなわち、今後も4番の座にとどまるためには、自らがチャンスメイクを行うべき局面でも結果を残せるかが、重要になってくることだろう。持ち前の選球眼が生きる分野でもあるだけに、来季以降はこの課題を克服していってほしい。
重圧に負けず、常に自分のバッティングを貫けるか
自分が凡退したらチャンスが潰えるという場面でも、必要以上に気負うことなく自分のバッティングができるかが、安田選手にとってもう一つの課題となってきそうだ。チームの主軸には単なる技術面のみならず、メンタル面でも高いレベルの安定性が求められる。来季以降はその重圧に負けることなく、あらゆる場面で自分のバッティングを貫けるようになれば、その存在はチームにとっても、より頼もしいものになるだろう。
殊勲打の数はチームで3番目と4番らしい勝負強さも示した
初回に先制のチャンスで打席に入る4番を務める機会が多く、先制打が9本と頭一つ抜けて多かった。同点打と勝ち越し打はそれぞれ3本、そのうち1本が本塁打と、この2つは全く同じ数字に。
その一方で、逆転打はシーズンを通じて1本のみだった。同点打に比較して逆転打の数が少ない理由としては、チーム全体の打率が低く、塁状況を考えても2打点以上を挙げるチャンスがそこまで多くはなかったことや、安田選手自身の長打率がそこまで高くなかったことが考えられるだろうか。複数の打点を一度に稼ぐためには長打、特に本塁打の数が重要になってくるだけに、来季はさらなるパワーアップに期待したい。
得意な球種と苦手な球種、その傾向とは?
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その一方で、シンカー・ツーシーム、カットボール、カーブといった球種はかなり得意としていることがわかる。カーブ・チェンジアップというブレーキの効いた球に対する反応に優れていることからも、緩急をつけた攻めにはしっかりと対応することができ、緩い球を捉えられるだけの読みと技術を持ち合わせていることが読み取れる。
また、シュートに関してはやや苦手としているものの、カットボール、シンカー・ツーシームといった、速球に近い球速から鋭く変化するボールを得意としているのも見逃せない点だ。速い変化球への対応力に関しては優れたものがあるだけに、速球そのものに対するコンタクト力が向上してくれば、投手にとってはより攻めづらくなる打者となってくる。
今季記録した7本塁打の内訳は、さまざまな面で興味深いものに
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表にある通り、7本全てが変化球を打って記録したものに。裏を返せば、速球を打ち返して本塁打にしたケースは、昨季を通じて1つも存在しなかったということだ。パ・リーグの投手たちのストレートに力負けしない打撃ができるかどうかは、安田選手が今後長距離砲として覚醒できるかどうかを占ううえでも、非常に重要な課題となるだろう。
しかしながら、この結果は安田選手の変化球を捉える技術の高さを証明するものでもある。苦手としているフォークを捉えて記録した本塁打も2本あり、千賀投手と高橋光成投手という、鋭いフォークを決め球とする投手から放っているという点でも価値がある。また、内角に入ってくる石川投手のパワーカーブを引っ張って本塁打にしたケースもあり、変化球であれば、一線級の投手の得意球を捉えられるだけの技量を備えていることがうかがえる。
打球方向としては全てが引っ張りで、変化球を強くたたいて引っ張ることが得意と言えそうだ。ただ、8月9日のオリックス戦で見せた、左の山田修義投手の速球に対して逆らわずに弾き返し、レフトの頭上を越える2点適時打を放ったシーンに象徴されるように、逆方向に伸びる打球が全く見られなかったわけではない。そういった打球がより力強さを増し、スタンドまで届くようになってくれば、長距離砲としての幅もさらに広がってくる。
選手としての得意分野と課題が見える、今季のコース別打率
安田尚憲選手、2020シーズンのコース別打率 【(C)パ・リーグ インサイト】
また、先ほど紹介した高橋光成投手と千賀投手から放った本塁打は、いずれも真ん中低めのフォークを捉えたもの。ボールゾーンまで落ちきらずにストライクゾーンに入ってきた変化球を、いわゆる高確率で長打にできる“ツボ”とすることができれば、相手投手にとっては追い込んでからも一筋縄ではいかない打者となることだろう。それに加えて、今季は苦戦したフォークに対する打率も、相応に改善される可能性が高まってくるはずだ。
また、真ん中の高さに来る球に対しては、内角のボール球を除いていずれも打率.250以上を記録しており、他のゾーンに比べて得意とする傾向が出ている。その一方で、内角を除く高めの球にはいずれも打率.100台以下と苦戦しており、低めの球に対しても真ん中と、内角のボール球以外は打率.200台前半と、やや不得手としていた。
外角の高めは打率.139と極端に苦手としており、高めに浮いた球を捉えきれていない。内角、真ん中に来る球についてはさほど苦手としていないだけに、外角攻めに対する対応が大きな課題と言えそうだ。同じ外角でも、真ん中の高さに来る球に対しては一定の数字を残しているため、アウトコースに対する対応力を総合的に上げていければ、より穴の少ない打者へと成長していけそうだ。
それ以外の細かな数字に目を向けると、安田選手がレギュラーシーズンで本塁打を放った試合では6戦全勝。安田選手のホームランはチームにとっても縁起の良いものとなっており、いわゆる“不敗神話”が形成されている。来季もこの流れが継続するか否かに、注目してみる価値はあるかもしれない。
左右別の打撃成績に目を向けると、対左の打率が.177、対右の打率が.243と、左投手のことをかなり苦手としていることが見えてくる。また、今季記録した本塁打のうち、左腕から放ったものは辛島選手のカットボールを捉えた1本のみ。先述の通り安田選手はアウトコースを苦手としており、左投手が投じる外角低めのボールへの対応力向上は急務と言えそうだ。
それでも、8月20日の福岡ソフトバンク戦では、左キラーとして知られる嘉弥真新也投手の速球を逆方向に流し打って安打にし、サヨナラ勝ちのきっかけを作ったように、左腕の外角攻めに流し打ちで対応するシーンも散見された。パ・リーグには優秀な左のリリーフ投手が多く存在するだけに、来季は対戦内容と成績の両面で、左腕とのマッチアップに改善がみられるかが重要なファクターとなってくるだろう。
今季の貴重な経験をさらなる飛躍につなげられるか
それでも、エース格の投手の決め球を本塁打にしている点をはじめ、重圧のかかる打席が多い中で冷静にボールを選べている点、走者がいる局面では優れた打率を記録していた点、緩い変化球に対してきっちりと対応できている点といった、今後に期待が持てる非凡な打撃センスの一端は、今シーズンの戦いを通じて着実に示していたことも間違いない。
このオフに、今季の戦いを通じて浮かび上がってきた課題へ取り組み、選球眼やブレーキングボールへの対応力といった長所はそのままに、打者としての弱点を徐々に減らしていくことができれば、今後は押しも押されもせぬ4番打者へと進化を遂げることも、十二分に可能なはず。この1年で得がたい経験を積んだ俊英は、この苦戦を糧にさらなる飛躍を果たせるか。安田選手が新たなシーズンで見せるバッティングには、あらゆる意味で要注目だ。
文・望月遼太
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